07 異世界探査任務報告

 半年間、魔王討伐を果たすためにと異世界で旅をしながら魔物と戦う日々を過ごした俺だったが、無事に現代へと戻ってきてからは以前と変わらず、再び元の学生生活を過ごしていた。
 異世界と現代とでは時間の進み方が違うのか、俺が召喚されてから元の世界に帰ってくる間の期間は向こうでは半年ぐらい経っていた筈だが、コチラでは3日しか経過していなかった。というわけで、家族以外の誰にも異世界召喚で姿を消していた事なんて知られることは無く、もちろん学生生活にも支障が出ることもなく本当に普通な日常生活へと戻れていた。

 ただ向こうの世界で授かった能力は幸いにも失われることはなく、変わらずコチラの世界でも発揮できていた。この能力を全力で発揮して見せれば野球選手にでもサッカー選手にでも歴史に名を残すほどの選手になれるだろうし、オリンピックへ出場するのも優勝で金メダルを獲得する事も軽々に果たせるほどだろう。それほどまでに人類を大きく引き離した人間離れの能力を身に着けていた。
 けれど俺はそうせずに、以前と変わらず父さんの助手として働いていた。そして今後も変わらず続けることだろう。なんせ、父さんからは世間に注目されるという苦しみを嫌というほど教え込まれたから。

「父さん、向こうで起こった出来事をまとめたデータが出来たよ。いつもの作業フォルダに入れといたから確認しておいて」
 手元のパソコンを操作しながら父さんに報告する。向こうの世界に持ち込んだ機材で記録したデータを纏めた報告書が出来上がっていた。写真に映像、そして記録しておいた文書をまとめた物。なかなか自分でも納得の行く出来栄えのモノだった。

「おう、分かった。おつかれさん」
 今ではすっかり鳴りを潜めてあっさりとした反応で返事をする父さんだったが、初めて異世界の情報というお宝を目にした父さんは、目を輝かせて小躍りするという今までに見たこともないような喜び方をしていた。それほどに、未知のデータというものに興奮を感じていたのだろう。

「そういえば、異世界には魔法が有ったんだって?」
「うん、こんなの」

 そう言って父さんの疑問に答えるために、俺は手元にボウッと空気が燃焼される音が鳴る火系魔法を発現させた。向こうの世界で学んだ魔法使いとしての能力も、現代に戻ってから問題なく使うことができていた。

「ほうほうほう、なるほど火種もなく意志だけで発火させて、しかも炎を安定させて空中に燃やし続けるなんて。本当に魔法が存在しているなんてな。これは新たな研究材料になる」

 様々なことを知っている父さんだったが、流石に魔法という空想の知識については無かったようで驚いている。父さんの知らないことを知っている自分という存在に、俺は少し得意気になる。ただ、魔法についての理論を知った父さんはあっという間に習得してしまうのだったが。

 向こうの世界での出来事、召喚された目的、勇者という能力、そして魔王という存在。俺はそれらの情報を父さんへと伝えて、無事に異世界探査という任務を果たすのに成功したのだった。

「そうそう、今度は有人宇宙船の試作機が出来たんだが、ちょっとテストパイロットをお願いできないか? 人を超えた身体を持ったお前なら、多少の無茶をしても大丈夫だろう」
「えっ、宇宙!? うーん、それは、えーっと」

 今度は一体何処へと向かわされるのか、俺は心配が止まらなかった。

 

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06 俺は元の世界に帰ります

 与えられた任務を成し遂げて召喚された国へと戻ってきた俺は、魔王討伐を果たした英雄として国民から歓迎された。魔王が討ち果たされて世界が平和が戻ってきた事を示すために、王様からの要望で凱旋パレードも行われて歓声を受けながら城下町を行進したりもした。

 国民向けに平和になった事を示す為の祭事も終わったのだが、次は貴族に向けた戦勝大宴会が行われることになった。それも連日に渡って行われる数々の行事に、少し辟易としていた。

 だから、これ以上付き合うのも面倒だと思った俺はすぐさま王様との話し合いの場を設けてもらい、帰還に関しての相談を強行することにした。

 毎日のように彼らの願いを聞いて従順に行動していたため、俺の願いはあっさりと聞き届けられて、すぐさま王様との対話の時間を用意してもらうことができた。俺は今、お城の謁見の間で王様と対面していた。

