第11話 巷で評判のお店、アフェット

 俺が雇われて仕事をこなしていくうちに、アフェットはこの街でかなりの評判になった。
 かなり腕の立つ料理人であるアレンシアが居るこの店で、客が来ないことが不思議だったのだ。少々、立地条件が悪いこのアフェットだったが、最初のキッカケさえあれば、繁盛していただろうと思われる。俺が雇われることで、繁盛するキッカケにはなったのだろう。俺が雇われて三日目以降は、固定客や料理の評判を聞いた客達が、直接アフェットへと訪れるようになり、店は客引きがなくても繁盛するようになった。
 客達が来るようになってからは、俺とアレンシア、チェーナさんの仕事量は、かなりのものになった。俺は、スキルのお陰か、給仕のレベルが限界値に達しているためか、上手く仕事をこなしていたが、アレンシアやチェーナさんは、かつて無い程の仕事量にてんてこ舞いになっていた。俺が手伝いに入っても、限界ギリギリまで働かされるようになった為に、アレンシアは友人を頼ることにしたらしい。

 そして、今日からアフェットに新たに二人の従業員が来ることになった。二人共、アレンシアの友人らしい。

「はじめまして! オデットです」
 元気な挨拶をしてくれる少女。真っ赤な長髪をしている。かなり可愛らしい美人である。

「……はじめまして、シモーナです。よろしくお願いします」
 オデットとは逆に静かで丁寧な挨拶をしてくれる少女。黒髪の短髪に、身長も小さい。彼女も、美人と言っていいような美貌をしている。
この街にきてから出会った女性は皆、美形ばかりだ。

「ほんとに男の人が働いているんだね! 私、びっくりしちゃった」
 俺を見て、オデットはそんな事を言う。
「俺が珍しいか?」
「うん、珍しい」
 やはり、この世界では男が珍しいらしく、オデットはそんな風に俺を珍しいと言う。そして、ジロジロと観察するような目で俺を見ている。地味にシモーナも、オデットの影で興味津々な目で俺を観察している。

「はい、さっさと準備に取り掛かって。すぐに店を開けるのよ!」
 パンパンと手を叩きアレンシアが注目を集めて、そう言う。確かに、何時も店を開けている三十分前である。準備をしているうちに、店を開ける時間が来るだろう。アレンシアに指示された通りに動き、下ごしらえに取り掛かる俺たち。

 オデットとシモーナの準備の動きは、かなり機敏で手慣れた動作をしている。さすがアレンシアの頼った人物である。これなら、客が大勢来ようと大丈夫だろうと感じさせる。

「じゃあ、何時もどおりユウは給仕をしてね。オデットもユウの手伝いで給仕をして頂戴。シモーナは私と一緒に料理を。母さんは、会計ね。じゃあ、今日もよろしくお願いします」
 店を開ける時間になり、アレンシアが配置の指示を出す。俺はいつもの様に、給仕だ。店を開けて、開店待ちをしていたお客さんを店内へと案内する。
 朝の時間。店を開けてから十五分もすると、テーブルは満席になり、朝食を求めて来る人達が店の外に行列を作り始める。

「今日は、昨日より多いかも」
 行列の長さが、昨日よりも長くなるのを見て、そう感じる。厨房に料理を急かして、作らせる。配膳を間違いなく進めて、料理が食べ終わった人から、直ぐに席を離れてもらう。

 朝食を求める人が、少しずつ途切れた頃に、次は昼食を求めて来る人達が行列を作り始める。休憩時間は少しの間しか無い。

 そんな風に、夕方までの時間を仕事で潰す。そして、終わりまで突っ走るようにして夕方を迎える。

——————————————————————————–

「あー疲れた」
 オデットが、テーブルに突っ伏して、言葉を漏らす。
「お疲れ様、オデット」
 アレンシアが、ねぎらいの言葉を掛けて、水の入ったコップを渡している。二人は友人同士だと聞いていたが、かなり親しい関係のようだ。そんな風景を横目で見ながら、俺は今日の給料についての話をチェーナさんとしていた。

「今日は、三万ゴールドをお給料として支払います」
「そんな大金、いいんですか?」
 ここ数日、給料の値段が上がり、とうとう当初の給料の二倍の金額だ。
 「お仕事に見合った料金ですよ。さあ受け取ってください」
 このまま順調に行けば、目標の二十五万ゴールドは直ぐに貯まるだろう。そして、冒険者身分証明証を発行してもらえるだろう。

 そして、お金を貯めるための仕事をこなす日々が数日続いた。俺はその間、取得した職業の全てのレベルを上げられるだけ上げた。今の職業の状態はこうだ。
——————
冒険初心者 Lv.100
給仕 Lv.100
料理人 Lv.100
小商人 Lv.100
農民 Lv.100
役者 Lv.100
——————
 どれも、レベルを上げるのには苦労しなかった。冒険初心者のレベルは、夜、外へ狩りに出かけてレベルを上げた。数十匹モンスターを狩ったら限界値までレベルが上った。小商人のレベルは、買い物をするごとにレベルが上がった。数日間、買い物を繰り返したら、限界値まで到達した。農民は、マリーさんに農具を借りて農業の真似事をしたら、レベルが上った。役者は、何かの役を演じるように一人で色々試したらレベルが上った。

 そんな日々を繰り返したら、ようやく目標の二十五万ゴールドを大きく上回る三十万ゴールドを手に入れることができた。今からギルドへと向かうところである。

 

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第10話 スキル習得

 夕食後、話を終えた俺とマリー。マリーは自室に戻っていったために、俺も借りている部屋へと戻り、自分について考えることにした。

 まずはスキル。この世界へ来た初日に一度だけスキルを取得したが、その後、腰を据えてじっくりとスキルを選ぶ時間が無かった。今日の仕事によって、スキルポイントも百ポイント程ゲットしたので、取得できるスキルも選び放題だろう。
 習得するには、ステータスボードと同じように、情報ウィンドウが目の前に表示されるので、その情報ウィンドウからスキルを選択して、修得するという流れになっている。
 まずは、戦闘スキルを取得しよう。攻撃系スキルのリストを上から眺める。しかし、冒険初心者Lv.16で習得できるスキルは、まだまだ少ない。職業のレベルが上がるごとに、習得できるスキルが増えていくようなシステムのようなので、Lv.16だと、まだまだ開放されていない隠されたスキルがあるようだ。とりあえず、今の時点で一番多くポイントを消費して覚える必殺技を一つ修得する。
 火炎斬り:炎の力を宿した剣で、相手を切る。
(“火炎斬り”を習得しました)
 スキルポイントを10消費して、攻撃技のスキルを習得した。異世界初日に習得した、“全力斬り”と同じように、スキル発動方法が頭に浮かぶ。全力切りが、スキルポイント5で習得できたのに対して、今回の技はスキルポイント10消費して習得したスキルになる。全力切りが中々使いやすいスキルだったので、この火炎斬りも期待できそうなスキルだろう。

それから、通常攻撃又は必殺スキルに追加ダメージを加える、プラスダメージというスキルを幾つか取得する。
(プラスダメージ5を習得しました)
(プラスダメージ10を習得しました)
(プラスダメージ20を習得しました)
 それぞれスキルポイント5、スキルポイント10、スキルポイント13。計28ポイント消費して、スキルを習得。これで、通常攻撃と必殺スキルに追加で35ダメージが入るようになる。35ダメージが、どれ位の効果か分からないが、スキルポイントの消費する数値から、効果は期待できそうだ。

 ざっと眺めた感じ、戦闘用スキルとして必要そうな技を習得し終えた。次に、生産系スキルだ。給仕はLv.100の限界値まで達しているので、給仕のスキルが全開放されている。料理人もLv.27まで開放されている。さて、どのスキルを習得しようか。それぞれのリストを上から眺めていく。

