第19話 事情説明

 魔物に追いかけられていた少女サナは、少し前に彼女の身に起こったという出来事から話し始めた。

「実は、私にもパーティーを組んで一緒に旅をする仲間がいました」

 仲間がいた、という過去形で語るサナ。

 レオンが先程、仲間はどうしたのかと聞いた時に、彼女は仲間は居ない、と答えていた。その事を思い出して、疑問に思いつつも途中で口を挟まずにサナの話を黙って聞き続けた。これから、彼女が語る話の中で何か理由がある事が分かるのだとレオンは考えて。

 そして、サナの口から語られた話から驚愕の事実を知ることになった。

「私はそのパーティーで、回復役としてサポートを務めていました。けれど突然、回復役は要らないって言われてパーティーから追い出されしてまったんです。それで、森のなかに置き去りにされて」
「え? ちょ、ちょっと待って。森のなかに置き去り?」

 レオンが彼女の話を聞いて、驚きの声を上げた。サナが魔物に追われて逃げてくる前には、一緒にパーティーを組んでいた仲間が居た。けれども、そのパーティーから追放という形で突然、仲間から用無しと告げられた挙げ句に森のなかに放り出されたという。しかも、一人きりにされて。

「はい、パーティーの追放を告げられてビックリしている間に、彼らは姿を消していました。そして私は森のなか、1人になっていました」

 魔物が生息しているような場所で、わざわざ放置して行くなんて。それは冒険者のパーティーとしてはありえない、人としてもやってはいけないような所業である。かつては仲間だったはずなのに。

「それは、なんて酷い」

 レオンの横で話を聞いていたルーも、サナの元パーティーメンバーが行った置き去りという行為の酷さにそう呟いていた。しかも、彼女はパーティー回復役というサポートメンバーを務めていたはず、ということは1人で戦い生き残れるかどうか分からない。

 ケイも顔をしかめて、不愉快そうな感情を表情に浮かべていた。サラの話を聞いていた3人ともが、サラが受けたという仕打ちに対して信じられないという感情を抱いていた。

「でもそれは、仕方がないんです。回復役として役目が少なくなっていた事は本当ですから」

 必要が無くなったと告げられパーティーから追放されたサナは、自分の実力不足によってパーティーの足を引っ張っていたから追い出されたのだと納得して、仕方がなかったとネガティブに考えていた。

「いや、それでも酷すぎるでしょう」
「そもそも、森の中で1人にして放置するなんて、別の目的があったとしか思えない」

 ケイは、足を引っ張っていたからと言って突然パーティーから外すなんて信じられないと訴える。そしてレオンは、森のなかでサナを放置したのには目的があっての事だろうと考えていた。単純に考えてサナを始末するために、レオンには他の理由には考えが至らなかった。

 けれども、彼女が逃げ切った時の場合にどうするのか、事実が発覚した時にどう言い訳するのか。話を聞いただけで、サナの元パーティーメンバーの悪事は確定的であると思うのだけれど、一体どうするのかレオンには理解できなかった。

 サナは続けて、パーティーの追放された後の話についても語ってくれた。そしてその話が、アサシンウルフから逃げ出していた理由についてだった。

「それで、私は街に戻ろうと思って森から抜けようと歩いていたところ、アサシンウルフと出会ってしまって」

 魔物が生息している森の中を1人で歩くなんていう経験を、今までにしたことも無かった彼女。

 しかもそんな時に魔物と運悪くも遭遇してしまったサナは、恐怖でどうにかなりそうだった。その時の感情を今も思い出して、彼女の体は震えていた。一人になってしまったという不安と、対抗手段を持たないまま魔物と遭遇してしまった死の恐怖によって。

「最初の攻撃は何とか先に気が付いて、間一髪の所で避けることができました。それから必死で逃げ出して、けれど、いくら必死に走って逃げてもどんどんと後ろをついてきて振り切れませんでした」

 レオンはサナの服装が、ところどころ破れて泥や植物の葉がついて汚れてボロボロになっている事に気が付いていた。彼女の今の姿は必死になって森の中を逃げ回れっていた、という証のようだった。

「アサシンウルフを振り切ることが出来ず、時間が経つにつれてドンドンと集まってきて、数は5匹に増えていました」

 その5匹というのはサナを助けに入って倒した、あのアサシンウルフだったんだと気が付くレオン。

 潜んでいるアサシンウルフの気配に気づいて、攻撃をなんとか避けて逃げてきたというサラの言葉に、よく今まで生き残ってこれたとレオンは驚くばかりだった。

「応戦しようと思っても、元々居たパーティーでは回復役を務めていて、なるべくパーティーの皆の役に立てるように、回復役として集中していたから攻撃手段も用意していなかったんです。それで、アサシンウルフに反撃できず逃げるしか無くって」

 必死に森の中を後ろから追いかけてくる魔物の気配を背中に感じつつ、逃げ回って走ったサラは、何とか森から抜けることが出来たという。

「そこまで逃げ出せたら、もしかしたら後ろを追ってくるアサシンウルフも諦めて森の中に戻っていくんじゃないか、って思って必死でした」

 サナが抱いていた淡い希望は残念ながら叶わず、森を抜けても当然のように追いかけてくるアサシンウルフ。何処まで逃げても付いてくるアサシンウルフの姿を見て、彼女は絶望した。

 森の中を走り抜けた時には体力も尽きかけて、逃げ回るのにも限界を感じていたサナ。そのずっと先には街が有るけれど、とてもソコまで走って逃げて到着するまで体力が持つとは思えなかった。

 サナが逃げることを諦めかけていた、そんな時に現れたのがレオンという訳だった。本当にギリギリのタイミングでレオンは彼女の助けに入ることができた、という事だった。

「本当に、本当に助かりました。レオンさん」
「なるほど、そんな事情があったのか。助けられてよかったよ、サナ」

 レオンと出会った時までの経緯について語り終えたサナは、助けてくれたレオンに向かってもう一度、心の底から湧き出たような感謝の言葉を口にして、お礼を伝える。

 そんなサナの話を聞いて、レオンは思い出していた事があった。サナが今置かれているような状況と、とても似通った話を師匠から聞いていた事を。

 レオンが師匠と一緒に過ごしていた頃、色々なお話を聞かせてもらっていた記憶の中の1つ。

 レオンが、今のサナの置かれている状況と似ていると思ったお話というのは、次のような物だった。

 ある日パーティーメンバーから突然、追放を言い渡された人物。それから1人になって冒険を始める、というお話だった。まさに、サナが今置かれている状況と似たような話である。

 前触れもなく追放を言い渡されたサナ、そして師匠から聞いたお話でも同じようにパーティーメンバーからは理由も聞かされず突然、追放されるという場面があった。

 その後の師匠の話では、追放された人物の方が後々の出来事が上手くいくようになって、追放した側の元パーティーメンバーの方は落ちぶれていくという結末だった。師匠はよく”ざまぁ展開物”と言っていたお話。

 ということは追放されたサナこそが、その後に幸せが訪れる人物であり追放した方の理不尽な行いをしたパーティーメンバーが、後々に報いを受ける、というような展開になるのではないかと、師匠から聞いていた話とサナの今の状況を照らし合わせてみて考えたレオンは、そう予想していた。

 

 

 

第18話 昼食を一緒に

 レオンが魔物から追われていた少女を助けた後、しばらく彼女が落ち着きを取り戻すのを待っている間の時間を利用して、倒したアサシンウルフ5匹の死体を回収していった。

 実はアサシンウルフというのは中々にランクの高い、一体狩ることが出来れば冒険者として一人前という評価を得られる程の魔物であった。ましてや、試験を合格したばかりの新人が倒したと言えば、かなり驚かれるぐらいに評価される程。

