第39話 変わる世界

 僕達5人は、3ヶ月という月日を経て商業の国の首都へと到着していた。

 王国からの逃走から国境を超えて、最初の街に着いた時から首都までに掛かった期間が3ヶ月。体力がある冒険者ならば朝から夕方まで徒歩で2週間もあれば到着できる距離だろう。けれど、僕たちは途中にあるダンジョンに寄ってはそれぞれのダンジョンの最下層を目指して攻略していった為に3ヶ月もの時間が掛かったのだった。

 ダンジョンの最下層までの攻略は、能力と才能のある冒険者が少なくとも5人ぐらいは集まらないと容易に到達はできないと言われている。
 しかし、僕達5人の内1人が何度も最下層に到達した経験があり、何度も神の加護を受けた冒険者であり、内2人は一度だけ最下層に到達できた実績があってその時に神の加護を受けた事もある冒険者。そして、残りの2人はダンジョン攻略については初心者だけれど、能力を見れば非常に優秀で、成長する可能性も十分秘めた人材達である。この様な素晴らしい仲間が集まっていたので、僕達はダンジョン攻略を繰り返し行うことが出来た。

 最初に挑戦したダンジョンの最下層到達は、ダンジョンに踏み入る事が殆ど初めてであるというフィーネとトリュスに、ダンジョンに慣れてもらいながらじっくりと最下層へ向かったために、1週間程の時間が掛かった。
 と言っても、普通のパーティーならば、攻略を初めて最下層へ到達するまでには数ヶ月は必要だろうと言われているダンジョン最下層への到達なので、通常に比べれば攻略に掛かった時間はかなり短い。
 それから、3ヶ月は首都へ向かいつつ道中にあるダンジョンを攻略して行って商業の国にある首都へと向かったという訳だった。

 5人全員にすさまじい成長力があったので、ダンジョン攻略で最下層へ到着するたびに皆が能力アップを感じられた。
 基本的にはダンジョン内でモンスターを倒していれば、ある時突然に筋力がアップしたように感じられたり、突然に魔法によってモンスターにより多くのダメージを与えられるようになったと知力がアップしたと感じられるようになったりと、一気に能力がアップして成長を感じられる瞬間がある。
 所謂ゲームなどのレベルアップした! という事をこの世界では実際に体感できる。が、ずっとモンスターを狩り続けていれば成長限界と言われている能力が上がるという感覚を感じられなくなる時があって、事実ソレを感じてしまえば力や知力などは殆ど上昇しなくなってしまう。そんな事態が僕達5人には無かったので、各地のダンジョン巡りは無駄ではなかった。

 こんな風に、ダンジョンをクリアしていっては次の街へ行って、街に到着したら直ぐにダンジョンに直行しては挑戦する5人組は、もちろん冒険者仲間の間で有名となっていった。

 冒険者達に有名になったため、僕とフィーネの魔法使い組は他のパーティーによく勧誘されるようになってしまった。けれど僕はもちろん、フィーネも勧誘話が来るたびに丁重にお断りしていった。

 それから、更に僕達5人が有名になって来ると何十人もの人間が集まって作る名前付きの団体や隊など、パーティーよりも大きい枠で作るまとまりに5人全員が一緒に勧誘されるようになってしまったけれど、全員が全部の話を断っていった。

 中には強引な手口で、自分たちの団体に組み込もうと企む人間たちが居たけれど、武力ではクロッコ姉妹には勝てないし、情報戦や策略ではトリュスが事前に察知して全ての企みを潰されていった。最後の手段も僕とフィーネの魔法使い組が便利な魔法で阻止していくと、ある日を境にして勧誘はピタッと止んだ。どうやら、どんな手を使っても勧誘が成功しないだろうと冒険者の間で認識されたからだろうか。

 こんな風にダンジョン攻略と冒険をこなしながら生活していると、世界の状況が少しずつ変化していった。変化していく世の中に関しては、トリュスが情報を瞬時に集めてきて報告してくれるために、僕達はどのように世間が変化していったのかを明確に把握していた。

 その中でも一番の大きな出来事は、王国が戦争の準備をしていて他国に宣戦布告するのではないかと言う噂。

 国王は戦争を仕掛けるつもりは一切ないと各国に布告しているが、その言葉を信じているものは少ない。現に、王国は数カ月前から食料の買い占めに続いて、最近では軍備の増強を行っているという。もちろん、コレにはモンスターの大繁殖という出来事に備えた準備だと発表されていたが、モンスターの大繁殖が沈静化してきているという今も、軍備の増強や訓練を止めていない所を見ると、他に目的があるのは明白だった。

 この事実が有り、周辺国も緊張状態になっていて商人たちが非常に頑張って商機を探っているという訳だった。


「なるほど、なかなかに大変そうだ。情報を集めてくれてありがとうトリュス」
「良い」
 商業の国の首都にある宿屋から女性陣が泊まるために借りた一部屋。そこに僕も加えて他の4人の仲間が集って、トリュスからの定期報告を聞いていた。
 僕は、トリュスに情報を集めてくれたお礼を言いながら考える。王国が最近ずっと変わらず軍備を整え準備しているという情報を受けて、やはり戦争になるかも、と漠然としながら思う。

「今は国の間を行き来するのは危ないかもしれないわね」
 一緒に聞いていたシモーネさんが意見を言う。確かに、今の状況では周辺国へ向かって国境を超えて行くのは難しいかもしれない。

「となると他の国に向かわずに、この国にある街とかダンジョンを見て回るか?」
「首都に来るまでの修行を考えると、国にあるダンジョンを見て回ったら更に魔法使いとしての能力が上がりそうです」
 今後の方針は未だに決まっていないので、どうするべきかフレデリカさんが提案。フィーネがソレに賛成する。修行のダンジョン巡りも良いけれど、何か1つ変化がほしい。首都へ来るまでの3ヶ月間を考えて、非常に有意義だとは思うが代わり映えがなさすぎる。
そう思って、何かいい案は無いか5人で話し合っている時。

 コンッ、コンッと2回扉をノックする音が部屋に響いた。

 

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第38話 5人の成果と、王国の異変

 フィーネと2人で街にある市場を回り、ダンジョンへ挑んだ時に必要そうな物を買い揃えてから、宿へと戻って来た。僕達2人が戻って来た時には既にフレデリカさんとシモーネさんの2人は先に宿へと戻って来ていた。

 クロッコ姉妹は僕達の帰りを待ってくれて居たようで、宿の出入口に近い場所に設置されているテーブル、朝食や夕食を宿泊者が戴くときに使う食堂のような場所、の一席に座っていた。そして、帰ってきた僕達をいち早く見つけて、手を上げて合図をしてくれた。

「こっちだ!」
 フレデリカさんの呼び声に、買い物から帰ってきた僕達2人はテーブルに近づいて行き、彼女たちと同じようにして座る。

「おかえり、そっちの成果はどうだった?」
「大体必要そうなものは買い揃えられたんで、後はフレデリカさん達が集めた情報を確認ですね」
 買い揃えたものは魔空間にしまってあるので、見た目には荷物も何も持ってないように見えるけれど、シッカリと目的は達成している。その事を伝えると、クロッコ姉妹は満足そうに頷いてくれた。

「そっちはどう?」
 席についたフィーネがフレデリカさんに向い合って成果を聞いている。出会った当初を考えると、驚くような光景だった。だけど、この一ヶ月の旅の中でフィーネとクロッコ姉妹の仲は友達程度にはなっていた。そのために、出会った当初に比べてギスギスした感じが無くなっていた。