「お、このスキル使えそう」
 給仕の職業のスキルリストの最後の方に、興味深いスキルを発見。
気配察知:一定確率で発動し、自分に向ける気配を察知できる。
以心伝心:言葉や文字を使わないで、対象物とのコミュニケーションを図ることが出来る。
 戦闘にも活用できそうなスキルを発見。消費スキルポイントが多いが、利用できる場面が多くありそうなので、習得してみる。
(気配察知を習得しました)
(以心伝心を習得しました)
それぞれ、スキルポイントを25と35を消費。計60消費したので、残りが11ポイント。残りのポイントも使い切るように、スキルを取得した。

配膳:手際よく、配ることが出来る。
下ごしらえ:料理の下ごしらえが、上手になる
手料理:料理効率が良くなる。

——————
ユウ
Lv.27
STR:69
CON:78
POW:75
DEX:112
APP:181

職業:料理人
EXP:2580
SKILL:0

スキル:全力切りLv.10
火炎斬りLv.1
プラスダメージ5
プラスダメージ10
プラスダメージ20

気配察知
以心伝心

配膳 Lv.1
下ごしらえLv.1
手料理Lv.1
——————
 9個のスキルを新たに取得した。魔法系や、回復系のスキルも欲しいが、今の職業じゃ取得可能なリストに載っていなかったので習得できない。魔法使いの職業を何処かでゲット可能ならば、しなければならないと、今後の活動の目標の一つとして頭に刻み込む。

 さて、スキルについてはこれで終わりとして、次に考えなければいけないのは、どうやって元の世界に帰るのかだ。
 昨夜、異世界に巻き込まれたと俺は考えたが、じゃあ、どうやったら元の世界に帰れるだろうかと更に考える。カギになっているのは、勇者ハヤセ・ナオトではないかと感じる。彼の事について調査するために、街に図書館のような情報や資料が残っている場所があるか、調べることが必要だと感じた。

 

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第09話 夕食の語らい

 アフェットでの仕事を終えた俺は、表通りで少し買い物をした後、マリーの家へと帰ってきた。

 仕事の途中や、買い物をした時に分かったことなのだが、職業を取得する条件は、仕事を請け負う以外にも、なにかしらの経験をするだけでも取得できるようだった。例えば、先ほどの仕事中にアレンシアの仕込みの手伝いをして、俺は“料理人”の職業を取得していた。忙しい中でしっかりと確認できていなかったが、アレンシアの手伝いをしたことで取得した職業だった。

 他にも様々な職業を取得していたので、改めて取得した職業を確認してみる。頭のなかで、ステータスを呼び出す要領で、取得した職業を表示せよと念じる。
——————
冒険初心者 Lv.16
給仕 Lv.100
料理人 Lv.1
小商人 Lv.1
農民 Lv.1
役者 Lv.1
——————
 目の前に、ステータスが表示されるのと同じように、取得した職業が表示された。小商人の職業は、買い物をした時に取得した職業だ。農民や役者は、条件が分からないが、いつの間にか取得していた。これらも、何かしらの経験を積んだことで発現した職業なのだろう。

 もう一点分かったことがある。職業をステータスにセットしなければ、レベルアップはしないということだ。今の状態だと、給仕のLv.100のみが突出して、他はレベルが低いままだ。これは、今日一日中、給仕をステータスにセットしていて、他の職業をセットしなかった影響だろう。経験値は分配されない設定のようである。

 マリーが帰ってくる前に、夕食を準備してみる。昨日はマリーが用意したパンとチーズだけの簡単な夕食だったので、何か調理したものを食べたいと考えた俺は、料理人の職業のレベルアップも兼ねて、夕食を作ることにしたのだった。食材は、帰ってくる途中に買い集めたものを使う。

 職業の料理人をステータスにセットして、買い物してきた食材を使い、作り始める。簡単に切ったり焼いたりするだけのものを予定していたのだが、料理人の職業をステータスにセットした影響か、頭のなかに料理の手順が浮かんだので、その通りに食事を作り始める。

 マリーが帰ってくる頃には、食事も作り終わった。予定していた料理とは違ったが、料理人の職業によって頭に浮かんだ手順通りに作った料理だ。料理人のLv.27までレベルアップしていた。さすがに、Lv.100の限界値までは行かなかったが、通常では考えられないぐらいの速度でレベルアップしているであろうと考える。

「ただいま、ユウ。夕食を作ってくれたんですね」
「ちょうど、今出来たところですよ」
 出来上がった料理をテーブルに並べている横をマリーが覗き込む。仕事終わりにすぐ帰ってきたのだろう、鎧を着たままだ。

「今すぐ、着替えてきます」
 部屋の奥へと行くマリー。言葉の通り、自室で着替えてくるのであろう。食事を並べ終えた俺は、その間テーブルに座って待った。


「おまたせしました、豪勢な夕食ですね」
 ラフな格好に着替え終わったマリーが戻ってきた。直ぐにテーブルについて、食事に興味津々のようだ。
「簡単なものですが」

「おいしい! すごく、美味しいです」
 直ぐに食べ始めたマリーが美味しいと連呼して褒めてくれる。作った甲斐があったというものだ。

 夕食を食べている間、気になった事について聞いてみた。
「この街の男性って、少ないですよね」
 アフェットの客、全てが女性客だったことから感じた事だった。通りにも男性は、ほとんど居らず、客として捕まえることが出来なかった。この街に男性が少ない事を疑問に思っていた。

「この街だけでなく、この大陸には男が少ないんですよ」
 マリーが語る世界。どうやら、この世界には男が少ないらしく、俺は男性というだけで貴重な存在なんだと言われた。しかも、冒険者を職業にした男性について、マリーは話にしか聞いたことがないらしい。世界中を探せば居るかもしれないが、とても貴重な存在らしい事がわかった。この世界の男性のことについて更に詳しく聞いてみると、マリーは詳しく語ってくれた。
 男性は、普通街の中で守られていて外には出ないそうだ。街の中で知的労働を担う存在らしい。ギルドのカウンターに居た男性を思い出す。
最初、俺が女性に間違われたのは、外から男性が来るなんて、しかも一人で居るなんて思いもしなかったからだそうだ。

「職業を付け替えられるですって? そんな事が可能なのですか?」
 職業について聞いてみると、ココでも食い違いが合った。俺が自由に職業を付け替えられると話すと、職業は、生まれた時に決められた固有のもので、俺のように自由に付け替えることは出来ないとマリーは語った。職業が変わるのは、ある条件を満たして上位職になる場合のみ。それ以外は、変えることが出来ないそうだ。
 男性の冒険者が居ないのも、生まれた時に男性の職業に冒険初心者が付くことが無いからだそうだ。そういう意味で、やはり俺は貴重な存在のようだった。

 逆にマリーが疑問に思っていた、俺のことについて、改めて色々と聞かれた。
「本当はどこから来たのですか? ヌエットですか? もしかしてアヌール国?」
「昨日も言いましたが、地球の日本という所からです」
 ゲームである「Make World Online」をプレイすることで迷い込んだこと、ログアウトできないこと、昨日語ったことを改めて説明するのだが、俺自身わかっていないことが多すぎて、上手く説明できなかった。そんな説明だからだろうか、マリーも理解できていないようだった。しかし、俺は何度も何度も説明することで、マリーに理解してもらおうと頑張ってみた。

 そして、マリーと話し合うことで情報を収集して、少しずつ世界を理解していった。

 