 しかもレオンは、群れとして襲ってきていた5匹を1人で一匹も逃すことなく倒していたので新人冒険者としての活躍で言えば、破格の評価を得られるような結果だった。

 ただ、アサシンウルフの特徴である姿を隠してから攻撃するという襲撃を体験した訳ではなく、助けに入って姿が丸見えだったアサシンウルフを倒したという所は、評価の分かれる点ではあるが。

 ともかく、レオンが倒したアサシンウルフ5匹の死体をせっせとアイテムボックスにしまっていると、回収作業を終えた頃になって後から追いかけてやって来たルーとケイの奴隷2人も、レオン達の下に到着して合流した。

「逃げていた女性は、無事でしたか?」
「見たところ、ケガはしてないっぽいね」

 先に飛んでいったレオンに追いついたルーは、魔物に追われていた少女を心配している様子を見せた。そしてケイは、地面に座り込んでいるサナの姿を見て大丈夫そうだと冷静に判断した。

 サナが今着ている僧侶のような服装は、必死になって逃げている内にボロボロになったのか、破れたり汚れたりしている。だが、服装がボロボロになっているだけで大きな傷を負っているようには見えなかったので、ひとまずは安心という感想を抱くケイとルー。

 レオンに続いて後から現れた2人の人物に驚いて、無意識の内に身を守ろうとレオンを盾にするようにして、彼の背中へと隠れてしまったサナ。

 彼女が森からずっと追いかけ噛み付こうと襲いかかってくるアサシンウルフの群れから、必死ギ逃げてそれでも逃げ切れずに死を覚悟するまでになった時、突然現れて危機から救ってくれたレオン。

 そうしてから、助けてくれた後も特に何も言わずに心が落ち着くのまで待ってくれた彼の優しさに、サナは安心感を得ていた。

 そして、現れた2人の人間に思わず危機を感じて咄嗟に体が動き、レオンの背中に隠れてしまっていた。僅かの間にレオンという見知らぬ人を助けてくれた人として信頼するようになって、思わず条件反射的に頼りにしてしまうほどだった。

「ご、ごめんなさい。思わず隠れてしまって……、レオンさんの仲間、ですよね」

 親しげなレオン達3人の雰囲気に気が付いて、サナは彼らが仲間だとすぐに理解した。しかも、優しく心配する声を掛けくれたルーとケイ2人の厚意に対して、自分の振る舞いの失礼さに気が付くとパッとレオンの背中から離れて、ルーとケイの2人に謝る。

「さっきまで魔物に追われてたんでしょ、気にしないで」
「私も気にしていません。大丈夫です」

 2人は心配していたのに、危ないと認識されて姿を隠された。そして疑いの気持ちを向けられたけれども、ついさっきまで魔物に追われて助かったとはいえ今も続けて警戒しているのは当然だと、サナの行為に理解を示した。

 そして大丈夫だ、気にしていないと警戒心を抱いて取ったサナの行動についても許したルーとケイの2人。

「大丈夫、2人は気にしてないそうだ。それより、君は1人なのか? 君の仲間は?」
「えっと、……今は、その、仲間は居ません」

 仲間と合流したレオンは、サナには仲間が居ないかどうかを問いかけた。1人で逃げてきたから、もしかしたら既にやられてしまったのか、それとも逃げている途中で離れてしまったのか。どちらにしても彼女には仲間が居るはずだと、確信してレオンは聞いている。

 だがしかしレオンの考えとは違って、彼女はか細い声で返事をして”今は”居ないと答えた。

 そんなサナの答えを聞いて、レオンは何か事情が有るのだろうと察して、もう少し彼女から話を聞いてみることを決めていた。

「ルー、ケイ。さっき休んだばかりだけど、もう一度ここで休憩していこう。彼女に事情を聞きたい」
「オッケー、わかった」
「大丈夫です」

 レオンはルーとケイの2人に顔を近づけてから、サナには聞こえない程度の小声で2人に内緒話として、そう伝えた。彼女の件にちょっと首を突っ込んでみようと考えている、と。

 すると、お気楽な返事をするケイと対称的にしっかりとした返事のルー。2人ともレオンの行動に異議なしという答えを出してくれたので、まずレオンはその場で休めるぐらいの簡易な拠点を作り始めた。

 拠点を作る為の道具を、レオンは自身の能力であるアイテムボックスから次々に取り出していく。

 焚き火に、テント。そして魔物が近寄ってくるのを避けてくれるアイテム、更には魔物が拠点の近くに寄って来たら知らせてくれるという、魔法的な警戒アイテムも拠点の四方に設置する。

 全ての準備が整って拠点として完成すれば、そのまま1日就寝することも出来るぐらいの、安全でありながら快適でもある場所をレオンは数分で作り上げてしまった。

「昼食、食べるかい? 遠慮はいらないよ」
「でも」

 次にレオンは昼食にするため、料理を始める。そして、その場に居るサナにも一緒になって食べないかと誘う声を掛ける。

 魔物に追われていた所を助けて貰って、更に食べ物まで恵んでもらうなんて迷惑になりすぎると思ったサナは、レオンからの昼食の誘いを断ろうとした。

 けれども、レオンは彼女からの返事を聞く前にはもう料理の準備をし始めていた。結果、断るタイミングを逸してしまったサナ。

「お手伝いします」
「あぁ、ありがとうルー」

 ルーも手伝いに入って、肉を焼き、スープを作る。新鮮な野菜もアイテムボックスから取り出してきて、手際よく料理を盛り付ける。次々と、すごい速さで出来上がっていく食事。

 拠点設営に、食事の用意と手際よく行っていったレオン。その姿を目にして、自分よりも若く見えるのに経験豊富で旅にも慣れているのだろうと、逞しさを感じていたサナ。

 彼女がレオンを見て年下と思った、その考えは正しい。サナは19歳、そしてレオンは16歳だったから。10代での3歳違うという年の差は、本人たちにとって大きな違いである。

 そして、漂ってきた料理のニオイに「美味しそう」だと、無意識に呟いているのには気付かないサナ。しかしレオンは、彼女の小さな呟きを耳で捉えて昼食の準備をしたのは正解だったと確信したいた。

「あっ」

 サナは続いて、漂ってくる料理のニオイにつられて小さくお腹を鳴らしていた。どう考えても、腹ペコだと分かる状態だった。

「お腹も減っているみたいだからほら、遠慮せずに食べて。ルーとケイの分はコッチ。そして僕のはコレ」

 拠点用として簡易的に作ったテーブルの上に、これまたレオンとルーが準備して作った料理を並べていく。街の外、魔物が生息しているすぐ側だという危険を感じる場所で用意された食事だとは思えない豪華さだった。

 腹が減っているだろうとサナの目の前にも、どうぞ食べてくれという風に料理を準備する。そしてルーとケイ、2人の目の前にも同じ様に料理を置いていく。

 そしてレオンの目の前には、ルー達の物と比べて5倍ぐらいは量がありそうな、大量に料理が載った皿を置いていた。そしてレオンは、いただきます、と手を合わせてから食べ始める。

 サナからの信頼を得る事を目的として、まずは食事を一緒にして空腹を満たそうという考えから彼女を昼食に誘ったレオン。そして、もう一つの大きな理由として単純にレオンもお腹が減っていたから。

 いいタイミングだったからと、自分の空腹を満たすために昼食の時間にしたかったという理由もあった。

 レオンから迎えられて、こんなに良くしてもらって大丈夫だろうかと、不安になりつつも恐る恐るという感じで食事を始めるサナ。

 一口食べると、その料理の旨さが分かって手が止まらなくなった。サナは久しぶりに美味しいと思えるような食事にありついて、一心不乱になって食べ始めていた。そして、あっという間に食べ終わってしまう。

