10.魔力の目覚め、フシギな力

「ふむふむ、なるほどなるほど」

「なにか分かったか?」

昼食後、ダリヤに早速調べられている俺。
本当はマリアに魔法の基礎を教えるんだったが、
先に俺のことを調べたいとダリヤが言ったので、
マリアは横に居て、座って見学中だ。

今度は、何か水晶のような透明な球を持たせられている俺。

「ソレを光らすことは出来るかえ?」
「コレをか?」

水晶を持ち上げ、ダリヤに向ける。

「そうじゃ」

光らす?
あまりイメージが出来ないが、
とりあえず、球を見つめて集中してみる。
「……」

一向に光る気配はない。
無理そうな感じだが、そう思いダリヤを見る。

「うむ、さすがにいきなりは無理じゃったか」
「コレ、本当に光るのか?」
言って、聞いてみる。
「どれ、貸してみい」
ダリヤがそういうので、渡してやると両手を離して玉が浮かび上がる。

内心ではびっくりしているが、それを声に出さずに見ていると、次第に光り輝く。
光が、胸の一部から頭を経て手に流れて玉に注がれる。
なるほど、ココロを注ぐ感じか。
ココロが見える俺にだけ見えるのか、マリアは玉にだけしか目線を向けていない。

「胸の部分にある魔力を球に加えるようなイメージでやってみい」

ダリヤの”魔力”というのは良くわからなかったが、目を閉じて集中してみる。
先ほどとは違いやり方がある程度分かっているので、その方法を試す。
ココロを注ぐ感じでダリヤと同じような流れをトレースして
胸から頭へ通す感じ、頭を通したら手まで伸ばして、伸ばしたココロを玉に注ぎ込む。

「お、すごいのう。もうコツを掴んだのか。
ワシの教えてない方法もちゃんとできてるじゃないかえ。
それにかなりの光量じゃ」

言われた通り、まぶたの上にかなりの光を感じる。
目を開けてみると、かなりどころの光じゃない、とんでもない光が見えた。
まるで、太陽を間近で目いっぱい見た感じだ。
すぐに目を閉じて、たまに注いでいるココロの量を調節してみる。

先ほど見た、ダリヤの注いだ量を思い出して、同じぐらいに調節してみる。
うん、なかなか上手くいったんじゃないかと思い、目を開けてみると、
先ほどの強烈な光から、ホワっと浮かび上がるぐらいの光になっていた。

「驚いた、もう魔力の調整が出来るようになったのか。すごい才能じゃのう」

光を注ぐのをやめて、ダリヤの方を見て聞いてみた。
「もう良いか?」

「うむ、うむ、なかなか良い才能を持っておる。さすが日本人じゃのう」
「日本人なのは何か関係あるのか?」

「日本人は、もともと魔力の多い種族じゃからな」
「そうなのか」

生きてきて初めての情報。なるほど、日本人は魔力が多いのか。

「うむ、こんなところじゃろう」
「調べたいことは終わったのか?」

ダリヤが終わった終わったと、背を伸ばして身体をほぐしている。
「うむ、ユウト、お主かなりの素質の持ち主じゃぞ」
「それって、日本人だからってやつだろ?」

先ほどの説明で、日本人は魔力が多いとそう聞いたと思ったのだが。

「いや、ちがうちがう。どうやらお主魔力が見えておるじゃろ?」
「魔力が見える?いや、魔力なんて見えてないぞ?」

魔力なんてよくわからないモノ、見えてはいないはずだった。

「ん?お主、わしの魔力をマネして制御しておったじゃろう?」
え?もしかして、今まで生きてきた中で見ていたココロは魔力だったのか?
「ほれ、こうやって真似してみろ」

言って、ダリヤは人差し指をピンと立てて、指先にココロの光を集めたと思うと、
そこから火が噴き出した。

なるほど、ああやってココロを変換させれば火になるのかと学習し、ダリヤと同じように俺も
人差し指を立てて、指先にココロを集めて集中する。

「うむ、そうじゃ。見えておるではないか」

これで確定した。魔力=ココロという事だろう。
今まで生きてきた人生で、見えていたココロ。
こんなところにも影響があるとはな、と思う。

「次は、マリアの番じゃ。しっかりと調べてやろう」
「はい、お願いします」

言われたマリアは、その場に立ち上がってダリヤに近寄っていく。
反対に俺は、マリアとダリヤから離れて座る。

そうか、俺にはこんな力があったのか。
先ほど習った指先から火を出す魔法?を繰り返し行う。
そのまま、ボーっとマリアの魔力検査を眺めていた。

 

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09.昼食前の会話

マリアとダリヤに連れ立って、歩いて行くと、
大きな空間へと出る、中央に長テーブルと椅子が何脚も並んでおいてある。

「なんじゃこりゃ、でっかいなー」
「ワシの城の食堂じゃ、驚いたか?」
「あぁ、驚いた」
確かに城ならこの大きさも納得の、食堂だった。

テーブルの上には3人分の皿が用意してある。
先程の会話通りなら、マリアの作った食事に違いなかった。
「マリア何時も、済まないな」
俺がマリアに対してお礼を言うと、マリアは恥ずかしながらも答えた。

「いいえ、私の好きでやっていることですから」
三人がそれぞれの席につき、食事を始める。
「いただきます」

「お、懐かしいのう。ワシもいただきますじゃ」
ダリヤが俺にならって、手を合わせていただきますと言う。
「あ、じゃあ、わたしもいただきます」
するとマリヤも同じようにして手を合わし言う。
「マリヤ、日本人は食べ物や作った人に感謝の気持ちで
このように手を合わせていただきますといんじゃ。
ちなみに料理を作った人はお粗末さまですと、
謙遜の気持ちを表すんじゃよ」

