第01話 何故か世界がおかしくなって

「け、結婚してください…」
 俺のクラスメイトである、女性が言う。
「結婚しましょう」
 眼鏡で長髪の真面目そうな女性が言う。
「結婚しよう」
 長身で短髪の、活発そうな女性が力強く言う。
「結婚……しよ」
 身長の低いセミロングの、ケータイを片手に持った女性が意を決して言う。
「結婚してくれますか?」
 スーツを着た女性が疑問視で言う。

 すべて、俺に向けられた言葉だ。全員が結婚しようと俺に迫る。何故そうなったのか、今から語ろう。


***


 俺が、世界の異変に気付き始めたのは九月の三日か四日か、たぶんそれぐらいだった。交際費を稼ぐために、何十日もバイトを繰り返した夏休みが終わって、二学期になった頃の朝。
 朝食はいつものように抜き、顔を洗って歯を磨く。ここまでは、いつものように問題のない朝だった。

「なんじゃ、こりゃ」
 頭の中に疑問符が浮かんだのは着替えようとした時だった。俺は、確かに昨日制服をしまったクローゼットを開けて、いつものように学校へ行くために制服に着替えようとしたはずだった。
 しかし、そのクローゼットの中には、昨日しまったはずの制服とは別の服がかけられていた。ハンガーにはセーラー服が、もう一つのハンガーには紺色のスカートがかけられていた。

 俺の記憶が正しいならば、そこには詰襟の制服と、ズボンをかけていたはずだが。中をさらに詳しく、調べてみようとほかの洋服を見てみた。クローゼットにある他の洋服も、どれもが女性用と思われる物にすり替わっていた。
 いつの間にか、俺の服が全て誰か分からない女性の服とが入れ替わっていたのだ。

 部屋をぐるりと見回したが、間違いなく自分の部屋だった。昨日の夜に間違って他人の部屋で眠ったってことではないようだった。じゃあ、俺が寝ている間に誰かがクローゼットの中の洋服を取り換えたのか? なんでそんなこと? 疑問視で頭がいっぱいになる。


 疑問を解こうにも家を出る時間が迫る。


 仕方ないかと思い、クローゼットの中にあった真っ赤なジャージを取り出し履いて、学園へと向かうことにした。ジャージは長袖長ズボンで、夏にはちょっと暑いが、スカートを履くなんて趣味はなかったから、それを履くしか方法はなかった。
 着替えて、カバンを持ち玄関を出る。すがすがしいほどに晴れた空で、正直長袖のジャージは暑い。やはり、戻って違う服を探すべきだったかと思ったが、それもめんどくさいなと思い、腕まくりをして無理やり半袖にしてそのまま進む。

 朝の通学路、いつものように歩いていると路地の陰から友人がやって来た。
「おはよう、その恰好なに?」
 恰好の事を指摘されたが、友人もなかなか変な格好をしていたので、俺は質問を質問で返した。

「おはよう。そっちこそ、その恰好なんだ?」
「あれ、変かな。スカーフも曲がってないよ」
 友人はなぜかセーラー服を着ている。性別は男の人間が、なぜセーラー服を着ているのか。しかも平然と。

「それよりも、そっちはなんでジャージなの?」
「いろいろと訳があるんだよ」
 女性物のセーラー服を着るわけにはいかないと、セーラー服を着ている野郎に説明しても理解されないだろうと思い、適当に濁す。
 学園に近づくにつれて、なぜ男がセーラー服を着ているんだという疑問は、さらに大きくなっていった。そして、別の疑問がわき出てきた。
 何故か、登校している男性達が女性用のセーラー服を着ている。それに加えて、女性はセーラー服ではなく詰襟の学生服を着ている。いつの間に、うちの学園の制服が変わったのだろう。

 しかし、制服姿の学生の中でジャージ姿の俺は目立った。
「やっぱり、ジャージ姿は変だよ」
 友人が、そう言うが俺は短く答える。
「いいんだよ」
 スカートを履くよりかは、今のジャージ姿で注目される方がましだ。

 朝からどっと疲れたが、やっとの思いで教室へとたどり着く。ガラッと扉を開けていつものように、クラスのの友人と挨拶をする。
「おはよ、そのジャージどうしたん?」
「おはよう、なんでジャージ姿なの?」
「おはよっ!ジャージ姿じゃん!なんで?」
 俺のジャージ姿を指摘した全員にお前はセーラー服、なんでだよと聞き返したかったが、変に思われるのが目に見えてわかっていたので、聞きはしなかった。

 クラスのマドンナである竜崎さんの席を通りかかる。いつものように挨拶しようと立ち止まり、声をかける。
「おはよう、竜崎……さん?」
 席でだべっていた女子がくるりと顔をこちらへと向ける。

 って、お前誰だ。クラスのマドンナである竜崎さんの席に座っている彼女は、昨日見た竜崎さんとあまりにも違いすぎて、でもちょっと面影がある彼女を見て一瞬誰だか判断がつかなくなる。
 しかし、彼女は俺を見るなり笑みを浮かべて返事をした。
「おはよう、学園一の美男子に挨拶してもらえるなんて今日はいい日になりそうだわ」
 学園一の美男子ってなんのことだろうか、しかし、まず彼女が誰かをはっきりさせないと。
「りゅ、竜崎さん?」
「ん?なぁに?」

 圧倒的に似合っていないしぐさだ。指を顎に当てて、竜崎さんらしき人は言った。否定しないということは、彼女は竜崎さんなのだろうか。
「あ、いや、なんでもないです」
 おかしな敬語になる。
「あははっ、なんで敬語?おかしい」
 おかしいのはお前だと言ってやりたかったが、断念。

 竜崎さんは続けて、こう聞いてきた。
「それよりも、なんでジャー」
「あーえっと、それは良かった、それじゃあね」
 言って、素早く彼女から離れる。あんまりに残念な顔をしてらっしゃるので、これ以上会話を続けるのは不毛だ。なのですぐに会話を切って彼女から離れる。

 いったいなんなんだ。今日は朝からおかしいことばかりだ。
「お、お、おはよう」
 後ろの席の、いつも根暗な彼女が挨拶してくる。
「おう、おは……よ……う」
 今度は、この世のものとは思えないほどの絶世の美女が席に座っていた。いや、その席は確かに、クラス一番の顔が残念な岬が座っていた席だったはず。
「み、みさき……?」
「えっ、な、なに?」
 クイッと首を傾けると、サラサラっと髪が流れて顔がよく見えるようになる。何度見ても綺麗な顔だ。
「いや、なんでもない」
「そ、そう……」

 頭が混乱しながらも、席についてなぜこうなったか考える。
 混乱から答えは出ないが、やっと抜け出したとき、チャイムが鳴る。それから担任が入ってくる。あまりの衝撃に顔を机に突っ伏す。壮年のおっさんがスカート姿というのは、かなりクルものがある。
 授業が始まっても、竜崎さんとが席から移動しないのを確認する。点呼においても、竜崎と呼ばれた時に、彼女は普通に返事をしていた。どうやら彼女が竜崎さんに間違いないのだろう。
 そして、後ろの席の女性が返事をする。こちらも岬に間違いなかった。

 クラス一番の女子が、あまりに残念な顔になっており、クラス一残念な女子だった彼女が、絶世の美女になっている。いったいどういうことだろうか。

 

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