絶望に至る病

 かつては王子という身分であったディートリヒは現在、治療が必要なほどの精神病を患っているという医師からの診断が出されていた。その結果、今は療養のためにと王国の地方にある王領地へやって来ていた。

 そこは自然豊かと言えば聞こえが良いが、都市の開発が進んでいない時代から取り残された忘れ去られたような地域でもあった。

 そしてディートリヒ王子は病気を理由に継承権を取り上げられ、精神病を患った王族としての記録に蓋をする為に、そんな忘れ去られてた土地へと連れて来られたのだった。

「私は、病気なんかじゃない。早く王都へ帰らせてくれ」
「ディートリヒ様、ひとまず落ち着いて下さい。さぁ、この薬を飲んで今夜はぐっすりと眠れますよ」

 一辺倒に病気じゃない事を主張するディートリヒだったが、その場で看護を続けている彼ら彼女たちの中でディートリヒの言葉に聞く耳を持つ者は居なかった。

 ただ、ひたすらにディートリヒが療養することを願って毎日彼のために生活する補助をして、時間が来たら治療のために薬を飲ませる事だけが自分達の仕事だと思って働くだけだった。

 毎日決まった時間に起こされ、決まった量だけ食事が出され、決まった薬の服用を指示される。

 どれも強制的と言えるぐらいに決まって行動させられていて、拒否は許されない。

 ある時ディートリヒが薬を飲むのを拒もうとしたら、力づくで押さえつけられて無理矢理に飲まされた事があった程だ。予定を崩そうとしても許されず、毎日決まった予定に沿って、代わり映えのない生活を進行させられている毎日だった。

 外出するのにもディートリヒが逃げ出すのを防止するために監視がついて、部屋の中でも誰かが必ず側に立っていた。何もさせてもらえず、時が流れるのをボーッと過ごすだけで、後は四六時中監視されているような生活。

 しかも、彼らはディートリヒの話を一切聞こうとはせずに、予定に従って働くだけだった。

 本当に頭がどうにかなりそうな、そんな生活を送っていたディートリヒ。

 けれどもディートリヒのもとには時々訪れてくれる、かつての婚約者であったオリヴィアという女性がいた。

「ディートリヒ様、お身体の具合いはいかがでしょうか」
「ふん、また来たのかオリヴィア」

 一週間に一度程度の割合で、ディートリヒの看病に来てくれていた彼女。しかし、婚約破棄という事件が今の状況を引き起こした原因だと考えているディートリヒは、自分の過ちを顧みずに彼女に対して強く当たることで精神を安定させていた。

 ディートリヒに暴言を吐かれても、悲しい表情を浮かべるだけで何も言い返さないオリヴィア。ただひたすら、精神の病が治ると信じて声をかけるだけ。

「ディートリヒ様、貴方の病気は必ず良くなります。だから今は、医師の指示をしっかりと聞いて安静に生活を続けて下さい」
「ふん」

 今、ディートリヒを一番に心配しているのがオリヴィアだろう。そして、優しく声を掛けてくれるのも彼女だけ。

 他の人間は、ディートリヒという王子の存在を忘れ去ってしまっている。オリヴィアだけが、ディートリヒという人間を認識しているのだった。

 それなのに、意地を張ってディートリヒは変わらず暴言を吐き続けた。病気なんかじゃないのに貴様の心配なんか必要ない、自分なんか放っておけと。

「どうぞお大事になさって下さい」

 そう言って、オリヴィアは最後まで心配する表情を浮かべて、ディートリヒのもとから去っていくのが毎回見られる光景だった。


***


 そんなある日、ディートリヒとオリヴィアの別れは突然やって来た。

 いつものようにディートリヒの病気見舞いへとやって来ていたオリヴィアが、前触れもなく告げた一言に彼は衝撃を受けた。

「私、新しい婚約者が決まりました」
「なんだと?」

 王族であったディートリヒから婚約破棄を言い渡された後、修道院に送られる人生を覚悟していたオリヴィアの元に新しい婚約の申し込みがあった。

 その婚約話は家の発展を目的にした政略結婚ではあったが、婚約相手はオリヴィアと年の近い青年貴族だった。知り合いではない人物、どんな性格なのかも未知である相手であった。

 だがしかし、その話を逃したらもう二度と自分の元には婚約の話が舞い込んでくることはないだろう。それに貴族として家を発展させる事こそが令嬢の役目と信じていたオリヴィアは、婚約の話を受けることにした。

 そして新しい婚約相手が決まったオリヴィアは、元婚約者であるディートリヒを見舞い通う日々は送れなくなったと説明した。

「申し訳ありません、ディートリヒ様」
「ふん、二度と貴様の顔を見ずに済むというのならば、清々する!」
「……失礼します」

 ディートリヒを見つめて悲しそうな表情で最後の一言を口にしたオリヴィアは、もう二度と後ろは振り返らず、彼のもとから去っていった。

 だからオリヴィアは、手を伸ばして引き留めようとするディートリヒの未練の行動を見ずに済んだのだった。


***


 その後、ディートリヒを心配して訪れるような見舞客は二度と来ることは無かった。以後、オリヴィアとの最後の別れを後悔する毎日を、死ぬその時まで彼は1人でその人生を送るのだった。

 

 

   

婚約破棄に至る病

「オリヴィア、貴様との婚約を今ここで破棄させてもらう!」

 今年で学業を終える学生たちが、卒業する記念のパーティを行っている最中の事だった。先の発言をしたのはディートリヒ王子。そして、言葉を向けられたのはオリヴィアという王子の婚約者だった。

 パーティが始まってしばらく経った後の、参加者達が各々で歓談している最中の出来事。

 後に国でトップに立つかもしれない人物でもある王位継承者であったディートリヒ王子の動向は、パーティでも皆の注目の的であった。だから、そんな彼の放った言葉は参加者達、皆の耳にも当然のように聞こえている。

 そのため、卒業パーティーの時間は一時ストップ。会場がシーンと静まり返った。ディートリヒ王子は、皆の注目が集まっていることを知りながら笑みを浮かべる。

「まさか、そんな……!?」

 婚約破棄を告げられたオリヴィアは、傍から見ても分かるくらいに動揺してディートリヒ王子の事を視線を外さず凝視していた。

「ふん、貴様との関係は今日ここで終わりだ。私は、今日から彼女と人生を共にする」
「オリヴィア様、申し訳ありません」

 狼狽えるオリヴィアを見て、計画通りに彼女を痛めつけたと勝ち誇る王子。そして、側に寄り添う女性は謝る言葉を口にするけれど、その表情はオリヴィアに対しての優越感がにじみ出ていた。

 そんな王子と新しい婚約者を名乗る女性から、醜悪な表情を向けられたオリヴィア。けれども、彼らの態度には一切傷ついてはいなかった。むしろ、驚きながらも同情の感情を彼らに向けている。

「だ、だれか。お医者様を呼んできて」

 そして、オリヴィアは婚約破棄を告げられた事を嘆くのではなく、今すぐにこの場に医者を呼んでくるようにと周りにいる誰かにお願いした。

「なに? オリヴィア、貴様何を言っている。ソレよりも、まず貴様の今まで行ってきた罪を清算する」

 何故、今この場所に医者を呼んだのかと不審に思う王子だった。しかし、彼女の行動を特には気にせず、さっさと話を先に進めようと王子は語りだした。

「お前は今まで、ここに居るアリス嬢に嫉妬し、イジメを行ってきた。その罪を謝罪しろ」
「いいえ、ディートリヒ様。そんな事実はありません」

 そう告げられた話を、完全に否定するオリヴィア。しかし、彼女の表情に申し訳無さの感情を読み取った王子は、オリヴィアが嘘を付いているのだと決めつけた。

「今までのアリス嬢に対する悪質な行いを、言い逃れをする気か!」
「オリヴィア様、王子の言葉を否定なさるのですか!?」

 オリヴィアに言いつける王子と、アリスという名の女性。しかし、オリヴィアは怯まない。

「言い逃れする気なんてありません、ディートリヒ様。私は、そこに居るアリスという女性を知りませんし会うのも初めてです。何故、知りもしない方に嫉妬の感情を向けるというのでしょう?」

 オリヴィアの知らないという言葉は、嘘偽り無く本当の事だった。卒業パーティーに出席している事から推測するに、自分と同じ学園に所属する学生らしいけれど姿に見覚えはなく、名前も聞き覚えはない女生徒。それ以外には何処の誰なのか、知りはしないオリヴィア。

「ふん、それも言い逃れをするために名を知らなかったと嘘を言っているだけだろう。それに、名なんて知らなくても嫉妬心を向けることはあるだろう」
「そうよ、オリヴィア様。貴方は、王子に強く心を惹かれていたのでしょう? そして、彼の心が私に向いたから嫉妬したのよ」

 何が何でも自分を悪者にしたいらしい王子と、自信満々に言い切るアリス嬢の言葉に絶句するオリヴィア。

「……」

 そして彼女は何を語っても無駄だと悟り、黙って彼らに視線を向けているだけだった。そんなオリヴィアに向けて、今まで行ってきたらしいという悪事をツラツラと語っていく王子。