 魔王の脅威が去った今の状況が余程嬉しいのか、王様はニコニコと笑顔を絶やさない表情で見つめ返してくる。そんな彼に向けて、俺は聞いておきたいことをハッキリと質問した。

「旅に出る前に約束をした、帰還に関する魔法はどうなりましたか?」
「おう、そうじゃった。それなんじゃが、ソナタの魔王討伐を果たすのに要した期間があまりにも短く、まだまだ手付かずの状態なんじゃ。申し訳ない」

 謝りながら表情を申し訳なさそうにして、そう答えた王様の言葉。本当に積極的に動いてくれているのならば、何らかの進捗があるべきだと思ったし、手付かずであると言われたことに嫌な感じを受けた。だけれど、事実として魔王討伐を果たして戻ってくるまで2ヶ月程度しか経っていないので、何も結果が出ていないのは、まぁ仕方がないかと納得する。

 それに、帰還の魔法に関して言えば既に自前で用意できていたので二度手間にならずに済んだと考えれば、結果的に良かったと思うように自分で結論付けた。

「そうですか、わかりました。それじゃあ、自分で発明した魔法で元の世界に戻ろうと思いますので、手付かずのまま帰還の魔法の研究は中止にしてもらって結構です」
「な、なにっ!? 元の世界に戻る手段を自ら用意した、ということか?」
「ええ、そうですが。俺がこの世界に召喚された目的である魔王の脅威も去った今、目標達成ということで元の世界に帰らせてもらいます」
「ならん!」

 元の世界に戻りますと言った俺に向かって、王様が激しく怒り帰還を止めようとする。その様子に、やはりかと俺はため息をついた。

「魔王討伐を果たした貴様には感謝しているが、引き続き我が国の発展に協力してもらわないと困る」
「もともと、そっちが無理やり召喚してきたくせに。なぜ国民でもない俺が、あんたの国の発展に協力しなきゃならない」

 王様の語る勝手な未来の計画に、俺は異論を唱える。この国の人間でもなく、ましてや世界も違う場所から無理やり連れて来られて、魔王を倒せと命令されたのに文句も言わずに従い成し遂げた。それだけでも十分に貢献できていただろうに、更に働かされるなんて嫌に決まっている。

 王様らしい優雅独尊な考えに、俺は不愉快になり敵意さえ感じていた。そんな悪感情が口調にも現れるくらいに苛ついていた。しかし、そんな感情もお構いなく王様は断言する。
 
「それが勇者の役目だ」
「知った事か」
「ま、待て!?」

 一応、別れの挨拶にと報告だけしてから帰還しようと思ったが間違いだった。引き止められるとは思ったけれど、こんな強引な言葉で帰還さえ許されないとは思わなかった。口に出た言葉の通り、既にこの世界への関心を失った俺はすぐさま帰還の魔法を唱えて元の世界に帰ることに決めていた。

「その男を行かせるな! 何をしている兵士よ、その男を引っ捕らえろ!」

 王様の命令に側仕えの兵士たちが迷った。世界を救った英雄に対して、犯罪者を捕らえるかのような命令に動くべきかの判断に困ったからだ。

 俺その隙を見逃さずに逃げ出した。今の実力なら兵士と戦っても十分に勝てるだろうけれど、魔物を虐殺し続けてきて今更ながら無用な殺生は現代人として避けたかったからだ。

 謁見の間を飛び出し背中から聞こえてくる王様の怒鳴り声に、この世界から立ち去る最後だというのに見苦しい別れになって残念だという気持ちと、ようやく元の世界に帰れるという期待が胸に渦巻いていた。

 結局、城を走り抜け城下町も飛び出し人目の付かない場所まで走り逃げて、ようやく一息落ち着くと、すぐさま帰還の魔法を発動させるための準備を整える。

 見回して確認した後、呪文を唱えた。そして、俺の身体は光りに包まれた。

 

***

 

 その後、王国は魔王を倒して平和を取り戻した勇者に対して評価を下げるような悪い噂を流そうと動くが失敗して、国民に不信感を抱かせるような事が起こった。

 その後も、王国側は勇者を賞賛する人間を処罰したり、本当に活躍したのは勇者本人ではなく共に旅をした三人の仲間だったと嘘の事実を仕立て上げることで、国としての信用を無くしていった。しかも、勇者本人が姿を一切見せなくなった事により暗殺されたのではないかという、陰謀論まで語られるようになった。