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第08話 初めての客引きと結果

 表通りへ向かう前に、建物の影でまずステータスを確認した。
——————
ユウ
Lv.16
STR:50
CON:49
POW:56
DEX:63
APP:32

職業:冒険初心者
EXP:300
SKILL:10

スキル:全力切りLv.10
——————
 職業を付け替えてみる。職業を給仕にするように、イメージで操作する。

——————
ユウ
Lv.1
STR:50
CON:49
POW:56
DEX:63
APP:32

職業:給仕
EXP:300
SKILL:10

スキル:全力斬りLv.10
——————

 Lv.1に戻ったのと職業の欄が給仕へと考えたとおり変化したが、ステータスの変化は無いようだ。客引きの間は、給仕を職業にセットしておこうと考えた。

 改めて、表通りへと出た俺。まず、客となりそうな人を見極めるために、同じように客引きをしている人物を観察することにした。客引きなんてしたことない俺は、どんな風に客引きをすればよいか周りを観察して参考にしようとした。
 表通りに出て客引きをしている人物は、見える限り十人ぐらい。その中で、三人が男性なので、彼らを注意深く見ることにする。

 観察している彼らが、客を店へと引いていく。彼らは単純に声を掛けるだけで、特になにか特別なことはしてないようだ。これ以上、観察だけしていてもしょうがないので、俺も彼らと同じように、まず声を掛けてみる。

 ちょうど目の前に、女性が一人。
「お客さん、朝食どうですか?」
「朝食? さっき食べたところなんだ、ごめんね」
「そうですか、ありがとうございます。また今度おねがいします」
 まぁ、一人目から捕まるとは思わなかったけれど、残念な気持ちが広がる。しかし、ダメだったけれど、返事はしてくれたから、そんなにダメージはない。次に気持ちを切り替える。
(レベルアップしました。)
 へ? 急なアナウンスにびっくりしながらも、声を掛けただけで失敗しても経験値は入ることがわかった。しかも、レベルアップまでしたので、失敗を恐れずにドンドンと挑戦していこうという気持ちになれた。

 また、目の前に女性が歩いてくる。長身で褐色の女性だ。
「お客さん、朝食どうですか?」
「調度良かった、今食べようかと思っていたところなの。案内してくれる?」
 まさか二人目で成功するとは。そんな風に考えていると頭にアナウンスが流れる。
(レベルアップしました。)
 客引きが成功すると、さらに経験値が入る? とりあえず、お客さんを案内しなければ。
「お店はこちらです」
 お客に先行して、道を進む。付いてきてくれているのを確認しながら、お店の宣伝も忘れない。
「パンケーキが美味しいですよ」
「そうですか、それは良いですね」

 扉を開けて、中へと案内する。
「いらっしゃいませ」
 アレンシアが、カウンターで掛け声を出す。客をテーブルへと案内して、 俺はメニュー0を取りにカウンターへと向かう。
「すごい、こんなに早くお客さんを引いてきたのね」
「とりあえず、注文とってきます」
 お店に来た客に感動しているアレンシアを横目に見て、俺はメニューを片手に持って注文を取りに行く。
「メニューをどうぞ、注文はどうします?」
「じゃぁ、オススメのパンケーキのセットをちょうだい」
 ニコリとカッコいい笑いを俺に向けて、道すがらおすすめしたパンケーキのセットを頼む褐色の女性。
(レベルアップしました。)
 またか、と思う。注文を取ることを成功して経験値が入ったのだろう。給仕の職業についても、冒険初心者と同じくレベルアップの必要経験値がバグって、少しの経験値でもレベルアップがしやすくなっている。レベルアップの事は、頭の隅に追いやって、注文を受ける。
「ありがとうございます。少々お待ちください」

——————————————————————————–

 数十分後、店は女性の客で一杯となった。大繁盛というやつだ。何故か、あの後、客引きをするごとに客がすぐ捕まるようになって、客が寄ってくるようになってからは、食堂アフェットはテーブルが全て埋まるぐらいの盛況ぶりになっている。
「注文、承りました。少々お待ちください」
 最後に残っていた席に、女性客を案内して注文を取り終えた俺は、アレンシアに料理はまだかと聞きに厨房へと向かう。

「ちょ、ちょっと待って! 今、急いで作っているから!」
 アレンシアは、すごく忙しそうにしているので俺も厨房に入り、簡単な仕込みの手伝いをする。アレンシアの指示を受けて、野菜の皮をむいたり、切ったり、盛り付けしたり。それでも足りないのか、食堂から注文は、まだ来ないのかという催促の声が聞こえてくる。

 超特急でアレンシアが料理を仕上げていく。俺は、それを間違いなく客へと配膳していく。その繰り返しを二十五回程こなすと、テーブル席全員に食事が行き渡り、少し落ち着く。すると、次はドンドン食べ終わった客が会計に来るので、次はチェーナさんがてんてこ舞いになりながらお金を受け取っていく。
「ありがとうございます、五百ゴールドになります」
「はいよ」
「ありがとうございます」
 お客が店を出る時にも、俺は掛け声をかける。
「ありがとうございました!」

 そんな風に、朝から昼、そして夕方まで繰り返し、客を案内する。体力的には、まだまだ大丈夫だったが、精神的にすごく疲れる。

 やっとの思いで、夕方になると俺の担当の時間が終わる。

「お疲れ様でした! すごく盛況しましたね」
 今まで、会計をしていたチェーナさんがカウンターから出てきて俺にねぎらいの言葉を掛ける。
「ほんとうに疲れました。初日からこんなに疲れるなんて」
 台詞の通り、こんなに疲れるとは思っていなかった。これも、客引きが思いの外、上手く事が運んだからだった。俺はステータスを確認する。


——————
ユウ
Lv.100
STR:69
CON:78
POW:75
DEX:112
APP:181

職業:給仕
EXP:2320
SKILL:109

スキル:全力切りLv.10
——————

 APPポイントが、かなり高くなっている。もしかしなくても、客引きが想像以上に上手く行ったのはこのお陰だろうか。それにLv.100と限界値になっている。「Make World Online」では、職業の限界値はLv.100に設定されている筈だから、給仕のレベルは限界状態だ。

「お母さん、今日の売上どうだった?」
 お金の管理は、チェーナさんがしていたから今日の売上はどれ位か、把握しているはずだ。
「今日の結果はなんと!」
「「なんと?」」
 俺と、アレンシアの声が重なる。
「0でした!」
「「へ?」」
 またしても、俺とアレンシアのへんてこな声が重なる。
「な、なんで?」
 アレンシアが、もっともな疑問で問う。
「今までの借金の返済をしたら、今日の売上分全部持って行かれちゃいました。結果儲けは0になっちゃいました。あ、ユウさんのお給料一万五千ゴールドはここに分けてありますから、明日もよろしくおねがいしますね」
 呆然となっているアレンシア。その横で、同じく呆然としながらもちゃっかりと給料を受け取る俺。
「明日から頑張りましょう!」
 空元気で振る舞うチェーナさん。うなだれるアレンシア。そんな風に、初めての異世界(?)での仕事をこなし終えた俺だった。

 

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第07話 働く場所

「おまたせしました、パンケーキのセットです」
 お皿が目の前のテーブルに置かれる。オーソドックスなパンケーキに、スクランブルエッグとソーセージが添えられている。期待していなかったが、結構美味そうだ。
 フォークとスプーンを持ち、まずパンケーキを食べてみる。
「うまい」
 思わず口に出るぐらいに、フワッフワッで甘すぎず、美味しい。添えてある、スクランブルエッグとソーセージを食べてみると、こちらも十分に美味しい。