 持ち物を隠した、呼びかけを無視した、階段から突き落とした等など。もちろん、オリヴィアには全て身に覚えがないことだったが何も言い返さない。

 そんな事をしている内にパーティー参加者の誰かの呼び出してやって来た医者が、呼び出しをお願いしたオリヴィアの元に駆けつける。

「お医者様、ディートリヒ王子が……」
「なんと!?」

 やって来た医者にオリヴィアが事情を説明する。突然にこんな場所で、婚約破棄を告げられたという事情を。そして、彼女から話を聞いた医者は驚いて王子を凝視する。

「おい、今は私とオリヴィアで話し合っている最中だ。関係無い者は退いてもらおう」
「そうよ、おじさんはあっちに行ってて」

 やって来た医者に向かって、立ち去るように王子が命令する。それに乗じるようにアリスも追い払うようにシッシッという手の動作を医者に向ける。しかし、医者は聞き入れない。

「恐れ多くも王子よ、事態は非常に深刻なのです。落ち着いて、私の質問に答えてください」

 それどころか逆に真剣な眼差しで何事か起きているのだと、それ調べる為に質問に答えるようにと王子は告げられた。そして、アリスは完全に無視されている。

「まずは、貴方の名前をお聞かせ下さい」
「何をバカなことを聞いている?」
「大事なことです、お答え下さい!」

 分かりきったことを何故聞くのかと、王子は不快な気持ちになって拒否しようとしたが、医者は語気を強めて詰問する。

「うっ! ……私の名は、ディートリヒだ」

 いきなり始まった医者の問診に、王子は戸惑いつつ言葉を返す。医者が向ける必死の形相に、答えないという判断は出来なかったから。

 それから、医者は王子の生まれた年月、王や王妃などの彼の家族について、今何か悩んでいる事があるか? と王子のプライベートな事まで事細かに、次々と確認していった。

 医者から聞かれた通り、仕方なく答えていく王子。質問は何十問も続けられて、王子自身に関する事を入念に確認されていった。

 そして、最後には今ココで問題となっていた出来事について。オリヴィアに婚約破棄を迫った先程の事について、質問しながら確認を進める医者。

「王子よ、オリヴィア様との婚約をなぜ破棄なされたのですか?」
「ふん。彼女は、ここにいるアリス嬢をイジメていた。そんな者が王妃に相応しくないことは明白」

 分かりきったことだと、吐き捨てるように言うディートリヒ。

「なるほど、それで王子はそこの彼女が代わりの次期王妃になると言うのですか?」
「もちろん、そうだ」

 その王子の言葉を聞いて、オリヴィアは絶望的だという表情を浮かべる。問診を続けていた医者も、苦々しい表情を浮かべた。その2人の表情を見て、我慢できなくなった王子は逆に問いかける。

「何だというのだ、さっきから一体!」
「恐れながら申し上げますが王子よ、貴方は病気です」

 一瞬医者から何を言われたのか理解できなかった王子は、しばらく呆けた顔をして、ようやく理解した頃にすぐさま否定する。

「馬鹿な、私は健康だ。病気なわけがない」
「身体は健康でしょう。ですが、心がオカシクなっているのです」

 こんな場面で婚約者であったオリヴィアに対して、わざわざ恥をかかせるような演出をしてから婚約破棄を告げたこと。しかも、国で決めた大事な婚約関係を王子が勝手に自己判断で破棄を告げた。それだけで、判断能力が欠如している事は明白だった。

 そして何よりも、今回の出来事と同じような事が過去の歴史でも起こっていたということ。そして、事を起こした者たちは皆が精神病を患っていたという記録がある。

「申し上げにくいことですが、王族たちには精神を病む者も多いと記録が残っています。残念なことにディートリヒ様も、今回の出来事で明確になってしまいました。彼を病室に連れて行こう」

 医者はいつの間にか近くにやって来ていた彼の助手に指示を出して、王子を病室に連れて行き治療を始めようとする。

「離せ! 私は病気なんかじゃない!」
「そうよ、ディートリヒ様を離してあげて!」

 医者と助手が王子をパーティー会場から連れ出そうと捕まえるが、病気なんかじゃないと暴れて反抗する。そして、暴れる王子を離すように縋り付いてお願いをしてくるアリス。

「彼女も、問題がありそうだ。一緒に連れて行こう。女性の手伝いを呼んできてくれ」
「離して、何で私も!」

 ディートリヒと一緒にアリスも連れ出されることになり、女性の手伝いがやって来てアリスを捕まえる。

 実は、過去の事例であるように婚約破棄という言葉を放った時に王子の側に寄り添う女性が精神病を発症する事になってしまった大きな原因である、という可能性についての考察記録が残っていた。そして、それらの女性も王族と同じように可笑しな精神病を患っていたという記録。それを調べるために、アリスも病室に連れて行かれる。

「貴方は病気なのよ、でも落ち着いて必ず良くなるわ」
「な、何を言っているオリヴィア? 病気? そんな筈はない!」

 暴れていたディートリヒは優しく気遣うオリヴィアにそう指摘されて、強く否定したものの不安に感じて焦っていた。

 王子は病気である筈が無いと口では否定しているものの、一つ一つ指摘された事を思い返して考えてみれば確かにオカシイ。いや、そんな筈はない。自分は正しいはずで、オリヴィアがアリスをイジメていたのが悪い。しかし、その証拠は。

 ディートリヒは自分の心の中で行った否定と肯定の繰り返しに、本当に頭がおかしくなりそうだった。そして、逃げ出す気力も徐々に無くなっていくと、医者に連れられてパーティー会場から連れ出されていった。

 連れて行かれるディートリヒの背中を見送りながら、オリヴィアは王子が起こした精神の変異や精神病発症に気付けなかった自分を責めて、涙を流した。そして彼女は心の底から、王子の快復を願っていた。

 

 

   

派遣受付嬢による冒険者ギルド立て直し

 冒険者ギルドの受付嬢であるマリベルは、派遣の仕事を受けて今日は北の大地にある街のマラアイという所にやって来ていた。

「ふぅ、やっと着いた」

 街へ到着するまでに約二日間。乗合馬車に揺られてようやく到着した場所で、彼女は疲れたため息をついた。

 派遣先となった冒険者ギルドに訪れるための移動だけで疲れたが、この後には冒険者ギルドの受付視察と業務改善をしないといけないので、もっと大変になるかも知れない仕事が待ち受けている。

 ただ、この派遣受付嬢の仕事は女性で働いて得られる給料としては最上級と言われているぐらいに貰える額が多いので、辛さにも耐えて仕事が出来てしまう。

「よし、頑張りましょう」

 自分を鼓舞する言葉を吐いて、マリベルは街の中にある冒険者ギルドへと向かう。今日中に、とりあえずはギルドの受付の状況を一通り把握しておきたいと考えていたから。

 しかし、彼女の思惑は大きくハズレる。

「な、な、な、な、なんなの、この建物は!?」

 冒険者ギルドの建物を見つけて中に入ってみれば、マリベルは絶句してしまった。あまりにも、建物内が不清潔すぎたからだ。

 床は何ヶ月もモップがけをしていないような、床の木目が見えない程に泥で汚れてドロドロ。

 そして、棚やテーブルの上には溜まりまくったホコリがコンモリと積もって、しかも空気中に舞っているようにも見える。

 極めつけは蜘蛛の巣が張っているのを放置しているなんて、マリベルには理解できない状況だった。

 コレが天下の冒険者ギルドの建物か!? とマリベルには信じられない気持ちで一杯になっていた。

「何か用かい? お嬢ちゃん」

 男性の声が聞こえていたが、自分が呼ばれている事に暫く気付かずに立ち尽くしていたマリベル。ハッと気を取り戻して呼ぶ声の聞こえた方へと視線を向ければ、男性が冒険者ギルドの受付の席に座っていた。

 マリベルは再び信じられない光景を目にして、目眩がした。もしかして、私は別の建物に入ってきたのかと自分を疑った。

 でも、表には間違いなく冒険者ギルドを示す看板が掲げられていたのを目にしている。はずだ、たぶん、きっと……。

「冒険者への依頼なら、ここで話を聞くが?」
 ようやく視線を向けてきて話ができる体勢になったと思った男が、マリベルに問いかける。

「あのッ! 受付嬢は?」
「受付なら俺がしているが」

 いや、それはオカシイでしょ! あんた、男じゃないですか! マリベルは心の中で叫んだ。

 冒険者ギルドの受付嬢は、原則として女性が務めるべしと決まってある。その理由は、冒険者ギルドを訪れてくれた依頼人に対して、心理的圧迫を和らげるために話しかけやすいようにと女性を配置しているのが1つ。

 それから数少ない女性の為の働き口として確保する為、というのがもう一つの理由。勝手に受付に男性を置いてはならない。冒険者ギルド全部に適用されるべきルールだ。それなのに、ココではごく普通に何食わぬ顔で男が座っていた。

 あ、いや、もしかしたら今は何か事情があって代わっているだけかも知れない。マリベルは一縷の望みをかけて、その男性に尋ねた。

「あのー、女性の受付嬢は?」
「はぁ……? 女性の受付は、数ヶ月前に辞めたが」

 マリベルの問いかけに対して、ナニ言ってんだコイツ? と男は呆れた顔で返答していた。

 いやいやいや、その顔をして良いのは私の方だろッ! そっち側がして良い顔では決して無いはず。マリベルは頭が混乱しそうになったが、冷静に、心を落ち着かせて状況を聞き出そうと努力した。

「新しい受付嬢は雇わないのですか? もちろん、男性の貴方ではなく女性の受付嬢を」
「求人は出したんだが、新しい人が来なくてな」

 男の返答を疑問に思うマリベル。女性の働ける職場なんて娼婦ぐらいで本来少なくて、どの街でも受付嬢の仕事は人気の筈だから。求人を出せば、少なくとも1人は来て当たり前のはず。

 それなのに、新しい人が来ていない?