「そんな理由があったんですね、ユウトさんは毎回
そのようにしていたんで不思議に思っていたんです」
俺の代わりに解説をするダリヤ。
というか、よく知っているな。

「なんでそんなに詳しいんだ?」
確か、前は日本が好きとか何とか言っていたような。

「何故って、ワシも日本に住んでたからの」
「す、住んでただって?」
意外な答えにビックリする。じゃあ、もしかして。

「もしかして日本と行き来できるのか?
俺も日本に帰れるのか?」
「それは無理じゃ」
にべもなく否定られる。

「い、いや住んでたんだろ?」
「ほんの100年前の話じゃ。今は、ゲートが閉めておるから、
日本との行き来は出来んぞ。それに元々魔法使いしかそのゲートを使えんしの」

「はぁ?100年前?ゲート?」
意味がわからない単語に理解が追いつかない。
「ワシが日本に行ったのは大体100年前の話ということじゃ」
「だって見た目子どものお前が100年って?」

「だから言うとろうじゃろうが、ワシの見た目と年齢はつりおうとらんと」
「いやいや、初めて聞く話だぞ?お前一体何歳なんだよ!」
最後の方は叫ぶように言う。
「ふっ、女性に年齢を聞くのは失礼に当たるぞ」
「そういう問題か?少なくとも100歳以上なんだろう?ずっとその見た目のままなのか?」
と、言うとマリアが補足して説明してくれる。

「ダリヤ様は、私の小さい時から今のお姿でした」
「うむ、ワシの身体はもう成長しないからな、昔からこの姿じゃ」

「あー、うー、そうか、そういうことで理解するとして、ゲートってなんだ?
なんで閉められたんだ?なんで魔法使いしか使えないんだ?」

「1つずつ説明するぞ?ゲートとは異世界とを繋ぐ扉のことじゃ。
日本もその扉の出入口の一つじゃった。
その他にもマクワルトやヘカシュタにも繋がっていたな、
といっても日本以外の国については言ってもよく知らんじゃろうがな」

たしかにそのマク何とかやへク何とかは聞いたことがなかった。
マリアに目を向けたが、首を横に降ってわからないと返す。
どうやら、その異世界の名前は一般的な名称ではないようだ。
「続けるぞ、そのゲートを閉じられた理由は、
意図しない訪問者が後を絶たなかったからじゃ。
意図しない訪問者とは、
異世界からエイロスに、つまりこの世界に無意識に来る人間のことじゃ」
無意識に?俺のような人間のことだろうか。

「そういった人間が絶えず来るようになったために勇者山田一郎が
魔法使いにゲートを閉じるように命じたのじゃ」
山田一郎だって?日本人が勇者をしていたっていうのか?
と、マリアがまた補足して言ってくれる。
「勇者ヤマダの伝説は、子どもに語って聞かせる昔話として有名ですよ」
「うむ、その山田一郎が、これ以上意図しない訪問者が増えないようにゲートを閉ざしたのじゃ。
ソレが100年前の話。閉じたのはこのワシ。
閉じる前に1度日本に住んでみたくてのう、
1年ほど日本で過ごしたのじゃ。あの時は楽しかった」

「魔法使いしか使えないというのは?」

「ゲートを通るときに魔力を制御できないと、
魔力で身体が弾けてしまうためじゃ」
弾ける?恐ろしい単語を危機身震いする。
「だから、魔力を制御できる魔法使いじゃないとゲートは通れないんじゃ」
だが、今俺はこの世界にいる。何故だ?
「俺は、日本からこの世界へ意識せずに来た。俺も意図しない訪問者じゃないのか?」
「ソレが問題じゃ。確かに魔法の制御が出来ないままでもゲートを通れるものは少なからずおるんじゃ、
しかし、ワシがゲートを閉めてから異世界から来る人間は一人もおらんかったはずじゃ。
少なくとも、私が監視している間は、一人も出入りはしていなかった」

ダリヤは一度目をつむり、考えるような仕草をしてから更に続けた。
「ワシが見逃したのならゲートを締め直すだけで良いのじゃが、
他のルートから来たとなると、ちと厄介じゃな。他のゲートが出来たのかもしれん」
「俺は、帰れないのか?」
帰る気などは無いのだが、自然にそう口に出てダリヤに帰れるかどうかを聞いていた。
言うと、ダリヤは目を開けて改めて俺を見る。
「とにかく、今すぐには無理じゃ。それに、一度お主を調べる必要があるようじゃな」
そう言うと、ダリヤはすぐに俺から目線を外し昼食を食べ始めた。

 

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08.気絶からの目覚め

「起きて下さい、ユウト」
前回と同じように起こされる俺。

「っと、おはよう。マリア」
身体を起こし、眠気を一気に冴えさせる。

「おはようございます、ユウト」
「ところで、昨日はどうなったんだ?あ、いや、今朝の出来事か?」

マリアは、俺の言葉に一度頷くと言う。
「今朝の出来事です。ダリヤ様の空間跳びに耐えられなかったのか、
ユウトはあの後気絶してしまって」

「空間跳び…」
と呟くとマリアの居る方とは逆の方向に彼女は居た。
いきなりしゃべりだし、ビックリする。

「そうじゃ、あの時は急いでいたから説明できずにすまんかったのう。
まさか、あんなに耐性が無いとは」

耐性?上下左右がわからなくなり、意識がぼやけてしまってしまった事だろうか。

「それで、ココは?」
「ワシの城じゃ」

「城ぉ?」
確かに、このベッドの上から見える内装はかなりしっかりしている。
真白な壁に、じゅうたんがしっかりと敷いてあり、
ベッドもスプリングが効いていて、シーツも綺麗だとかなり良いものだと分かる。
窓は無いので、外の様子はよく見えない。
しかし、言っては悪いが、マリアの家に比べると何倍も綺麗だった。
そんな一室を俺を寝かせるために使っているのなら、
他の部屋もさぞ、きれいな造りになっているだろうと想像する。