「ダンジョンの情報についてはバッチリ。入場許可証も貰ってきたよ」
 フレデリカさんの手に持つ入場許可証を見て、すぐにでもダンジョンへと挑戦できる準備は完了している事が分かった。
「こっちのダンジョンは別段変わったところは無いらしくて、特別な前準備は必要ないそうよ」
 シモーネさんが集めてきてくれた情報について、僕達に軽く知らせてくれる。後は全員が揃ってから改めて説明してくれると言って、情報交換は終わった。

「それじゃ、後はトリュスが来るのを待つだけですね」
 僕のつぶやきに3人がうなずいて反応してくれる。このテーブルには今4人の人が座っている。残りの1人であるトリュスには、王国の現在の状況がどうなっているのか調べてもらっている。彼女は情報を集めるのなら1人のほうが動きやすい、1人で大丈夫と言ったので、王国の調査についてはトリュス1人に任せることになった。
 そしてフィーネと僕の二人組、フレデリカさんとシモーネさんの二人組づつに別れたのだった。

 しばらく4人でまったりとしながら待っていると、トリュスが宿へと戻って来た。

「おかえりなさい、随分と時間がかかっていたね」
 僕がそう声をかけると、トリュスはコクンと一度頷いて答えた。
「すこし、大変だった」

 5人全員が集まったので改めて、僕達が準備した物やこの街にあるダンジョンの情報について、そして現在の王国の状況、皆が時間をかけて集めてきた情報の共有が始まった。

「とりあえず、私達から」
 シモーネさんが手を上げて、先に話し始める。まずは、ダンジョン関連についてから。
「さっきエリオット君やフィーネにちょっとだけ話したけれど、このダンジョンについて」
 シモーネさんが冒険者ギルドに行って調べてきたこと。このダンジョンに出現するモンスターの種類や、注意するべき点、難易度などを説明してくれた。

「一ヶ月の旅で大体皆の能力は把握してあって、それを参考にしてみるとココの街にあるダンジョンの攻略は難しくはなさそう。じっくりと時間をかければ最下層には問題なく行けると思うわ」
 そう締めくくるシモーネさんの言葉。シモーネさんに聞いた情報通りなら、僕も同じように考えダンジョンの攻略には苦労しなさそうだと思う。

 シモーネさんが話し終えた次は、僕達が買い集めたダンジョンに挑戦する際に必要そうな物を報告をする。

「僕達が買ってきた物は、コレです」
 買ったものを紙に書き出しておいた物を3人に見せる。無駄なものを買っていないか、そして買い忘れがないかをチェックしていく。

「うん、大丈夫そうだ」
「おう、良いんじゃないか?」
「良い」
 シモーネさんとフレデリカさん、そしてトリュス3人の判断を受けて、とりあえずダンジョンへ潜る準備は出来たと判断。後はトリュスの報告だった。

「追手、問題ない」
 国境を超えて、王国からの追手については一先ず問題が無くなった。皆が一安心た頃、トリュスハもう1つの情報について話し始めた。どうやら、彼女が調べてきた物は王国からの追手についての情報だけではなかった。

「王国、少し変」
 トリュスは、僕の追手がどうなっているか調べるために商人が集まる飲み屋へと向かったらしいのだが、そこで少し気になる事を聞いたそうだ。

「王国、商人、いっぱい集まってる」
 どうやら、王国では食料品の需要が非常に高まっているらしくて、それを売るために商人が各地からたくさん食料品を買い集めて、王国へ向かっているらしい。しかし、食料品の需要が高まっているというのは、どういうことだろうか。

「私達が王国を出るときって、凶作のウワサとかってあったか?」
 フレデリカさんの疑問。食料品の需要が高まっているという事は、国内で食べるものが不足している事が考えられる。しかし王国では、何年間も農作物の収穫には問題なかったと聞いているし、凶作のウワサなんて事を聞いたことがなかった。王国で暮らしているときには、食料品が不足しているという実感もなかった。

「この一ヶ月の間になにか起こったのか、それともこれから何か起こそうとしているのか」
 フィーネが、情報から思い浮かぶ可能性を考えている。
「とにかく、この件は情報がまだ不足しているから今後の状況を見ていかないといけないね」
 僕がそう結論づけて話を終える。トリュスからもたらされた情報については、一先ず頭の片隅に置いておき、僕たちはダンジョンの攻略について集中することにした。

 

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第37話 商業の国、最初の町

 王国と商業の国の国境まで来た僕達。ここまでは、王国兵に出会うことはなかった。幸いにも、指名手配によって国から出る賞金首を目当てにするような冒険者とも出会うことはなく、ここまで特に問題なくやって来た。

 国境付近の通行は、主要な道以外の監視は緩くなっていて僕たちは皆徒歩だったので少しだけ険しい道、一般人なら苦労するけど冒険者として鍛えた人間なら問題なく通れる道を通過して、商業の国に入国することが出来た。

 僕が王国へ来てから、正確に何十年経ったか忘れてしまったけれど、かなりの長期間を過ごした場所から、まさかこんな形で去る事になるとは思いもよらなかった。
 普通のエルフなら百年単位ならば懐かしいとは全然思わないらしいけれど、前世の記憶によって人間の頃の感覚を持っている僕は、何十年という月日が非常に長く感じる。考えれば、前世と同じぐらいの年月を王国で過ごしたことになると考えると、やはり長い期間居たんだなぁと思ってしまう。
 そして、転生してから初めての就職、仕事をしたのが魔法研究所だったので感慨深いものがあり、あそこで色々と学び考え発明してきたのだと記憶が蘇ってくる。

 暫くの間、国境付近でそれぞれが思いを馳せて休憩していたが、休憩を終えて先に進むことに。

 国境を超えてしばらく歩いて行った所、国境からは一番近い場所にある、商業の国の最初の街付近に到着したら、何時も通りフレデリカさんとトリュスの2人で調査に行ってもらう。
 調べてもらうのは、僕の指名手配が国境を超えて他国に通達されているかどうか。普通ならば、1人のエルフを追って他国に通達して捕まえるように要請することはありえない。そもそも、僕は殺人や強盗などの罪となるような悪いことをした覚えはないので、国内なら何とか理由隠して指名手配を出すことが出来るだろうが、他国ならシッカリと正確な理由を提示できなければ指名手配を出すことは出来ないだろう。

 調査から戻って来たフレデリカさんとトリュスの2人に結果を聞くと、案の定問題ないらしくて、この国では僕とフィーネの2人に関する指名手配が無かった。この結果を聞いて、僕たち5人は全員で街へと向かった。

 街へと到着。1ヶ月ぶりの街と人混みだと思ったが、よく考えると1年単位で研究に没頭して研究所に引き篭もっていた僕は、たった1ヶ月ぶりには流石に久しいという思いは湧いてこなかった。

 それにしても人が多いような気がする。街の散策しながら観察した感じでは、かなり大きな街だろうと思うけれど、あれほどの人が密集している所は王国ではお祭りの時ぐらいしか見れないだろうと思うぐらいには密集している。
 何をしているのか少し近づいて観察してみると、人混みの中心で商売をしているようだった。やはりここは商業の国だな、という感想が浮かぶ。

 街の感じも、王国と商業の国ではどことなく違うように感じられる。どうやら、その雰囲気を違うと感じる原因は、商人と客が活気づいていて街全体が明るく見えるからだろう。 商人が活気づいて商品の説明をして売値を提示してる、客は積極的に商品の質問や値段交渉を行っていて活発に商売がされている。

「おばちゃん! これどうやって使うの?」「これはねぇ、こうやってねぇ、」
「もうちょっと安くなんないの、ネエちゃん!?」「これ以上はまけられねぇぜ!」
 こんな具合で、人々が元気だった。