 レオンは黙々と料理を口に運び5倍の量を平らげてしまう。そして、ルーとケイも用意された食事を美味しく食べて、昼食はすぐに終わった。

「お食事、ありがとうございました。美味しかったです」
「それは良かった」

 食べてもらおうと準備をしたので、サナの良い食べっぷりを見せられたら作った甲斐があったと、報われた気持ちになるレオン。

「それじゃあ、そろそろ何でアサシンウルフに追われていたか教えてもらっても良いかな」
「はい、もちろんです」

 食事が終わって、皆が落ち着いた時間。レオンがサナに向かって詳しい事情を説明してくれとお願いすると、彼女は「もちろん」と言って事情について隠すこと無く話してくれた。

 

 

第17話 追われていた少女

 レオンは、魔物に追われている少女に凄い速さで走り寄りながら、彼女だけではなく別の方向にもキョロキョロと視線を向けて、もう一度辺りを観察していた。

 彼女は1人きりなのか、他に誰か仲間は居ないだろうか。彼女はなぜ魔物に追われて逃げているのか、魔物に奇襲されて逃げ出してきたのか、それとも先に手を出して戦っている最中に敵わないと察して逃げてきたのか。

 少女の姿を見れば、僧侶のような聖職者が着ている服なのだろうとレオンは気が付いた。ただ宗教を信仰しておらず、興味も持っていなかったレオンには彼女の属しているであろう宗教についての知識は無かった。

 そして、そんな彼女の表情を伺うと必死に前を向いて逃げることに集中して戦う気力は無いように見えるし、手にも武器を持っているように見えない。つまりは、追手への対抗手段が無いということ。

 彼女の背中を追っている魔物は、レオンが今朝の冒険者ギルドで受付嬢に注意を受けていた記憶の新しいアサシンウルフだった。

 それが5匹も群れになって、少女を狙って後ろを追いかけている。よく彼女が今も生きて、逃げ出せてこれたものだとレオンは感心する。

 それと同時に今も噛み付こうとするアサシンウルフの攻撃を避けている所を見れば、追いかけられている少女にもある程度、戦闘の心得が有るんだと察せられた。もしかしたら、彼女も冒険者なのかもしれないとレオンは考える。

 それから辺りの地形にも、くまなく視線を向けていた。丘から走り下りてきたレオンの向かう先には、森が生い茂っている。

 彼女とアサシンウルフの群れは、あそこから逃げ出してきたのをレオンは目撃している。レオンが聞いた話によれば、アサシンウルフはもっと森の奥深くに生息しているはずで、森の入口付近では遭遇するような魔物ではないはず。一体、彼女はどこから、どれ位の長さを逃げ出してきたのだろうか想像がつかない。

 レオンは、そんな色々な事を観察して思考しながら走り寄って、もう彼女に声が届くだろうと思える距離まで近づいた所で声を上げた。

「助けは必要か?」

 声を掛けたのは、念の為。あきらかに少女が魔物に追われて逃げているように見えても、しっかりと事前確認をしてから助けに入らないと、もしかしたら面倒事になるかも知れないと思って、十分に配慮して行動に移す。

 もしも、少女がアサシンウルフの攻撃によって殺されそうな一歩手前の状況だったならば、レオンは問答無用で助けに入るつもりでいたが、その必要が無いほどに彼女は逃げ切れている。と言っても、逃げられているだけで、反撃には出れないようだったが。

 そして辺りに響き渡るような大声を聞いて、少女がビクリと反応して視線を声を掛けたレオンへと注目していた。

「ッ! はいッ! た、助けて下さい!」
「分かった」

 まだ彼女には、逃げている最中でも返事をする程度には余裕が有ったようだった。そして、少女の返事を聞いてから助けに入るレオン。

 ということで、少女からも助けに入っても大丈夫という許可が下りたので、レオンが一気に間に入って片を付ける。

 まずは、名も知らぬ少女のそばに一足飛びで近づき、その飛び近づいた勢いのまま一番近くに居たアサシンウルフを片付ける。

 いきなり割り入ってきたレオンを先に片付けてやるというように、アサシンウルフは目標を少女からチェンジする。そして、レオンに向かって大きく口を開いて噛み付こうと飛び込んでくる。

 アサシンウルフの口からチラリと見える牙は鋭く、噛みつかれてしまえば大怪我を負ってしまう事は明らかだった。だがしかし、迫力ある魔物の攻撃にレオンは少しも臆さず、逆に開いた口に合わせて長剣を斬り入れる。

 噛み付こうとしたら逆に顎から上の頭が斬り飛ばされて、断末魔を上げる間もなく一瞬で絶命したアサシンウルフは、レオンに噛み付こうと突撃した勢いで地面に激突した。

 レオンに頭を切り飛ばされた後のアサシンウルフは、当然まったく動かなくなった。

「ひっ!?」

 助けてを求めたら、いきなり近くに寄ってきたレオンの思わぬスピードに驚いて、姿勢を崩し転んでしまった少女。さらには、自分のそば近くに斬り飛ばされ飛んできたアサシンウルフの頭に、びっくりして小さく悲鳴を上げた。

「すまない、驚かせた。すぐにケリをつけるから、待っていてくれ」

 転んだ少女にも気を配って、声をかけるレオン。余裕綽々という様子だった。その間に、走り近づいてきていた2匹のアサシンウルフが両サイドからレオンを挟み込むように飛びかかってきていた。

 一匹はレオンの右腕手首に目掛けて、もう一匹はレオンの左足首へと飛びつく。上下二箇所に意識を分散させるのを狙った、アサシンウルフの連携プレー。

 だがしかし、レオンはどちらの攻撃もお見通しで長剣を一回だけ振るって、その場でクルリと一回転してみれば、それだけで2匹のアサシンウルフはどちらも胴体から真っ二つになって絶命していた。

 姿を現して、ものの数秒でアサシンウルフの死体が3つ。

 レオンの圧倒的な戦闘力を見ていた少し離れた場所で様子を伺っていた残り二匹は、敵わないと悟ったのかクルリと反転して逃げ出そうとしている。

 そんな2匹の背中に向かって、アイテムボックスから取り出した投げナイフを2本、逃しはしないとレオンが左右の手から同時に投擲する。

 投げられたナイフはものすごい速さで、背中を見せて走り去ろうとしたアサシンウルフの心臓に見事命中。音もなく地面に2匹が倒れると、もうそれで敵は全滅して危機が去った。

 少女を標的にして追いかけていた筈のアサシンウルフ5匹が、今は死体となって地面に転がっていた。

 レオンは全てを片付けるのに10秒も経たない内に、アサシンウルフ5匹を仕留めてしまった。あまりの早業で、助けてもらった少女は地面に尻餅をつきながら目を白黒させて、視線をウロウロと助けてもらったレオンや絶命したアサシンウルフ5匹に向けていた。

「大丈夫か?」
「あ、えっ? はい。助けて頂いて、その、あ、ありがとうございます」

 いきなり現れた美形の戦士レオンに助けられたけれど、その圧倒的な力に呆然として返事もヘロヘロと力が入っていない感じ。だけど、呼びかけられた言葉になんとか答える少女。

「で、でもあんなに早くアサシンウルフを仕留めてしまうなんて……、す、凄いです」
「うん、ありがとう。でも、居場所がわかってるアサシンウルフだったからね」

 名前の通り暗殺者のように姿を潜めて、一撃で獲物を仕留めようとするのが特徴のアサシンウルフ。

 姿を隠す能力が優れていて、スピードも機敏ではあるけれど、それ以外の能力はそんなに高いわけじゃない。だから、居場所が目に見えて分かってさえいれば倒すのには苦労しない魔物ではある。

 むしろ、最初の攻撃から生き残って5匹のアサシンウルフに追いかけられて逃げ切ったという、彼女の方が凄いんじゃないかと思ったレオン。

「僕の名はレオン。冒険者をしている」
「あ、はい。初めまして。私も冒険者をしている、サナと申します。本当に助けていただいて、ありがとうございました」

 魔物から追われていたサナは無事に助かったと安堵して、助けてくれたレオンに自己紹介の握手をしながら、もう一度お礼を言った。

 