「何故です?」
「いやー、前の受付嬢が冒険者から嫌がらせを受けたって言って辞めて行ったんだが、その噂を街で広めやがってねぇ、やりたがる人が居なくなったんだ」

 マリベルは今日何度目かの目眩に襲われた。いや、これは困惑の目眩ではなく怒りによる目眩だ。彼女は怒りに震えた。

「ギルドマスターは、そんな状態になって何をやってたんですか!? 無能ですかッ!?」

 本来なら受付嬢を守らないといけないのは、ギルドの責任ある立場に居るギルドマスターだ。それなのに受付嬢が嫌がらせを受けて、辞めて出ていくままにするなんて。

 しかも、受付に男性を置いたまま何ヶ月も経っているらしい。

 しかもしかも! 派遣されてきた私が状況を知らないということは、ギルドマスターは今の状態について本部に報告すらしていない。

「誰が無能か!」
「貴方、ギルドマスターなの!?」

 マリベルの言葉に反応して激昂する、ギルドマスターであった男。その反応を見て、マリベルは彼がギルドマスターであったことを知る。まさか、ギルドマスターが受付をしているなんて思わず、世も末だと驚いたマリベル。

「何でギルドマスターが受付をしているんですかッ! そもそも、受付嬢が辞めていったという問題が起こった時点で然るべきところに報告するべきでしょう! するべきことをしないで、しないでいいことをやっていて、無能という言葉がバッチリお似合いでしょうよ!」
「う、うぐっ」

 マリベルは、真っ直ぐストレートに言葉を叩きつけるようにしてギルドマスターを批判した。そして、マリベルに何も言い返せないギルドマスターは唸るだけ。

「とりあえず、貴方は受付嬢が辞めてしまったという出来事の状況を報告書にしてまとめて本部に報告して下さい。被害者は誰で、加害者は誰か。どんな嫌がらせをされて、貴方が何を放置したのか。一切合切、嘘偽り無く、全て本当のことをしっかりまとめて下さいね」
「う、うむ」

 何の抵抗もできずに、受け入れるしか無いギルドマスターは返事をするのがやっとだった。

 そして、マリベルの態度にビビりながらも気になっていたことについて、気力を振り絞って尋ねるギルドマスター。

「と、ところで……、お前さんは誰なんだ」
「挨拶がまだでした。私は、派遣受付嬢のマリベルです。とりあえず、今日は私が代わりにに受付嬢を務めます。貴方はすぐに報告書の作成に取り掛かって」

 初日から災難だと、ため息をついたマリベルは箒を手に取って、建物の掃除から始めるのだった。


***


 本来のマリベルの仕事は、その土地の冒険者ギルドで受付嬢をしている人を視察して、必要なら指導を行い業務改善を実施することだ。それなのに、このギルドには視察するべき相手も指導を行う相手も居ない。

 しかも何故かマリベルは受付の仕事をする前に、冒険者ギルドのある建物の掃除を行っている。誰も掃除する人が居ないから、彼女がやるしか無い。マリベルには、建物内が汚すぎて放置が出来なかった。

「ふぅ、こんなもんかな」

 蜘蛛の巣を落として、ホコリを上から下へと払い、モップを掛ける。それだけでだいぶ見てくれはマシになった。少しだけ、掃除をすることでマリベルの気分は晴れた。

 だがしかし、次の瞬間には再びマリベルの気分は落ち込む。

「お! なんだ、建物の中がキレイになってるじゃん」

 チャラチャラとした軽薄そうな男の声。言葉遣いも悪いし、頭も悪そうだとマリベルは思ったが、得意の営業スマイルを浮かべて対応をする。

「冒険者の方ですね、依頼の確認ですか?」
「うぉ、美人な女も居るし」

 ジロジロと無遠慮に胸を見てくる男の顔面に向けて手が出そうになったが、我慢我慢とマリベルは辛抱強く唱える。

「なんか稼ぎの良い依頼、ある?」
「それでは冒険者ランクに見合ったモノを探しますので、冒険者証をお見せ下さい」

 欲深く曖昧な条件を出してくる冒険者、ここまで酷い人は久しぶりに見た。この街では彼のような人が多いのかも、とマリベルは思ってうんざりしたが内心は見せずに忠実に職務に励む。

 ランクを確認して、今ある依頼の中から適当なものを探して、さっさと終わらせる。そう思ったのだが。

「えー? 冒険者証? 持ってきてないなぁ」
「なんですって? 冒険者証を不携帯ですか?」
「いつも持ってきてねぇよ。何で今日は必要なんだよ」

 あのギルドマスター、証明証を見ずに冒険者に依頼を割り振っていたのか。マリベルは常識から大きく外れた事が行われている、この街の冒険者ギルドを受け入れがたい気持ちになる。

「冒険者証が無いと、依頼を割り振ることが出来ません。冒険者証を持ってきて下さい」
「えー? 何処に有るかわっかんねぇな」

「再発行しますか?」
「それ金掛かんだろ? いいや」

「それなら、冒険者証を持ってきて下さい」
「今度持ってくるから、教えてよ。いいじゃんさ」

 冒険者が馴れ馴れしく伸ばしてきた手が、マリベルの身体に触れようとした寸前。彼女の怒りが爆発した。ようやく抑圧していた我慢を解放できると、嬉しさすらあった。

 伸びてきた手をマリベルは掴み、グイッと引っ張って冒険者の体勢を崩す。そのまま受付テーブルの上に崩れた姿勢となった彼の背中に回り込んで、腕を極める。

「い、いてぇ、っっ放せ!」

 マリベルの手によってテーブルの上に押し付けられたポーズで動けなくなった冒険者。逃げようとすると、極められた腕が折れそうな痛みを感じて動けない。

「貴方は冒険者の資格を没収となります」
「な、何故だ!?」

「冒険者ギルドの受付嬢にセクハラを行おうとしました」
「そんな程度でかよ! つうか、いいかげん放せよッ!」

 マリベルの決定に従わない冒険者の彼は、抵抗を続けるが逃げ出すことが出来ない。当然、放せと言われても聞き入れないマリベル。

「資格の没収は決定です。名を名乗りなさい」
「はぁ!? テメェにそんな事を決める権限があるのかよ!」
「もちろんありますよ」

 冒険者ギルドの中で権限の高い順に並べると、一番の責任者であるギルドマスターの次に権限が高いのは受付嬢、という並び順になる事が多い。場合によってはギルドマスターと同等という所もある。

 そして今現在この冒険者ギルドの中では、地方に在る冒険者ギルドの責任者であるギルドマスターよりも高い権限を有している派遣受付嬢のマリベル。彼女よりも高い権限を有しているのは、本部のギルドマスターや幹部職員たちの他には居ない。

「早く名を名乗りなさい」
「だ、誰が言うかよ」

 マリベルの本気に、黙秘で応える冒険者。言う気はない彼の様子に、別の者に聞くことにする。

「ギルドマスターッ!」
「は、はいっ」

 実は隠れて様子をうかがい、マリベルと冒険者のやり取りを見ていたギルドマスターは、彼女の声に呼ばれてようやく表に出てきた。

「彼の名は?」
「彼は冒険者ランクCの、ニコルです!」

 マリベルに詰問されたギルドマスターは、新米の兵士のような口調でハキハキと質問に答える。

「彼は本ギルドから除名処分に決定しました。処理しておいて下さい」
「了解しました」

「ぐうっ、ま、待てよ!」
 この瞬間、冒険者のニコルという肩書であった彼は、ただのニコルとなった。納得の行かない彼だったが、抵抗を続けてもマリベルの拘束からは逃れられない。

 実は、かつて冒険者をしていた経験から得た腕っぷしの強さがあるマリベル。それに派遣受付嬢として各地を旅する為にも鍛え続けていたので、そこら辺の冒険者には負けない実力が有った。

「ほら、冒険者でなくなった貴方には関係のない場所となりました。早々に出ていきなさい」
「くっ、覚えてやがれ」

 ようやく拘束を解かれて、出ていくように言われたニコル。既に反撃しようとする気力が失せていて、悪党にふさわしい捨て台詞を吐いて建物から出ていくしか無かった。

 そんなニコルを見送り、ため息をついたマリベル。初日から、自分の関係ない業務をやらせれてヘトヘトだった。


***


 その後、マリベルの手によってマラアイの街にある冒険者ギルドは数々の問題を解決して、正常な状態へと戻っていった。

 様々な問題を見て見ぬふりをしていたギルドマスターは、ペナルティとして1年分の報酬を返上させられて、ギルドマスターとして再教育を受けるために本部へと戻された。

 代わりにやって来たギルドマスターは働き者として、マリベルと協力して冒険者ギルドの立て直しを図った。

 受付嬢に嫌がらせをしていたのは、マリベルが冒険者から除名処分にしたニコルその人であった。そして、嫌がらせされていたという問題が解決された結果、冒険者ギルドに元いたという受付嬢が戻ってきてくれた。

 ようやくマリベルは、本来の派遣受付嬢としての仕事である受付嬢視察と業務改善が出来ると喜んだ。

 そして、嫌がらせを受けていた受付嬢に今度は問題を自分でも回避できるように、冒険者ギルドで決めれれたルールを教えたり、護衛術を教えたりして職務を果たした。

「ふぅ、今度はどの街に向かうのかしら」
 トラブルが色々とあったが、何とかマラアイの街での派遣受付嬢の仕事を終えたマリベルは本部から送られてきた高い報酬を受け取る。そして新たな指示に従って、次の街を目指し旅立つのだった。