 街の活気を眺めながら、宿を探す。と思ったら、トリュスがこの街一番の宿を見つけ出してきて、そこを使うように言ってきた。
「ここ、オススメ」
「街一番って事は、高いんじゃないか? お金は大丈夫?」
 僕の不安通り、値段もかなりするようだった。けれど、王国から商業の国へ来る道中、モンスターを狩ってドロップ品を集めて街にあるギルドで換金していたら、いつの間にかパーティーで管理している資金がかなり溜まってきていた。

 一ヶ月も野営生活が続いて、地味に疲れが溜まってきてたので高級な宿は落ち着けて非常にありがたいと思ったので宿の部屋を取ってもらうことにした。

 部屋割りは、フレデリカさんとシモーネさんのクロッコ姉妹の2人、フィーネとトリュスの2人、そして僕が1人だった。
 クロッコ姉妹は元々は一緒に住んで生活していたので、一緒の部屋は問題ないだろうが、フィーネとトリュスの2人で一部屋を使用するのは大丈夫だろうか、気まずくないだろうかと思っていたら、シモーネさんから問題ないというお墨付きがあった。
 シモーネさんによれば、どうやら最近2人はよく話し合っているそうで、フィーネが無口なトリュスに話を振ったり、トリュスの方もか細い声だけど返事をするなど友好的な関係を結べているらしい。だから、一緒の部屋で問題はないそうだ。

 そして、僕は1人部屋を用意してもらって恐縮したが、流石に女性1人と男性1人で2人部屋を使用するほうが不都合があるだろうと考えて、パーティーメンバーには男性1人しか居ないので他に取れる手段はなく、ありがたく1人部屋を使わせてもらうことにした。

 内装やベッドの質も高級で街一番の宿と言われている事に納得できるぐらいには、しっかりとしていた。その日は久しぶりに朝まで熟睡して体力と魔力が完全に回復した。

 翌日は、パーティーメンバーで集まって話し合い。
 最初の目的地、商業の国に到着したけれど、何をするのか。最初に商業の国を目指した目的の1つは、商業の国にある数あるダンジョンに挑戦していって、それぞれ最下層まで到達して神の祝福を受けられるように攻略していくこと。
 もう1つは、商人との交流を持って大陸中の情報を集めること。情報を集めて新たな目的を見つけたり、逃げ出してきた王国の動向に関する情報を商人たちに集めてもらったりする事。

 王国を抜けて、商業の国に到着した今、この街の近くにもダンジョンがあるらしいので、そこから攻略していくか、それとも一度首都まで行ってからにするか。

「王国から抜けて一ヶ月経ってるから、一度向こうの情報を集めてみたほうが良いんじゃないか?」
 フレデリカさんは一ヶ月という短い時間だが、王国に変化はないか逐次観察するのが良いと提案。
「賛成、近いうち、王国、一度調査」
 トリュスがフレデリカさんの提案に賛成する。国境付近で落ち着けた今のうちに、一度情報を集めておきたいというトリュス。

「ここのダンジョンは難易度が高くないそうだから、ダンジョンの攻略は情報を集めながらでも問題ないと思うわ」
「私も魔法研究所に所属していた時は研究ばかりで、今までダンジョンに挑戦した経験が少ないです。難易度が高くないうちに挑戦しておきたいです」
 シモーネさんもダンジョンの難易度は問題なく簡単なので、一度街に腰を下ろしてダンジョン攻略しながら情報を集めることに賛成とのこと。最後にフィーネは、ダンジョンが難しくないうちに一度ダンジョンに挑戦しておきたいという事で、この街のダンジョンを攻略することに賛成。

 4人の女性が賛成。僕も、商業の国の首都に行くことについて、そんなに急ぐ必要も無いだろう事なので、この街で一度ダンジョンに挑戦するのが良いだろうと考える。

 全員一致で今居る街に一旦留まり、ダンジョンに挑戦してみることに賛成した。それならば、早速ダンジョンへ潜る準備をしておこうと動き出す。

「私とシモーネの2人は冒険者ギルドに行ってダンジョンに関する情報を探ってみるよ」
 この街にあるダンジョンの調査には、フレデリカさんとシモーネさんの2人が担当することになった。

「私、王国の情報、集める」
 トリュスは持ち前の情報収集能力を使って、1ヶ月の間に王国で大きな出来事は起きてないか調べてもらうことに。

「それじゃ、僕とフィーネの2人はダンジョンに潜るための道具とかの準備に当たろう」
「はい、わかりましたエリオット様」
 僕とフィーネの魔法使い組は、市場へ出てダンジョン内部で使えそうなアイテムを探すことに。と言っても、まだこの街にあるダンジョンについての情報は持ち合わせていないので、後でまた買い直しに市場にでることになるかもしれない。だから、基本的にダンジョン内部で使えそうなアイテムを適当に見繕って、準備することにする。商業が盛んな街なので、掘り出し物を探すのも良いだろう。
 それぞれの担当に分かれて、動くことになった。

 フィーネと2人で市場へと出かける。
「2人で買い物に来るなんて初めてですね、エリオット様」
「そういえばそうだっけ?」
 魔法研究所に所属している頃、基本的には研究室に篭もりっきりの2人だったので、2人で外に出ることすら珍しく、買い物に関しては初めてだった。

 市場を見回ってみると、いろいろな発見がある。
「お、あの魔法道具は見たことがないものだな」
「本当ですね、学術都市製でしょうか?」
 見たことのないアイテムや道具が集まってくるのも、この国が商業の国だから。大陸中にあるアイテムが一旦この国に集まって、再び大陸に散っていく。

「あれは、なかなか使えそうな魔法道具だな。1つ買ってみよう」
「良いですね、私も1つ頂いてみましょう」
 魔法技術に関する知識欲が強い僕達2人は、市場に売られている見たことのない魔法道具を見つけては買って魔空間に収納して行った。

「なかなかいい買い物が出来ましたね」
「あぁ、ダンジョンに潜る道具の準備も出来たことだし一度宿へ戻ろうか」
 さすが商業の国、王国で買い揃えるよりも半分ぐらいの値段で安く買い揃えられた。新しい魔法道具も手に入れることができて気分が良かった。

 僕達2人はダンジョンに潜る為の道具の準備を終えて、他の3人、クロッコ姉妹のダンジョンに関する情報収集や、トリュスの王国の動向調査は上手く行っただろうか、と考えながら宿へと戻って行った。

 

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第36話 5人の旅路

 商業の国へ向かう旅は、ゆっくりと、だけど順調に進んでいた。

 商業の国へ向かう途中にある貴族の治める街などが近づいた時には、護衛係のフレデリカさんと情報収集を担当するトリュスの2人組だけで街へと赴いてもらって必要な物品の買い物をしたり、情報を集めたりしてもらっている。

 彼女たちの手に入れた情報によると、僕とフィーネの2人は人相書き付きで指名手配されて王国の各地で情報が集められているらしい。僕に関して言えば、生きて捕まえたなら報奨金が出るらしくて、王国にある街へはもう行かない方が良いと判断された。
 残りのフレデリカさんと、シモーネさん、そしてトリュスに関しては特に何も言われていないので一安心。だけど、油断はできないので情報収集も慎重に行ってもらっている。

 王国側は指名手配などの他に、各地へ王国兵を派遣してしらみつぶしに僕らを探すこともやっているらしい。本当に後ろから王国兵がやって来ているということだった。それほどまでに、あの女王は執着心を持って僕を害そうとしているらしい。そう考えると辟易して、早く他国へと向かって逃げ切りたいと思う。