 完全に信用を無くした王国は、衰退の一途を辿り果てはクーデターが起こって崩壊するという結末となる。

 王国が崩壊した隙を狙って領土拡大を目論んだ他国が攻め入り、その行動がキッカケとなって戦争が勃発することになる。魔王が死んで平和になったと思われた世界に、今度は人間同士が争う戦乱が巻き起こったのだ。結果的には、わずか10年足らずの期間しか人々は平和を保てなかった。

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05 そして魔王は死にました

 俺たちは一ヶ月程の月日を掛けて魔王城に到着していた。出来るだけ早く到着することを目的にしていたので、一気に掛け進んだからだ。

 道中には魔物の妨害や襲われている人を助けるというイベントも多数ありながらの到着だった。この一ヶ月で魔王城に到着したのは遅いのか早いのか、比較対象が無いから分からないけれど、かなり早い方だと思う。

 戦いには少しだけ慣れたけれど、まだまだ改善するべき所が多く勇者の能力を身に着けたとは言い難い。勇者としては進歩しないまま最終地点へと到着してしまった。本来なら旅を経て勇者としての経験を積みレベルアップしていくのが常套手段なのだろうが、なにせ父さんの用意してくれた戦闘スーツが反則的に役立った事により、魔物との戦闘は苦の無いものになっていた。

 結果的に、勇者としての経験も必要なくラスボスへと辿り着くという事態になっていた。だが、俺にとっては今居る世界が現実だったので、楽であることに越したことはない。劇的なストーリーも必要なく、楽で安全に死ぬ危険性のない旅を進められるのならばソレの方が良いだろうという考えだった。

 さっそく警戒しながら魔王城の中を進み行き、立ちふさがる魔物を打ち倒していく。途中には少し手応えのありそうな魔物が待ち構えていたが、ほとんど全てを一撃で屠り進んでいった。

 ようやく最奥部らしき部屋へと到着すると、暗闇の中で更に部屋の中央奥にふんぞり返って玉座に座る魔王が居た。

「よく辿り着いた勇者よ」

 生きることに疲れた老人のような、けれど威厳たっぷりな声で話す魔王に向けて俺は躊躇なく銃口を向ける。そして、何か語りだそうとする魔王にお構いなくトリガーを引いた。すると、俺の構えた銃口からは弾丸ではなく青白く光るビームが発射されて、瞬く間に魔王の胸に打ち込まれた。

「がふっ、な、にっ!?」

 ジュッというような燃える音が聞こえたと思ったら、魔王は人間とは違う紫色の血を口から溢れたように吐き出していた。そして、胸からも吹き出すように紫色が体外へと流れ出ていた。

 良かった、用意していた武器が魔王にも通用して普通に攻撃が通った。最終のボスとなる魔王ならば、何らかの力で攻撃を耐えるか無効化するか、それとも反射するかの方法を危惧していた俺だったが、普通にダメージを与えられた。これなら、魔王討伐という目的は果たせそうだと一安心する。

 ふんぞり返って座っていたのが、今ではもたれ掛かるようにして座っているようにしか見えなくなった魔王。反撃を試みているのだろうか、精一杯に身体を蠢かせて腕を上げてコチラに向けてくる。だが、魔王が何か事を起こそうとする前に俺は一気に接近して無慈悲にとどめを刺す。

 魔王は人の形をしていたので、倫理的な問題を感じて攻撃するのに一瞬躊躇ってしまうが、口から流れ出ている血の色が赤色ではなく紫色をしているのを見た俺は思い直す。これは、人間ではなく魔物なのだと。

 

 そして、苦しんでいる魔王の頭に目掛けてビームを打ち込む。銃のトリガーを引くと、魔王の身体がビクンと仰け反った形になった後、座ったような姿勢のまま二度と動かなくなった。

 自分は合理主義者だと自覚はしていたけれど、ココまで残酷に事を処理できただろうか、そんな事を全て終えた後に思い悩んでいた。

 魔物に対してはとことん割り切って対処できる。もしかしたら、これも勇者としての能力の影響なのだろうか。

「これで、終わりか?」
「え!? えっと、多分終わりです」

 剣を構えて臨戦態勢を取っていた戦士が、あまりにあっさりと終わってしまった事態に手持ち無沙汰になっている様子だった。魔王城にやって来るこれまでも、魔物との戦闘の多くは苦戦もなく圧勝で終わっていた。しかし、最終戦となる魔王との戦いまであっさり終わるとは予想していなかったのか。