 

 

   

いまさら言っても覆せない

「そなたに向けた婚約破棄を、撤回させてくれ」
「はぁ?」

 それは館の主であるテレジアが夕食を済ませて、食後のティータイムを楽しんでいた時の事だった。そんな彼女のプライベートな場所に突然やって来て、王子は何の前置きもなくそう言った。

 王子の言葉通り、テレジアは王子の元婚約者であった。彼女は、突然にも婚約破棄を王子から直接言い渡されてから、今は王城から出て近くの館で数人の侍女に世話をされながら静かに暮らしていた。

 そんな場所に突然、知らせもなく王子に来られた事にも驚いていたけれど、それ以上に彼から思いもよらない言葉を向けられて、テレジアはびっくりしていた。

 その驚き様は、普段から淑女らしく振る舞うことを完璧にこなしていた彼女の口から漏れた、普段なら口に出るのを止める様な淑女にあるまじき呆れ声によって明らかだった。

 しかし、驚いていたり呆れたりしている様子のテレジアを一切気にせずに話し続ける王子は、誰が見ても空気を読めていなかった。それは、王族という特権階級独特の傲慢さと言うよりも彼の性格からによるモノが大きかった。

「私が、間違っていた。私の運命だと思っていた、あの女性は錯覚だったらしい。いや……、むしろ私達の運命を弄ぶ為にやって来た、悪魔の使いだったのかもしれない」

 王子の口から次々に流れ出て来る言葉、一体何があったのか興味もないし聞いても詮無いソレを聞き流しながら、テレジアはどうやって彼を館から厄介事を起こさず、巻き込まれないようにしながら追い返そうか、方法を考えていた。

 しばらくして、王子が入ってきた扉から同じように後から入ってきた、テレジアの侍女を任されている女性が入ってくるのをテレジアは確認した。

 その侍女は落ち着いた様子で振る舞おうとしているけれど、その試みは失敗して慌てた様子で部屋に入ってきた。その様子を見たテレジアは、王子が訪問の前置きも無くこの館にやって来た、厄介なお客様であるのだと理解していた。

「王子様、お久し振りにお会い出来た事を嬉しく感じております。しかし、事前に迎える準備も出来ておりません。なので、後日再び話し合いの席を設けますので、お手数ですが今日は御引取を願います」
「出迎えの準備は、無用だ。今日伝えに来たのは、婚約破棄を撤回したいという願いだけだ。どうやらそなたは、受け入れてくれたみたいだから、私も嬉しく思う」

 テレジアの社交辞令を嬉しそうに聞いている王子。言葉の通りの自己完結をしながら、楽しげな笑顔を浮かべている。

 彼女の遠回しな追い返そうとしている言葉に気づいていない状況の察しの悪さ、婚約破棄の撤回を受け入れている、なんて有りはしない事実を展開させる、彼の独り善がりな理解の仕方に、テレジアは再び唖然とさせられていた。だが、気を引き締めて王子に対応することに心を切り替えた。

「王子様、私は婚約破棄の撤回を受け入れるつもりは一切ありません」
「え?」

 テレジアの言葉に、今度は王子が想定していなかったという様な表情で、彼女を見つめ返していた。現に彼は、テレジアが婚約破棄の撤回を認めないという事実を想定していなかったのだろう。

 撤回は受け入れないと断言したテレジアはそもそも、と前置きをしてから婚約破棄の撤回を了承しない理由を丁寧に王子に向けて述べていった。

「第一に、王族である貴方が学園のパーティで、貴族の子女達が歓談している前で宣言した婚約破棄は、既に周知の事実として王国中に知られてしまいました。いまさら撤回する、なんて引っ繰り返す行動は出来ないでしょう」
「……」

 先程のテレジアの様子とは逆になるような、黙り込んだ王子を気にせずにテレジアが話を続けた。

「第二に、既に私は、貴方と繋げていた心が離れてしまっています。以前のような関係に戻ることは、不可能でしょう」
「っく……」

 テレジアの内心の現状を突きつけられて、呻くだけの王子。

 人の多くいる場所で成された婚約破棄、そのために多くの人達が知ることになった婚約破棄をわざわざ撤回する、なんて伝えに来るぐらいの行動を起こした王子の心は、テレジアに向けた多少の愛情が残っている事を、彼女は感じていた。
 けれど、一方ではテレジアの方に少しの愛情も残っていなかった。

 なにしろ幼い頃から、ずっと生涯を共にするという誓いが成された関係であり、王国の発展のために、王国に相応しい王妃になるために教育を施されていた。なのに、蓋を開けてみれば愛や恋と言った感情に惑わされた王子によって、積み上げてきた事を簡単に壊されて、そしてコレ以上無いと言うほどの場所とタイミングで行われ、恥をかかされた婚約破棄。
 愛情を失くしてしまう出来事としては、十分だろう。

「そして何より」
 テレジアは、言葉を詰まらせながら婚約破棄を撤回できない最大の理由を、意を決して王子に伝えた。

「私は、子供を生み出す能力を神官によって封じ込められました。だから、跡継ぎの出来ない私では、王妃に成るなんて事は永久に不可能でしょう」
「は? そんな、馬鹿な……。何故だ? 何故、そんな事になっている?」

 テレジアは、子供の出来ない身体となっていた。彼女にとって、口に出す事も辛い事実だったけれど、何も理解している様子のない王子に突きつけるために言葉に出していた。
 そして、今まで黙って聞いていた王子は混乱して詳しい状況を聞き出そうとしていた。

「何故? それは、貴方が婚約破棄を申し渡したからでしょう」

 王子の婚約者であったテレジアは、未来の王国において王位継承の問題に禍根を残さないために、王族と関係した女性は、結婚前の関係であっても他の貴族との間に子供を作らせる訳にはいかないので、婚約破棄を言い渡された事で、神殿の持つ秘術によって一生子供を作れない身体と成っていた。

 テレジアにとって辛い選択だったけれど、ソレを選ばなければ今よりももっと自由を奪われる生活を強いられる。牢に入れられ幽閉されるか、最悪は安楽死という状況もありえただろうから、婚約破棄によって将来の暗い道筋は決まってしまっていた。

「違う……。そんな事になるなんて、まさか、そんな……」
 今ごろになってテレジアの状態を知り、安易な行動に出たことを地面に蹲って嘆く王子。テレジアは、いまさら言っても覆せないことは明らかだったろうに、という思いを浮かべながら冷徹な目線を向けるだけで、何も言わずに彼の醜態を眺め続けるだけだった。

 

 

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VRMMOの育成シミュレーションゲーム

 人々から”訓練所”と呼ばれる場所。

 その場所は、名の通り人を育てて訓練するところ。大きな山の麓にある、建物がそれだ。そんな場所を世界中の国の人間たちが注目していた。

 なぜなら、その場所を”卒業”したと言う人間は皆が歴史に名を残すような偉人達ばかりだったから。例えば、世界一有名な冒険者の男、魔法の歴史を変えたと言われている魔法使いの女、そして極めつけは世界を暗黒へと誘おうと現れた魔王を退治した勇者様。他にも誰もが名を聞いたことがあるであろう剣士、商人、賢者、格闘家、召喚士、鍛冶師、等など。数えきれないくらいの偉人達が”訓練所”を卒業していると言っている。

 各国がそんな偉人達が誕生する”訓練所”という場所を、国の発展のために、戦争の手駒を揃えるために、金のために、と考えて自分のモノにしたいと思うのは簡単に想像できるだろう。
 だが、そう思ったとしても人々は簡単に”訓練所”に手出しをすることはなかった。
 いや、2つの国が手を出してしっぺ返しを食らってために、その様を見て皆が容易に手を出すべきではないと理解した。なにしろ、軍隊を引き連れて”訓練所”を襲撃しても、訓練所を守る人間たちが居て、襲撃を行った軍隊が逆に崩壊に追いやられたから。
 更に、襲撃の件について知った訓練所の卒業生たちは、襲撃を行った国に抗議したり、国を信頼しないようになって距離を取られるようになった。世界中の偉人達がそのような立場を取ったために、襲撃を行った2つの国は国家間で窮地に追いやられて国力を次第に失っていった。

 とまぁ、こんな人々に注目されている曰くつきの”訓練所”は、今日もいつもの様に運営されていた。


***


 気がついたら、ゲームの中に居た。最初のうちは現実だとは思わず夢だと思っていた。だって、俺は仮想世界というゲームの中で設定した”ホーム”と呼ばれる場所に立っていたから。
 ゲームの名前は「ユートピア」と言って、コンセプトはVRMMOという技術を用いながらも従来にあるようなファンタジー世界の冒険とは違った方向性を目指し、人を育ててファンタジー世界を旅させるという、ジャンルで言えば育成ゲーム。

 プレイヤーの持つ”ホーム”という場所で人を育成していき、育てたキャラクター達は卒業させて、ファンタジーの世界へと羽ばたかせて活躍させる。プレイヤーは基本方針は、キャラクターの育成だけしてファンタジー世界の冒険はしない。キャラクターを育てて、キャラクターを旅立たせて、キャラクターを活躍させる。

 そして、育成したキャラクターの世界での活躍度合いによって、システムから様々な報酬を貰って、その貰った報酬を次の育成する人材に充てて更に強い人材を育てていく、と言うもの。

 ”多人数オンライン”と名が付いているが、基本的にはプレイヤー同士は直接顔を合わせたりしない。フレンド通信等で連絡を取り合ったり、プレイヤー達が育てたキャラクターが、外の世界で交流したりして間接的に関係を持ったりするだけ。基本的には一人プレイだ。