 顔の特徴をはっきりと書かれた人相書きが出回っている僕とフィーネは、街に行けないので、もちろん宿にも泊まれないから基本的には野宿である。
 大人数で使えるテントをトリュスが用意してくれていたので、クロッコ姉妹とダンジョンで過ごした時に使った1人用テントに比べ、て非常にゆったりと場所を取って夜眠ることが出来た。
 モンスターが近づいてきた時に追い払えるように交代で見張りをしながら、交互に休む。最初の頃は、僕を先に休ませると途中で起こさず朝まで寝かせられているという事が何度かあって、男性という性別のせいで優遇されてしまう僕は、なるべく先に見張りを受け持つようにして、見張りを終えてからぐっすり眠るようにした。
 他の4人は特に言い合いもなく仲良く決めて、1番先にシモーネさんが担当、2番のちょっと中途半端な時間にフレデリカさんが担当、3番めの夜が遅い時間にトリュスさんが担当、4番目の朝早くにフィーネが担当するのが基本の順番となっていて、時々交代したり、2人組で見張りをしたりと、臨機応変に上手く担当替えをしていた。

 旅の途中で困るのが、身体から発せられるニオイや汚れを落とすための湯浴みをどうするかである。
 ダンジョン内部では、お湯で身体を洗うことが出来ないのは当たり前で、服を脱いで着替えることすらも、モンスターの奇襲や罠などの事を考えると危険なので、防具の上からニオイ消しの薬を使って身体の不快なニオイは消して、気持ちの悪い汗は我慢するのが基本であった。
 旅ならば、途中に見つけた川で水浴びすればいいが、僕が裸になって水浴びしようとすると女性4人が異常に恥ずかしがったり挙動不審になる。どうやらこの世界では男性が湯浴みをするときに裸になるのは上品ではないし、裸なのが上半身だけだとしても、おしとやかでないという評価をされる。もちろん無闇矢鱈と誰にでも見せつけはしないが、前世の記憶を持つ僕としては別に良いのにという考えをしてしまう。

 そして逆に女性の方は恥ずかしげもなく身体を晒し出すので、今度は僕のほうが恥ずかしい思いをするという感じになる。時々、フレデリカさんは水浴びを終えて野営をしている場所へ戻ってくるときに下は履いているが、上半身が裸で胸が丸出しという状況のままにして戻ってくる時もあって、どういう顔で迎ええれば良いのかわからない。
 他の3人の女性も、元々身に着けているモノは際どい服装なのに、更に何も身に纏っていないような肌が全て見えてしまうような格好で水浴びから戻ってくるので、いろいろな部分に僕の視線が引き寄せられて見てしまい反応しそうになって、意識してしまう。彼女たちには、僕からそれとなく言ってみるのだが、言い方が悪いのか上手く伝わらず、彼女たちの露出の癖は治らないようで、困っていた。

 食事について基本的には朝と昼の二食は僕が作る。他の4人の女性たちに任せると、豪快で雑な味付けで完成させてしまうために僕が担当する事になった。トリュスが用意した食料は大量だけれど、先の長くなりそうな旅のことを考えて、なるべく無駄遣いをしないように食材は大事に使って料理をする。

 女性たちの僕の料理に対する評価は高くて、フレデリカさん、シモーネさん、フィーネの3人は毎回大きな声を出して何度も“美味しい”と言って食べてくれるので作り甲斐がある。
あの無口なトリュスも時々、食べ終わった時に“美味しかった”と僕に小さな声で感想を言ってくれるので、その時は本当に作ってよかったと思える。
ただ、僕が肉料理を苦手としているので4人に振る舞える肉料理のレパートリーが少なくて、申し訳なく思うことが何度かあった。今は、将来に向けて料理の勉強を密かに進めていたりする。

 5人の旅路は、このようにして割りと穏やかに進められていった。王国から出発して1ヶ月が経ち、とうとう商業の国の国境近くまでやって来た。ここに来るまで王国からの追手に一度も出会うことなく、出発した当初に感じていたあせりなどは、今では一切感じる事なく商業の国へ辿り着くことが出来た。

 

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第35話 4人の事情と僕の決心

 王国を抜けた僕達5人、最初に向かうのは商業の国。
国の名の通り商業を中心としている国で、本当に大陸中の商人が集まって商売をしている。また、商業の国の周辺にはダンジョンも多く点在していて冒険者も集まる国でもあった。
多くの冒険者達がダンジョンに挑戦して、沢山のアイテムをダンジョンから手に入れ戻ってくる。ソレを商人が買い取って、大陸中へ散って売り歩くといった商人の流れが主でもある。

 王国から商業の国へ向かう道は、普通の旅だったら街道を通って行くのだろうけれど、僕たちは、王国から狙われているという可能性があって後ろから王国兵が追ってくるかも知れないと考えて、街道は極力使わないようにした。そのために途中で馬車を手に入れることもなく、ずっと徒歩での移動になった。
 こうして、モンスターが出現する道をじっくりと日数を掛けながら進んで行った。

 幸いにも戦力的には一切の問題がなかった。
 僕とダンジョン攻略してから能力が飛躍的に上昇した、フレデリカさんとシモーネさんのクロッコ姉妹2人。フレデリカさんの力強い大剣での攻撃、シモーネさんの百発百中に近い弓の技術、どちらも凄い戦力となっていた。
王国の諜報部隊に所属していた経験のあるトリュスは、元の能力が非常に高くて、森の中や遮蔽物がある場所ではモンスターから身を隠しながら近づいて、一気に接近して倒すという戦術が無敵の強さを誇っていた。
この中で能力的な事や経験などは一段劣るが、魔法使いとしての能力は一流のフィーネ。特に攻撃魔法で複数体のモンスターを一度に倒せる強力な魔法が使えるので、他の人達よりも殲滅力は高い。
 そして、僕は攻撃魔法に回復魔法、支援魔法となんでも使える万能な魔法使いとして、パーティーの助けになっていたと思う。

 旅をしている間は、一緒に旅をしている4人と色々な話をした。

 トリュスが、僕が王城へ連れて行かれた日に女王の部屋の前に居たのは、あの日に僕がダンジョンから帰還したことを知って、僕の情報を集めている時に、王城へと連行されていくことを知ったそうだ。そして、僕を助け出そうと王城に忍び込んで、あの場所で待機していたらしい。本当は、あの時に女王の執務室へ単身突入して王国兵5人を無効化してから、女王の側に仕えていた魔法使いに牽制して僕を抱えて逃げるつもりだったらしい。
それが、いきなり扉から僕が出てきてビックリしたけれど丁度良いから、計画をちょっとだけ変更して、部屋の中の人達は全員無視し、急いで城の外へと僕を連れて逃げ出したという。

 クロッコ姉妹は僕が王城へ連行された日、トリュスが家へとやって来て僕の置かれた状況を説明して王城へ向かったと言う。トリュスからの話を聞いて、フレデリカさんとシモーネさんは僕と一緒に王国を出ることを決心。冒険者仲間に、帰る家を安値で家を売っぱらって出てきたという。
「え? 本当にあの家を売ってしまったのですか?」
「おう、思ってた以上に高く売れたし良かったよ」
僕がビックリして聞き返すと、フレデリカさんは笑顔で答えた。

「たしか、母親から受け継いだ家じゃなかったんですか? 売ってよかったんですか」
「売ってよかったよ。いつかは家を処分して王国を出るつもりだったし、他国のダンジョンを攻略したいと思っていたから、いま売らなくてもそのうち売っていたさ。それに、今回のは丁度いい機会だと思って売ったんだよ。シモーネともちゃんと話し合って賛成を貰ってさ」
 母親から受け継いだということは、言い換えれば形見のような物だと思ったが、フレデリカさんにはあの家に執心が残っているようには見えなかった。それに、シモーネさんとも相談しあって決めたのなら、これ以上僕が言えることはないだろう。