 だが、現実には王座に倒れ込んでいる魔王が目の前に居るのに変わりはなく、戦いは終わったのだろうと目で見て確認していた。

「それじゃあ、帰ろうか」
「えっと、はい、そうですね。……え? 本当にコレで終わりなの?」

 魔王戦があっさりと終わったことで、俺たちは達成感もなく帰路につく。仲間である戦士も魔法使いも僧侶も、そして俺自身も終わったという実感が無かったので、皆が終始どうするべきか戸惑いながらという帰還だった。

 ただ、魔王による脅威は実際に去っていいた。魔物は以前に比べると凶暴性が無くなり、近づいても攻撃て来なくなって、街や村も襲わなくなった。魔物に怯える人達は、徐々に少なくなっていった。

 結局、俺は召喚された場所に戻る頃になって、ようやく魔王の脅威が去ったことを実感するのだった。こうして俺がこの異世界に召喚されて、2ヶ月で全ての事態は解決して終わった。残すは、俺が無事に元の世界へと帰還するだけだった。

 けれど、最後の最後で少しの問題が発生した。

 

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04 魔王討伐は順調に進みます

 事態は急を要するということで、王様との話もほどほどに早速旅立つことになった。目指すは魔王の居るという城。

 王国を出発する時になって、魔王討伐という旅のお供に三名の仲間と幾つかの武器、それから戦費として少額の資金を渡された。

 魔王を倒す目的ならば、もっと助っ人等を用意してくれないのかと文句を包み隠しつつ言ってみたけれど、魔王への恐怖で自分が死なないようにと身の回りを守らせる人材を少なくしたくないという理由を遠回りに語って拒否されてしまった。

 それ以上求めても状況は改善されそうになかったので、何も言わずに託された仲間を合わせて四人組となった俺たちは旅に出た。最悪、魔王討伐が叶わなかった時には逃げ出すのに同行者の数は少ないほうが良いという考えもあったから。

 それにしても、仲間として紹介され同行する三人共が女性なのは何かの狙いがあってのことだろうか。前線で戦う為の戦士の役割を担う人も女性であり、本当に戦えるのか不安に思ってたけれど、それは魔物との戦いの実践を見せられて不安に思う必要はなかったと考えを改めさせられた。そして、性別を見て軽んじていた事を謝ることになった。

 だがしかし三人全員が女性なのはやはり解せないので、彼女たちとは極力関係を深めないように意識しながら、ビジネスパートナーとして接することを徹底した。

 ちなみに、勇者となって授かったらしい能力は非常に有用だった。身体が以前と比べて信じられないぐらい思うように動き、パワーも上がった。そして、危険に対する勘も良くなって魔物との戦いに活用できた。

 更に勇者となって得た力だけでなく、父さんから異世界の危険に対処するために持っていくように準備されたモノ。見る人が見れば分かるような、ライダー的なビジュアルをした全身を覆うスーツ。身にまとえば人間を軽く超える能力を持った戦士になれる、そんな戦闘服。

 その二つを駆使して戦う俺は、戦いにおいては虫を退治する程度の感覚で魔物を殺すことが出来た。そんな調子だったので、戦いにおける成長を経ること無くバッタバッタと魔物を倒して、ドンドンと先へと進んでいった。

 

***

 

「勇者様、コチラに溢れていた魔物は倒し終えました」
「そうか、わかった。こっちも終わったよ」

 魔王城を目指して一直線に進む旅の道中には、街や村が襲われている場面に何度も遭遇することが有って、殺されそうになっている彼ら彼女らを救うために魔物を駆逐する事が何度かあった。

「それで、逃げ出した街の人達は無事か?」
「半数は魔物から逃げ切って生き延びましたが、半数は逃げ遅れてしまったようです。この街の住人の大半が死亡し、怪我人も多いです。仲間の僧侶が今、生き残った人達と協力して怪我人の治療をしています」

 後方を務めていた魔法使いの女性がやって来て、襲われた街の状況を知らせてくれた。魔王城に近づいていくにつれて、やはり街の被害が大きくなっていく。これから先に進めば、魔物に襲われ全滅したという街も多く有ると聞いている。

 先に進むのに躊躇してしまうが、先に進まないと魔王とは出会えない。だから、最短距離を一気に進んで一刻も早く任務を達成してしまいたいと思っていた。

「わかった。怪我人の治療は程々にして後は生き残った街の人達に任せたら、俺たちは先に進む。食料が少なくなっていただろう、今のうちに補給できるだけしておこう」
「……了解しました」
「……わかりました」

