第04話 はじめて

 俺は岬さんと二人で、帰宅路を歩いている。このまま帰るのもいいが、せっかくだから岬さんと、どこかに寄って行きたいと考えた俺は、喫茶店へ行こうと誘ってみることにした。

「ねぇ、岬さん。これから、喫茶店に行ってお話しない?」
 俺が提案すると、ワタワタと身体を揺すり、焦り出す岬さん。
「えっと、わ、わたし。誘われるの初めてで、どうしたら良いか……」
(遠回しに断られている?)
 こんなに美人なのに、誘われないなんてあるはずないと思ったのだが、よくよく考えれば、岬さんは他人から見たらブサイクに見えているという事実を思い出す。
 それならば、何とか無理にでも誘って行こうという方針を立てて更に言葉を重ねる。
「もしかして、時間ない? ちょっとだけでも良いからさ、お話しようよ」
「あ、えっと……その……」

「ん? どうしたの? 行こうよ」
 俺は更に、岬さんを誘おうと強気に攻めていると。
「あ、あのっ、ご、ごめんなさい」
 ポロポロと涙を流し始める岬さん。しまった! 無理に誘いすぎたか。
「ごめん、俺が無理やり誘ってしまって、無理なら無理で……」

 急いで謝っていると、岬さんが遮って言い出す。
「違うんです。私、嬉しくて、こんなこと、本当に初めてで、急にびっくりして」
 岬さんは、更に溢れ出す涙を、制服の長袖でぬぐった。そして、目元が真っ赤になりながら、俺を見据える岬さんは、こう言った。
「行きます! 連れて行ってください」


***


 俺の住んでいる部屋の近くにある喫茶店「Bay-Bay」に、岬さんと一緒に入る。喫茶店のマスターが俺を見て、ニッコリと微笑む。ここのマスターとは、顔見知りである。

「いらっしゃい」
 ひげ面のマスターは、人懐っこそうな笑顔のまま、岬さんに向かって言う。俺は、入り口から2番めに近い席に座り、岬さんを招く。
 マスターがメニューを持って、カウンターから出てきて席に近づいてくるのを見て、俺は絶句した。ピンクのエプロンに、ミニスカートを履いているのである。見かたによっては、下半身に何も履いていないのじゃないかという格好。しかも、スラっと伸びる足には毛が無い。剃っているのか?

 俺は、あまり気にしないことにして、注文をする。
「アイスコーヒーをください」
「わ、私は、このミックスジュースを」
 注文を取り終わると、直ぐにカウンターの向こうに消えていくマスター。

「今日、暑いね」
 言いながら、俺は真っ赤なジャージの上着を脱いで、シャツ一枚になる。
「え、え?」
 何故か焦る岬さんを眺めながら、俺は会話を続けた。

「ミックスジュース好きなの?」
「えっと、その。コーヒーは飲めなくて、紅茶もあまり好きじゃないんです。だからミックスジュースを……」
「へー、苦い飲み物は苦手なの?」
「はい……」
 恥ずかしそうにうつむく、岬さんを見て会話の内容を変える。

「昨日の夜は何してたの?」
「昨日の夜ですか……?」
 すこしびっくりして、悩みだす岬さん。昨日していた事を思い出しているようだ。

「昨日の夜は、DVDで映画を見ていました」
「岬さんも、映画好きなの?」
「綾瀬さんもですか?」
 嬉しそうに、同士を見つけたという感じで岬さんが言う。俺の名前をやっと言ってくれた。
「うん、俺も好きだよ映画。それで、岬さんは昨日はどんな映画を見ていたの?」
「昨日は、“ドラゴンの道”というアクション映画を見てました」
「へぇ、その映画は知らないなぁ。新し目の映画なの?」
「新作です。すごく面白かったですよ」
「どんな、アクション映画なの?」
 俺が、岬さんに質問すると、嬉しそうに話しだす。岬さんの話をじっくりと聞いていると、マスターがコーヒーとミックスジュースを持ってきてくれた。俺は、岬さんの映画の話を聞きながら、ブラックのコーヒーを飲んでみた。

(にがっ!?)
 想像していた以上に苦味を感じて、コーヒーをまじまじと見る。何でこんなに苦いのか、もう一口飲んでみたが、飲めないぐらいに苦かった。マスターが持ってきてくれた、砂糖とミルクをドバドバと入れて、何とか飲めるぐらいになった。

(味覚も変わった?)
 世界がいつの間にか変わって、服装が変わったり、美醜の感覚が変わったり、先ほどは体力が大幅に落ちていると感じたり、味覚が変わったりと、色々な事が変わってしまっているのを感じながら、岬さんの話を聞いていた。

 

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