「それで、なんで、そのダリアの城なんかに居るんだ?」
「お主、ワシのことは、偉大なる魔法使いダリヤ様と呼べ」

なんとなく気に食わないが、ダリヤ様と呼ぶことに。
「…それで、ダリヤ、様の城になんで俺とマリヤが?」

二人が説明してくれる。
「ふふん、お主はついでじゃ。目的はマリアのみ」
「以前から、お城の方に来るようには誘われてはいたのですが、
あのレンガの家に、未練があって今まで来ることが無かったんです。
それが今朝…」
「あのワワラルズの村の者が、とうとうマリアを害そうとしておったのを、ワシが知ってのう」

そういうこともあるものかと思いつつ、次に気になったのは、
「マリアを連れてきた理由は?」

「マリアには、特別な魔法の素質があってのう」
「魔法の素質?」
「そうじゃ、マリアの持つ、魔力。
その魔力の純度が凄まじく良くてのう。
この魔力の制御を鍛えれば、かなりの魔法使いになるじゃろう」

「そういうわけで、私はダリヤ様に魔法を教えてもらうべく、
このダリヤ様のお城へと来ました」

魔法、昨日の朝見たものや、今日の朝に見た物のことだろうか。

「それよりも、昼食ができているので、食べましょう」
「そうじゃったそうじゃった、今朝のマリアの朝食は大変美味じゃった、
お昼も期待できそうじゃ」

俺は、ベッドから身体を出して、二人の歩く後を付いていく事になった。

 

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07.急展開

「起きてください、ユウト」
「ん~、どうしたマリア」

夜遅くに、彼女は俺の肩を叩いて起こす。

「シー、静かに。問題が発生しました。申し訳ないんですが、
今すぐ家を出ないといけないんです」
声を潜めて、そう言う彼女に、何故と質問する。
「一体どうしたんだ?家を出る?」

「すいませんが、必要な荷物だけ準備してください、
もうこの家に戻ってこれないと思いますから、必要なものは必ず持って来てください」
言って、彼女は部屋を出て行った。

準備をして、と言っても、スーツを畳んで風呂敷に包み、肩に掛けるだけで、
家を出る準備が出来た。

居間に行くと、真っ暗闇の中に、薄ぼんやりとした火の光。
マリアは弓を片手に、俺と同じような風呂敷を方から下げていた。

「準備は良いですか?もうこの家に戻ってこれないと思いますから、注意してください」
「どうしてだ?」
「後で説明します。付いて来て下さい」

何時も使っている正面の玄関ではなく、裏の扉の方へと回る。

マリアは扉をそっと開け、外を注意深く伺った。
やがて、少しだけ開いている扉の間に身体をすりこませて、外へ出る。
俺もあとに続いて、窮屈な扉から外へ出ると、マリアが中腰になりながら、辺りを伺っている。

そうやって、一番近くの林の中まで、中腰のまま進む。
俺も、同じような格好でマリアの後に続く。

「ふぅ、もう大丈夫だと思います」
林の中へ入るなり、マリアが言う。
そして、林の中へと歩き出す。俺は彼女について生きながら尋ねる。

「一体どうしたんだ?」
「…私達が、村の人達に避けられているのは気づいていましたか?」

「あぁ、避けられているとは思っていたが」
「それで、今夜、私の家が襲撃されるとダリヤ様から連絡があって」
襲撃?そして気になったのは、
「ダリヤって、確か今日の朝出会った魔法使いか」
「えぇ、そうです。夕食の時に話した、魔法使いのダリヤ様です」

「襲撃って何故?」
「…もともと、私は村を出るように言われていたんですが、勝手にあの家を借りて生活していたんです」

勝手に?どういうことだ。マリアは、質問する間も与えてくれないまま、話を続ける。
「それで業を煮やした村長が、今夜村の人達と一緒に私を村から追いだそうと画策したらしくて」
「なんで今夜なんだ?」

「多分、畑の収穫が終わって、今朝ダリヤ様に畑のご加護を授かったので、今日だったんだと思います」
話しながらも歩を進めていたマリアが急に止まる。

「ちょっと待っていて下さい。……ダリヤ様、今家から抜け出してきました」
前半部分は俺に向かって言い、後半は手を前で組み、目を閉じて祈るようにして呟く。

と、林がガサガサとなったと思うと、空から女の子が落ちてきた。
「とぅ!」
掛け声とともに、上手に着地する。
女の子は立ち上がって、ローブの汚れを叩きながら言う。
「待っておったぞマリア!だから言うたじゃろうが、早く家を出ないと危ないぞと」
「ご心配をおかけしました、ダリヤ様」

「良いんじゃ、良いんじゃ、家を出る決心をしてくれたならのう」
ダリヤがこっちを向く。
「それで、この日本人も一緒にいくのかの?」

「そうです、ご迷惑をおかけするのですが、どうしても彼を置いて行くことは出来なくて」
「良い良い、マリアが来てくれるなら男の一人や二人増えたところで問題ない」

「話について行けてないようじゃが、あとで説明してやる。今は、わしの手を握れ」
と差し出された、小さな手。
言われたとおりに、その柔らかい手を握ぎる。
片方の手にはマリアも同じようにダリヤの手を握っている。

「良し、飛ぶぞ」
ダリヤが何事かを叫ぶと、周りの景色がグニャッと曲がり、
俺も上下左右がわからないような不思議な空間へと飛ばされる。

「な、なんなんだ、一体」
そこでプツンと意識が切れた。

 

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06.女の子?