 フィーネは魔法研究所へ戻った日の夜、自分の部屋に戻って悩んだそうだ。
「ここでエリオット様と別れたら、次に会えるのは何時になるかわからない。1週間でも死にそうな思いをしたのに、次どれだけ会えないかを考えると耐え切れない!」
 悩んだ結果、待つことは出来ない、僕と一緒に旅に出れるようにお願いしようという結論を出したらしい。

そして、次の日の朝に魔法研究所を辞める事を偉い方に告げて研究所を飛び出し、クロッコ姉妹の家へと戻った。しかし、そこには既に僕は居なくて、代わりに居たのは旅に出る準備をしているクロッコ姉妹。
詳しくフレデリカさん達に話を聞いてみると、僕が王城に連れて行かれて不穏な状況に晒されている事を知ったらしい。トリュスという女性が、僕を連れ戻してそのまま旅に出るつもりだから、クロッコ姉妹も準備をしている状況だったので、私も連れて行ってと半ば強引にクロッコ姉妹と一緒に街の外にある草原へと向かって行き、そこに居た僕とトリュスに出会い、一緒に旅に出ることを了承してもらうことになったという。

 4人の女性の事情を聞いて、色々な物を犠牲にさせていることを心苦しくて思ってしまい、ますます彼女たちの助けになれるよう頑張ることを心に決めた僕は、旅を続けていた。

 

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第34話 進むべき新たな道

 王国から逃げ、街を抜けて平原で集まった僕達5人。
 大剣を振り回す剣士としてのオーソドックスな前衛をこなすフレデリカさん。身軽で俊敏な動きで敵を撹乱し、情報戦もこなせる元諜報部隊のトリュス。後方から弓を引いて攻撃し前衛もこなせる、状況によって前衛と後衛を使い分けることが出来るシモーネさん。攻撃魔法主体で、殲滅戦を得意とする魔法使いであるフィーネ。そして、攻撃魔法、回復魔法に支援魔法とあらゆる魔法に精通している、いい意味の言葉で表せば何にでも対応できる魔法使いである僕、エリオット。

 考えると、結構バランスの良いメンバーが揃ったなと思いつつ、今後に向けてを相談することに。

「王国を抜けて何処へ向かうべきだと思いますか?」
 僕が中心になって皆に意見を聞いてみる。

「やっぱり、ここから一番近い商業の国に行くのが良いんじゃないか? あそこならダンジョンの数も種類も豊富で、冒険者としての仕事、商隊の護衛やモンスター狩りなども多く受けられると聞いている」
 シモーネさんは、ここから一番近い国であり、仕事もあるだろうと思われる商業の国を挙げた。

「ここからはちょっと遠いけど、うまい食べ物と酒が飲めるって言われている中の国はどうだ? あそこも冒険者の活動がしやすいって聞いているけど」
 フレデリカさんの言う中の国は、名前の通り大陸の丁度中心に位置する場所にある国だ。観光名所や食べ物、飲み物などは非常に品質の高い物が多くて商人や旅行者に大変人気の場所・物が沢山ある国だと言われている。

「私は魔法の勉強がしたいので、学術都市のある国に行きたいです」
 フィーネは魔法研究所を辞めたとはいえ、学習意欲は一切無くしていないようで学術都市に興味津々だった。この国は、魔法技術ではトップクラスと言われている王国と同じか少し上ぐらいの進んだ魔法技術を生み出していると言われていて、魔法使いの育成や支援を国を挙げて行っている。そして、学術都市は主に魔法使いなどを育成する施設である。 魔法使いとして一度は行ってみたい国である。ちなみに僕は過去に旅をしていた時に行ったことがある。

 トリュスは無口のまま意見を出さないでいる。そのためフレデリカさん、シモーネさん、フィーネの3人が出した意見の中で、どの国へ行くのか行き先を決める話し合いが行われた。
 そして、結局一番近いという理由で商業の国に行くことが決定した。

「とりあえず、商業の国へ行ってダンジョンを攻略して回り修行することにしましょう」
 僕は一番の目的地を商業の国と決定した。あそこは今居る場所から一番近いという理由の他にも、国の回りにダンジョンが密集して存在しているという理由も有った。あそこにあるダンジョンを攻略して回れば、能力を高めることが出来て強大な的にも立ち向かえるようになる。王国という国から追われる身となった僕達は特に力を身に付けて簡単には捕まったり打倒されないようにしておきたい。
 そして商業の国という名前の通り、商業をする商人が集まってくる。その商人の薄暮情報を頼れば、世界中に流れている情報について商業の国に居ながら触れることが出来る。 コレは非常に大きい。

「そうね、王国兵から逃げるにしても、強力な力があったほうが逃走は楽になるだろうし、商業の国へ行ってダンジョンを回って攻略するのに賛成よ」
「おう、私も何時かは王国という場所を飛び出て、色々なダンジョンを攻略して回りたいと思っていたんだ。丁度良いし、夢が叶うな」
 すぐに賛成してくれるフレデリカさんとシモーネさんのクロッコ姉妹2人。

「私は王国の外に出るのは初めてです。商業の国には、とっても興味が湧いています」
 初めて王国を出るというフィーネ。学術都市にも非常に興味を持っていたが、他国や、他国にあるダンジョンにも等しく興味があるらしい。

「……」
 相変わらず無口のトリュス。彼女は議論には参加してこなかったが、念の為に商業の国に向かっていいか聞いみると、問題ないという返事をくれるので話し合いの内容は聞いてくれているようだった。

 目的地が決まったので、僕は魔空間から取り出した大陸地図を広げてルートを決める。ここで非常に役に立ったトリュスが持っている情報。彼女の持つ情報は、王国内部の事だけでなく、他国の情報や街道について、最近の大陸の状況など色々な事を知っていた。
 トリュスの持つ情報を参考にながら王国兵が追ってくることを想定して、王国と商業の国とをつなぐ街道は使わないで、少し迂回して王国兵の追手には付いてこられないような道を選ぶ。

 1つ注意なのは、街道以外の道を使うとモンスターが出るということだ。このモンスターは未発見とされているダンジョンから溢れ出してきたモンスターである可能性が高いと考えられていて、外へ出てきたモンスターはモンスター同士で生殖し自然に増えることもあるそうだ。
 このモンスターと遭遇しないように避けて通れるようにしたのが街道だった。その道を外れて進むとなると、地上でモンスターに遭遇する確率が非常に上がる。モンスターに遭遇する事と、王国兵に遭遇する事を天秤にかけて考えてみると、王国兵との戦闘を行えば僕達5人の情報が流れてしまうかもしれないので極力王国兵との戦闘は避けて、モンスターと積極的に戦闘していくという事に。

 モンスターとの遭遇に注意しつつも、慎重に進むことが決まった。

 こうして話し合いが進められ、目的地に向かうルートも決まり進みだした僕達5人。王国とさよならをして、商業の国へ向かうのだった。

 

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第33話 意図せぬ再会

 トリュスに案内された建物の地下室で、魔法研究所に置いてきた荷物などを図らずも受け取ることが出来た。更に、トリュスが準備したという食料などを受け取って王国から別の国へ逃げる準備が万端となった。今日予定しいていた店を回って旅の準備をする必要が無くなって、今すぐ出発できる状態だった。

「それじゃあ、行こうか?」
 僕が声を出して建物を出るように促す。無口なトリュスは首を傾けて反応するだけで声は出さない。しかし彼女は先を歩いて進んでいくので、僕も再び彼女の後について歩いて行く。街の方へ向かっているようで、どうやら街を通り抜けて草原へと出るようだった。

 街は普段と変わらない様子だったけれど、時々見えない遠くの方から女性の大声が聞こえてきて、捜索の手は街まで伸びていることが分かった。しかし、相変わらずトリュスの選ぶ道の先には王国兵は居なくて、鉢合わせになることもなかった。一体全体何処から捜索ルートの情報を得ているのか、それとも今判断して道を選んでいるのかは分からなかったが、先に進むトリュスは非常に頼もしい。