 ユートピアが登場するまで、VRMMOというものはファンタジー世界を疑似体験して他人と交流しつつロールプレイングしながら冒険するものというイメージが強くて、その系統のゲームが多く開発されていった。そんな中で、登場したユートピアはVRMMOの技術を用いつつ、ファンタジー世界を旅しないという少し変わったテイストで新しい育成ゲームとして注目を浴びた。

 育て方で、無限とも思えるようなキャラクターを作り出すことが出来て、プレイヤーの育てたキャラクター同士の関係で、仮想の世界が変化していく。過去には、あるプレイヤーの育てた魔王と、あるプレイヤーが育てた勇者がぶつかり合うという事も有った。そんな風に自由度の高いゲームなので人気も出た。

 そんな世界にいつの間にか俺は居た。
 いつの間にゲームにログインしたのだろうか、とりあえず時間もわからないしログアウトして状況確認しよう、と思ってシステムウィンドウを開いてログアウトをボタンを探したが見つからなかった。

 少し焦りながら緊急事態だと判断し、ゲームマスターと連絡を取ろうとメッセージを送って見たけれど、返信は何時まで待っても無かった。仕方なく、他にログインしているプレイヤーは居ないか、フレンド登録してあったプレイヤー、24名の名前が載っている一覧を見てみるが、全員がログアウトしている状態を示していた。何時の時間にログインしても、少なくとも2,3人はログインしている状態が通常だったのに、今日はゼロ人。今までに無い状況。

 何らかの方法でログアウトして、状況を確認しなければ。情報ウィンドウを探りまわってみたが、ログアウトの方法は見つけることが出来ず、更には別の最悪な情報を手に入れてしまった。

”育成中のキャラクターが全員消えてる!?”

 その後は情報ウィンドウからホームの状況を一から全部確認し直して、確認。
 すると、育て上げて旅に出したキャラクターも、キャラクターを活躍させた実績も全て消え失せていることを見つけてしまった。
 ”うあぁ、最悪”と思いつつ、調べ続ける。ログアウトできないのはゲームのバグによるデータ破損のせいなのか、それとも現在の状況の原因はログインの失敗によるものか。何時ログインしたのかも思い出せないので、現在置かれている状況の原因は考えつかない。

 衝撃的な情報を見つけた俺は、その後いくら考えてもログアウトの方法を考えてみたが思いつかなかった。
 そして、今更ながらに気づいた。

 VRMMOという仮想世界で感じたことのない、壁のリアルな感触に僅かな風を感じれること。普段なら僅かな遅延がある身体、しかし今は思い通りに動いていた。そして、匂いを感じることが出来る事。余りにも現実的な状況。

 仕方なく、ゲームを進めて時間が経つのを待つことにした。もしかしたら、何か不都合があってゲームマスターの連絡が遅れているだけかもしれない。もしかしたら、何か不都合があって、ログアウトボタンが押せないだけかもしれない。何か不都合があって……。

 何故こうなったのかを考えていても仕方ないだろうと考えつき、ログアウトする方法も思いつかず、やれることはゲームをプレイすることだけだった。

 異常な事態でゲームをプレイする、それは無意識のうちに今の状況の事を考えないようするための現実逃避だった。

 情報ウィンドウから、ホームの現状況を確認する。幸いにも、今までに集めてきた施設の家具や内装、今まで集めた所有アイテム、課金アイテムなどは無事に倉庫に残って居ることが確認できた。一通り、自分の所有するホームを歩きまわって確認。多分、東京にあるドーム数個分の広さを誇る大きさの敷地。見まわるだけで1日が経過した。ゲームとしてプレイしていた時と同じように、ホームとして設定された建物から外へ出れない。ホームから出ようとすると、見えない壁に阻まれて外へ出ることは出来なかった。見えない壁に穴か、抜けられる道などが無いか外周を回って見たが、やはり出れなかった。
 外周を見まわっているうちに、見えない壁の外も一緒に観察してみたが人は見当たらない。ホームの片側には大きな山が、そしてもう片方は大きな木がたくさん茂っている薄暗い森になっていた。

 ホームの内部観察を終えた俺は、次にホームに所属させて訓練するキャラクターを選ぶことにした。情報ウィンドウを開いて、現在所属させることが出来る状態にある人材リストを表示させる。
 表示された18人の名前から3人だけを選ぶ。プロフィールに書かれた19歳の男子1人に18歳の女子1人。そして、まだ12歳の非常に若い女の子1人。今までのゲーム経験を活かして選んだ3人。男子1人に女子1人の合わせて2人は、速攻で育て上げて直ぐに旅に出せる見込みのある人材で、活躍も一定だけ期待できる早熟型。この2人はなるべく早く育て上げる計画を立てる。
 そして残りの女の子は、じっくり育ててジワジワと成長させていって、非常に強力なキャラクターとして育つであろうと予測されっる大器晩成型を選んだ。

 キャラクターがホームに所属するかどうかの成否が分かるのは半日後。もしかしたら、所属の誘いを断られる可能性もあるので油断はできないが、その間に施設の内部構造や置いてある道具、消耗アイテムなどについて再調査と整理。終われば、その後で3人の訓練スケジュールを組み立てる。ある程度だけ計画を決めると、俺は休むことにした。

 
 アラームが鳴る音で俺は目を覚ました。どうやら、誰かホームへとやって来たようなので、ホームの玄関となっている大きな門の方へと向かう。

 大きな門の前で、敷地に入らずに人が立っていた。
「どうしたんですか?」
 俺が声をかけると、3人組はビクンと身体を反応させて、俺の方へと向いた。

「あの、えっと、ココって”訓練”を受けられる場所で間違いないですか?」
 ボロボロに破けて汚れた布だけを身に纏った3人組。10代後半と思われる男子が立って、その後ろに10代程の女子。更に女子の後ろに10歳ぐらいの女の子。
 先頭に立つ男子が俺に向かって探るような目をしながら、聞いてきた。昨日選んだ3人だろうと思いつつ、彼らの事情を聞く。

「あぁ、そうだが。君たちは?」
「この場所に行くように、そして教えを請うようにと神から啓示を受けました」

 その言葉を聞いてゲームと同じような設定なのだろうと思いつつ、俺は彼ら3人組をホームへと迎え入れた。


***


 今まで育ててきたキャラクター達は何故か消えてしまって居ないけれど、育ててきたという経験は俺の中に残っていた。その経験を活かして、新たに迎えた3人を教育していくと、メキメキと成長していって3ヶ月後には旅立たせる為に目指す目標に到達していた。

 俺は早速、育てていた内の2人には直ぐに旅立ってもらって、ゲームの時と同じように、育てたキャラクターが世界で活躍すると貰える報酬が俺の現在の状況でも貰えるのかどうかを確認ですること、そして外の状況がゲームと同じような世界観なのか違った部分は無いのかを報告してもらおうと思った。

「先生、今までお世話になりました。この御恩は一生忘れません」
 俺に頭を下げてお礼を言ってくる少年は、冒険者として育てたライエルだ。武器は剣を持たせて、スピード型として避けて当てるキャラクターに育てた。3ヶ月という短い期間で有ったけれど、かなり納得のいく仕上がりだった。彼には、直ぐに冒険者として活躍してもらって、キャラクター活躍報酬について貰えるのか、どれぐらい貰えるのかを確認する。

「私も、ありがとうございました。先生に言われた通り、外の世界については私が調べて報告します」
 ライエルと並んで頭を下げているのはルーシーだ。魔法使いとして育て上げた彼女は、攻撃型の魔法を主に使い、彼女の方も俊敏性を上げて避けて当てる戦術を教え込んだ。そのために、ある程度の強敵ならば死ぬことなく生き残れるだろう。彼女には、外の世界の調査報告をしてもらうようにお願いしてある。彼女の情報で、俺の今後の方針も決まってくるかも知れない。

「二人共、3ヶ月間ありがとう。君たちは今日ココを卒業してもらうけれど、何時でも帰ってきても良い。もし大変な事が有ったら何時でも相談に来ると良い。もちろん、何も用事が無くても来てくれて一向に構わないよ」
「「ハイ!」」
 2人は気持ちの良い返事をしてくれた。そして、クルリと背を向けて森の方へと足を踏み出し歩いて行った。どうやら、向こうの方に街があるらしく一旦の目的地をそこに定めて歩き出したようだ。

「さて、レア。俺達も訓練をしようか」
「ハイ、先生」
 1人だけ残した女性の名はレア。彼女の才能は凄まじく、先に旅立ってもらってライエルとルーシーに比べて何倍も限界が高かったので、当初の考えの通りジックリ育てるために残って訓練を続けることに。彼女には、今後の育成キャラクターの世界での活躍による報酬稼ぎ頭として頑張ってもらうようにと計画している。


***

 

 ゲームでプレイしてた時に比べて、非常に没入していた。というのも、ゲームの時には感じなかった彼ら、彼女たちの現実感。とても、ゲームとしてプレイしていた様な適当さでは接することが出来なかった。本当に生きていると感じれたので、育成の方針も頭を悩ませて考えぬいた。
 結果、ゲームなのか現実なのか、ログアウトはどうやるのか疑問については頭の片隅に片付けられて気がついたら時間が経っていた。
 そして、その真剣さが結果に直結してゲームプレイしていた時には考えられないようなステータスを持つ者達を生み出すことが出来た。