今日も、マリアとレンガの家の前で別れて、畑へと向かう。
最近、この畑を耕すというのが完全にルーチン化されて困っている。
このままじゃ、一生マリアの世話になりっぱなしだなぁ、なんて考えていると、
畑の前に真っ黒のローブを着た子どもが一人しゃがんで居るのが見えた。

おかしいなと思う。

どうやら、この村で俺は避けられているらしく、
村民を時々見るが、話しかけることも出来ずに逃げられる。
そしてマリアもどうやら村人から避けられているのか、避けているのか、
どっちかわからないが、村人とマリアが話し合っている所を見るのは、ほとんど無い。
ほとんどと言っても、村人とマリアが話しているのを見たのは、
初日の村長の息子だったヤツと話した所を見ただけの一回だ。
1週間、ソレ以外で見ることはなかった。

考えてみると、レンガの家がある場所は村から少し外れたところにある。
そして麦畑も、村から結構な距離を離された場所にあって、村民が近づくことはこの1週間なかった。

しかし、今目の前には子どもがしゃがんで、顎に両手を当てて居る。

おかしいと思っったが、調度良い機会だとも思う。
村人になんで避けられているか、この子と話して探ってみよう。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
とりあえず、無難に怪しくないように言葉を選んだが、
客観的に聞くと、どうしても怪しく聞こててしまうような言葉を言う。

「なんじゃ、お主は?ココはマリアの畑じゃぞ」
妙な年寄り臭い言葉遣いで返される。
声を聞くと、どうやら子どもは女の子だったらしい。
その彼女が、しゃがんで両手を顎に当てたまま顔をこちらに向ける。

「いや、そうなんだけど、マリアに頼まれて俺が耕して畑を大きくしてる途中なんだ」
「む、お主、マリアの知り合いか?マリアは今何処に居るんじゃ?」

「今日も、アーデンの森に狩りに行ったはずだけど」
「なんじゃと!マリア、約束をすっぽかす気かの」
そう言うと、立ち上がって身体をこっちに向ける。
ローブで良くは見えないがココロの均衡のとれた真円に、驚く。
この子は、ココロを全く動かさずに居る?
今まで、ココロをこんなに動かさない人間に会ったことがなかった。
多かれ少なかれ、ココロというものは常に動いているものだというのに。

それに、ちっちゃい、身長140cm無いんじゃないのか?

「む、今、お主、ワシのことちぃっちゃいとか思わんかったかの?」
小さいくせに、妙な迫力がある。言葉遣いも変だし。
「イヤ、そんなことよりも、君は誰だい?」
「なんじゃぁ、畑を頼まれているのにワシのことは聞いとらんのか?」

マリアが何か言っていただろうか?記憶を探っても、女の子のことは分からなかった。
「ふっふっふっ、」
女の子がバサッとフードを取る、
「知らざあ言って聞かせやしょう!
名せえゆかりの魔法使いのパタノフ・ダリヤたぁ、ワシのことじゃあ!」

「は?」
「なんじゃ、お主、日本人じゃないのかのぉ?」
一気に白けた風に、彼女は言う。

「いや、日本人だけど?いきなり何なんだ?」
「なんと!日本人なのに知らぬのか、せっかく日本人に会った時用に練習しておったのに、
分からんとはやり甲斐の無いヤツじゃのぅ」

あまりにもあんまりな自己紹介、歌舞伎か?
え、日本人ッて聞いたということは、
「日本を知っているのか?」
「知っとるも何も、ワシは日本が大好きじゃ」

両手を腰の左右に当て、胸を思いっきり張って、フフンと何だか自慢げだった。分からん。
そして、もうひとつ気になる点、魔法使いって言ったか?
「魔法使いなのか?」
「本当に聞いとらんのか?マリアも気が利かんのう」
「なんで魔法使いがこんな所に?」
マリアに聞いた話だと、魔法使いは本当に少ないらしく、大陸中でも10人はいないらしい。
そんな人間が、こんなところで何してんだと真面目に疑問に思う。

「まぁ良いか、お主、マリアの知り合いということは、あとでマリアに言うてもらえば良いか」
こっちの話もよく聞かずに、その女の子は話を進める。
そして、よく分からないことを言いながら、自己解決しているふうに、何度か首をウンウンと振ると、
ローブに手を突っ込み何かを取り出す。
「おぉ、魔法使いっぽい」
取り出したのは、15cmほどの長さの木の棒。あれは、魔法使いの杖なのか。

「ちょっと下がっておれ。そしてよく見ておれよ」
言い、なにか唱え始める。俺は、彼女に言われたとおり少し下がる。
何を言っているのか俺には理解できないが、どうやら魔法を使う気らしい。
彼女は、唱える呪文が終わったのか黙りこくると、杖で大きく円を描いた。
瞬間、光が差して目が見えなくなる。
「ぐぁ、眩しい」
腕で顔を覆うが、まだ目がチカチカする。

「ほれ、終わったぞ」

目が見えるようになって、畑を見たが特に変化はなかった。
「ん?何も変わっていない?」

「土にちょっとした力を加えただけじゃから見た目は変わらん。
ソレよりも耕した部分もついでに、魔法を掛けておいた。感謝するんじゃぞ」
「は?」
よく意味がわからない。
「じゃ、今年も畑に魔法を掛けておいたと、マリアに伝えるんじゃぞ、では、さらば!」
「は、ちょ、ちょっと待て、意味が分からん。お~い」
どこからか飛んできた箒?を掴むと、あっという間に、その箒に乗って飛んでいって見えなくなった。

「一体何だったんだ?」
意味の分からない、女の子だった。

 