 そういえば、街から外へ出るのにも門を通る必要がある。ソレ以外は、王城の城壁に比べたら背は低いが、一応街を守るための防衛壁が街と平原との境界にある。どうやって通るのだろうと歩きながら考えていると、草原へと出る普通に門の方へと向かって歩いていた。

「ちょ、大丈夫なの?」
「ウン、安心。付いて来て」
 門は開かれた状態だったけれど、王国兵の女性が2人見張りをしていた。2人の王国兵が僕達を見つけて仲間を呼ぶ可能性があると考えた僕は焦ってトリュスに確認を取ると、彼女は何事もないように普通に門へと向かて行った。

 門の近くまで来ると、トリュスが立ち止まって警備していた1人に視線を向ける。僕もトリュスに合わせてその場に立ち止まる。一体何をするのだろうと状況を見ていた。
 トリュスが視線を向けていることに気づいた王国兵は、立ち止まったトリュスに視線を向けて、次に僕を見た後、再びトリュスを見ると頷いて反応。そのまま、トリュスが歩き出したので、僕は慌てて後を追う。

「あれは一体、何?」
 まるでトリュスが魔法を使って人を操作したように、王国兵に警備されていた門を問題なく通ることが出来た。もちろん魔法を使った形跡はなかったし、人を従属させると言われる邪悪魔法と呼ばれる魔法を使うことは一般的には禁止されている。一体何をしたのかをトリュスに尋ねる。

「賄賂、事前に仕組んだ」
 どうやら、金品を王国兵に予め渡しておいたらしく、今のように門を通してもらうために事前に膳立てしていたようだ。しかし、門を通る人物をシッカリと確認しないという、あんなザルな警備で良いのだろうか王国。と、ほんのちょっとだけ心配しながらも平原へと出る。

 王城から脱出し、街から外へでた僕達。今のところは追手もなく、しばらく王国兵は王城内部や街のあらゆる場所を探そうとするだろう。一先は安心だった。

「これから何処へ向かう? どの国を目指そうか?」
 王国にある周辺の国を思い出しながら、向かう先を話しあおうと思っていたらトリュスが待ったをかける。

「待って、人、来る」
「え? トリュスの他に誰か一緒に来るの?」
 どうやら、トリュスは街を出た外で人と待ち合わせをしているらしくて、もう少し待てば人がやって来るそうだ。行き先は皆が集まってから決めるべきとのこと。聞いていない話だったので驚きながら、彼女にどう言うべきか迷っていると誰かがやって来た。

「エリオット様ぁ!」
 昨日と同じような聞き覚えのある声と、身に覚えのあるタックルの衝撃。昨日の夜に分かれて魔法研究所の方へと戻っていったフィーネだった。

「フィーネ! 何故こんな所に」
「私も魔法研究所を辞めてきました。一緒に連れて行って下さい」
 “辞めた”という衝撃の告白を聞かされた。と言うか、トリュスもフィーネも仕事を簡単に辞めすぎだろうと思いつつ、トリュスが呼んだのはフィーネだったのかと思って視線を向けて確認する。

「フィーネをこの場所に呼んだのは、トリュス?」
 彼女は首を振って否定した。あれ? ということは彼女は何故この場所に居るのだろうか。と言うか、トリュスは誰を呼んだのだろうか。

「彼女に呼ばれたのは私達だよ、エリオット君」
「お待たせ、エリオットにトリュス」
 声を掛けられて、クロッコ姉妹の存在に気づく。今朝別れたばかりで、再び会うのは当分先のことだろうと思っていたのに、思いの外早い再会だった。

「何故、彼女たちをこの場所に集めたんだトリュス」
「危険、かもしれない」
 トリュスは、この1週間で交友関係を結んだクロッコ姉妹や、研究員時代に親しかったフィーネが王国に居ることは危険だと訴え、そして一緒に連れて行くべきだと主張した。

「だけど、僕と一緒に居る危険性は? 僕はこれから王国に狙われるかもしれないんだよ?」
 王国が危険というならば、それぞれで他国に向かえばいい。僕と同行する必要も感じないし、別れて進んだほうが良いだろうと僕は考える。

「逃げる、戦力、必要」
「しかし、……」
 確かに、人数が居れば取れる手段も多くなって有利に逃げられるかもしれないが、彼女たちが危険にさらされる可能性があるならば、別れて逃げたほうがいいだろう。トリュスにフレデリカさん達の同行を諦めるように説得をしようとしたとき、横から声が掛かる。

「私たちは別に問題ないぜ」
「えぇ、別れたとしても追われる危険性があるわ。それにダンジョンでの出来事を考えたら、エリオット君と一緒に居たほうが安全と思うわ」
「エリオット様の助けになるならば」
 フレデリカさん、シモーネさん、そしてフィーネの3人は既に同行することを決めて問題ないと言っている。彼女たちの顔を見て、既に覚悟しているというのを感じて何も言えなくなる。

 結局、他国へと向かうパーティーには僕とトリュスの2人に加えて、フレデリカさん、シモーネさん、フィーネの3人、合計5人パーティーで進むことに決まった。

 

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第32話 逃げる為に

 トリュスから聞いた話が本当ならば、魔法研究所に戻ったとしても監視が続けられて用が無くなれば害されるだろうし、王国から逃げても女王によって兵を動かされて、狙われ害される可能性があるだろう。
 つまり、何とか王国から逃げ切る必要があるという事。

「私が守る」
 トリュスが意気込んで宣言してくれるが、何故そこまでしてくれるのだろうか。

「1年監視、好意を持った」
 彼女は僕の監視を続けていて、僕の色々な場面をのぞき見て、いつの間にか好意を持ったそうだ。僕の監視の任務を解かれると諜報部隊を無理やり辞めて、ずっと僕の監視を独自で続けていたそうだ。そして監視を続けながら、何故監視任務を解かれたのか、僕に何が行われるか、情報を集めていた。

 暗殺計画の情報を手に入れた後は、僕一緒に王国の目から逃れるためにどうすればいいのか、逃走計画を準備していた。しかし、逃走の準備をしている間に、女王の命令によって計画が動き出していて、気づいたら魔法研究所に居なくなっていた僕。それから、ダンジョンに潜った後、行方が知れなくなっていたという情報を入手。
 でもトリュスは僕が死んだとは欠片ほども思っていなかったから、逃走計画の準備を更に進めることにしたらしい。

「これ」
 そして、トリュスは部屋に有った荷物から何かを取り出して僕に見せる。

「コレは、僕の研究資料?」
 魔法研究所に置いてくるしかなくて諦めていた、研究道具が有った。更には研究の成果報告に提出した資料や、研究に使っていた資料、生活に使っていた道具などが揃えられていた。僕がダンジョンに行っている間の1週間で集めたらしい。

「僕の研究室から持ってきたの?」
 コクリと頷くトリュス。どうやら、僕が魔法研究所を追い出された時に置いてきた荷物を出来るだけ持ってきてくれたようだった。しかも、何処から集めたのか今まで僕が提出してきた研究結果の成果物や資料なども取り揃えてある。

 魔法研究所は、魔法技術という重要な情報が集まる、王国にとって最重要であると指定されている場所なので、王城と同じぐらい強固に警護されている。他国から来る魔法技術を探る間諜の侵入を防ぐために、かなりの数の王国兵達が常時配置されていて、しかも物理的にも魔法的にも侵入防止する為の仕掛けがしてある。侵入するのは容易ではないはずだった。そんな場所に侵入を成功させて、更には荷物を持ちだしたというのはトリュスの能力の高さを証明するだろう。