「これ、美味しいですよ」
 盆を持ってこちらを伺っていた女の子に感想を言う。それ程に美味かった。しかし、疑問が一つ。
「なんで、こんなにうまいのに客が居ないんですか?」
 これ程ならば、固定客も居そうなものだが、俺が店に入ってから朝食を食べ始めるまで、誰一人として客は来なかった。そして、この後も客が来そうな雰囲気はない。なぜ客が来ないのか、そんな風に疑問を投げかけてみたが、女性と女の子、どちらも答えを返してくれなかった。

 美味い朝食を食べ終わる。期待していなかった分、予想以上の出来だったので、今後も機会があればこの店を利用しようと心に決めていると、突然女性が声をかけてきた。
「そういえば、貴方お金に困っていましたよね! もしよければ、ココで働かない? お金は弾みますよ」
 女性が、朝食を食べ終わった俺に、そんな事を言う。
「いきなり何です? 仕事ですか?」
 俺は警戒しながらも、時給を弾むという言葉に興味の気持ちが沸き上がった。

「えぇ、給仕をしてくれたら、一日一万五千ゴールド払うわ」
「ちょ、ちょっとお母さん! そんな大金払えないわ」
 カウンターでこちらを伺っていた女の子が、母親らしい女性の言葉に待ったを掛ける。
「大丈夫よ、男性の給仕が付けばこのお店も絶対繁盛するわ」
 女性は、自信満々に娘と思われる女の子を説得している。俺はといえば、一日一万五千ゴールドに心動いた。正直、一万五千は美味しい。昨日の狩りの結果を考えると、十五時間分狩りをするぐらい貰える。しかも安全に一定で稼げるということだ。
「どうします? 引き受けてくれませんか?」
 そうだな、給仕の仕事をして、給料をもらい、時間の開いた時にモンスター狩りをすればいいかと結論づけた俺は、仕事を受けることを決めた。しかし、すぐには仕事を受けず、いくつかの質問をしてみた。
「仕事の給仕って、何をすればいいですか?」
「通りに出てもらって客引きと、メニュー取りです」
 女性は、すぐに答える。客引きとメニュー取りか。

「給料は本当に一日一万五千ゴールド頂けるのですか?」
「店が繁盛すれば、もっと渡せると思います。だけど今は、とりあえず、一万五千ゴールドを約束します」
 金額は、申し分ない。
「どれ位働けばよいですか?」
「朝から夕方ぐらいまで、お昼休憩ありでよろしくお願いします」
 朝から夕方までか。一日一万五千ゴールドとすると、単純計算で、約十七日間で、二十五万ゴールドが手に入る計算になる。

「夕方以降は良いんですか? 夕食とか、夜の飲みの場所としてお店を提供しないんですか?」
「さすがに男性の方に、夜遅くまで働いてもらうわけにはいきませんから」
 そういうものなのだろうか。逆に男性だからこそ、夜まで働くものだと思うけれど。まぁ、いいかと結論づけて、俺はようやく仕事を受けることを伝えた。
「分かりました、仕事受けさせてもらいます」
「本当ですか! ありがとうございます。良かったわね、アレンシアちゃん」
「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり連れてきて働かせるなんて本当に? そんなの無茶よ!」
 女の子の名前は、アレンシアと言うのだろう。その子が、猛反対している。確かに、いきなり連れてきて働かせるなんて無茶な話だろう。しかし、母親と呼ばれた女性は頑なに俺を雇おうとしている。
「いいのよ、アレンシアちゃん。絶対男の人が呼び込みしたら繁盛するから。絶対よ」
「で、でも……」
「お母さん命令です! 彼は雇います」
 ショボンと肩を落とすアレンシアと呼ばれた女の子を後にして、女性は俺の方に向かい今更ながらに、自己紹介した。
「私は、チェーナと言います。それで、こちらが娘のアレンシア」
 改めて彼女たちを観察する。チェーナと言った、俺を店に案内した女性は、子供が居るとは思えないぐらい若い美貌をした女性で、身長は160cmぐらいと低い。比べて、アレンシアと呼ばれた女の子は、大人びた顔立ちをしている。身長も、170cmぐらいはあるだろうか、女性にしては大きい方だ。
「俺はユウです。よろしくお願いします」
(給仕の職業を取得しました)
「へっ?」
 頭のなかに、ゲームアナウンスが流れる。「Make World Online」には、職業というシステムがあり、取得した職業は1つを自由に設定することが出来る。今設定されているのは、“冒険初心者“という職業。職業というシステムは前情報の知識として知っていたが、職業の数は公表されていない。給仕なんて細かな職業まであるならば、かなりな数の職業があるだろうと考えられる。それとも、これも異世界トリップによる影響なのだろうか。
「じゃあ、早速客引きよろしくおねがいしますね」
 ニッコリと満面の笑みで、エプロンを俺に向けてそう言うチェーナ。どうやら、それを付けろということらしい。俺は、彼女の望むとおりにエプロンを付けて、表通りに出て客引きをすることになった。

 

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第06話 朝食

「もう少し、聞きたいことがあるけれど、私はそろそろ仕事に行かないと。ユウは、この後どうします?」
 マリーが、テーブルから立ち上がりそう言う。仕事とは、昨日の門番の事だろうか。
「そうですね。どうしよう」
 昨日と同じように、モンスターを狩って、ドロップアイテムを狙おうか。しかし、昨日のペースだと、二十五万ゴールドを貯めるためには、どれほどの時間がかかるか。嫌、昨日は一時間ほどしか狩っていないから、一日費やせばもっと稼げるかも。

「行くところがなければ、暫くの間は、うちに泊まると良いですよ」
 家に泊めてもらい食事まで頂いて、かなり助かったが、マリーの親切心に、これ以上頼っていいものかどうか。
「とにかく、まだ聞きたいことも有りますから。家に居て良いですですよ。私は行きますね」
 俺が悩んでいるうちに、マリーは言うことを言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。とりあえず、親切心に頼らせてもらうことにする。ということで、寝床は確保できたが、後はお金の問題をどうするかだ。お金稼ぎをどうするか考える。
「よし、とりあえず外に行くか」
 部屋の中であれこれ考えていても、お金の問題はどうすることも出来ないので、とりあえず外にでることにする。

 マリーの家から外へ出ると、昨日行ったギルドの前まで歩いて出てきた。ふと、昨日感じた違和感の正体を知った。男性が少ないのだ。通りに居る人間は女性ばかり。何人か、呼び込みをしている男性を見つけることができるが、それ以上に女性が多い。
 そんな事を観察しながら、街を歩く。と、クーと腹が鳴った。朝から何も食べていないことを思い出す。しかし、お金は昨日稼いだ千ゴールドのみ。昨夜は、マリーのおかげで、お金を使わないで済んだので、千ゴールドがより貴重に感じられ、朝食にお金を使うのが勿体無く思えてしまった。
「うーん、どうしよう。どこか、お店に入って朝食を食うか。それとも、そのまま狩りに出てしまうか」
 腹が減ったまま狩りに出る危険性もあると考えたが、どうしてもお金を使うことがもったいなく感じられ、迷う。そんな風に迷っていると、声を掛けられた。