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05.1週間が経つ

あの後、腹ペコだった俺は、マリアに食事を作ってもらい食べた。
マリアに頼りっきりになってしまい、非常に申し訳なかった。

マリアの料理はとっても上手く、その時食べた肉は今までに、
食べた中で一番うまかったと言えるぐらいに素晴らしかった。。

夜は余っている部屋があると、1部屋を使わせてもらうことになった。
その時に、マリアが一人で暮らしているということを本人の口から聞いた。
詳しい内容までは、さすがに聞けなかったが、
とにかく一人暮らしだということは聞いた。

翌朝、朝食も作ってもらって、恐縮していると早速仕事をお願いされる。
もちろんと即答で、彼女と一緒に畑へと出る。

まずはじめにしたことは、麦畑の収穫からだった。
初めての作業だったので、マリアに一から教えてもらい作業する。
マリア一人で管理している畑らしくて、
そんなに広くないので収穫も1日ですぐに終わった。

「ユウトが手伝ってくれたおかげで、早く収穫が終わりました」
つきっきりで、教えてもらっていたから、
むしろ作業効率が落ちたんじゃないかと心配していたが、
ココロの動きを見ると嘘を付いているようには見えなかったので、
安心した。

それから、狩りの仕方も教わったが、
こっちは才能がないのか弓を打つことも出来ずに、
獲物を仕留める以前の問題だった。
「これは、少しユウトには難しいみたいです」

それから俺の担当は、畑を耕すことになった。
マリアは、管理しきれない畑を持て余していたので、
その畑を新しく耕して欲しいのだそうだ。

できる事もないので、畑を耕し日がな一日を過ごす。
マリアは、毎日狩りへと出かけるので、会うのは朝と夜だけになった。

狩りの能力が自分にないことを非常に悔やむ。
なるべくなら、マリアと一緒に行動したいがそうもいかなくなった。

しかし、朝と夜の食事の時はいつも一緒で、色々なことを話した。
例えば年齢の話。
マリアは、19歳の少女らしかった。大人びているので、
20歳は超えていると思っていたが、外れていたようだった。
逆に俺が、27歳だと教えると、彼女はびっくりして言った。
「ずるいです」

例えば、税金の話。
もうすぐ、1年に1度の税金を払わなければならず、
準備が大変だということ。
その話を聞くと俺は、そんな大事な時期に厄介になっている事に、
どうしても申し訳なくなり謝る。
彼女はびっくりして、すぐに否定する。
「大変ですけれど、好きでやっていることですから、
ユウトが謝らないでください」

例えば、魔法使いについての話。
どうやら、この世界には魔法という物が存在しているらしく
、魔法使いが居るそうだった。
魔法使いは豊富な知識を持っているので、ユウトが帰るための方法の、
なにか手がかりになるかもしれないとマリアは言う。

そのような事を話しながら、食事をする。
俺にとっては、前の世界では味わえなかった楽しい時間であった。

そして、この世界にきてから1周間が経った。

 

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04.そして、これからどうするか

マリアは早足で、俺の前を進む。
しまったなぁと思う。
あまりにも急だったんで、先程の言葉、
お世辞を言ったように思われただろうか。

「着きました、ココです」

レンガ造りの小さな家だった。
小さいが趣があり、なかなかよさそうな雰囲気の家だった。

彼女は、扉を開けると直ぐに中へと入った。
俺も続いて入る。

部屋の中は、薄暗くなっていた。
と、彼女がランプに火を灯して一気に部屋の中が明るくなる。

そこは、居間なのか木で出来たテーブルと椅子以外には特に目のつくものはない。

マリアは着ていた黒のマントを脱ぎ、持っていた弓と一緒に壁へと掛ける。
狼の死体は床へ置いた彼女。

「今、地図を探してきますから、ちょっと待っててくださいね」
言うと彼女は部屋の奥へと行き、見えなくなった。

俺は一日ずっと歩いていたので、足がもう限界ギリギリだった。
近くの椅子を借りて、座ることにする。

帰ってきた時に出迎えがなかったのを見ると、彼女は一人暮らしなのだろうか。
それとも今は仕事で出ていて、これから帰ってくるところなのか。
ボーっと部屋の中を眺めてみる。

「地図ありました、どうぞ」

そんなことを考えていると、すぐに戻ってきた彼女。
言って、丸く包まった羊皮紙?を俺に見せる。
丸まっていたソレを広げ、テーブルの上へと置く。

見てみると、かなり大雑把に城と街村の位置だけが書かれた地図だった。
というか、文字も普通に日本語で城の街村の名前が読めた。
「見覚えはありますか?」
地形の形は、見覚えはない。左側に大きな海があるらしく、しいてあげるならば、
ヨーロッパの地形に近いような気もするが、城の名前も街の名前も全く分からなかった。

「ダメだ、分からない」
「…そう、ですか」
多分ダメだろうと思っていた俺と違い、
この地図に希望を持っていたマリアは、
俺以上に、残念がっていた。

いよいよもって、異世界に来たのだという考えが強くなる。
もしかしたら過去にタイム・トラベルしたのかとも思ったが、どうも違うようだと直感が告げている。

困ったのは、これからどうするかということだ。
元の世界へ戻るにはどうするか。

でも、改めて考える。

元の世界へ帰りたいと聞かれたら、絶対に帰りたいとは思えない状況だった。
何のために帰る?仕事?生活?恋人?友人?
仕事を生きがいにしていたわけじゃないので、絶対に帰りたいという理由にはならない。
この世界で俺は、生活は出来るかどうか。
世界全体がそうだと分かったわけではないが、
今日一日で見た分だと、この世界はあまり近代文化的ではないということだ。
この中世時代のような、機械がない世界で、生きていけるのか?
そう自分に聞いてみるが、それも絶対に必要ってわけじゃない。
帰りたいという理由にはならない。
恋人もいなかったし。友人も、仕事関係の人たちしか顔が浮かんでこない。
思い返すと、友人なんて…。
住んでいた場所に未練がないなんて、
改めてみると考えると、なんとも寂しい人生だなぁ。