「1年監視、成果」
 トリュスは魔法研究所に侵入できたのは、僕の監視を続けている間に魔法研究所の内部構造や仕組みを調べ尽くしていたおかげだという。それらの情報などは、僕にバレないようにするために準備したモノだったけれど、その頃の行動が幸いして魔法研究所への侵入や情報や荷物の持ち出しには全く苦労しなかったそうだ。

 部屋には僕の荷物の他に、食料なども買い込んで隠して置いてあるらしい。逃げている間に必要な物を考えて、取り揃えたそうだ。それら全ての荷物を僕の魔空間に収納させるようにお願いされる。
 トリュスがココへ寄ったのは、僕の持ち物等を取りに来る事と、逃走に使うために隠した食料などを取りに来たという事だった。

「一緒に逃げる」
「しかし僕は王国の兵たちに狙われていて、一緒に来れば危険な目に合うかもしれないよ?」
 今更だけど、僕と一緒に居れば王国に目を付けられて危険な目にあうだろう事を言ってみる。しかし、トリュスは意見を変えない。

「私、諜報部隊、無理やり辞めた。私も追われる。一緒で大丈夫」
 トリュスも追われる身であるらしい。覚悟を持って、僕と一緒に逃げてくれるらしい。

「一緒じゃイヤ?」
 トリュスの今まで無表情だった顔が、不安そうな顔へと変わっていた。
僕を助けてくれて、逃走のために万全の準備をしてくれていた彼女が嫌なわけがなかった。しかし、トリュスが追われる原因になったのは、元をたどれば僕の責任だった。僕の監視を任されてしまい、僕の危険を助けるために諜報部隊を辞めた。そのせいで追われる状況に追い込まれた。

 しかし、トリュスは僕と一緒に来ることを望んでいた。それに、僕と一緒に来なかったとしても、諜報部隊を無理やり辞めたので、彼女も追われる身となっているらしい。
 僕は考え方を変えた。二人共が追われているならば、僕が最大限努力して彼女を守ればいい。彼女に不自由な思いをさせなければ良いだろう。そう考えて、一緒に来てもらうことを、改めて僕の方からお願いした。

「僕と一緒に逃げてもらえますか?」
「うん」
 一緒に来てくれるようにお願いしたら、トリュスは不安げな表情から、先ほどの無表情へと戻った。が、返事をした時の声が少しだけ嬉しそうに弾んでいたように聞こえた。

「この場所、用事、無い。外に行く」
 この場所に置いてある荷物を全て、僕の魔空間に仕舞ったことを2人で確認してから、僕達はすぐに建物を出た。

 そして、王国兵の見回りを注意深く避けながら街を通って、外へ向かって歩き出した。

 

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第31話 彼女の語る真実

 トリュスと名乗る女性に連れられて、街の中心から少し離れた所にある建物へと案内された。先ほどのトリュスの発言で、僕の監視をしていたという事が分かったけれど、先ほどの女王の前に連れて行かれた時の王国兵の態度に比べると、なんとなく女性からは攻撃的な、危害を加えるという感じがなかったので案内されるままに付いて行く。

 もちろん一定の警戒はしているが、今身に着けているローブなら物理攻撃ならば一度は攻撃を防げるだろうし、魔法もある程度は無効化出来るという安心感があるため、リラックスすることが出来ていた。

 連れてこられた建物の中には何も置かれていない、普段から人が使用している感じの無い空き家のような建物だった。トリュスは建物の中に入っても無言のままスタスタと部屋を歩いて奥へ行き、奥に有った階段を降りて行った。僕は彼女の後を追いながら家の中を調べるために魔法を使う。

 探索魔法は外という広い空間では使えない、というか範囲が広くなりすぎて意味がなくなる。建物やダンジョンのような空間が区切られた場所でのみ効果があるという制限があった。
 この探索魔法によって建物の中を調べてみたが僕とトリュスの2人だけで、他に人が居る気配を感じなかった。

 一体ここに何があるのだろうか、何故ここへ連れてきたのだろうか。疑問に思いながら地下室へと進むトリュスを追うと、上の何も置かれていない生活感の一切無い部屋と比べて、地下室にはベッドやテーブルと椅子などが置かれていて、人が住んでいるように感じられた。

「説明」
 トリュスは、部屋の中にある椅子に僕を座らせてから説明を始めた。しかし、彼女は口下手というか言葉足らずで、僕が疑問に思ったことがあるたびに質問を投げかけたり、予測したりして話を聞く必要があった。

 話は、トリュスの自己紹介から始まった。

「私、トリュス。女王様の命令、貴方の監視」
「何処の国の女王による命令なんだ?」
 よくよく考えると、他国の女王の監視だろうと思っての質問だった。先程は、女王の前に連れて行かれて、逃げている最中に“女王様の命令”と聞いたので、この国の女王をとっさに結びつけてしまった。
 確認のためにどの国の? と聞いたらまさかの答えだった。

「この国の女王」
 詳しく話を聞いてみると、トリュスは今居る王国の諜報部隊の人間らしい。
1年ほど前、王国から監視任務を受けて、その監視任務のターゲットが僕だった。1年前に前任者から監視任務を引き継いだらしくて、その前もずっと僕の監視は続けられていたらしい。
 トリュスは1年前の引き継ぎ以前の監視について、どのぐらい前から監視が続けられていたのか、前任者は誰か等は詳しく知らないとのこと。

 とにかく、この国の偉い方々に目を付けられて監視されていた僕。ずっと監視を続けて王国に報告していたトリュス。しかし、2週間前に王国から指示されていたトリュスの監視任務が解かれて、監視任務が女王の指示によって暗殺任務に変わって暗殺者に任務が引き渡されたという。

「計画、魔法研究所を追い出されたエリオット、街、出たら殺される」
 僕が魔法研究所を追い出されて、王国民ではない僕は旅人として王国からすぐに旅立つだろうと考えられていたらしい。そして、街を出た所で依頼された暗殺者が人知れず処分する計画だったとのこと。

「でも私、エリオットの暗殺、見るのは嫌」
 1年の監視を続けていたトリュスは、僕に対して情がわいたらしくて暗殺を阻止するために街を出た所で、暗殺者の任務を邪魔して僕を助けて、王国の目の届かないところに逃がすつもりだったらしい。

「エリオット、ダンジョン行った」
 ここで、僕が気まぐれにダンジョンへと挑戦するために、ダンジョンへと行ってしまった。しかも罠の転移によってトリュスと接触する前に、何処かへと転移して行ってしまった。

「しかし、何故いきなり暗殺なんて計画を立てられる事になったんだ?」
 今まで静かに研究をしていた僕。今回のことが無ければ、もうしばらくは研究を続けて王国の発展のための発明を続けて、王国に貢献していたと思う。魔法研究所を突然追い出されて、それが暗殺の計画の一部だったなんて物の目的が理解できなかった。

 その事をトリュスに聞いてみると、彼女は暗殺の理由を語った。

「王女、エルフ、嫌い」
 どうやら、この国の女王はエルフ、というか人間以外の種族に対して差別意識を持っているらしくて、魔法研究所に所属するエルフの僕も差別の対象とされていたらしい。曰く、王国の由緒正しき魔法研究所にエルフが所属するなんてありえない、即刻処分するべきだと。
 しかし、今の女王が即位してから10年ぐらい経っているはずだけれど、つい先日まで何もなかった、何故今ごろになって? と疑問に思って聞いてみたら、女王が僕という存在を知ったのは1年程前、つい最近らしくて、その頃には僕の王都防衛用結界魔法という研究が始まっていて手を出さなかったそうだ。