「道の真ん中にボーっと立ってどうしたんですか?」
 女性の声だった。声のする方向へ顔を向けると、身長160cmぐらいの小さな女性が立っていた。こちらを興味深そうに見ている。
「朝食をどうしようかと考えていたのです」
 俺は正直に、今の状況を彼女に伝えてみた。
「朝食ですか! いいところが有りますよ。付いてきてください」
 女性は一言そう言うと、くるりと身体を回し、通りを歩き出した。
「ちょ、ちょっと」
 俺は慌てて、彼女に声を掛けたが、反応無くどんどん歩いて行くので、仕方なく彼女の後を付いて行く。彼女は、通りをドンドンと歩いて行き、こちらに振り返りもしない。少し入り組んだところへと入って行く頃になって、もしかして朝食を食べられるお店は嘘か、女性は自分を騙しているのかと警戒するに至り、逃げようかとした時、彼女は、歩き出した時と同じようにくるりと身体を回して、突然言った。
「つきました。ココですよ」
 路地をちょっと入った所だから、表の通りからは全然見えないであろう建物。こんなところに本当にお店があるのか? 疑わしげに見る俺に気づいたのか女性は、両手をバタバタと交差させ、弁明する。
「ほ、本当ですって。美味しいですよココ」
「なんて言う店何ですか?」

「アフェットってお店です。この店の朝食は本当に絶品なんですって。とりあえず、入って食べてみてください」
 女性の言葉を一度信じてみるかと思い、千ゴールド位ならすぐ稼げるさと自分に言い聞かせ朝食を摂ることを決めた。彼女は、俺が店に入るのを今か今かと見ているので、俺は扉を開けて店へと入った。
「あ、いらっしゃいませ」
 明らかに暇そうに椅子の上でボーっとしていた女の子が、お店に入ってきた俺に気づいて挨拶を投げかける。店の中には、お客一人居ないので良いのだが、大丈夫だろうか。テーブルが幾つか配置されていて、一応、食事処のようだが本当に美味しい店なのか? 俺は更に疑い深く、後ろからついて入った女性に目線を向ける。

「あれ、お母さん。どこかに行っていると思ったら客引きしてたの?」
 お店の女の子は明らかに、後ろから付いてきた女性にそう言った。お母さんと言ったか。
「貴方、お店の人?」
 俺は、この店に案内した女性に言葉短く問いかけると、彼女はニコリと誤魔化すように笑う。
「良いお店ですよ!」
 更に力説された。騙された。普通に客引きされて連れて来られたというわけだ。仕方なく、朝食をこのアフェットで取ることにした。
「あー、じゃぁメニュー見せてもらえる?」
 出入口に一番近い席につき、メニューを求める。
「どうぞ、メニューです」
 女の子に渡されたメニューを見て、値段を確認する。価格はぼったくりじゃないだろうかと見てみたが、この世界の平均がどれぐらいか分からないので、仕方なく百ゴールドと朝食セットの中で一番値段が安いパンケーキのセットを頼む。百ゴールドなら、十分払える額だった。
「注文ありがとうございます。すぐに作りますのでお待ちください」
 女の子は、返されたメニューを持ち、店の奥へと走って行った。どうやら女の子が料理を作ってくれるようだ。俺をココに案内した女性がニコニコと笑いならがら、立っている。
「接客しましょうか?」
「いえ、結構です」
 女性は手持ち無沙汰なのか、話しかけてくるが、俺は正直騙された気分で彼女に良い感情が無かったので、そっけなく返事を返す。

 

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第05話 勇者の伝説

 朝、窓から差し込む光に、自然と目が覚める。身体を起き上がらせて、小さなガラス窓から外を眺め、俺はまだ「Make World Online」に似た世界に居ることを確認する。ログアウトを試してみるがやはり反応なし。

 しかたがないので、俺はベッドから降り、扉を開けて昨日食事を取った部屋へと向かった。
「ユウ! ちょうど良かったわ、今から起こそうかと思っていたところよ! 少し聞きたいことがあるのだけれど」
 扉を出た所に、マリーが立っており、興奮気味にそう言ってきた。口調も、昨日の丁寧な感じじゃなく、少し砕けた口調になっている。
「マリー、おはよう。聞きたいことって何です?」
 俺がそう聞いても、興奮した顔を崩さずに、何やら考えている様子のマリー。
「とにかく、話が長くなりそうだから、座って話しましょう」
 言って、前を歩き、テーブルのある部屋へと向かうマリー。聞きたいこととは一体なんなのだろう。

 俺が座るのを確認した後、マリーがまだ興奮した状態で話し始めた。
「ユウ、貴方ってもしかして勇者様の末裔なの?」
 座るなり、いきなりそんな事を言い出すマリー。
「勇者の末裔? どういう意味ですか?」
 意味がわからず、俺は素直にそう聞き返す。
「昨日、貴方とパーティーを組んだけれど、その後、私は普段通りじゃないレベルアップの上がり方をしたみたいなの」
 普段通りじゃないレベルアップの上がり方? と疑問に思うと、更に言葉を重ねるマリー。
「今朝、レベルを確認したら昨日から一気に三レベルもアップしていたのよ。それって多分、貴方とパーティーを組んだのが原因だと思うの」
「それと、勇者の末裔にはどんな関係があるのですか?」
 冒頭の勇者の末裔という話と一気にレベルアップしたという話、つながりがよく見えなかった。しかし、パーティーを組むことで仲間のレベルの上がり方もおかしくなるのか。
「貴方は、勇者様の伝説を知らないの?」
「勇者の伝説?」
 俺の疑問に、マリーは勇者の伝説を語って聞かせてくれた。
「昔、この大陸には魔王が居たのよ。それで、今よりもっとモンスターが凶暴だった頃、大陸の人たちは、モンスターが凶暴化する原因になっている魔王を何とかしようとしたけれど何も出来なかったの。そこに現れたのが勇者ハヤセ・ナオト様なの」
 マリーは、一度言葉をそこで切って止めた。しかし、ハヤセ・ナオト? もしかして、日本人なのだろうか。それに、名前の感じから男性のようだが。

「勇者様は、大陸のいくつもの街を助けて、凶悪なモンスターを退治して、ついに魔王を封印することに成功するの」
「その後、勇者はどうなったんですか?」
「その勇者様は自分の国に帰っていたんだって」
名前の感じから、日本人だと思うのだが、自分の国ということは、もしかして日本へ帰ることが出来たということだろうか。
「いくつか質問いいですか?」
「どうぞ?」
マリーに、いくつかの質問に答えてもらえた。
「勇者の“ハヤセ・ナオト”ってよくある名前?」
「いえ、家系名じゃ聞いたこともないハヤセに、ナオトって名前も聞いたこともないモノだったんだって」

「勇者は、出身地は?」
「それが、勇者はある日突然、襲われていた街マーリアンにあらわれて、その街を助けたそうよ。出身地についても詳しくは、わかっていないらしい」

「なるほど、ありがとう。ところでその勇者と、レベルアップとどう関係が?」
 まだ、勇者の末裔という話と一気にレベルアップしたという話のつながりが見えないので再度質問してみる。
「その勇者様の言い伝えに、レベルの上がり方が普通の人間と違って、とんでもなく早いって言われているの。しかも、その仲間たちもレベルの上がり方が異常に早くなるらしいし」
「言い伝えなのでしょう、本当なのですか?」

「今も、勇者の末裔って言われているホルスイや、シェイラって冒険者として有名よ。知らない? 彼らのレベルはもちろん、仲間たちも総じてレベルがとんでもなく高いのよ」
 昨日パーティーを組んで、一気にレベルが上ったことで、その勇者の末裔だと考えられたわけか。
 勇者の伝説のハヤセ・ナオトという名前を聞いた時、俺は元の世界へ帰る手がかりじゃないかと感じた。そして、思い切って、俺の置かれている状況をマリーに話してみることにした。

「マリー、俺の話を聞いてください。多分、分からないことも一杯あると思うけれど、とりあえず最後まで聞いてください」
 頷くマリーを確認した後、俺は日本で「Make World Online」というゲームをプレイして、この世界へ来たこと。ログアウトできずに元の世界へ帰れない事、レベルアップが、異常なこと等をマリーに話してみた。マリーは、俺が話し終えるまで疑問の言葉を挟まず黙って聞いてくれていた。