じゃあ、この世界で生きていくのか?
生きていくためには、仕事をしないといけないな。
この世界で俺は何が出来るだろうか。
仕事では、営業とデスクワークを半分半分でやっていたから、
多少の交渉事はできるけれど、体力仕事となると難しい。
考えられる仕事はファンタジーもののお約束、農業に、商業、鍛冶、ぐらいか。
この中だったら商業が一番向いていると思うが。

ダメだ、何をやるにしても、資金、資源が何もなさすぎる。
俺はこの世界のお金を1円も持ていない。


ここは恥をかき捨てて、彼女に頼るしか無い。
結局そういう結論に辿り着き、彼女を頼むことにする。

「俺を雇ってくれないか。何が出来るか自分ではまだ分からないが、何でもやるから、俺を雇ってくれ」

「良いですよ」
ニコニコとあんまりにあっさり言ったので、聞き間違えかと思った。
「俺を雇ってくれるのか?」
「ん~雇うというか、しばらく家に居てもいいと言っているのです。多分、今貴方を追いだすと、後悔すると思うので」

後悔?後悔とはどういうことかと気になったが、
あまり藪を叩いて蛇を出すような行為はしたくないので、
俺は、ただただ彼女の好意に甘えることとした。

そして俺は、運良く異世界に来て一日目で、
住む場所と仕事を確保することが出来た。

 

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03.ワワラルズの村

彼女の後を付いて歩いていく。
途中俺は疲れきって歩くのが精一杯で、何も喋れないでいた。
彼女も、特に何も言わず前を歩いた。

30分ぐらい歩いたところで、森を抜ける。
森を抜けると、どこまでも続くような草原が見える。
目の前は小高い丘になっていて、空と地面との境がくっきりと見える。

そういえば、最近はずっと自宅と会社の行き来だけで、
こんなにきれいな草原もずっと見てなかったなと思い出し、
おもいっきり深呼吸をしてみる。

こういう場所で、空気を吸うと本当に気持ちい。
空気にも味があるように感じる。緑のような森の味。

「すいません、もしかして私歩くの早かったですか?」
彼女は心配そうなココロで俺に聞いてくる。

どうやら、深呼吸したのを見て、俺がよっぽど疲れていたのだろうと思ったのだろう。
「いや、あまりにも綺麗な風景に、チョットな」
俺がそう返す。

「……?この辺りは、王国方までずっと草原が続いてますし、そんなに珍しい景色でもないですよ」
彼女は不思議そうにそう言う。


「とりあえず森を出ましたが、ニホンへ帰る道は分かりますか?」
「いや、分かりそうにない」
そもそも、ココが何処なのか、森を抜けても分からなかった。

「それじゃあ、一度ワワラルズの村に来ますか?そこなら、地図も見れるので、帰る道が分かるかもしれません」
彼女は、何故か嬉しそうなココロをして言う。

ココで彼女と別れるともう二度と会えない、そんな気がして
できればもっと一緒に居たかったと思っていたので、ちょうどいいとすぐに返事を返す。
「あぁ、すまないが、村まで連れてっていってくれ」

「もう少しで日が暮れそうなので、少し早めに歩きたいんですが大丈夫ですか?」
「あぁ、かまわない」

俺と彼女はワワラルズの村へと道を進める。

***

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、、、、」
「ユウト、大丈夫ですか?」

日が暮れる直前で、何とかワワライズの村へと到着したようだった。
少し早めといった彼女だったが、少しなんてもんじゃないスピードで進むので、
息が切れ切れになっている。

途中、彼女が俺をおぶりましょうかなんて言ってきたが、
そんなこと女性にさせるわけにはいかないと、断った。

ただ、不思議に思ったのが、思った以上に自分に体力が有ったことだ。
最近は運動不足で、1階から2階へ階段を普通に登るだけで息を切らしていた俺が、
彼女に1時間以上もの早足に着いて行けたから、思った以上に俺には体力があるんだなと、
妙なところで自分の身体が健康だった事を確認できた。

いや、もしかしたら彼女と離れたくないという気持ちが強すぎて、
ここまで付いてこれたのだろうか。

膝に手をつき、休んでいたが息が整い、何とか身体を起こす。
「ふぅ、、、もう大丈夫だ」

「それはよかったです」
ニコニコと彼女のココロが笑う。
それだけで、先ほど感じていた疲れが癒された。

ワワラルズの村は、のどかに見える村だった。
遠くの方に畑のようなものが一面に広がってるのが見える。
黄金色に見えるが、麦畑だろうか。

「おい、ブス。その男は誰だ!」
キンキンした甲高い不快な声が、耳に届く。
声のした方を見ると、マリアと同じぐらいの身長160cmぐらいの小柄な男が立っている。
見たところ、どうも難儀なココロをしているようだ。

「彼はユウト。アーデンの森で会いました」
「は?アーデンの森でだと?それは本当か、ブス」

アリスが首を縦にふる。
不快そうに鼻を一度鳴らすと、次に俺の方に目を向けた。
「貴様、この村になんの目的で来た」
「さあな、なんでここに居るのか、俺にもわからん」
「何だその言葉遣いは!俺を誰だと思っているんだ!」
知らねぇよと心のなかでつぶやく。
面倒なことになりそうな予感がしたので、
俺は黙ってそいつを睨むだけにした。そいつはまた鼻を鳴らすと
「背が高いからって生意気な野郎だ。おいブス、早くこの男を村から出て行かせろ!」