 

第16話 街の外へ

「はぁ、はぁ、はぁっ」
「大丈夫か? ルー」
「だ、だい、じょうぶ、です」

 冒険者としての活動を始めるために、街の外へと出てきたレオン、ルーそしてケイの3人。彼らは今、街から少し離れた丘のようになっている、見晴らしの良い場所に到着していた。更に遠くの方には、森や山も見えるような場所である。

 レオンが想像していたよりも、獣人のルーは体力が少なくてついて来るのがやっとの様子だった。そして今は、呼吸も苦しそうな状態で返事をするのがやっとぐらいに体力を消耗している。だが、苦しさには耐えて音を上げない。

 だがしかし、傍からの見た目では大丈夫じゃ無さそうだったので、レオンは休憩することに決めた。

「一旦ここで止まってモンスターが居ないか、辺りを観察してみよう」
「わかった」

 周りにモンスターは見当たらないのを先程確認していたが、念のために警戒するという理由をつけてレオンが休憩を申し出た。そして、レオンに合わせて返事をしたのがケイ。

 ルーとは違って、もう1人の奴隷であるケイはまだ十分に余裕がありそうだった。体はまだ成長していない10歳という幼さだけれども、流石は奴隷商の目に留まり戦闘訓練を受ける予定があるぐらいに見込みがあった、という訳だ。

 それにチート能力によって常人よりも遥かに身体能力が高いから、という理由もありそうだった。

 レオンが、ルーを街の外へと連れてきたのは彼女の能力を見る為でもあり、これから彼女を鍛えようと思っていたから。

 今まで使う機会の無かった、仲間成長促進という能力があった。それを、ルーに使ってみて観察してみようと考えていた。これで、どの程度の能力成長が見込めるのか。

 出来れば、ある程度は自衛できるぐらいに。そして後々には戦えるメイドとしてルーには育ってほしい、とレオンは考えていた。

 それから、ケイも転生者としてチートの能力をフルに活用してもらおうと戦いを教え込む事にしていた。

 その場で少し休んだ後、息が整ったルーを確認してから再び彼らは動き出す。

「先に進む前に、ちょっと確認しておこう」

 モンスターと戦う前に、まずは武器の扱いについて知っておく必要があると思ったレオンがアイテムボックスから取り出した。

 街からこの辺りの場所まではまだ、モンスターと遭遇する確率も低いけれど、その先からは出会う可能性が一気に高まるから、今のうちに準備しておこうという訳だった。

「この中から、好きな武器を選んで」

 ルーとケイの目の前にレオンは、次々と武器を置いていく。彼女たちは目にして手にとって、どれかしっくりとくる武器を探してもらう。

「これから先、どれを使っていけば良いか自分で見極めてみて」
「私はコレ」

 武器を持っていなかった手ぶらのケイが、レオンの取り出した武器の1つを手にとって手にはめる。それは、ガントレットと呼ばれる手を防護するために着用するような手袋型の防具だった。

「これで、相手を殴る」

 ケイが腕を振るって正面に向かってパンチを繰り出す。ガシュッン、ガシュッンと風を切る音と、唸るような金属のぶつかり合う音が聞こえた。ケイは超接近戦タイプの武器を選んだようだった。

「それじゃあ、私はコレを使ってみたいです」

 ルーが手にとったのは、弓と矢だった。彼女は中々難しい武器を選んだな、とレオンは思った。扱うのには技術がいるし、熟練に達するまでの道のりが長い武器だから。

 それよりもまず、弓を引くのには相当な腕力が必要でもあるので最初に扱えるかどうか見る必要があった。と思ったら。

「ちょっと撃ってみます」

 そう言って彼女は弓を前方に向けて構えると、軽々とした動作で弦を引いてスッと引き絞っていた。体力は無いけれど、腕力は十分以上に有るらしい。そのまま、指を離せば矢はルーの手から解き放たれて前方へと飛んでいく。後は動くモンスターに対して狙いを定められるかどうかだけ、という感じだった。

「ルー、上手いじゃないか。やったことがあるのか?」
「いいえ、撃ったのは初めてです。でも、見たことがあったので出来ました」

 レオンが問いかけると、意外にも初挑戦だったらしい事を教えてくれる。彼女なら、練習をして使いこなせそうだと思ったレオン。こうして、遠距離攻撃をしてくれる後衛も揃った。

 準備は整った、と先に進もうとしたレオン達。

「ん?」

 しかし、前方に何かを見つけてレオンは注目をする。彼の視線の先には、誰かが必死に走っている様子が見えた。そして、その後ろにはモンスターが付いてきているのも見える。

「どうしたの?」
「どうしましたか?」

 ケイとルーの2人が、足を止めて遠くの方に視線を向けたレオンに気付いて何事かと問いかける。

「女性が1人、モンスターに追われて逃げている様に見える。ちょっと確認してくる、後からゆっくり来てくれ」
「え? あ、はい」
「うわっ、はや」

 その他にも視線を向けて何事か起こってないか注意してから、レオンは状況を冷静に判断していた。他にはモンスターは見当たらず、人も見当たらなかった。

 目視してしまった彼女を見過ごすことも出来ず、レオンは今から何をするか簡単に2人へと伝えると、ルーとケイの返事も待たずに最高速で一気に駆け寄っていく。走り逃げているらしい、女性の下へと向かう為に。

 

 

閑話01 冒険者試験

 レオンが女戦士ルチアを医務室へと運んでいた頃、残っていたもう1人の受験者である外套の人物が試験を受けていた。
 
 全身を覆う外套を着込んで、顔も身体も全て晒さないように覆っている謎の人物。そこまでして隠したい何かが有るのかと、試験官のクリスは疑う。
 
 だがしかし、外套の人物は試験を受けるのに問題なしと判断されたから、いまココの試験場に立って試験を受けられている。
 
 実は、外套の人物が冒険者ギルドに試験を受けに来た時に色々と情報を集めてから、受験可能か不可か判断しようとギルドマスターであるクリストフは、試験が始める前に彼独自の情報網を使って、謎の人物について調べていた。
 
 試験を受けるために提出された書類には、名前の欄にニルと書かれていた。外套の人物の名前らしき物。その名が本当かどうか分からないけれど、一応クリストフは調べてみてその結果、特に不審だと思われるような情報は得られなかった。
 
 それから、ニルが今している格好について。外套を被った人物が、何処かで何かをしていたかという、事件や目撃情報も洗ってみたけれど何も出てこず。
 
 そして何よりも、冒険者ギルドには過去に犯罪を犯したかかどうか分かる秘密のシステムがあった。それによれば、ニルはシロ。つまりは過去に犯罪を犯したという記録は無い。
 
 それは、本当に犯罪を犯したことのないという証明なのか、一度も犯行が明るみに出てこなかったからなのか、その判断が出来ない。
 
 ともかく、クリストフは疑わしい見た目をしている外套の人物が、本当に危険な人物なのか安全な人物であるのか見極めるために、とりあえず受験させて、手合わせしてみようと考えた。そしてギルドマスターであるクリストフが自ら、今日の受験者を判断しに来たのだった。
 
「準備はいいか?」
「……」
 
 ギルドマスターであるクリストフと、外套の人物であるニルが向かい合って立つ。相変わらず、声は出さずに首を振って意思表示をする。今は、首を縦に振って良しという意志を示していた。
 
 クリスは、先程ルチアやレオンを見極める時に使ったのと同じ長剣を構える。そして、外套の人物ニルは、スッと立ったまま手だけを外套の外に出してくる。その手には、何も持っていない。
 
