第03話 帰宅途中

「今日は、誘ってくださらないの?」
 行く手を阻み、あまり似合っていない仕草でそう言ってくる竜崎さん。俺の記憶の中の竜崎さんなら、その仕草でも似合っていたんだろうが、今眼の前に居る竜崎さんには全然似合っていなかった。
 何度見ても、昨日の竜崎さんとは違って顔の造形が非常に残念に見える。友人たちには、これが美人に見えているのか。

「いや、今日は岬さんと一緒に帰るから」
 そう言う俺の言葉に少しびっくりする竜崎さん。そのまま、岬さんの手を引っ張って進もうとすると、なおも行く手に立ちふさがり、竜崎さんは言う。

「あなたのような不細工が滝沢さんと一緒に帰れると思って?」
 標的を岬さんに変更して当たる竜崎さん。

「えっ、と、あの、その」
 挙動不審になる岬さんに俺は言う。
「俺が、君が良いって言ってるから、良いんだよ」
 岬さんを落ち着かせようと、竜崎さんに聞こえるようにして、岬さんに向けて言うと、顔を真赤にさせて更にパニクってしまった。

「っっ、なんで今日に限って誘ってくださらないの? それにクラス一不細工の岬理恵なんて誘うんですの?」
 ヒステリックな金切声で叫ぶ竜崎さんに、どうしたもんかと困り果てる。これは、何を言っても収まりそうにないな。

「今日の気分は岬さんだったんだよ」
 言って、俺は岬さんの手を引っ張って教室を抜け出す。後ろで、何やら叫んでいる竜崎さんを無視して更に走る俺に、引っ張られるままに走る岬さん。
 階段を一つ飛ばしで降りて、校舎から校庭へと出る。校門を抜けて、学校の表の道路まで来た所で息が切れて、立ち止まる。

 そんなに距離を走っていないのに、息が切れるなんて体が鈍り過ぎだろうとショックに思いながら、岬さんを見ると全然ケロッとしているので、更にショックを受けた。男の俺がこんなに息を切らしているのに、女性の岬さんが全然平気にしている。
 息一つ乱れていないなんて岬さんは、思っていた以上に体力がある女性だったんだなと思いながら、自分の息を整える。
「良かったんですか?逃げ出して」
 なんとか息が落ち着いた所を見計らって岬さんが俺に聞いてくる。
「ちょっと対応しきれなかったから、逃げるが勝ちってね。それよりも、岬さんの家ってどっち方向?」

 少しだけにこりと笑ってくれた岬さんは、指を指して家の方向を教えてくれる。調度良く、俺の家とも同じ方向なので、一緒に並んで帰る事にした。家の方向も同じだから、家に帰る前に折角だから、どこか寄って行こうなんて誘おうとしたら先に岬さんが聞いてきた。

「なんで、私を誘ったんですか?」
「いや、今日はそういう気分だったんだよ」
 あべこべになった世界、美人がブサイクに、ブサイクが美人になったから美人の君を誘ったんだと説明してもどうせ信じてもらえないだろうと思い、この説明をしたら、多分嫌がられるなぁとも思ったので、気分の問題として言う。

「嘘です、いつもは竜崎さんやクラスの他の美人の人ばかり誘っている滝沢くんが、私なんか誘うわけがないじゃないですか。何が目的ですか?」
 う~ん、確かに昨日までブサイクに見えいていた君はターゲットじゃなかったが、俺が見えている今の君なら、真っ先に誘う対象になっているのに。どう説明したら納得してくれるだろうか。

「俺が見えている君は、十分魅力的で、誘いたいと思ったから誘ったんだけど、信じてもらえないか」
 岬さんの頬をガシと掴んで彼女の目を見て言う。逸そうとしても、顔を手で固定して逸らせないようにした。しかし、何度見ても綺麗な顔だなぁ。

「……は、はい、信じます」
 とうとう堪えきれなかったのか、顔をエビのように真赤にさせて、そう答える岬さん。俺が顔の手を離すと、俺から少し距離を取り深呼吸する岬さん。
 しかし、こんな事を言って、明日またあべこべになってたら困るなぁなんて他人ごとのように思いながら、まぁ今日はこんな美人と一緒に帰れたからいっかと、楽天的な性格で結論付ける。

 

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