「しかし、彼は困っています。今、村から出すことは出来ません」
彼女の反論を受けると、舌打ちをして踵を返して何処かへと歩いて行った。

「なんなんだ、あいつは?」
「このワワラルズの村長の息子ジャスタス・ヒルトンです。
……ごめんなさい、彼はこの村の村長の息子として、村を守ろうとして、
村の外から来たユウトにああいう態度を取ったんだと思うの。
普段はもっと優しい人なのだけれど」

あいつは村のためなんて、そんな殊勝な気持ちで言ったんではなくて、
単純に俺を気に入らなかったから、そう感じたが。
「それよりも、君を何度もブスと言っていたが」
「それは仕方のない事です。私はあまり容姿が優れていませんから」
信じられない思いだった。
「そんなことを言うな、マリア。俺は生きてきた中で君ほど優れた美人に会ったことは無いよ」
生まれて初めての口説き文句だったが意外にスラスラと言えた。

ココロを真っ赤にさせる彼女を見て、
「え~っと、、、あっ、家に案内しますね!付いてきてください!」
声を張り上げ、家へ案内するというマリア。
仕方なく、またついていくことにする。

 

 

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02.現状把握

「…ロサ・マリア」
彼女の名前で聞き、俺は口の中で彼女の名前を小さく呟く。
まずはじめに思ったのは、ココロと同じように、”マリア”という清楚な名前であると感じたこと。
そして、日本人離れしたココロから、
日本人ではないだろうというのはわかっていたが、
名前からも日本人でないことが分かる。

「良い、名前だね」
マリアの喜ぶココロを見てみたいという気持ちが半分と、
ほんとうにそう思った気持ちをマリアに伝える。

「あの、…ありがとうございます」
深々と頭を下げて言う。
喜ぶココロを見せてはくれなかったが、照れるココロを見せてくれたので良しとする。

マリアのココロにばかり目が行っていたが、改めて見ると格好もどこか見慣れない服装だった。
昔にネットで見た、アフガニスタンのなんと言ったか、正式名称は忘れたが、
民族衣装というのだろうか。それに近い。

黒いスカートの下にズボンを履いて動きやすくしているのだろう。
同じく、黒のマントを羽織り、背中にはマリアの身の丈と同じほどもある160cmぐらいの
大きさの弓と何本かの矢をマントの上から斜めに背負っている。

「ところで、ココは何処だか教えてくれないか」
とにかく、現状をしっかり把握して次に起こす行動を、
決めないとイケないと考えて、場所を聞く。

「ここは、アーデンの森と呼ばれている場所です」
「アーデン?」
聞いたことのない場所だった。
名前の語感から、ヨーロッパあたりなのだろうか。
でも、彼女は普通に日本語を話している。
知らないうちに拉致されて、知らないところへ放り込まれたのか。
そんなことはあるのだろうか、一体何が目的なのか。ドッキリ?

「そうです、アーデンと呼ばれる精霊様が住む場所です。
本当は男性は入っちゃダメなはずなのに。なんで貴方はココに居るんです?」
言い方は特にキツさは感じず、本当になんでだろうと疑問に思ってそう言っていることは、
マリアのココロを見て分かった。

「俺もよく分からずここに居るんだ」
言って、嫌な考えが頭によぎる。
精霊だって?精霊信仰なんて言葉を聞いたことがあるが、多分そんな話じゃないだろう。
宿っているという言葉じゃなく、”住む”なんて言葉を使っている時点で、
精霊が実在しているかもしれないという考えに至る。

マンガやアニメによくあるような”異世界”へと来てしまったんじゃないだろうか。
突飛な考えだったが、そうとしか考えられなかった。

「…チョット聞きたんだけど、日本って場所を知ってる?」

「ニホン?…わかりません」
日本語を普通に話しているから、日本という国を少しでも知っているんじゃないかとも思ったが情報は得られない。
それに、そもそも今いる場所は異世界だって仮定で話を進めると、
彼女は日本なんて国を知っているはず無いと思う。

しかし次に彼女はこう続けた。

「でも、聞いたことのあるような気がします。なんだったっけ?」
顎に右手を当て、考えこんでいる。
思い当たるだって?
じゃあ、さっき考えた”異世界”と言うのは、考え過ぎだろうか。
ココが辺境の地で、日本という国を知らないということはありえるだろうか。
じゃあなんで日本語が通じてるのか、って話に結局戻るけれど。
考え事を深めていこうとすると、マリアが言う。

「とにかく、男性がこの森にいると聖霊様に怒られてしまいますから、
早く出ないとイケないですよ、案内しますから外に出ましょう」
「すまない、案内を頼む」

「っと、そうだ」
彼女は、何かを思い出して進もうとしていた足を止めてクルッとこちらに向き直る。

「忘れるところでした。ちゃんと持って帰らないと」
言って、先ほどの狼に近づくと、胸の辺りからナイフを取り出す。
「お、おい」
「あ、血抜きするんでちょっと待っててくださいね」
そう言いながら倒れていた狼から矢を抜く。
彼女は何処かに持っていたナイフを取り出し、
躊躇いもなく、狼の胸に突き刺す。
刺された狼は、刺された箇所から血を流し出した。

あまりにも手慣れた様子に、関心さえする。

血が流れ出すのが止まるまで、彼女はそっと狼を撫でていた。
血が止まると手足を、これまた何処かに持っていた紐で縛り、
手足に結んだ紐の先を弓にへと結びつける。
狼は見た目には結構でかい様に見えるが、彼女はそれを軽々と担ぎあげた。
「お待たせしました、それじゃあ行きましょう」

言って彼女は歩き出した。
俺はひとつ頷くと、彼女の後をゆっくりとついて行った。

 