 外套から出された華奢な手を目したクリスは、ニルが女だと予想する。いや、もしかしたら子供の手かもしれないし、男の手を偽装して女の手かのように見せている可能性も。判断は早計か、とニルが男性か女性かはひとまず置く。
 
「いくぞっ」
 
 クリスは勢いを上げて長剣も振り上げて、ニルに斬りかかる。すると、スッと自然な動きでニルは横にずれて、容易にクリスの斬りかかった攻撃を避ける。その動作だけで、クリスは、ニルが只者でないことを悟る。
 
 だが、すかさずクリスは長剣を横薙ぎでニルに標的を合わせて、息もつかせぬ間で二撃目を繰り出す。
 
「っ!」
 
 外套の人物が、息を呑む声が聞こえたクリス。男とも女とも、どっちつかずな中性的という声。短い音では判断できない。
 
 だがしかし、ニルは攻撃は避けられなかったか。外套に当たるスレスレで攻撃を止めたクリス。
 
「うん、君も合格だけれど実地試験を受けるように。わかったか?」
「……」
 
 コクリと首を縦に振る。了解ということだろう。思ったよりも、素直に反応するニルの様子を見て、クリスは問題ない人物なんじゃないだろうかと判断する。姿は少し特殊だが、言うことは聞く。
 
 能力的には、女戦士ルチアよりも上。しかし、大型新人であったレオンには遠く及ばない。外套の人物ニルは、ギルドマスターであるクリスが何とか対処できる程度の人物らしい。
 
「(それすらも俺たちを欺く為に、能力を偽装したなんて事は勘弁してくれよ)」
 
 先程のニルの動きから、不自然さをクリスは感じ取らなかった。と言ってもクリスは、外套の人物が見抜けぬ程の偽装能力の持ち主なら、もう手の打ちようがない、と考えていた。
 
 そして、そこまで疑ってもしょうがないと疑うのを止めてニルを冒険者ギルドに歓迎することにしたのだった。
 
「(万が一の場合は、大型新人のレオンという人物が新しくギルドに加入してくれたことだし、彼に期待しよう)」
 
 クリスは、先程のチカラを見せつけられたレオンがすぐに頭角を現すだろうと、期待を含めた予想をしていた。
 
 そして、そんな人物が冒険者ギルドに増えるのだから、何かあったら頼れる人物がいるという安心感から気持ちにも余裕を持って、ニルも受け入れて大丈夫だろうと判断した。
 
 外套の人物ニルの試験が終わってしばらくの間待っていると、医務室から帰ってきたレオン。
 
「彼女を医務室に運んできました」
「そうか、ありがとう」
 
 レオンが戻ってきたことで、ようやく合格者に向けての話ができる。1人は医務室で安んているので、彼女には後で説明しに行かないといけないと考えながら、いまこの場に居る合格者と不合格者に向けて今後についての話をするクリフ。
 
 レオンには、無事に今日から冒険者ギルドに加入という事を話す。彼は、冒険者ギルドに在籍して問題ない能力を身に着けていることがしっかりと判明したので、彼1人だけ試験を特別合格という結果とした。
 
 そして、外套の人物ニルにも合格を言い渡し、次の実地試験に参加するように言うクリス。
 

 その日の冒険者試験の受験者は6名。そのうち、1人が特別合格。2人が合格で、次の実地試験を受ける事に。そして残りの3人は残念ながら不合格という結果を言い渡して、冒険者試験は終わった。

   

第15話 初仕事

 冒険者になった翌日から、レオンは早速冒険者としての仕事をしてみることにした。と言っても、新人である彼では現段階で特別な依頼を受けることは出来ない。なので。

「基本的には、周辺に住み着いているモンスターを倒してきて下さい。そして倒した証拠をギルドに持って来てくれたら、モンスターのランクや種類によって実績を記録して報酬を渡します」

 朝一番に冒険者ギルドのに行ってみれば、受付嬢であるミルトにそう説明された。先ずは、モンスターを倒して持ち帰ることが冒険者の第一歩らしい。

「貴方は現在のところランクで言えばG級冒険者ということになります。そこから実績を積んでいって徐々にランクを上げていけば、G級からF級、E級、D級と実績によってランクを昇進していけます」

 師匠から聞いていた通りだと、レオンは頷きながら彼女の話を集中して聞いている。

「ただ、D級までは実績を積み上げるだけで到達できますが、C級より上は昇段試験があるので到達が困難になります」

 最上級S級冒険者までの道のりは長そうだと感じならがら、気持ちが高ぶっているレオン。必ず到達してやる、という気概を持っていた。

「それからモンスターを倒した証について、倒したモンスターが判別出来る特徴的な部分を切り取って持ち帰って来れば良いです。全て持ち帰って来ようとしたら、荷物になって重たいですしね」

 逆を言えば、倒した証を持ち帰らなければ冒険者としての実績や報酬にはならない。必ず、倒したという証がないと認められないと言うこと。レオンはなるべく早く最上級ランクのS級に到達できるよう、忘れないよう胸に刻みこむ。モンスターを倒した証は、必ず持ち帰るべし。

「ただ、可能ならばモンスターの死体を全部持ち帰って来れれば、素材として買い取りますので、報酬がアップします。荷物が増えて、戦いが不利になってとデメリットがあるので、死体を全部持ち帰るのは効率的に考えても利益にならないと思いますが」

 ただしレオンには、アイテムボックスというチート能力によって手荷物を増やすことなく容易にモンスターの死体を持ち帰れそうだった。だから、なるべく死体を全部持ち帰るようにしようと考えている。

「今の時期だと、アサシンウルフの集団には気をつけて下さい。他にコレといった情報はありませんね」

 手元の資料を確認しながら、アドハイスをくれる受付嬢のミルト。アサシンウルフ、森のなかに身を潜めて必殺の攻撃を繰り出す注意するべきモンスターだ。

「あとは、戦闘とは別の方法で冒険者としての実績を積んで報酬を得る手段といえば、収穫依頼を受けるという方法がありますね」

 その名の通り、外から収穫してきて持ち帰った物をギルドに納品すると実績と報酬が受け取れるという方法だった。だがしかし、戦闘でモンスターと戦って得られる分に比べると実績も報酬も少なめではあった。

「今の所は、回復のポーションを作るのに必要な植物が森の中に自生しているので、その植物を採取して持ち帰ってきてもらう、という依頼が一件のみですね」

 収穫依頼は、日によって依頼の数は変動してしまうので安定して仕事を受けるのは困難だった。しかも、依頼がある時と無い時の変動は極端で結局は冒険者として戦闘をしていく必要がある、という訳だった。

「時々、高額な報酬で収穫依頼を出している時もあるので、一日一回はギルドに来て依頼のチェックをしてもらうのがおすすめですね」
「わかりました。ありがとうございます、とりあえず今日はモンスターを狩りに行ってみます」
「それが良いと思います。無事に帰ってきて下さいね」

 一応、レオンは試験を受けて合格した人であるので能力的には問題ないはずだと受付嬢ミルトは、彼とモンスターとの戦いについて心配していない。

 受付嬢との話を終えて、冒険者ギルドを出るレオン。出口付近で控えていた奴隷のルーとケイも一緒だ。

「とりあえず、今日は特に目標も決めずに街の外を散策してみようか」
「わかりました」
「わかったよ」

 レオンのこれからの予定を聞いて、ルーとケイは街の外へ出ていくという事を了承する。まずは、どんな感じなのか地形やモンスターの分布を偵察するつもりだった。

「それで、可能ならルーとケイの戦闘能力も見せてもらいたいな」

 ひとまず2人の能力については、早めに確認しておきたい。どの程度できて、どの程度できないのか。

「私は、今まで戦ったことはありませんから戦いには自信がないです」
「僕はまぁ、何度かモンスターと戦った経験が有るから大丈夫かな」

 ケイは戦闘が出来るという事を言って自信があるようだけれど、ルーは家事が出来るように教育されただけで戦闘は経験が無いという。彼女たちの言うことは理解しているレオンだったが、彼にはある考えがあった。