「前半部分がよく分からなかったのだけれど、ユウは元の住んでいる場所に帰れないのね?」
「簡単にまとめると、そういうことですね」
 おおよその話の内容だけでも伝わったのか、マリーが分かっている部分だけをまとめて確認してくる。
「それに、レベルが上がりやすいのも異常って事?」
「そうみたいです」
 ゲームに準拠した世界ならば、仕様道理に上がるはずだが、それが異常にレベルアップがしやすくなっている。

「やっぱり、勇者の末裔じゃないの? レベルの上がり方が早いのは。そして、昨日私とパーティーを組んでからのレベルの上がり方も」

「勇者の末裔というよりも、勇者ハヤセ・ナオトと同じ世界から来たから、そんなふうになったんだと思うけれどね……勇者は、いつ現れたんですか?」

「今からおよそ400年前って言われているわ」
 400年か……。詳しい資料が残っているかどうか。もしかしたら、彼を調べることで日本へ帰る手段が見つかるかもしれない。そう考えた俺は、彼のことを調べることにした。

 

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第04話 マリーの家にて

「えっと、ヤマノ草2つに、素材用の青い宝石2つ。合わせて、千ゴールドで引き取らせてもらいますよ」
 アイテム屋の渋い顔をしているオヤジに、早速手に入れたアイテムを買い取ってもらう。アイテムは、マリーの予想通り、千ゴールドになった。
「それで、お願いします」
 俺の答えに、アイテム屋のオヤジが金庫から一枚のコインを取り出す。それを俺に向けて渡す。
「はい、じゃあ千ゴールド、コイン一枚ね。お間違いなく」
「どうも」
 俺は、アイテムと引き換えに、初めてこの「Make World Online」のゲーム世界でお金を手に入れた。
 「Make World Online」で初めての出来事があった場合は、ログアウトを試してみるという習慣が出来たのだが、今回もログアウトを試してみたが、ログアウトできず。結局ダメかと、ため息をついた俺。

 アイテム屋の外で待っていてくれた、マリーと合流する。
「アイテム換金は、どうでした?」
「マリーの言ったとおり、千ゴールドに成りました。コイン1枚ですが、どう分けますか?」
 俺は、アイテムと交換してもらった千ゴールド金貨を指に挟みながらマリーに見せて言った。どう分けるか、マリーが小銭を持っていればいいがと思いながら俺は聞いた。
「そうですか、お金は全額貴方のものです。取っておいて」
「しかし、狩りを手伝ってもらいましたが……」
 アドバイスを貰いながら、狩りをしたので、幾らかは分けないといけないと思っていたのだが、マリーは頑なにお金を受け取ろうとしない。
「いや、手伝ったと言っても見ていただけですし。それに、モンスターを倒したのは貴方ですしね」
「そうですか。それじゃあ、ありがたく頂いておきます。正直言うと、助かります」
 マリーにお礼を言って、ありがたくもらうことにした。言葉の通り、今はちょっとでもお金が欲しかった。
「と、ところでユウは今日、泊まるところは決まっているのですか?」
 そういえば、泊まるところを探さないと。マリーの言葉に宿屋を探さなければいけないことに、気づく。
「まだ、泊まるところは決まっていないのです。いい場所は有りますか?」
「そ、そうですか。お金はあるのですか?」
 マリーは何やら緊張しながら、そんなことを言う。お金があるかどうか、正直痛いところだった。
「いえ、お金はこの千ゴールドだけです」
 持っていた千ゴールド金貨をポケットに戻しながら、俺は言った。宿屋の料金は分からないが、千ゴールドだと泊まるのは厳しいかと考える。
「そ、それならば、ウチに泊まっていけば良いですよ」
「え? マリーさんのお家ですか? 宿屋なのですか?」
「いいえ、違うわ。普通の家です。この街の宿屋は高いから、ウチに泊まれば良いですよ。家は部屋が余っているし、タダで泊まらせてあげますよ」
 マリーの言葉が本当なら、すごく助かる。今は少しでも冒険者身分証明証を発行してもらうための25万ゴールドのために、お金を貯めたい。
「良いのですか? 泊まらせて貰っても?」
 狩りの手伝いをしてもらった上に、泊めてもらうなんて親切な人だなと思いながら俺は言った。
「いいですよ、ぜひ来て下さい。出会ったのも何かの縁です。案内します、ついて来て下さい」
 マリーがさっさと歩き出したので、俺は急いでマリーの後について行った。

 街の中、建物をかいくぐってマリーの後をついて歩いて着いた場所は、少し古ぼけた建物だった。
「どうぞ、入って」
 扉を開けて、招き入れてくれるマリー。
 家に招き入れてもらい、部屋へと案内される。ベッドも有り、休むには十分の部屋だった。
 食事も無料で頂いた。なぜこんなに親切にしてくれるか聞いてみると、どうやら俺が男だからというらしい。男だからといって親切にされるのは初めての事だった。

 食事の後、部屋へと行き、ベッドの上に寝転がる。そして、なぜ今こうしているのか考えてみた。

 もしかしたら、俺はいつの間にか「Make World Online」というゲームのプレイをキッカケにした、異世界トリップという物に巻き込まれたんじゃないかと考えは行き着いた。異世界トリップなんて小説の読み過ぎだろう、現実のことじゃないとも思ったが、あまりにも、リアルな世界に、NPCと思われる人間の挙動、会話の内容もしっかりとした応答をしてくれる。そしてログアウトが出来ないという状況。デスゲームとも考えたが、仕様と少し異なる点がある。
 そして、異世界トリップと考えるとおかしな点もいくつかある。一つは、ステータス表示がゲームの仕様通りにコールと共に表示されることだ。俺は、ステータスが表示されることを改めて見てみる。
——————
ユウ
Lv.16
STR:50
CON:49
POW:56
DEX:63
APP:32

職業:冒険初心者
EXP:300
SKILL:10

スキル:全力斬りLv.10
——————

 間違いなく、ゲームのような表示である。目の前に浮かび上がるステータス表示を見て、そう考える。そして、もう一つに頭のなかに流れるログだ。レベルアップをした時、パーティを組んだ時などに頭のなかに流れるのだが、どんな原理なのだろうか。異世界トリップなのに、ゲームの仕様を残しつつ、存在している不思議な世界。
 俺は、数々の疑問を頭に残しながら眠りについた。

 

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第03話 やっぱりおかしい、レベルアップ

 「Make World Online」での、お金稼ぎ方法の一番簡単な方法は、アイテムドロップを狙うことだ。モンスターを狩り、モンスターがドロップしたアイテムを拾い、それを売る。これが、一番スタンダードなお金稼ぎの方法となる。
 冒険者身分証明証を発行してもらうためのお金が必要な俺はまず、ギルドの建物から出て、さらに街も出て、草原へと向かう事にした。

 と、街を出る所で先ほど出会った長身の女性と再開した。
「あら、どうでした? 証明証は貰えた?」
 またも話しかけてくる長身の女性。
「それが、色々と条件があるらしくって今すぐは貰えないらしいです」
 ギルドで提示された数々の条件によって、今すぐは発行してもらえないことを女性に伝えた。
「あら、おかしいわね。条件なんてあったかしら……ってもしかして貴方、男性なの?」
 かなりビックリして言う長身の女性。
「え? 俺は、男ですが……?」
 もしかして、俺の事を女性だと思っていたのか。NPCのくせに、間違いを起こすなんて。会話も流暢に行われているから、もしかしたら中に人がいるのかもしれない。
「嘘! だって、そんなに長身の男が居るなんて、それに、貴方冒険初心者って言ったじゃない。男性の冒険者なんて存在していたの?」
 言いながら、顔を覗きこんでくるその女性。そして、小声で何やらつぶやく。しかし、精巧にできているなぁと感心する俺。
「え、ホント……?……結構良い顔している……しかも私より長身で……」