 その後も、繰り返し人材をスカウトして、人材を教育して、育てたキャラクターを旅立たせた。順調に育成キャラクターによる世界活動することで得られる報酬を取り続けることが出来た。

 しかし、俺は知らなかった。育てたキャラクターが、世界で偉人と呼ばれるような有名人として活躍をしている事を。そして、世界中から”訓練所”として注目されていることを。

 

 

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人生ハードモードのクリア特典

 男の人生は苦難の連続だった。それはいわゆる、人生ハードモードと言われるような人生だった。

 まず容姿が一般的な平均値よりも遥かに低く、その見た目によって女性どころか男性にも敬遠されたために、非常に交友関係が狭かった。

 運も良くなかった。生まれてすぐに親に捨てられて、孤児院暮らし。子供の頃は色々な出来事に巻き込まれて災難な目にあっていた。しまいには、巻き込まれる方が悪いとまで回りから言われたりもした。

 大人になってからも災難な出来事に巻き込まれていった。その1つが痴漢の冤罪を着せられた事。そのせいで、何とか手にした仕事はクビにされてしまった。後に女性が同じようなトラブルを複数回起こしていて詳細な調査が入り冤罪だと判明したが、罪を着せられた男からは、事実と違う悪評は消え去らなかった。

 頭も良くはなかったが、男は人の何倍も努力して知識をつけていった。コレは、友達が居なくて遊ぶ事もなく、女性との付き合う機会もなくて他にすることがなかったから勉強するしか無かったからだったが。しかし、男は頭の悪さは時間と努力でカバーしていった。

 結局、男は生きていくことで精一杯だったし生涯独身で最後は癌という病に冒される事になってしまい、家族も恋人も友人も居ない、最期を看取る人間が居ない孤独な人生だったけれど。

「まぁ、色々有ったけれど嘆いても仕方がない。精一杯に生きてきたんだから悔いはない。来世に期待するさ」
 男は小さくつぶやいて人知れず亡くなっていった。男の耳に謎の言葉が響いた。

—人生ハードモードのクリアを確認しました。


***

 

「坊ちゃま!」
 声を上げながら廊下を走っている彼女は、セシル家に仕えるメイドの1人で名をアマリアと言った。

「あ、ヤバイ」
 そして、女性の声に気づいて焦ったような声を上げた彼はセシル家の長男で、名はルンメと言った。

「坊ちゃま! また、勝手に起きて、勝手に着替えて、勝手に出歩いて! 何時も言っているでしょう、メイドの仕事を減らさないでください!」
「しかし、アマリア。自分で出来ることは自分でしないと気持ち悪いじゃないか」
 ルンメの反論に眉を上げて怒るアマリア。

「そんな事を言ったって! 貴方は4才児の子供でしょう。一体どこの貴族の子供が世話を受けずに生活をしているというのですか?」
 ルンメという男は、生まれた頃は夜泣きもしない静かさで大人しく手間の掛からない赤ん坊だった。一度以上の子育てをしたことのあるメイド達は、その時の子育ての経験とルンメという赤ん坊とを比較して如何に彼が世話しやすい赤ん坊かを力説し、将来は他人を思いやる素晴らしい人間に成長するだろうと予想した。

 しかし、その予想は間違っていることがすぐに解った。1歳になる前から自分の着替えを自分でやるようになった。ルンメの世話をするために付いているメイドが、朝起こしに行くと自分で起き上がって寝間着から着替えを終えているのだ。
 何度もメイドの手を借りるように説得するが、彼は他人の手を借りるまでもないと何でも1人でこなしてしまう。

 確かに自分で出来ることは、出来る限り自分でしようとする考えは素晴らしいと思うけれど、一般的な常識としては貴族の人間が人を従える事はステータスシンボルの1つとなっていて、メイドという仕事は女性が働ける場所で雇用の大半を担っている。それを必要ないと拒否するのは、女性の働く場所を潰していることになる。そんな事を懇切丁寧に話してみると、しぶしぶ納得といった感じでメイドの世話を受けるようになった。

 こんな風に貴族としては少し変わった少年だったが、普通の人間としてもどこか違う感覚を持っているのか、それとも彼こそが真の貴族なのか。そう感じさせる出来事を次々と起こしていった。

 それぞれ起きした出来事は奴隷民雇用改革、王子と令嬢との婚約破棄の解決、そして隣国に召喚された勇者の引受等など。

 

***


 私は貴族として生まれた貴い人間だった。しかし、私の父がとある貴族に騙されて家は没落させられて、私は奴隷に貶されてしまった。
 女であるという事実から、男の欲望を解消する性的な事をする奴隷仕事をさせられると知って絶望している最中に助けられた。私を死ぬよりも苦しくて酷くて無慈悲な世界から救ってくれた男性の名はルンメ様。

 彼は、人の不幸を嘆き悲しみ、人を助けたいと願った。その手段として世界中の奴隷を買い集めた。そして、買い集めた奴隷たちに彼は向き合って能力を調べ、適性を知り、適切な仕事を与えた。
 常識的に考えれば奴隷には農作業や建築のための資材集め等の領民にも任せない力仕事しか割り振られない。しかし、彼は奴隷にも知的な仕事を割り振った。例えば、教会の聖職者に、法律に関わらせる法曹家に、そして領地の運営に関わらせたり、果ては医者という高度な知識を必要とする職業に就かせた。

 私は奴隷の一人として彼の家が持つ領地に集められて、お付の秘書官として仕事を割り振られた。秘書官は領地の責任者に補佐として付き従い、領地の運営に関する様々な仕事に携わる重要だった。そして、ルンメ様は学生をしながらも既に一部領地の運営を任されていたため、私が過去、奴隷になる前に貴族としての教育を受けていたため、彼の補佐に私が選ばれた。

「ルンメ様、今日はこの資料の確認からお願いします」
「あぁ、ありがとう。エリス」

 私が差し出した紙を受け取りながら、ルンメ様は柔らかい笑顔を私に向けてくれた。
 私は彼の眩しい笑顔を見守りながら、助けられた恩を還すために一生を彼に捧げようと決心し、彼に尽くしていった。


***

 

 私は、小さな頃に王子と婚約を結び、そして将来は王妃となる予定の人間だった。

 しかし、ある日学園で催される一年に一度のパーティーでの出来事。貴族の子はもちろん、親である貴族当主達が多数集まる場所で、声高々に王子から私は婚約破棄を言い渡された。

 王子から投げられた言葉に最初は混乱し、そして次に王子からなじられて頭が真っ白になっていた。今では内容も覚えてない、王子からの数々の言葉を聞きながら、その時になって王子に寄り添って立つ名も知れない女性を見つけた。

 私は、無意識に女の首に手を伸ばした所。気がつけば、ルンメ様に抱きしめられていた。

 その時は、それほど親しくなかったルンメ様。でも、学園では武に優れ、知に優れ、品格に溢れる高貴な人として有名で一方的に知っていた。けれど何故という疑問。

 後になっての話だが、何故だったのか訳を聞くと、私の顔色は真っ青で目が据わっていて、空中に浮かぶ腕が王子に寄り添う女性に伸びていたので良からぬことをする前に、腕を掴んで止めようとしたらしい。そこで私の身体がガタガタと震えるのを手に感じて、抱きとめて落ち着かせようとしてくれて居たとのこと。あの時は、婚前前の女性を抱きしめてしまい申し訳なかったと謝られたが、私はむしろルンメ様に抱き止められたことを嬉しく思い、そして感謝していた。

 それからパーティー会場での続きの話、私を抱きしめながらルンメ様は王子に対して、何故このような貴族の集まる場所で婚約破棄を言い渡したのか、王子の判断で手続きもせず周知もしないでいきなり行動するのはどうか、多くの人が見る目の前で女性に対して非難の言葉を浴びせかけるのはいかがなものか等など、王子を批判したらしい。

 このことで王子が逆上、王族に逆らった事を後悔させるためにルンメ家から領土を取り上げると息巻いてパーティー会場を後にした。その後、私の父も結婚破棄の顛末を聞いてネヴィル家とルンメ家が連合を組んで、王族と対立するという状況になっていった。
 もう少しで王国対ネヴィル家・ルンメ家連合とが内戦に突入という緊張状態になって、状況は一変。どうやら、結婚破棄に至る原因が王子の側で寄り添い立っていた女性にあって、その原因が彼女の虚偽にあったらしく、私は有りもしない罪を着せられて王子に悪感情を抱かせていたそうだ。
 もちろん、王族を騙すという罪によって名も知れない女性は不敬罪によって徒刑に処されたと聞いている。

 あれから王子から復縁を求める手紙を何度も頂いているが、父親を経由して復縁は断っている。勘違いしていたとはいえ、婚約破棄されたという事実は消えないし王族という立場から言い渡された破棄の言葉は簡単に撤回することは出来ない。ましてや、あんなに貴族の集まる場所で言い放たれた言葉だ。無かったことには出来ないだろう。そう言い訳して、あの王子との縁を断ち切ることにした。

 結局、私は婚約者を失ってしまった。で、今は何をしているかと言うと。

「ルンメ様、お茶のおかわりをどうぞ」
「ん? ありがとう、ベアトリス」

 読書中のルンメ様と一緒に過ごしている。あの婚約破棄騒動があって以来、縁ができた私とルンメ様は、親同士が一時期本気で王族打倒のために連携して動いたために娘、息子の私達も自然と仲が深まっていった。そして、現在は私の方から男女の関係に発展させるためのアプローチをかけている途中であった。