「心配しなくても、大丈夫だルー。最初は出来なくても、怒りはしないさ。君が今、どれぐらいできるのか知っておきたい。それを、後で確認してみよう」
「わかりました、よろしくおねがいします」

 気合を入れて、やる気を上げたルー。3人は王都から出て、街の外へと向かう。

 

 

第14話 これからの事

 深夜もだいぶ過ぎて、もうすぐ明け方になりそうな時間。レオンとケイは、ベッドの上で一緒に横になって色々と話をした後。

 レオンは最後に、師匠から託された夢についての話を始めた。それは、今後なにをして生きてゆくのかという彼の行動指針に関する話だった。レオンの奴隷であるケイにも関係のある話。

「師匠から託された夢?」
「そう、僕は師匠から2つの夢を託されたんだ」

 チート能力を託されて、それと同じように師匠から託されたという2つの夢についてレオンは語る。

「1つは、最上級ランクであるS級冒険者になって有名になること」
「冒険者?」

 レオンがS級冒険者を目指していることや、有名になると言っている事には引っかからず、冒険者という言葉を気にかけたケイ。

「あれ? 言ってなかったか。僕は昨日、冒険者になったばかり。それで、これからは冒険者として活動していこうと思ってるんだ」
「そうだったの」

 そう言えばとレオンは思い出す。奴隷商で手続きをしていた時、ルーとケイの2人は着替えの為に応接室には居なかった。その後も、特に自身の事について詳細を語ることはなくココまで来たことに。だから、レオンが冒険者であることを知る機会は無かったと。

 レオンは冒険者である。その時になってようやく知ったケイには、また別の疑問が生じていた。

「それじゃあ、家はどうするの?」
「いえ?」

 ケイが、何のことを指して言っているのか分からず疑問の表情を浮かべるレオン。

「レオンには、他に兄弟が?」
「いや、僕に兄弟は居ないが」

「じゃあ、やっぱり貴方が領地を継ぐんじゃないの?」
「ケイ、君は一体何の話をしているんだ?」

 話の噛み合っていない2人。何かを勘違いしているケイに気づいて、レオンが指摘する。

「だって、レオンは貴族なんでしょう?」
「いいや、違うが」

 レオンを転生者だと思いこんでいた時と同じように、再び彼は貴族だと事実と違う事を思い込んでいたケイ。

「そんな。でも、庶民にしてはありえない程の大金を持ってた。それに、貴方みたいな綺麗な顔をした一般人なんて、居るはず無いわ」
「言うほど、僕は貴族っぽい顔をしているかな?」

 レオンは自分の顔を触ったり、あごを撫でたりしながら勘違いされる理由を確認してみる。

 冒険者試験を受けた時に、見知らぬ女性から責められるような口調で貴族だと決めつけられた事があったと、レオンは思い出す。

「いいえ、貴族っぽいというよりも庶民ぽくないって感じかしら。肌には傷が全然無いし日焼けもしていない。だから肌は真っ白だし、そばかすだって無い」

 庶民ならば、働いている内に太陽の日に当たって肌が傷つく事が日常茶飯事。レオンのように綺麗な肌を保っている、ということは貴族かもしれないという予想の流れ。

「もしかして、その顔もチート?」
「いや、これは生まれつきだけど」

 ひょっとして、という予想で尋ねてみたケイ。チート能力で並外れた美貌を特典として求める者も居るだろうと考えて、美しいレオンの顔が実は師匠から譲り受けた物では無いかと聞いてみた。けれど、レオンはそうでないらしい事が分かった。

 ちょっと安心するケイ。しかし、だとするとやっぱり分からないと頭を悩ませる。

「ますます、庶民ぽくないように思う。もしかして本当は、貴族の庶子だったりする?」
「いいや、ウチの両親は普通の農家だった。住んでいた村でも、特に何も言われなかったが」

 今まで生きてきた中でも、貴族かもしれないと指摘されたことは無かっただけに深くは考えた事も無い疑問なので、レオンは困惑する。

「隔世遺伝とか、先祖に貴族の血が入っていたり?」
「うーん、そこまでは分からないけど。とりあえず、僕は貴族じゃないよ」

 レオンが貴族か、そうで無いかは、それ以上の事についてその場では調べようがないので、ケイは本人の証言を信じることにする。レオンは貴族じゃない、と。

 会話を戻して、師匠から譲り受けた夢の2つ目について尋ねるケイ。

「じゃあ、師匠から託されたっていう2つ目の目標は?」
「もう1つの目標。それは、ハーレムを築くこと」

「え。は、ハーレム……?」
「うん。かわいい女の子を集めて一緒に生活するのが目標」

 真正面から宣言するレオン。僕はハーレムを築くと。

「そんな事を96歳だった貴方の師匠は、夢だと言って託したの?」
「うん」
「……」

 ケイは思い浮かべていた、レオンの師匠についてのイメージが次々に変わっていく。若者だと思っていたら高齢者だったし。まさか、そんなスケベジジイだったなんて、と絶句する。

「どうかな?」
「いやーまぁ、その」

 レオンから純粋な目で見つめられながら、意見を求められてケイは口ごもる。ハーレムという言葉を聞いて、少し拒否感があった彼女。

 だけれども、よくよく考えてみたらココは異世界である。転生前の世界での常識で考えるべきではないか、とも思う。

 それに何よりレオンに対しては、肯定的でありたいケイだった。

「夢があるって事は、良いんじゃないかな」
「ケイも賛成してくれるか」

 ケイはとりあえず、賛成とも反対とも結論は出さずに議論を避けて、濁した言葉をレオンに返す。そんな言葉でも、喜ぶレオン。

「うん、まぁ頑張って」
「頑張るよ」

 まさか、そんな夢を持っているとは想像が及ばなかったケイ。そして彼女は、レオンを応援すると口にしておく。そんな感じで、2人の話し合いは終了した。


***


 レオンは、奴隷として買い取り転生者であったケイとの夜話で色々と語り合い、情報共有をした。

 そして冒険者の試験に合格した翌日からレオンは、早速活動に出かけることにする。有名になる為の活動、その一歩一歩を確実に進んでいく為に。

 

 

第13話 師匠の記憶と託された能力

「えっと、そうだったの。ごめんなさい」

 まさか既に亡くなっている人だなんて思わず、安易に聞いてしまった事について謝るケイ。

「大丈夫。もう、師匠とのお別れは済ませたからね」

 気遣うケイに優しく、そう返事をするレオンだった。彼は既に師匠の死について、気持ちの整理が出来ていたから。

「それで、えっと聞いていいかどうか分からないけれど、その師匠はどうして亡くなったの?」

 躊躇いが有りつつ、転生者だというレオンの師匠に関して話は聞いておきたいと尋ねるケイ。

 死んだ人に関して無遠慮に質問攻めにすると、故人に対して失礼になるかもしれないという事は承知しつつも、同じ転生者がどんな人だったのか、死因が何なのか気になって聞かずには居られなかった。

「師匠は老衰死だよ。本人は満足して逝けたと思う」
「ろ、老衰? え? 貴方の師匠は何歳だったの?」

 思わず、という感じで尋ねるケイ。彼女がイメージしていたのは、レオンの師匠と聞いていた情報から、二十代か高くても三十代ぐらいだと思っていたので、老衰死という言葉が結びつかなかった。

「師匠は確か、96歳で亡くなった」
「そ、そんなにご高齢の方だったのね」

 ケイが予想していた年齢を、遥かに超えるような年がレオンの口から飛び出してきて、彼女は動揺した。

 まさかの、転生者という人物に100歳近くまで生き続けた、なんて存在が居るなんて。つまりそれは、ケイがこの世界に転生してくる遥か昔にも転生者が居たなんて、彼女にとって予想外であった。