 女性二人が躊躇いながら俺の言葉に返事をする。怪我人を置いて先に進むという方針に不満そうな表情をする戦士と魔法使いの二人。だが、異議は唱えず飲み込んだという感じだった。

 俺も怪我人を放って先に進むというのは人道的にどうかと思うけれど、ココで足止めを食って時間を掛けるよりも、なるべく早く先に進んで魔王討伐を果たしたほうが人類全体の被害者数を抑えられると考えての行動だった。

 けれど、その考えについては仲間たちに説明せず先に進むことだけを伝えて行動していた。その結果、不審な視線を仲間から向けられることも多かった。

 こんな風に仲間との関係はギスギスしたものだったけれど、俺は特に気にすることは無かった。この世界に召喚された目的である魔王討伐という任務をクリアするために邁進し、異世界についての情報を集めるという父さんからお願いされた任務も果たす為、様々な果たすべき仕事が多くて気にならなかったと言ったほうが正確だろうか。

 異世界の調査については順調だった。未知の技術であり、今までは創作の中でしか存在していなかった筈の魔法を知ることが出来たのだ。父さんも、この魔法について知ることが出来れば喜ぶだろうと思いつつ、俺は情報集めを続けていた。

 ありがたいことに、仲間の中に魔法を扱い知識豊富な魔法使いと僧侶の二人が居たことで、道中では彼女たちへ聞き込みを行い魔法についての記録を取ることが出来ていた。この情報を元の世界へ持ち帰ることが出来れば、異世界へとやって来た目的が果たせるだろう。

 そしてもう一つ、存在していないという帰還の魔法について。魔王討伐が果たされるまでに帰還の魔法を探し出すと約束された王様の言葉を俺は信じられず、自分でどうにかする方法が無いか考えていた。そして魔法を知り学んでいく上で、自分の持っている科学知識を合わせることが出来ればと、期間に関して少しの希望が見えていた。

 もしかしたら、王様や他の人達の助けも借りずに元の世界へ帰還する方法が掴めそうだと。

 こうして旅は順調に進み、異世界についても調査も捗りながら、帰還する方法についても糸口が見つかっていたのだった。

 

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03 現代での任務

 俺の父さんは、人類史上類を見ない程の天才である。それこそ、世界の常識を何度も覆すような発明を両手で数え切れないぐらいの数を量産している。

 たがしかし、世間一般には父さんの事を知っている人は数少ない。というのも、過去に一度だけ世間に向けて自信の発明を公表した事があるだけだからだ。その発明とは、ガソリンに代わる代替燃料を効率的に安価で作るバイオ燃料精製法というもの。

 この発表は、世界中の研究者達を驚嘆させて父親の名を知らぬ者は居なくなるぐらいに世間を賑わせた。しかし父さんにとっては、自由な時間や生活が無くなり新たな研究を行う暇を無くしてしまう出来事だった。だから父さんは時間を取られるのを嫌がり、発明した技術や権利をすべて売り渡して名も捨てて隠居を決め込んだ。

 その時の経験により、父さんは二度と表舞台には立たないと決めてひっそりと研究を行うことにした。もともと名誉欲の薄いらしい父さんは、研究して発明を作り上げるだけで満足してしまい、出来上がった完成品には興味を示さなかったから。けれど俺は、その世間に知られぬまま間放置される完成品を悲しいと思った。

 だから俺の役目は、父親の死後に発明品を世間に公表しようと父さんの研究・発明品の記録を取って情報を整理し、発表の準備を進めることだった。父さんの亡くなった後になら研究の邪魔にもならないだろうし、世間に公表することによって父さんの偉大さを知る人が増えるだろう。
 

 俺は父さんの研究の手伝いをしながら発明品の発表をスムーズに行うための計画を立てていた。と言っても、その計画が実行されるのは後何十年も後のことになるだろうが。

 

***

 

「父さん、用って何?」
「あぁ、来たか」

 学校終わりに話があるとの事で、急いで帰ってきた俺は真っ先に父さんの研究室に向かって話を聞くことにした。

 ごくごく一般的な一軒家の中にある、六畳一間程度の広さしか無い部屋の一室が父さんの研究室だった。こんな小さな場所で様々な世の理が解明されていて、世界を変えてしまうような発明品が量産されているとは誰も思えないだろう。

