閑話02 忌々しい

 クラン会合が終わった後、フレーダーマウスのクランでマスターを務める男と、ドラゴンバスターのクランでマスターを務めている男、その2人は再び集まって、会話をしていた。周りには2人以外に誰も居ない部屋の中。

 彼等の会話の内容は、戦乙女クランのマスターであるレオノールの態度について、それからモンスターの突然変異に関してだった。

「あぁ、忌々しい」
「何なのだ、あの女の態度は」

 ふたりは、恨めしいという感情を言葉に出して発散していた。もともと攻撃的な態度をとったのは彼等が先だったのだが、その時の記憶は都合よく頭の中から抹消、反抗された時だけを憶えていてレオノールを批判していた。

 相手を悪く言う為だけに彼等の思考は働いていた。反省しようと少しも思わないから、彼等の態度が改まることは無い。

 どんどんと女性を見下すという考え方が強くなり、男子禁制で女性冒険者集団である戦乙女クランを目の敵にして憎しみや蔑みが止まらない。

 彼等は戦乙女クランに対して、自分たちよりも総合的な実力は下だと思っている。それなのに最近は優秀な成績を収めて活躍している。世間での評判も良いらしくて、実力が下だと思っていた者たちが際立った仕事ぶりをしていると聞くと、嫉妬して憎しみを増大させていた。

「ふん、まぁいい。今回の王国からの依頼を遂行すれば、今の状況も正常に戻るだろう」

 戦乙女クランが躍進を遂げているのは、今の状況が異常だからなのだと考えていたドラゴンバスターのクランマスターである男。

 そんな彼は、今回の王国からの魔核に関する依頼を遂行することで状況が変わると考えていた。そして、自分達が依頼を達成できると信じて疑わなかった。彼が、そんなに自信満々になれるのには理由がある。

「既に、我々は魔核のある場所は把握できている。ちょうどいい時期に、ちょうどいいタイミングで王国が動いてくれた。運は我らの方に向いているな」

 笑顔を浮かべるフレーダーマウスのクランマスター。

 彼等も伊達にクランマスターという立場に居るわけではなく、モンスターが突然変異している現象には以前から目をつけていて、原因の調査を行うパーティーを派遣していた。

 その結果、魔核という原因を突き止めて、魔核がある場所も既に把握していた。そんなタイミングで、王国から出された依頼の内容を聞いたから、自分たちに幸運が舞い込んでいると感じていた。

「発見を報告するだけでもアレだけの報酬が出される。魔核を持ち帰れば更に追加の報酬。王国は兵士を派遣するのではなく、冒険者クランに依頼を出してあれ程の大金を放出をして手伝いを願い出る程、王国は今、困っているようだな」

 現状を予想し、王国に頼られているんだと考えると、ドラゴンバスターのクランマスターも笑みを浮かべた。

「そんな困っている事態を我々が早期解決すれば、クランの名を上げる良い機会となるだろう」

 そして、評判を得て有名になっている戦乙女クランの人気を追い越し、再び自分たちが上の立つ瞬間がやって来る。そんなバラ色の未来を妄想していた。

 早速、フレーダーマウスとドラゴンバスターのクランに所属しているメンバーを編成して、いくつかのパーティーを組むと、既に発見している魔核を王都に持ち帰ってくるように指示を出した。魔核を既に発見している、という情報はまだ報告しない。

 魔核の回収は、他のクランには秘密裏に行われて魔核のある場所も当然、誰にも知らせずに2つのクラン内だけで情報共有。フレーダーマウスとドラゴンバスターのクランだけで全ての処理しようと、功績を自分たちだけで独占しようと考えていた。

第10話 私達は、何時も通りに

 王国から派遣されて来た男性が、現在の王国内で多発しているというモンスター突然変異について、あらかたの情報を周知した後。

 魔核という、いま問題として挙がっている変異の原因だと思われている物質を、発見して報告した者には報奨金が与えられるという。更に、魔核を破壊して残骸を持ち帰ることが出来れば、報酬が上乗せられるという内容。つまり、依頼主が王国である探索系の依頼が発行されたということ。

 王国が依頼達成の報奨金として提示した金額は、結構な大金だった。羽振りの良いことに、最上級S級ランクと言われているモンスターを一体討伐した時に受け取れる報酬と比べてみて、おおよそ何十倍もの金額であった。通常の依頼では、決して到達しない程の報奨金だった。

 それらを話し終えると、さっさと会議室から去っていく王国から派遣された男性。他のクランマスター達も、それぞれに付いているサブの人員と今の内容について話し合ったり、さっさと部屋を去っていく。

 僕とレオノールも、さっさと部屋を出ていく連中の一組だった。そして、会合が行われていた建物から出ると、僕と彼女の2人きりになって戦乙女クランの拠点へと帰っていく道中。先程、聞かされた内容についてを話し合う。

「どうする? 探す?」
「いいや、今回は関わるのは止めておこう」

 魔核を探すかどうか、クランマスターであるレオノールの方針について尋ねてみる。すると彼女は、速攻で関与しないでおこうという答えを口にした。僕が質問する前には、もう方針は決定済みの考えであったらしい。