「師匠は凄い元気な人だったよ。亡くなる直前までは自分で食料を確保しに、森のなかに狩りへ出かけるぐらいの人だったからなぁ」
「へー」

 師匠の話をしている内に昔の記憶を思い出して、それを懐かしむレオン。話を聞いていたケイは、流石100年近く異世界で生活していた人間は逞しい、自分と同じ転生者とは思いないような生命力、活動力が有る人なんだという感想を抱く。

「それで、その師匠にチート能力を譲り受けたんでしょう? そんな事って可能なの?」
「正確に言えば、師匠は他人に能力を作ってあげられる、っていう能力だって言っていた。たぶん師匠にしか出来ない固有能力なんだって、他の転生者やこの世界に住んでいる人を含めても誰にも真似出来ない筈、って言っていたよ」

 過去にレオンも尋ねた事のあった、能力の譲渡に関する疑問についてを、尋ねてきたケイに話す。チートという能力を、師匠から与えられた能力に関する話について。

「そうなのね。ところで作ってもらったチート能力って、どんなの?」

 もっと具体的にチート能力に関して教えて欲しいと、ケイはレオンの持つ能力について質問し続ける。

「さっき見せた、アイテムボックス」
「うん」

 レオンが古着屋で買った服を手に持って運ぶのが面倒だからと、アイテムボックスという名の異空間に荷物を放り込んでいるのを目にしているケイ。納得する。

「それから常時能力強化、成長促進、危機予知能力、危機回避能力、鑑定、魔法習得率増加、仲間強化、仲間成長促進」
「ちょ、ちょっと待って。そんなに沢山!?」

 次から次へと数ある能力を発表していくレオンに、待ったをかけるケイ。止まる様子が無く本当に次々とんでもない能力が明らかになっていく、ケタ違いな情報を受け止めきれなかったから。

「うん、まだ沢山あるよ。ただ、忘れているものも多くて、全部把握しきれていないけれど」
「はぁ……? どんだけ沢山あるのよ。チートよチート、不公平だわ」

 少し聞いただけでも、便利そうな能力が沢山あった。生きるのが楽そうになる能力を沢山持っているレオンに、嫉妬の目線を向けるケイ。

「ケイが持っているのは、どんなチート能力なの」
「僕? 僕は……丈夫な身体、魔物に負けない戦闘能力、そして異世界でも元の世界にある化粧品や化粧の道具が使えるようになる、って能力を神様から授けてもらったわ」

 ケイは、レオンに能力について教えてもらったので自分も隠すわけにはいかないと、自らの能力について話す。

 前の世界で死んで今の世界に転生する、という直前に彼女は神様と出会っていた。そして急かされながら早く決めてと言われて、選んだのがその3つの能力だった。焦りながら急いで選んだにしては、ベストな選択だったと今でも思っているケイ。

「3つだけ?」
「僕の場合は、そうだった」

 他の転生者の事例を知らないので、ケイが与えられた3つの能力というのが多いか少ないか、正しく判断できない。ただ、レオンの持つ能力の数に比べたら圧倒的に少ないだろう。

「でも能力の数が少なくても、一つ一つはとっても便利なんだから。特に、化粧道具は変装するのに大活躍した」

 ケイはその能力を駆使して、男の子に変装をして奴隷商達の目を欺いていた。顔だけではなく全身に化粧を施して、身体検査も逃れていた。

 ただ、これはまだ成長していない子供の体だから出来たことで、年齢がもう少し上だったなら胸も出てきて見た目を少し変えても明らかになるから、変装は不可能だったかもしれないとケイは理解していた。

 レオンとケイの2人は、自身の持つチート能力についてお互いに情報を交換して語り合った。そして、話はまだ続く。

 

 

第12話 ケイと夜話

 ケイはレオンが眠りについていたベッドに息を潜めて侵入してくると、彼に目を覚ますように声を掛ける。そしてレオンが起きた所で、投げかけられた言葉。

 どうだと言わんばかりに、自信満々に言い切ってみせたレオンが転生者であるというケイの考え。だがしかし、そんな彼女の考えは間違えであった。

 自分は転生者ではない、と訂正するのに申し訳無さを感じながらも言わない訳にはいかず、レオンはケイの考えを否定した。

「いいや、僕は転生者じゃないよ」
「ウソッ!?」

 はいそうです、と肯定の言葉が返ってくるのを予想していたケイだったが、予想とは違う反対の答え。否定するレオンの言葉に、信じられないという気持ちで声を上げていた。

「シーッ。ルーが起きちゃうよ」
「んっ……、ごめんなさい」

 先程ケイはレオンに向けて大きな声を出さないよう口を閉じて、というジェスチャーをしたばかり。その彼女が驚きで声を張り上げていたのでレオンが注意すると、横のベッドで寝ているルーの存在に気が付いて、ケイは謝った。

「それで、本当に転生者じゃないの? 元日本人じゃないの? もしかして転移系?」
「どっちも違うよ」

 今度は、声のボリュームをいっぱいに落として、小声で会話をするケイとレオンの2人。お互いの声が聞こえるようにと、ひとつのベッドの上で布団の中、体を寄せ合うようにしている。

 ケイは事実の究明に夢中になって今の体勢には気を向けては居なかったが、レオンはまるで男女の営みを行っているかのようだと、今のポーズを少し気にしていた。

 ただ相手が性を感じない10歳という子供の体だったので、レオンは特に何も言わないで会話を続ける。

「うそ。じゃあ何でこの世界に無い料理の名前を知ってたの? それに、さっきチート能力で荷物を異空間に放り込んでたでしょ。あれは、神様に転生させられて特典で貰った能力なんじゃないの?」

 レオンを転生者だと思い込んだ理由を並べて、それぞれ指摘していくケイ。けれど、レオンにはどちらの事についても転生者ではない、という事が説明できる。

「カレー、ラーメン、ハンバーグって異世界にある料理の名前を知っていたのは、師匠に教えて貰ったからだよ。チート能力って言うあのアイテムボックスも師匠に譲り受けた能力なんだ」
「はぁ……? 師匠?」

 レオンの説明に出てきた師匠という人物について。一体何者なのだろうかと、ケイは不審に思う。そんな彼女の疑問に答えるように、レオンが説明を加えた。

「僕の師匠は転生者だった。だから、ケイの言う異世界の料理を知っていたんだろう。それから、転生者だったから能力を譲るって事が出来たんだと思う」
「ということは、本当に貴方自身は転生者じゃないって言うの?」

 レオンの言葉を聞いて、まだ半信半疑のケイ。再度、レオンが転生者ではないのかとしつこく確認する。

「僕は君たちの言うところの、現地民って奴だよ」

 ようやく合点がいった、という風にケイは納得した。そして、レオンが転生者だと思い込み勢いに任せて突っ込んでいった自分を恥じた。

 もしかしたら、転生者という仲間と出会えたかもしれない、という出来事に浮かれていたのかも、とケイは自分の感情を分析する。

「ところで、そういう君は転生者なのか?」
「う! えっと、まぁ、その……。転生者です」

 一瞬、転生者である事をレオンに言うべきかどうか、黙っていたほうが良いんじゃないかと考えて迷ったケイだったが、今までの話で彼には明らかだろうからと白状した。

「やっぱり! 師匠以外で、転生者と出会えたのは初めて!」

 2人目の転生者と出会えたことが判明して、レオンのテンションが一気にあがる。自然と声が大きくなっていた。

「シーッ! ルーが起きちゃうでしょ」
「ご、ごめん」

 今度はケイが、大声を出すレオンを注意した。慌てて小声にして謝るレオン。注意する方と注意される方、先程と比べてポジションが逆になった。

「でも良かった。奴隷商でキミを見たとき、師匠に雰囲気が似てるなって思って。元日本人を見つけるのには、あの言葉を呟いて聞かせてみれば分かるからって教えてもらっていたけど、試してみて良かったよ」
「あぁ、うん。あんなのに引っ掛けられたのね」