 俺を呼んだ父さんは、何やら手元の資料に目線を向けながら眉をひそめて難しそうな表情を浮かべていた。

 普段は温和そうな表情で過ごす父が、あんなに険しそうな顔をしている事は少なく非常事態だということを理解させられた。

「こっちに座って、これを読んでみてくれ」
「ん? これは?」

 近くに座って渡された資料を読んだ俺は、すぐに違和感に気がついて父さんに問いかけていた。その資料に記されている日付が未来を示していたから。

「実は限定的な未来の観測を可能にする装置が、ついに出来上がったんだが気になる事が分かってな」
「その気になる事って、ここに書かれている事?」

 どういう仕組みか分からないけれど、父さんは未来を予知する装置を作り上げてしまったらしい。あっさりとした言葉で告げられた事実はトンデモナイ事だと思うけれど、父さんなら可能かもしれないと思えてしまうぐらいには、今まで数多ある発明品を見せられてきた経験があった。
 つまりは、この手元に書かれている出来事が実際に起きる可能性があるという事を素直に納得してしまった。

「召喚? 異世界? どういうこと?」
「観測した結果によれば、非常に高い確率で近々お前が今居る世界の外側、つまりは異世界へと突然召喚されるらしい」
「はぁ……?」

 未来の観測が可能となったことは理解したけれど、ソコから新たに理解しがたい事実が発覚していった。異世界? 召喚?

「それって、小説やアニメとかによく題材とされるあの異世界召喚ってこと?」
「そうだ」
「えぇ……? 事前に知れたって事は召喚されないようにする方法ってのは無いの?」
「回避する方法を考えてみたんだが、お前が今見ている未来に召喚を回避しょうとしても別の機会にズレるだけで、お前の異世界召喚は確定された未来のようだ」

 回避するための方法はないか期待せずに問いかけたけれど、やっぱり召喚からは逃れられないらしい、という無情な答えが父さんから告げられる。

「安心してほしいのは、お前が無事に帰還できている未来も観測できている。向こうに行っても、コチラの世界に戻ってくることは可能なようだ」
「それは良かった」

 父さんの言葉に、俺はホッと一息ついていた。戻ってこられるかどうか分からない状態だったならば、全力で回避する方法を父さんに考えて貰えるようにお願いしているところだっかが、戻ってこられるという保証があるのならば幾分か気持ちが楽である。

「そこで、相談なんだが世界の向こう側の情報を集めてきてくれないか? きっと、新たな世界には私の知らない未知の知識があると思うんだ。もちろん、危険のないように十分な準備を用意する」
「えーっと……。うん、わかったよ父さん」

 少しだけ考えたけれど、異世界に召喚されることを了承する。父さんが色々と用意してくれるのならば、どんな場所でも安全に過ごせるように支度してくれるだろうと信頼していたから。それに何よりも、父さんの役に立てるという気持ちが大きかった。

 こうして、俺は異世界に召喚されることを知りながらも異世界からの召喚に抗わず受け入れた。見知らぬ世界の情報を手に入れるために。発明家である父さんの用意してくれた、準備万端の装備の数々を携えて。

 

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02 異世界での任務

「勇者様、よく召喚に応じてくださった」
「はぁ、どうも」

 学生靴では歩くのに躊躇しそうなほど豪華な絨毯が敷かれた広間。豪華絢爛な内装に圧倒される。そんな場所へと案内された俺は、この国の王様であるという人物と出会っていた。

 彼は、その身分の偉大さを示すかように豪華な衣装を身に付けていて、手には象徴的かつ装飾的な杖を持っていた。極めつけは頭に王冠を載せていて、一段高い場所にある煌びやかな王座に腰掛けている。まさに王様という事が見ただけで分かるような格好だった。

 そんな王様から声を掛けられたが、生まれてきて今まで彼のようなお偉いさんと話した経験が無い俺には礼儀作法も分からず、ただ戸惑い適当に対応してしまった。

「王に向かって、その不敬な態度はなんだ!?」
 案の定、俺の態度が悪かったのか王様の横に控えていた人に指差されて怒鳴られてしまった。

「まぁまぁ、落ち着かれよ宰相。彼は、国民でも何でもないただの人なのだから。しかも、これから我々がお願いする立場なのだから咎める必要もあるまい」
「しかし、王よ!」
「わしが良いと言っているのだから、良い」

 いきなり見知らぬ国に召喚された俺が対応しようもない事だろうと、宰相らしい人物の言葉を不愉快に思いつつ、言い方を少し気をつけたほうが良かったかな、とも思った。

 けれど王様がとりなしてくれたおかげで、それ以上は何も言われる事はなかった。有難かったけれど、目の前で行われたやり取りが何か演技臭く感じた俺は、王様に対する心証を良くしようという立ち回りに感じて、モヤモヤとしたハッキリとしない気持ち悪さを抱いていた。

 状況に対して冷静に判断できているつもりだったけれど、異世界に召喚された事によって自分でも思っている以上に不安や緊張を感じているのかもしれない。その悪感情によって見知らぬ人達に対して悪い印象を抱いてしまうのでは無いだろうか?