 そして、僕の研究が終了間際になって女王は、やっとエルフを処分出来るという気持ちが先走って、まだ研究が終わっていないのに僕を処分する計画を進めてしまったようだ。

「……なるほどね」
 人間以外の種族を嫌う女王に、僕は女王という最高権力者という立場の人間が、嫌いだからと言うだけの理由でそこまでやるだろうか? と考えてみたけれど、今日の彼女の豹変した無表情の顔や、暴力を働かせるような指示を思い出すと、エルフ嫌いによる計画は真実のように感じられた。

「でも今日、女王は僕を魔法研究所に戻そうとしたけれど?」
 王国兵を使って、王城まで連れて来て僕を魔法研究所に戻そうとしていた。何故、暗殺計画を立てて殺そうとしたエルフを、再び方針を変えて魔法研究所に戻そうとしたのか。

「魔法、皆、理解できない」
 どうやら、僕の研究の王都防衛用結界魔法を理解できる人間が居なかったらしく、残りの部分を完成まで仕上げられる人が居なかったらしい。それで、仕方なく完成させるには僕に任せるしか方法が無いと結論づけた。僕が街に戻って来たことを知って、苦渋の選択の後に僕を引き戻そうとしたらしい。

「けれど、僕が魔法研究所に戻る気はないと抵抗したから、ああなったと」
 トリュスが頷く。

 昨日は魔法研究所で仲間だったフィーネから研究所の状況を聞いて、今日の朝には、この国の最高権力者である女王から話を聞いて、そして今は諜報部隊に所属していると名乗るトリュスから話を聞いて、どれが真実なのか、何を信じて、何を嘘だと思うのか判断に迷った。

 しかし、今確実なのは女王の指示によって王国兵に追われているという状況だった。

 

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第30話 脱出完了、そして

 謎の女性に先導されて、王城を脱出することが出来た。彼女の案内で城を出た先には、観賞用のものと思われる花や植物が人工的に植えられた庭園と思われる場所だった。

 外へと出てこれたので、あとは門を抜ければ街に出られる。そこまで行けば一息つけるだろう。けれど、門の回りは警戒されているだろうし突破するのは困難だろう。他の方法としては、城の周りを囲む城壁を超えて逃げる方法があるだろう。

 王城のある方角から女性の叫ぶような声が聞こえてきた。その声は城のあちこちから聞こえてくる。多分、女王の前から逃げ出した僕を探していて、王国兵が指示を出し合って城の内部を探しているのだろう。

 僕は謎の女性に先導されて、一直線で迷うことなく進むことで非常に早く城を出ることが出来た。迷路のように複雑にできた王城の廊下は、馴染みのない者にとって地図や案内なく外へ出る事は困難だろう。そのため、王国兵は僕がまだ城の内部に居るだろうと考え、探しているのではないかと思われる。

 彼女が居なければ外へ出るにはもっと時間が掛かっていただろうし、王国兵に見つかり逃げ出すのが困難になっていたかもしれない。

 王城から聞こえる声を気にしつつ、庭園を眺める。この道を超えたら城壁があるだろうか。外へ出る道があるのだろうか考え、案内してくれた女性にどうするべきか聞こうと口を開きかける。すると、またもや“こっち”と短い言葉を僕に投げかけて庭園を先に歩き出す。どうやら、城の門を超えた向こう側、最後まで案内してくれるようだった。

 庭園を歩いて突き進む。花や植物が綺麗に配置をされて、管理に非常に手間がかかってそうな芝生や噴水を眺めながら歩いて行く。疑問なのは、こんなに管理に金が掛かっていそうな場所なのに警備兵などが居ない事。警戒して回りを歩いて見回りをしていそうなものなのに、人は見当たらなかった。
それどころか一切人の気配すら感じない道を彼女は選んで進んでいるようだった。もしかしたら、彼女は警備兵の監視に動くルートを知っていて、人の居ない場所を分かって進んでいるのだろうか。
 そして、ひっそりと隠されている道を選んでは進んで案内してくれている。迷いなく進む彼女の後ろ姿を見て、この城についてかなり詳しく知っているのだろうと予想する。

 見上げるように高い城壁の近くまで来ると、前を向いて歩いていた彼女は僕に向き直った。やはりか細い小さな声で僕に聞く。

「魔法、飛べる?」
 言葉短めに質問される。多分、魔法を使って飛んで城壁を越えられるかどうか聞いているのだろう。

 一度首を大きく上に傾けて、城壁の高さを確認する。見上げるぐらいには高いところに兵士が城壁の外の監視に使うための通路があるのが見える。あれぐらいの高さだったら、魔法を使って飛べる範囲の高さだろう。しっかり確認してから、彼女に返事をする。

「このぐらいの高さだったら問題ない。飛べるよ」
 僕の返事に頷いて反応する彼女。そのまま、クルリと城壁の方に身体を向けて、壁に手をかけ登り始めた。まさか、彼女は自分一人の力で上まで登るのだろうか。

 上へ飛べるか聞かれた時、僕は人間を1人抱えて飛べるかどうかを聞かれたと思い、彼女を両手で抱えて魔法を使って飛ぶつもりだと考えていた。どうやらそれは、思い切り予想が外れていて動揺してしまった。

 が、彼女がドンドンと石材をを積み上げて出来ている城壁の僅かな溝部分に手を引っ掛けてスイスイと登っていく。僕は慌てて彼女の後を追うために、魔法を使って飛んでいき頂上の通路部分まで飛び上がる。

 そして、城壁の上まで行ったら後は降りるだけ。僕が魔法で滑空するように地面へ降りる。比べて、彼女は登ってきた時と同じように自力で、蜘蛛のように城壁に張り付いてスススと音もなく下まで降りた。

 王城の中でも女王がいる部屋の近くに居た彼女、しかも王城内部の道まで完璧に僕を案内して見せて、今は城壁を軽々と超えて、身軽に動けることを見せつけられた。そして、彼女が僕の名前を知っていた事。記憶に無い女性だったし、魔法研究所の研究仲間でもなさそうだ。何故彼女は僕の脱出を手助けしてくれたのだろう。一体何が目的なのか。
脱出が成功した今、彼女が一体誰なのか非常に気になってきた。

「こっち、付いて来て」
 僕が彼女の正体について考えていると、彼女が僕に向かって声をかける。まだ先導してどこかに案内してくれるようだった。城壁を超えて王城から脱出できたので、声を出すとバレるという可能性が無くなった今、今度は行き先を聞いてみる。

「これから何処へ向かうんだ?」
「城の人間、見つからない所」
 王国兵から徹底的に逃げるということだろうけれど、一体何処に向かうのかは具体的には教えてもらえなかった。そもそも、僕は彼女の名前を知らない。名前を彼女に直接聞いてみる。

「君は一体誰なんだ?」
「私、トリュス。貴方を監視していた」
「監視だって? 一体、誰の命令で?」
 やはり名前には聞き覚えがない。そして、僕を監視していたという彼女。思わず誰に命令されたのか聞いたが、普通に考えると答えは返してくれないだろう。しかし、彼女はあっさりと誰に命令されたのかを言う。

「女王様」
「女王だって!? 何故?」
「説明、後。付いて来て」
 さっきまで女王に直接、危害を加えられようとしていた僕。そんな女王から命令を受けていたというトリュス。女王側の人間が何故僕を助けるような真似をしたのか疑問に思う。

 更に質問を続けようとする僕。しかし、トリュスの顔は無表情から変わらないけれど、付いて来てという言葉に少し焦った様子が混じっていることに気づく。彼女は急いでいるようだった。
 たしかに、王城を抜け出したとはいえ城壁の近くであるこの場所では、王国兵がいつやって来るか分からないし長話は出来ない。
 聞きたいことは色々有ったけれど、先にこの場所を離れなければいけなかった。仕方なく、僕は質問を切り上げて彼女の後に付いて行くことに。

 

 

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