 レオンが呟いて聞かせた、日本三大国民食と言われている料理名。まさか、そんな言葉に反応してしまったなんて、と恥ずかしがるケイ。

 あの時は、思わぬ所で元の世界にある料理名を聞いた懐かしさで、思い出してイメージしただけでお腹が鳴ってしまう程だったから。恥ずかしくもある。とケイは布団の中で顔を赤くした。

「でも、そっか……。この世界には無いのか。師匠から話に聞いて、食べてみたいって思っていたけれど無理なのか」

 料理名に反応していたケイを見て、もしかしたらと期待していたレオン。だがしかし、彼女の口からはハッキリと、この世界に無い料理、だと言い切られてしまい落ち込む。

「いや、私が知らないだけだし。もしかしたら、どこかで作られてるかもしれないから。そんなに落ち込まないでよ」
「確かに師匠もそう言っていたから、希望は捨てないで探してみるよ」

 あまりにも落ち込んでしまったレオンを、ケイは慌てて励ます。もしかしたら、と希望をもたせるような事を言って。

 世界は広い。もしかしたら、異世界の料理でも何処かで作られているか、もしくは似たような物があるかもしれないと、存在する事を信じて異世界の料理を見つけ出すという目標を新たに立てるレオンだった。 

「それにしても。うん、そうか。なるほどね。貴方の師匠が転生者だってことは分かった。そして、その人から色々と教えてもらってたのね」
「うん、本当に色々と教えてもらったよ」

 過去にあった師匠との数々の出来事を思い出しながら、懐かしむような表情を浮かべるレオン。

「それで、その貴方の師匠って人は今、どこに居るの?」
「うん。実は僕の師匠はもう亡くなっていて、この世には居ないんだ」

 

 

第11話 部屋割り

 レオンが2人を引き連れて宿に戻ってくると、建物の中で女主人が待ち構えていた。朝目覚めて階段を下りてきた時にレオンが、彼女と顔を合わせた時と同じように。

「おかえりなさい、ところで後ろの女の子と男の子は?」

 帰ってきたレオンを目にして、女主人が声を掛ける。そして、後ろに引き連れて歩いている美しい獣人の少女と、まだ幼い男の子が彼女の目に留まって誰だろうと尋ねていた。

「奴隷です。買ってきました」
「そ、そうなの」

 さらっと答えるレオン。そんな彼の答えを聞いて、女主人は少し引いていた。

 奴隷を引き連れている事について、ではなく奴隷を2人も買ってきたのに当たり前という感じで接している、レオンの答え方に関してだった。

 買ってきた、とあっさり言いきれるような程に奴隷は安いシロモノではない。しかも2人引き連れている事から、2人分の買取価格を支払っているはず。

 決して安い買い物ではなく、もっと大きな反応をレオンは返すべきだと女主人には思われたけれど、彼の態度は変わらず普通だった。

 それはつまり、彼がそれぐらいの金額では慌てないほど大金を扱うのに慣れている、という証拠だろうと女主人は考えた。

 大金を持っている人物といえば、と思い浮かべようとすれば女主人の頭の中で真っ先にイメージされたのは貴族という地位にいる者達だった。

 昨日、レオンが宿を訪ねてきた時から見た目が貴族っぽい整った顔をしている、と思っていた女主人だけれど、冒険者になる事を目指して地方から王都にやって来たと彼の身の上話を聞いていて、庶民なんだと思っていた。

 だがしかし、それは間違いだったのかもしれないと女主人は思い悩む。もしかしたら、どこか貴族の子息が身分を隠して冒険者を目指しているのかも。下手をしたら、王族の嫡子である可能性もある。

 レオンの立場を推理して、内心で慌てふためいている女主人の気持ちなどつゆ知らず、何時も通り接するようにレオンは彼女に尋ねた。

「彼女たちの部屋を用意してもらいたいんですが、可能ですか?」
「え!? えーっと、そうね。一応、部屋の空きはあるわ」

 ルーとケイの2人は女の子であるから、男であるレオンは部屋を別にしたほうが良いだろうという判断で、宿には新しく部屋を借りるつもりであった。

 そして部屋が空いているかどうか女主人に確認してみれば、空いているという答えが返ってきた。けれども、女主人の返事は歯切れが悪い。部屋を新しく借りるのに何か問題があるのだろうかとレオンが思っていると、女主人は空室について教えてくれる時に躊躇した原因を教えてくれた。

「部屋は空いているけど、女の子と子供の2人だけに部屋を借りるのはオススメしないわ。この宿には冒険者が多く泊まっていて、中には荒くれ者もいるから時々問題を起こしてしまう人も居るの。私達スタッフも一応注意はしているけれど、万が一のために自衛してね」

 冒険者御用達の宿として、泊まっている客は冒険者として魔物との戦いを経験している戦士ばかり。だから、腕っぷしも強いので女性や子供では太刀打ちできない。

「つまり、一緒の部屋で固まっていた方が良い、ってことですか?」
「えぇ、そうね。特に彼女は注意したほうがいいかも」

 そう言って女主人は、美人であるルーを指して注意を促す。王都だと、宿で泊まるのにもそんな危険があるのかとレオンは驚いていた。

 故郷では、そんな事は聞いたこともないので思いもしなかった危険だ。確かに考えてみれば、部屋を別々にするという事は危機だろうと感じるレオンだった。

 けれでも彼女たちの性別は女性だし、レオンとは同い年、年頃の女の子でもある。一緒の部屋に自分が居ても大丈夫かどうか、と彼は心配していた。

「レオン様。私は部屋が一緒でも大丈夫です。奴隷の私達に、あまり気遣いすぎるのもよろしくありません。必要なら、そういう行為の教育も受けているので大丈夫です」
「僕も大丈夫」

「わかった。それじゃあ、皆で一緒の部屋で」

 ルーもケイも、特に嫌がる素振りは見せずに一緒の部屋でも大丈夫と答えてくた。彼女達の厚意に甘えさせてもらって、同じ部屋にすることを決めたレオン。

「レオンくんの今借りている部屋に、3人が入るとなると狭くなっちゃう。今なら3人で過ごせる部屋が空いていているから、そっちの部屋に移ったらどうかしら?」
「じゃあ、それでお願いします」

 女主人に勧められるまま、借りている今の部屋から別の部屋へと移る事に決める。王都に住む場所を見つけるまで、借りの住まいとして宿を借りて生活するつもりだったけれど、もう少し滞在する期間が長引きそうかも、とレオンは感じていた。

 新しい部屋に案内してもらうと、確かに3人でも全然大丈夫な広さの有る部屋だった。価格は一人部屋に比べるとちょうど三倍近く値段は高くなったけれど、部屋を借りて移ってきたのが正解だと思えるぐらいに良い部屋だった。

 その後、レオン達は軽く夕食を済ませると、色々な出来事があって疲れていた彼らはその日の夜すぐに寝付いた。

 レオン、ルー、ケイはそれぞれのベッドに別れて眠る。そうして、レオン達の一日が終わった。


***


 しかし夜が明ける前の、深夜になって目を覚ますレオン。奴隷のケイが、起き出してベッドから移動を始めたのに気が付いたから。

 何をするのか寝たフリをして彼女の観察を続けていると、ケイはレオンの眠っているベッドに侵入してきた。そして、彼女は小さな声で寝たフリを続けているレオンに声を掛ける。

「ねぇ起きて」
「どうした?」

 レオンがいま目を覚ましたという風に演技をして応えると、ケイはシーッと口の前に指を立てて静かにするように指示する。そうしてから彼女は突きつけるようにして、こんな言葉をレオンに発した。

「あなた、転生者なんでしょう?」