 俺は考えを振り払うように一度頭を振って、召喚した理由をストレートに尋ねる。彼らを疑うよりもまずは、状況を明らかにする事を優先した。

「それで、俺に何をやらせる為に召喚したのですか?」

 そう尋ねると、王様は今いる世界の現状についてを語り、俺を召喚した経緯を教えてくれた。

 この世界には今、魔王と呼ばれて恐れられている存在が居るという。魔王は数多くの配下としている魔物に指示を与えて、人間たちを脅かしているという。魔物の勢いは凄まじく、数多の町や村が襲われていて既に滅んでしまった国も何カ国か有るほどらしい。

「勇者様には是非、この世界を破壊しようとしている魔王を打ち倒してもらいたいのです」
「なぜ俺なんですか? この世界で魔王に対抗できる人物は居ないのですか?」
「既に何人かの勇者が挑み魔王の下を目指して旅立ったが、全員が返り討ちにあったのか戻ってこなかった」

 事態は想像しているよりもなお、悪いらしい。既に魔王に挑戦した勇者と呼ばれる人達が居たらしいが、全部失敗しているという。事実を隠さずに話してくれたのは良いのだけれど、その話を聞いて怖気づくとは思わなかったのだろうか……。

「その話を聞いて、より召喚された理由が分からなくなりました。俺は今まで斬り合いなんて人生でしたことは無いですし、戦いの心得だってありません。魔王を倒せるとは思えないです」
「世界を超えて召喚されし勇者には、人知を超えた能力が授けられると言い伝えられている。我々には既に魔王という災厄に対処する為の打つ手が無くなり、古くからの言い伝えに頼るしか方法は無かった」

 俺の弱音に反論するように、召喚の理について説明された。勇者に与えられる能力。異世界召喚のテンプレートな展開に少しだけウンザリとした気持ちになる。しかし、苦渋の表情を浮かべて語る王様の言葉には嘘は無いように思えた。

「頼む、我々の世界を救ってくれないか」

 頭を下げて、誠意を見せて頼み込んでくる王様。なぜ俺が、異世界の事情なんて知ったことか、受ける必要なんて無いという本音は有るものの、それらを飲み込んで仕方なく決断する。

「分かりました、俺に出来得る限りの事はしましょう」
「本当か!? すまない、魔王を倒した暁には成しうる限りの報酬を用意しよう」

 俺が魔王の対処を受諾したことで、難題を解決し終えたようなスッキリとした表情に変わった王様。そんなホッとしている彼に、もう一つだけ尋ねておかないといけない事があった。それは。

「一つお尋ねしたいのですが、俺が元の世界に戻る方法というのは有るんでしょうか?」
 そう聞くと、再び表情を曇らせる王様。そんな表情をしていると言う事は、帰還する方法には期待できそうにないと瞬時に理解できてしまった。

「すまない。我々が今のところ伝えられ知っているのは召喚の魔法だけ。帰還に関しての魔法は失念されてしまって方法が残っていない」
「つまりは、俺は帰れないという事ですね」
「端的にいうと、そうだ。だがソナタが魔王の討伐に向かっている間に帰還の魔法は全力を上げて捜索しておこう」

 本当に元の世界に戻る方法を失念したのだろうか、帰還すると困るから方法を隠しているという理由は無かったか……。なんだか彼らを疑う気持ちがより大きくなってしまったが、俺は落ち着くようにと深呼吸をする。

「すまない、勇者よ」

 俺が息を整えているのを、帰還できないという事を知ってショックを受けたから感情を高ぶったのを深呼吸で落ち着かせるためだと思ったのか、王様は申し訳なさそうに謝ってきた。

 

 こうして俺は異世界に召喚されて、お決まりに沿うように魔王を倒すという任務を受けることになった。

 