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01.森での出会い

びっしょりとかいた汗に不快感を覚えながら、目を覚ます。
濡れたYシャツが更に、身体が冷やして寒さを感じる。

起きた時にまず目についたのは、木だった。
辺り一面が森だった。
理解が追いつかず、まずココがどこなのか、思考を回転させる。
地面から、身体を起こして、座り直すと、ぐるりと身体を回して、
周りを見回すが、やはり木や雑草しか見えない。
小さな白い花がチラと視界の隅に捉えたが、花を楽しむ余裕なんてなかった。
記憶の中には無い場所。
俺は知識にある公園や山に似た風景は無いかと考えたが、
こんなにずっと先まで木が茂っている、深い森は記憶にはなかった。

「……森?」
何度見なおしても出てきた結果は、初め見た感想と何ら変わりなく、
結局何も分からなかった。

「って…え?」
目覚める前の記憶を思い出す。
確か、女に突き飛ばされて、電車に轢かれたんじゃ。
そんな記憶がある。

しかし、身体を調べてみてもどこも傷ひとつもなく、
着ていたスーツも、今は土が付いているだけで、
破れたりしていないし、他に異常はない。
あの状況で、助かったのだろうか。
それとも、本当は今夢を見ているだけで、
現実は病院のベットの上だったりしてなんて他愛のないことを考える。

電車に轢かれそうになった時には手に持っていたはずのビジネス鞄は、
辺りには見当たらない。

立ち上がり、スーツの後ろに付いていた土を払う。
と、腕時計をしているのに気づき、今の時間を見ようとしたが、
腕時計は壊れてしまったのか、12:28の時間で止まっていた。
昼の12:28だろうか、太陽が真上にあることを考えると、
昼ぐらいの時間帯だろうが、
それより前に壊れていたとしたら。
例えば夜中の12:28に止まったのだとしたら、
今の時間は太陽を見た感じから、昼頃だろうという推理以外、
特に思いつくこともなかった。

もう一度辺りを見渡したが、変わりなく森のままだった。
立ち上がった視線の高さから見たら、
ビルが建ってるのが見えるかもと思ったが、
木が俺の視線よりも高くあり、視界を遮ってしまっていたのでよく見えない。
周りを少し調べてみたが、ビジネス鞄は見つからなかった。
誰かに持って行かれたのだろうか。

あの鞄に財布とかカード、免許証があるから、失くした時の手続きが面倒なのに、
なんて、今の状況を全く把握しないで現実逃避をしながらも、
とりあえず森の出口を探して、歩くことにした。

***

「ハァ…ハァ…ハァ…」
どれ位歩いただろうか、時計も止まって時間が分からず、
体感的には4時間ぐらいだろうか、休憩もせず歩いたが森から出られる気配がない。
この広さから、もしかしたらいつの間にか富士の樹海へと来たのだろうかと思った。
でも、樹海に来た記憶もないし、何故樹海なのかもわからない。
しかし、イメージにあるような樹海の暗さは全然なく、太陽も見えている。
森には、太陽の陽が指し、明るい。
本当にここはどこだろうかと、何度も考え、全く分からず、歩き続ける。
一刻も早く、この森を出たかったからだ。

と、後ろから不自然な木の擦れる摩擦音が聞こえた。
「…ハァ…誰か、居るのか!…ハァ」
息を切らしながら音がした方へ向く、
そして音の聞こえた方向に声を掛けてみるが返事はない。
しかし、たしかに音を聞いたのだ。

ガサッとひときわ大きな音を立てて、何かが物陰から現れる。

物陰から出てきたそれを見て、
最初は、犬かと思ったが、犬の表情よりも鋭い眼光と牙。
次の瞬間、直感的に狼だと結論にたどり着く。
それも、数頭居るようだった。ワラワラと森の影から狼が現れる。

「…くっ、っ」
ジリジリと近寄ってくる狼。
何とか逃げようとするが、動いた瞬間に、俺の喉元に飛びついてくるビジョンが浮かび、
そのせいで動けないでいる。

と、こちらをジッ見ていた狼がいきなり視線を外して、あさっての方向を見る。

今のうちに逃げようと、逃げるときに一気にダッシュするために
中腰になった時、変化が訪れる。
細い棒のようなものが狼に突き刺さっていた。
狼はビクンと跳ねて、大きく一声鳴くと、地面へと横たわった。
「え?」
口から空気が漏れる。
急な展開についていけない、棒の先には羽のようなものが付いている。
矢だ!
他の狼達は、散り散りに森のなかへと消えていき、すぐに見えなくなった。
よろよろと、木に身体の体重を預けながらへたり込む。
昨日の電車といい、狼といい、死ぬ危機が短い時間に2度もあるなんて。

「……大丈夫ですか?」
女の子が森の奥から現れ、心配したように声を掛けてくれる。

返事をする余裕がなかった。
何故なら、あまりにも美しいココロを見てしまったからだった。
今までに見たことのない、真っ白なココロ。

「大丈夫ですか、どこかケガをしてるんですか?」
彼女の、俺を心配するココロの動きに見とれながらも何とか返事をする。
「大丈夫だ、問題ない」

「よかった」
彼女の、笑顔のココロを見て、自分は一目惚れしたのだと気づいた。
ココロを見て人を好きになるなんて、
そんなことが自分に起きるなんて信じられなかった。
そうさせたのは、彼女の美しいココロのせいだ。
生きてきた中で見た一番の綺麗なココロだと思った。

彼女の事をもっと知りたいと思い、名前を聞く。
「俺は佐間勇人、名前を。…名前を、聞かせてくれないか」
性急すぎたかと、不安になるが、彼女はしっかりと答えてくれた。

「私の名前は、ロサ・マリア。ワワラルズ村のロサ・マリアです」

 

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