***


 私の名前は黒石千早。平和な日本で生まれ育って女子高生として生きていたのに、何の因果か勇者となってしまった。

 異世界にある国が行った勇者召喚というものに選ばれて連れてこられて、私は気が付けば勇者として神輿に担がれてしまっていた。しかも、敵の魔王は何処に居る? と聞けば、魔王なんて居ないと言われ、じゃあ目的は何ななのか、何を倒せば良いのかと聞けば、敵国の人間を殺してこいと言われた。

 何じゃそりゃ、勘弁してよと思ったために、隙を見て逃走。もちろん召喚された国から兵隊が派遣されて私は追われるようになったから、必死に逃げた。

 辿り着いた先は奴隷民領地と言われている場所で、最初は名前から関わり合いになりたくない、通り抜けようと思っていた。けれども、コレまた何の因果か兵士に追われて、関わり合いになりたくないと思っていた場所へ逃げ込むことになった。

 コレは、この土地で奴隷にされるのかな、でもあの国の人間に捕まって無理やり殺人をさせられるぐらいなら奴隷のほうがまだマシかな、なんてネガティブな考えで居たら、想像とぜんぜん違う場所だった。
 料理は美味しいし、宿は綺麗だし、しかも人間が皆優しい。まさか、こんな人達を殺せと言っていたのかあの国は! と怒りながらも久しぶりの平和な一時。

 で、やっぱり領地を管理している責任者がやって来た。多分私の引き連れてきた追手が領地に迷惑かけているんだろう、私は説明しないとイケナイなと思って責任者と面会した。

 思いの外に若い人間が責任者として出てきて、互いに自己紹介。彼の名前はルンメ様と言って学生をしながら、次期当主として能力を高めるために領地の運営を勉強中らしい。

 私が逃げ込んだばかりに彼に悪いことをしてしまったなと思いつつ、経緯を説明。すぐに厄介事として領地から追い出されてしまうだろうと思ったら、なんと彼は私を助けてくれるという。

「何故私なんかを助けてくれるのですか?」
「僕は困った人間を見過ごせなくてね」
 私は異世界に来て初めて、涙を流しながら彼に助けを求めた。

 それから、涙を流して助けを求めたは良いけれど私のせいで戦争が始まると考えて、沢山の人が犠牲になることを想像していたけれど、ルンメ様が私を召喚した国と交渉を始めて、どうやったのか分からないけれど、私という勇者を管理する権利を奪ってきた。それに加えて、もう二度と勇者召喚をしないように確約させたらしくて、勇者召喚するための方法を破棄したという

 普通の女子高生が勇者にされた時には絶望しか無かったけれど、ルンメ様に出会えたことは一生に一度の幸運だと思う。この幸運を逃がさないように生きていくことを私は誓ったのだった。

 

***

 

 前世の記憶なんて物が僕にはあるけれど、その記憶のおかげで僕は今最高に幸せな人生を送っている。前世の辛い経験、どうしようもないと絶念してしまったあの時の事を思い出すと、今世を必死に生きていける。前世の苦労は買ってでもせよ、という事だろう。

 そんな僕は、色々な事をやってきた。奴隷という不幸の人達を助けて、王妃様になるはずだった女性を助けて、まさか前世の世界からやって来た勇者と言われるようになってしまった女性も助けた。

 僕は彼ら、彼女らのような不幸な状況に置かれている人間を助けずには居られなかった。僕が不幸のどん底で助けを求めても誰も助けてくれなかった、あの時に感じる絶望感を味わうような人間を1人でも減らしたいが為に。

 幸い、前世に比べていくらか容姿も優れて、ちょっぴり運も良く、頭も多少は良かったので不幸の人を助ける為の戦いに赴くための武器は多く持っていた。

 最初に手を付けたのが、奴隷制度。父を説得して領地の一部を引き受けた後、その領地を運営するために注目したのが奴隷達。あのように人材を無駄に力仕事にしか配置しないのを勿体無いと思ったので、彼ら彼女らを引き取って一番輝ける仕事に配置した。
 中には奴隷根性が染み付いていて、力仕事しかやりたがらない人達も居たけれど極力希望を聞いて配置していった。
 このようにして彼らに正しい仕事を与えて、人間としての尊厳を守りつつ、幸せな生活を送ってもらうように努力した。

 結果、奴隷を迎え入れることで領地が上手く栄えていった。優秀な人間も見出すことが出来て、彼らが頑張ってくれたおかげで更に領地は栄えていった。特にエリスという優秀な人間が手伝ってくれて、手に入れた利益を領民に還元してく。奴隷と領民とのバランスを取りつつ全員の理解を得ながら、更に奴隷たちを集める。いつかは奴隷という身分も取っ払って、全員が幸せに暮らせるように目指している途中だった。

 そんな風に領地運営を頑張っている最中、起こったのが王子の婚約破棄騒動だった。

 僕が通う学園で催されるパーティーに参加していた僕は思わず、婚約破棄を言い渡されて前後不覚になりながら不幸に突っ込んでいきそうな女性を抱き止める。王子の側に立つ女性に手を出していたら問題になっていた所、間一髪で何とかセーフ。

 しかし僕が王族である王子に目を付けられてしまい、ヤバイ状態になるだろうと予測していたのに、気が付けば王子側に否があったとして最高権力者から謝罪の言葉を頂くことになった。ついでに、ベアトリスという見目麗しい令嬢とお近づきになれた。

 で、一番最近の出来事が勇者を領地に迎え入れたこと。

 どこからかやって来た見たこともない衣服を着た女性が宿に居るという情報を聞いて、諜報部に調べさせていたら、どうやら他国で召喚された勇者だという。まさか、勇者召喚という物があるなんて知らなかった僕は、勇者の下へ。

 薄汚れて所々が擦り切れているセーラー服を着た女性。詳しく話を聞いてみると、僕の記憶にある前世に近い世界。現代からやって来たという女子高生。彼女の涙ながらに発せられた助けを求める声を聞いて、僕はすぐに動くことに。

 我が国の王を使って、隣国との交渉席を用意してもらう。その席で、色々な切り札を使って隣国から勇者を管理する権利と、勇者召喚の方法を奪い取った。すぐに勇者召喚の方法を破棄。二度と勇者が召喚できないようにしながら、他に勇者召喚という拉致行為として問題になりそうな物を探る事に。

 それから自由になったチハヤに、これからどうやって生きていきたいかを聞いてみたら、やりたいことは見つかってないけれど、とりあえず今は僕の近くに居たいと言ってくれたのでしばらくは我が領に滞在する予定としてもらった。

 このようにして、前世では考えられないぐらいに幸せな生活を送っている僕だった。

 

 

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前世勇者のアイドル活動

 畳が敷かれた五畳半程の広さが有る個室。その部屋の中央で、二十歳前ぐらいの一人の男が膝下に座布団を敷いて正座をしながら新聞を読んでいた。

「よしよし、計画通りに事が進んでいるな」

 手に持つ新聞の一面を飾る芸能の記事を見ながら、男は一人満足気に頷いていた。

 そんな男が手に持って読んでいる新聞には、日本一大きいと言われているコンサート会場で先日開かれたあるアイドルグループのライブのファイナルステージが、満員御礼で大盛況で有ったという事が書かれていた。

 記事の内容によると、ライブが行われたその日に会場に駆け付けたファンの数は七万人を超えていたという。さらに、チケットを手に入れられなかったという人も会場付近に集結したそうで、コンサート会場付近にあの日は合計十五万人以上のファンが集まっていた、と書かれている。

 そんな人気絶頂を表すようなコンサートを行ったのは、ラテン語で勇気という意味を持つ「ウィルトス」と呼ばれるアイドルグループだった。そして、そのアイドルグループのリーダーを務めているのが、今も笑顔を浮かべながら頷いて新聞を読み込んでいる男、加賀健介(かがけんすけ)であった。

 加賀健介の事を紹介すると、次の通りである。

 堀の深い日本人離れした、日本一かっこいいと言われる美貌。背は180cmあるという高身長で手足も長く、程よく身に付いた筋肉もあってスタイルが抜群に良い身体。運動神経も常人と比べると飛び抜けていて、子供の頃から続けている剣道は十八歳の今で既に三段の持ち主。来年にも剣道四段の取得は、確実だろうと言われているぐらいの実力。そして、アイドルとして活躍するためのダンスや歌も上手という才能。人当たりもよく、人の事を正しく理解できて、人を惹きつけてしまうカリスマ性。

 神に愛されたように恵まれた能力をたくさん持って、アイドルになるべくして生まれてきたような人物である。

 その加賀を筆頭に、アイドルグループのメンバーも豊かだった。

 リーダーである加賀に並び立つぐらいに優れた美貌を持つ志賀優也(しがゆうや)。神がかり的な演技が出来る、岡田隼輔(おかだしゅんすけ)。末っ子気質を持っていて、メンバーやファンの皆から愛されている天谷友宏(あまやともひろ)。三枚目なキャラクターだけれど、実はダンスも運動も歌も器用にこなす中杉潤二郎(なかすぎじゅんじろう)。

 個性的なキャラクターを持った五人組のウィルトスは、一気に人気が高まりファンクラブの会員数は既に百万人を超えているという。

 このように大活躍な加賀だけれど、実は誰にも言っていないヒミツを一つ持っていた。それは、前世の記憶を持っているということ。しかも、前世とは今世と違って魔法や魔物というものが存在していたファンタジーな世界である。