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01 知られた召喚

「始まった」

 学校からの帰宅途中。突然、視界が遮られ目の前が真っ暗となったと思ったら、次の瞬間には真っ白な美しい光沢を放つ石造りの見知らぬ部屋に立っていた。巨大な広間だったが、この白く立派に見える素材は大理石だろうか。学生服の自分には不釣り合いな場所だと思いつつ、手に持っていた荷物を床に置いて辺り見回す。

「ようこそ、レイモンドへ」

 そう言って俺の目の前に現れたのは、海外の映画にメインヒロインとして出演している女優を彷彿とさせるような絶世の金髪美女だった。彼女は、その美しい容姿に負けないぐらい派手な純白のドレスを身に着けて、声を掛けてきたのだった。

「勇者様には召喚に応じて頂けたこと、非常に感謝いたします。そして、誠に勝手だとは思いますが我が国、我が国民達を救って頂けるようお願い致します」

 キラキラと輝く金髪が床へと付いてしまいそうになる程、頭を下げて頼み込んでくる彼女。その様子に俺は少しだけ心を痛めたけれど、特に手を差し伸べることもせずに、まずは状況確認を図った。

「すみません、突然のことで何が何やら。事情を説明して下さい」
「も、申し訳ありません。まずは説明が必要でしたね。私の話では詳細を語るのに不足してしまうかもしれませんから、王と宰相達が待っている場所へ案内します」

 俺が彼女の願いを了承も拒否もせず、まずは詳しい情報を話して欲しいと訴えると頭を上げて偉い人が居るという場所へと案内してくれると言って、召喚された部屋から移動することになった。

 実のところ俺は異世界に召喚される、という事を前もって察知して知っていた。だから今起こっている状況に対して、それほど慌てること無く落ち着いて対処できていると思う。

 けれど、一体誰がどんな事情で何を目的にして俺を召喚するのだろうか、詳しい内容までは把握することはできなかった。ただ、ある日突然異世界に召喚されるだろう未来を予知されて居ただけだった。

 だからこそまず、情報を集めることに専念した。ありがたいことに、目の前の召喚主と思われる彼女は今のところ友好的であり説明もしてくれるようだったので、案内には特に何も言わず付いて行く事に。

「こちらです」

 肘の先まで覆った華やかにデザインされた手袋を嵌めた彼女が、部屋に唯一の出入り口となっている装飾が豪華な扉を開けた。その先に広がっている光景を見た俺は、真っ先に自然豊かな場所だな、という意見が頭に浮かんでいた。

 床に置いていた荷物を取って部屋から外に出ると、レンガ造りの立派な通路に左右はきれいに整えられた庭園が広がっている。その先には中世ヨーロッパを思わせる見上げるぐらいに大きな城が建っていた。そして、城は周りは山に囲まれた場所にあった。

 廊下には、民族衣装らしき独特な格好をした老人と、鉄製と見て取れるガチガチの鎧で身を固め、手には長槍を持ち武装した兵士達が隊列を組んで待っていた。並んで立つ兵士達は、一言も発さず黙々と直立不動の姿勢を保っていたが、目線は興味津々というか何かを探ろうという視線が俺に集中しているように感じた。

 そんな彼らの中で、一番に強い視線を向けてきているのは老人だった。ジロジロと俺を見るのを止めようとせずに、先導していた彼女に近づいていき小声で尋ねていた。

「姫様、その男が例の?」
「勇者様に対して無礼です。彼こそ、我が国を救ってくれるかもしれぬお方。その不躾な視線もやめなさい」
「申し訳ありません、姫様」

 耳の良い俺には小声でも会話の内容が丸聞こえだったが、どうやら歓迎されている、という状況でもなさそうだった。

「お待たせしてしまい申し訳ありません、道はコチラです。もうすぐ到着します」

 そう言って、姫様は止めていた足を再び動かして俺の案内を再開してくれる。

「お荷物お運びしましょうか?」
「いや、いい。自分で運ぶから大丈夫」

 歩き出したら姫様の横に老人が付き添い、俺の周りには兵士たちが囲むようにして歩き出した。兵士の一人が俺の荷物に手を伸ばしてきたが、断って自分で運ぶ。

 まるで囚人を連れ歩くような雰囲気だと感じたけれど、それに対しても何も言わずに姫様の後を付いて俺は歩く。廊下には靴が廊下を叩く音、兵士の鎧がガシャガシャと鳴る音だけが響いた。

 

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