「え? なんですって?」
 女性の声がうまく聞き取れず、聞き返すとびっくりして女性は俺からバッと離れる。
「な、なんでもないわ! それよりも、外に出る気?」
「モンスター狩りに行こうと思ったんですが、マズイですか?」
 女性は、顎に手を当てて悩みだす。
「ん~、貴方が男性ってことでマズイのはマズイけれど、冒険初心者なら大丈夫なのかしら……? 貴方、誰か連れは居ないの?」
「一人です」
「男性一人にするなんて、とんでもなく危険なのに……」

 結局、出たらマズイのかマズくないのか分からない。しかも、一人だと危険のようだ。もしかして、この近辺のモンスターは凶暴なのだろうか。

 と女性がポンと手を叩き、良いことを思いつきましたという顔をした。
「ちょっと、貴方待ってなさい。絶対にどこかに行ったりしないでね、すぐ戻ってくるから」
 言うと、長身の女性は街の中の方へと走って行ってしまった。一体どこに行ったのだろうか、せめて行き先や考えぐらい言って欲しかったと思いながら待つことにした。
 数分待っただろうか、やっと女性が戻ってきた。
「ごめんなさい、待たせました。外に行くなら私が付いていきますよ」
「え? わざわざ、付いてきてくれるんですか? ココを警備してるんじゃないんですか?」
「今、他の人に変わってもらったから警備は大丈夫。それに男性一人で外に行くなんて危険だからダメよ、私が付いて行くわ」
 わざわざ、一緒に行ってくれるなんて親切な人だなと思いながら、もしかしたらこれもイベントの一つかと思い、同行してもらうことした。

「私はマリー、よろしく」
「俺は、ユウです。よろしくお願いします」
 互いに、自己紹介して握手をする。すると、パーティメンバーが組まれましたというアナウンスが頭の中に流れた。こんな機能は正常に動いているのに、ログアウトが出来ない。一体どういった原因でログアウトが出来ないのか、本格的にわからなくなってきた。
「じゃあ、早速行きましょうか」
 俺は、マリーを仲間にして、早速草原へと足を向けた。

***

 1時間程をモンスター狩りに時間を費やした。時々、マリーから剣の振り方のアドバイスを受けながらモンスターを狩る。しかも、モンスターを倒すごとに文字通りレベルアップしていくので、剣が軽く感じるようになり、剣の鋭さも高まり、剣で与える攻撃力もアップ。モンスターを倒すごとに、モンスターを倒しやすくなるという現象が起きた。ついに、並みのモンスターなら一撃で仕留められるようになった。
 更にスキルの全力斬りを活用して、モンスターを狩る。スキルのレベルも上がる。
 普通ならば必要経験値は加速度的に増えていくのが普通だと思うのだが、何やらおかしい。さきほどから、レベルアップに必要な経験値は一定のようだ。そのため、レベルに関する数値は、全て上がりやすくなっているようだ。
 おかしいと思いながらも、モンスターを狩っているとやっとモンスターがアイテムをドロップ。
「凄い成長じゃない! 貴方、本当に男性なの?」
 マリーは事あるごとに、俺を褒めてくれる。そして、俺のことを本当に男性かどうか疑った。
 「Make World Online」の世界観設定には、男性が弱い存在だという話は無かったはずだが、どうやらマリーの常識では、男性は弱い存在なのだそうだ。そんな常識を持つマリーだから、剣を振るい、モンスターを一撃で倒していく俺が、本当に男性かどうか疑っている。
「今日は、もう暗くなってきたから、そろそろ街へ戻りましょうか」
 モンスターを何十匹か倒し、アイテムドロップは4回。ドロップで手に入れたアイテムは、街のアイテム屋で買い取ってもらえるようだが。
「これって、いくらぐらいに成りますかね?」
 4回でドロップされた、黄色い薬草2つに、青い宝石2つ。それらをマリーに見せながら、どれぐらいの金額になるか聞いてみる。
「うーん、良く見積もって1000ゴールドぐらいかな」
 ドロップされたアイテムを眺めて、マリーが答えてくれる。この調子で、25万ゴールドを稼ぐにはかなりの日数がかかるだろう。しかも、生活するためのお金も必要だし、アイテムドロップなんて不安定な収入を当てにするのは危険だろう。
 とにかく、今日は街へ帰ることにして早速アイテム屋へと換金へと向かう事にした。

 

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第02話 貰えない、冒険身分証明証

 俺は歩く。

 昨日はすぐに森のほうへ入って、モンスターを狩っていたので、周りを見る余裕はなかったが、じっくり見てみると、とても世界がリアルにできているのが分かった。

 これがVRゲームかと、内心かなり驚いている。
 草木にはしっかりと感触があり、歩くごとに草を踏みしめる感触が足の裏に伝わってくる。近くに生えている草を手にとって見ると、細かな繊維まで見えるようで、こんなところもこだわってゲームが作られていることがわかる。
 太陽の日が輝き、じんわりと暖かい。肌に当たる日光から暖かさを感じる。
 空気を深呼吸して吸い込むと、いろいろな匂いがして、気持ちが良い。田舎にある実家を思い出させる。

「これはすごい技術だなぁ」
 思わず思っていたゲームに対する感想が、口から漏れる。VRゲームについての実際の仕組みについては、俺には難しすぎて正しくは理解していないが、たしか脳内に直接イメージを送ることで、脳内を錯覚させて完璧に近い疑似体験をすることができる技術だという。
 それにしてもリアルだなと周りを見回して、改めて思う。

 そんなことを思いながら俺は、開けた道を歩き続けた。

***

 おおよそ1時間ほどを道に沿って歩いて、町へと到着する。道中、モンスターに襲われることなく、特にこれといったイベントも起きることはなかった。もちろんその間も、ログアウトができないか、色々と試してみたが、結局ゲームから抜け出すことはできなかった。
 最初の村に比べれば建物の数も多いようだが、まだ小さな町のようだった。
 木で出来た簡素な囲いをしているが、よじ登って超えることができそうなぐらいの高さだ。モンスターに対する防護柵が、あの高さで大丈夫なのだろうかと少し不安になる。

 道の先には、木の囲いがない部分がある。多分そこが出入口だろう。あそこから入るのかな?