 そんな世界で、加賀はかつて勇者をしていたという。

 加賀は、生まれた時から世界に現れた魔王を倒すという使命を持っていて、十五歳の誕生日を迎えるまでに、魔王討伐を成すために己を鍛え上げていった。

 十五歳の誕生日を過ぎた頃に、魔王が支配する世界を救いたいと願っているという一国の王と知り合うことになり、世界中を旅して一緒に魔王を打倒する手伝いをしてくれる仲間を集めていった。

 更には、旅の支援してくれるという商人達に助けられて、各地の村や町を襲っているという魔物から、市民たちを全力で守り魔物を討伐しながら旅を続けていった。

 そして、五年の歳月をかけて加賀は魔王城に辿り着いて、魔王と戦い討伐に成功して魔王の支配を振り払い、世界の皆の心から魔王の恐怖を消し去ることができた。

 その後、魔王討伐を成した勇者である加賀は、再び現れるかもしれない魔王に立ち向かう準備を一生涯続けながらも、人生が終わるその時まで幸せに過ごしたという。

 そんな前世の記憶を持って転生した加賀は、何故また新しい生を授かって見知らぬ世界に降り立ったのかを考えた。

 新しい世界では、前世で見たこともない技術にあふれていて、それなのに魔法も魔物も、そして魔王も存在しない。だから、人々は魔王の恐怖に怯えることもなく日々を安心して過ごすことが出来ていて、世界は平和だった。

 そんな平和な世界に何故、勇者である自分が生まれ落ちたのか。疑問を持って、生まれ変わってすぐの赤ん坊の頃に、起き上がれない身体に四苦八苦しながらも、とても悩んだ。

 加賀は考えに考えて、ようやく答えに辿り着いた。

 その答えとは、まだ見えぬ将来この平和な世界に魔王が降り立つのではないのか。だから勇者である自分が行うべきなのは、いつ現れるか分からないけれど将来に現れるかもしれない魔王を、打ち倒す為の準備をしなければならない! ということ。
 魔王を倒した後も、勇者であるという事実を忘れずに過ごしていた加賀は、生まれ変わっても自分が勇者であるという使命を忘れていなかった。

 加賀は前世の勇者としての経験を生かして、十五歳の誕生日まで再び自分を鍛え上げた。ファンタジーな世界で命を掛けて生きていた加賀は、親や友人たちが引くような方法と期間を使って、並の人間とは比べ物にならないぐらいな能力を高めていった。

 そして魔王が現れた場合に備えて、全世界に名を馳せるために芸能プロダクションに入り、社長とビジネスパートナーとしての関係を構築していった。さらに、優秀な仲間を集めて、アイドルグループ「ウィルトス」を結成した。

 アイドル活動を支えてくれるような経営者と出会い、いつの日か助けてもらうために、彼らを助けるためにCMや番組に出て、メディアの露出を増やしていった。

 名が広く知られるようになり、アイドル活動を進めていくうちにファン(守るべき民)がどんどん増えていった。

 加賀は、魔王が現れるその日まで準備を着々と進めて、戦いに臨むために支援者増やしていき、戦いに備えてファン(守るべき民)を認識していった。

 そして、加賀は伝説のアイドルへの道を一歩一歩進んでいくのだった。

 

 

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あべこべな彼女

「放課後ちょっと付き合って」
幼馴染である彼女は昼休みの時間、
教室の後ろの窓際にある僕の席へと来て、
いきなりそう言った。
混乱している僕は、その時は気付かなかったが、
教室にいた生徒のみんなが僕と彼女のやり取りを唖然としながら見ていた。

「へ?あ、え?あぁ、分かった、いいよ?」
突然の訪問と言葉に混乱しながら、
僕はそんな返事をするしかできなかった。

そんな僕のへんてこな返事で満足したのか、くるりと体を回すと
クラスを後にした。彼女は隣のクラスの生徒であるから、教室に戻ったのだろう。

友達の結城が近くへと駆け寄ってきて、聞く。
「なぁ、佐伯さん。お前に何の用だって?」
結城が聞くが、僕にはまったく見当もつかなかった。
「さぁ?」
「さぁって、お前。佐伯さんの人気知ってるだろ?教室のみんなの注目の的だったぞ」
僕の幼馴染の佐伯京子は、学園のアイドルといってよい、素晴らしい容姿を持っていた。
それなのに、誰とでも気軽に仲良くし、幼馴染の僕ともよい感じの関係を保ってくれていた。
だから、みんなにも特別人気があり、男子からの少々の嫉妬の感情を受けていることもあった。

それから放課後までの授業時間、彼女の言葉が脳内を繰り返しめぐり、
いったいどんな用なのか、頭の中であーでもないこーでもないと考えた。

もしかしたら、好きだという告白をされるんじゃないかと思った。
僕と京子との関係は、良好といっていいと思う。
幼馴染という強みがあるから、僕も少し強気でいられる。
しかしこうも考えられる。
もしかしたら、好きな人ができたんだという告白をされるのではないかと。

しかし、期待と不安だけが残り、結局答えは見つからなかった。

授業が終わり、彼女は朝と同じように突然教室にやってきた。
前の席の扉がバンと開くと、授業の先生と入れ替わりに入ってきて、
すぐさま僕の席までズンズンと進むと、いきなり僕の腕を掴んだ
そのまま出口まで引っ張られた。
「ちょ、ちょっと。まだ帰る準備が…」
「急ぐの。屋上に行こう」

彼女に腕を掴まれながら、そのまま廊下を進み、階段を上がった。
ギイと錆びついた扉を開けると、そこから風が吹きだし重い扉が一気に開く。
ここは学校の屋上だ。今は誰もいないようだった。

僕たちは、奥のフェンスまで近づいた。そして、そこから下校途中の学生や
部活動を始めようかとしている人たちが集まっているのを、なんとなしに見ながら話を始めた。

僕はかなり緊張をしながらも、それを隠そうとしながら聞いた。
「それで、話って何?」
彼女はためらいながら、言った。
「今日起きてから、みんながおかしいの」
「おかしい?」
どうやら恋の告白ではないようだった。
内心残念に思いつつも、話の続きを促す。
「それで?」

「うん、男子ががさつになって、
女子がお淑やかになったの」
「はぁ?それがおかしい?」
「それに男子がエロくなって、
女子がエロを恥ずかしがるようになったの」

「ん?うん、そう」
僕には何がおかしいのかがわからなかった。

「他にもいろいろあるんだけど、
なんだか女と男があべこべになったみたいなの」

「はぁ、あべこべ?」

僕の気のない返事に、業を煮やしたのか
彼女はいきなりスカーフをスルッと解くと、
脱ぎ始めて、上半身裸になった。
「ちょ、ちょっと!」
「これでも信じない?」

逸らそうとしても自然と胸へと目が向かってしまう。
肌色にピンクの突起が見える。
のーぶら?
瞬間、僕は無理やり体をあさっての方向に向けて彼女に言う。

「わ、分かったから。服着て!服!」
がさごそと彼女の衣服の着る音だけが、妙に耳に聞こえてくる。

「もう着たわよ」
「う、うん」
僕は視線を彼女に戻した。なんだかもったいないような妙な気分を感じて、
こんな時なのにエロ思考をする自分が情けなく感じると思うと同時に、
彼女がどこかおかしい事を認識した。

「だから、上半身ぐらい見せるのが当たり前だと思ってたのに、義隆みたいにみんなが慌てふためくの」
「え?そりゃそうだ。いきなりだったからびっくりしたよ。というか、ほかの人にも見せたの?」
みんなが慌てふためくということは、どこかで同じように服を脱いだのかもしれない。

「今日の体育の時間に、着替えようとしたら周りの女子が止めてくれたの」
「あぁ、そうなの」
かなり安心した。京子の裸を男子が見たなんて聞いたら、見た男子に嫉妬するだろう。
「って、僕には見せて平気だったの?」
「だって信じないんだもん」
たしかに、言葉だけじゃ信じられなかったかもしれないが、先ほどのは心臓に悪い。

「それで、いつからおかしいと思い始めたの?」
「おかしいと思ったのは、なぜか家にある学校の制服がスカートしかなかったことと
朝学校に来るときに男子の服装がちょっと変だなって思ったのことかな。
分かったのは、午前にあった体育の時間の着替え。
いつもなら男子が使ってる更衣室を使うなんておかしいじゃない」
女子が更衣室を使うなんて当たり前が、彼女の当り前じゃくなっている。

「う~ん、今日の朝からおかしかったということか。それで原因は何か思い当たる?」
「わかんない、昨日は普通に眠って、今日も普通に起きたし」
原因がわからないということは、直し方は見当もつかない。

「京子にとって、さっきみたいに服を脱ぐのは当たり前なの?」
「うん、脱ぐくらいなら当たり前。それよりも男子の服装のほうが目に毒だわ」
目に毒といわれても、僕にとっては当たり前なのだが。
「男子が胸にサポーターを着けてないのに、シャツ一枚で胸が見放題なのよ」

「ふーん」
僕は京子に、男と女と価値観が全く逆転していることをかなり詳細まで解説された。

ところで、なんで僕に相談なんかするのだろうか気になった。
こういうのは同性のほうが相談しやすそうな感じがするが。

「なんで僕に相談なんか?」
いくら考えてもわからないので、聞いてみた。
「だって、友達に相談するのも、頭おかしいって思われるかもしれないんし」
「じゃあ僕に相談したのは、幼馴染ってことで?」
彼女はびっくりしながら、僕に衝撃の一言を投げかけた。
「へ?彼氏としてよ」

学園のアイドル、佐伯京子はいつの間にか僕の彼女となった。あべこべな彼女として。

 

 

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