 門へと近づき、町の中へと入ろうとすると、町の方から鎧を着た門兵だと思われる女性が出てきた。

「ちょっと、待ちなさい」
「あっ、はい、なんでしょうか?」

 呼び止められたので、歩くのをやめてその場に立つ。180cmある俺と同じぐらいの、かなり長身の女性だった。

 しかも、顔がキリッと引き締まっていて、かっこいいという評価をして良いような美人だ。

「見ない顔ね。商人にも見えないし、この町に何の用?」
「あ…っと、ギルドに用があってこの町へと来たのですが」

「もしかして、冒険初心者?」
「えぇ、まぁ」
 昨日冒険を始めたから冒険初心者だろう。

「近くの村から歩いてきたの?」
 その女性は、怪訝そうな顔をしながら俺の頭から足の先までジロジロと見ると、そう聞いてきた。何か問題でもあるだろうか。不安になったが、そのまま答えることにした。
「えぇ、その通りです」
「冒険者身分証明証は?」
 何だそれ? 持ってないぞと焦ってしまう俺。
「その、証明証持っていないんですが」

「……そう、冒険初心者ということはまだ、作ってもらっていないのね、まずギルドに行って冒険者身分証明書を作ってもらいなさい」
 数瞬の沈黙後、さらに疑わしそうに目を向けてくる女性。しかし親切にも作り方を教えてもらうことが出来た。

「わかりました、ギルドへはどう行けばいいですか?」
「入ってすぐのところ、向こうにあるわ」
 なるほど、町に入ってすぐか。俺は、女性の指差す方向を確認する。それだけ言うと長身の女性は、すぐに町の中へと戻っていた。
町の中のどこからか見張られていたのかな。町に入ってすぐに捕まったことから、そう考えたが見回しても、見張り台はない。
 とりあえず、町の中へと入ってギルドに行くか。

 僕は簡素な門を通り、町へと入った。
 外からは聞こえなかったざわめきが、門をくぐることによって一気に聞こえるようになった。こんなに人が居たのか。そして、一目見て活気のある町だということがわかった人の往来も多く、通りにはお店がいくつか構えられており、お客の呼び込みが激しい。
「ん?」
 かすかな違和感を覚えるのだが、その違和感の正体がわからない。ぐるっと一周り見て、大きくカタカナで”ギルド”と書かれた看板が掲げられている建物を発見する。違和感の正体はとりあえず置いておいて、ギルドに行くことを優先する。

 ここかなと当たりをつけて、建物の中へ入る。中は薄暗く、人も受付のようなテーブルで区切られている場所の向こう側に一人居るだけで、他には誰も居ないようだった。

「すみません」
 俺が建物に入ったことも気づいていないようで、虚空を見ながらボーっとしていた男性。年は30台後半ぐらいだろうか、少し薄毛の頭に目が行くが、こんな受付のキャラクターも作りこまれていてすごいなという感想も浮かんだ。声を掛けた時にビクッと一瞬身体をびくつかせて、やっとこちらに目を合わせてくれた。

「びっくりした」
 言いながら、姿勢を正しこちらに身体も向けてくれる。そして俺に向かってこう聞いた。
「どうしました?依頼ですか?」

「いや、冒険者身分証明証を作ってもらいたくて」
「へ、冒険者身分証明証ですか?」
 町に入る前に、長身の女性に見られたのと同じように、受付の男性も俺を頭から足の先までジロジロと見た。何か変だろうか。
 あ、っとその前に、確認したいことを先に、確認しておこう。
「その前に、聞きたいんですけれどゲームの運営側に連絡ってつきます?」
「はぁ……?ゲーム?運営側?ギルドの運営に連絡ってことは就職希望の方ですか?」
 やっぱり、相手に伝わらないか。ここから「Make World Online」の運営チームに連絡を付けることができれば、ログアウトも出来るだろうと考えたんだが。

「いえ、なんでもないです。じゃぁ冒険者身分証明証を作ってもらえますか」
 改めて、冒険者身分証明証を作ってもらうようにお願いする。
「あなた、男性でしょう?本当に冒険者身分証明証を?ギルドの就職希望じゃなくて?」
「え?えぇ、そうですが」
 なぜ、いきなり男性かどうか聞かれるのか、よくわからない質問に戸惑いながらも答えると、受付の男性は額にシワを寄せて、ちょっと待ってくださいと俺に言うと、立ち上がり、部屋の奥へと行ってしまった。

 しばらく待つと、男性が紙を一枚持って帰ってきた。そして男性は紙を読み上げて、俺に説明を始めた。
「男性の方が冒険者になる場合は、次の説明する規定を満たしていないといけないのですよ。第一に、冒険初心者Lv.10を超えた者。次に、冒険者ランクAの推薦状。最後に、男性冒険技術試験に合格した者。以上、3つの条件をクリアしないと冒険者ギルドの冒険者身分証明証を発行できません」
「はぁ……?」
 冒険者身分証明証を発行してもらうためには、どうやら、いくつかの条件が必要らしい。冒険初心者Lv.10は既にLv.10に達しているから大丈夫だろうが、推薦状は持っていない。あと、男性冒険者技術試験というのがよくわからなかった。
「俺はもうLv.10なんで最初の条件はクリアしているけれど、残り2つがダメなようです」
 そう言うと、男性がえらくびっくりしながらこう言った。
「へ?あなたLv.10に既に達していると?本当に?確認させて頂いてもいいですか?」
「えぇ、いいですけど」

 男性にレベル確認していいか聞かれ、それに大丈夫と答える。
「じゃあ、レベルの玉で確認お願いします」
 男性は、言うと受付の裏から出て、建物の奥へと俺を誘導する。レベルの玉?よくわからない単語が出たが、とりあえず男性の後に続こう。
 付いて行くと、少し手狭な部屋に案内された。中央に豪華な飾り付けでボーリング玉ぐらいの大きさの、玉が乗っかった台座がある部屋だ。
「じゃあ、おねがいしますね」
 玉を覗き込みながら男性は俺にそう言う。特に説明もなく、どうすればいいかわからないでいると、男性が気づいて教えてくれた。
「あ、ごめんなさい。手を玉の上にかざしてもらえますか」
 片手でいいのかな? 疑問に思いながら玉に片手をかざすと、玉の中に何やら文字が浮かんできた。
——————
ユウ
Lv.10
職業:冒険初心者
——————

 ステータスの一部分の情報のみがその玉の中に浮かんでいるようだった。これならステータス表示で見せても良かったのに。

「本当に、冒険初心者のLv.10に達していますね。驚きました。男性の方で、しかもその若さでLv.10に達するなんて、よっぽど努力なされたのでしょうね」
「はぁ……」
 男性が羨望と尊敬の眼差しで俺を見てくる。昨日1日鍛えただけなのだけれど、これは言わないほうが良いかもしれない。

「それじゃあ、後は冒険者ランクAの方の推薦状ですね。知り合いの冒険者の方にランクAを持っている方が居ますか?」
 居ないな、と言うかまずこの世界で知り合いが居ない。依頼状が手に入らない。
「知り合いに、ランクAの冒険者の人は居ません」

「それじゃあ、依頼で出しましょうか?」
 依頼?推薦状を依頼で書いてもらえるということか。
「依頼で書いてもらえるのですか?」
 俺の疑問に男性が答える。
「えぇ、珍しいですけれど依頼で書いてもらう方も居ます、ただ金額のほうが……」
 しまったなぁ、やはりお金がかかるのか。
「そうですよね、お金かかりますものね。ちなみに、いくらくらい掛かりますか?」
 男性は、顎に手を当てて考え始める。
「そうですねぇ、最低でも25万ゴールドは必要になるかもしれません。ランクAの方の依頼金額が最低25万なのでね。あくまで最低金額なので、受けてもらえるかはまた別ですけれど……」
まだこの世界の金銭感覚がわからないので、それがどれくらいの金額なのかは分からないのが、万という単位にそれなりの金額であることが感じられる。しかも最低金額というのが怖い。
「ちなみに、男性冒険技術試験ってなんですか?」
 気になっていた、男性冒険技術試験というものについて聞いてみた。
「それはですね、男性の方が冒険者になっても大丈夫かどうか、ギルド側が試験をさせて頂いているのです。試験内容は、詳しくは話せない規則になっているのですが、ただ、Lv.10を越しているということなら、試験を失敗する事はなかなか無いようですよ」
 それは良かった、問題はお金だけか。

 男性にお礼を言って、ギルドを出る。念のためにログアウトを試してみたが、ダメだった。結局、何をすればログアウトが出来るかわからなかったが、とりあえずの目標は冒険者身分証明証を作ってもらって、ログアウトできるかどうか試すことだ。
 金を貯めるために、俺はモンスター狩りに出ることにした。

 

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