「どうして? 報奨金が結構高いから、探してみるのもアリかと思うけれど」
「なんだか関わると、面倒な事になりそうな予感があるからな」

 歩いている最中に腕を組みながら、少し考える素振りを見せるレオノールだった。彼女の勘は鋭く、なかなかの察知能力が有るので従ったほうが懸命だろう。

「一応、王国からの依頼だから適当に取り組んでる姿勢だけ見せて、後は誰かが見つけて処理するのを期待して、解決するのを応援するとしよう。私達は、いつも通りに通常の依頼をこなすだけでいい」

 クランのトップであるマスターを務める彼女は、早々に意思決定をしてクランの進むべき方針を固める。そういう判断の早い所にカリスマ性が有るのだろうな、と僕は考えていた。そして、自分とは違う彼女の判断力の速さに憧れすら感じる。

 その判断力の速さや意志の強さがあれば、早い段階のうちに僕も戦乙女クランから脱退できていたのだろうか。そんな僕の考えている思考を遮るように、レオノールが会話を続けた。

「だから今回は、あの2つのクランの活躍に期待しよう」

 あの2つのクランとは、先程クラン会合の時に色々と言ってきたりしたフレーダーマウスとドラゴンバスター、2つのクランのことだろう。

「皮肉だよね、それ」
「まぁな」

第09話 ぜひご協力して頂きたい

 先程の報復という様に、当て付ける感じで手助けを立候補した2つのクラン。対して、戦乙女のクランマスターであるレオノールは何事もないように平然としていた。今回の王国からの手助け依頼に対して彼女は、何らチャンスとは思っていないよ、という感じだった。

 まぁ、今の状況でも戦乙女クランには一切問題はないから、これ以上無理をして名を上げることも無い、ということだろう。ただでさえ、今でも嫉妬深く妬みの感情を様々な方面から向けられているのだから、これ以上に名を上げるのに必死になる必要な無い。

「え、えぇ。もちろん、お二方のクランから協力を得られるのは、我々としても非常に助かるのですが、その……。他のクランの皆様にも、ぜひご協力して頂きたい。それから、戦乙女クランの皆様のお力をお借りできれば幸いなのですが」

 進行役の王国から派遣された中年男性は、言葉を選びながらとても言いにくそうにしつつも、先走って名乗りを上げたフレーダーマウスとドラゴンバスター、2つのクランを遠回しに押し止める。

 そして、その場に集まっている数々のクランにも協力を求めていた。と言うか、戦乙女クランは名指しで協力を求められていた。

「くそっ」
「チッ」

 先手を打とうとしたのに失敗して、悔しそうに表情を歪めている。咄嗟に出たというような言葉を発したり、舌打ちをしているクランマスター2人。

 少しは表情を隠そうとはしないのか、やはりクランマスターという立場に相応しい人達じゃないだろうに、と内心で彼らを批判しつつ会議の様子を眺める。

「話を進めても、よろしいでしょうか?」

 進行役の彼が一度、参加しているクランマスター達を見回して確認をとってから、ようやく話を進め始める。

「ではまず、最近のモンスターの突然変異について判明している事を情報共有しておきます」

 王国内でのモンスター突然変異に関する情報、どのくらい発生しているのか、どの地域で発生しているのか、どんなモンスターが突然変異しているのか、等の情報をその場にいる皆に共有していく。

「実は過去にも、今回と同じ様にモンスター突然変異が起こった現象が記録されていました。その時に起こった原因となったのが、魔核による影響だったと書き記されています」

 魔核が原因。確か魔核というのは、鉱物のように地中に埋まっていたりする、存在するだけで環境や生物に悪影響を及ぼす物質だったと、何かの本で読んだ覚えがある。

「今現在、起こっているモンスター突然変異も、その魔核という物質が引き起こしている現象だと我々は結論付けました。皆さんには、まずこの魔核を見つけ出して頂きたい」

第08話 会議を始めます

 クラン同士での会議が始まる前から、室内の雰囲気は最悪と言っていい状況だった。突っ掛かってきた、他のクランマスターを挑発して黙らせたレオノール。その後、黙りこくった2人と同じ様な行動をとるように皆は黙って、室内が静まり返っていた。

 その場には他にもクランマスター達や、サブメンバー達が居たけれど、レオノール達の争いには不介入というスタンスを取っていた。

 傍から様子を眺めるだけで、争い合うのを面白そうと眺める者、鬱陶しそう迷惑だという感じで表情を不快げに眉をひそめたりする者、更にはレオノールを睨んで口には出さないが女の方が悪いと思っていそうな者も居たりする。

 多分、最近好調な戦乙女クランに対する嫉妬も有るのだろう、レオノールに批判的な目を向ける人は居るが、フレーダーマウスとドラゴンバスターのクランマスター2人には、そんな目を向ける人は居ないようだった。ただ、単純に面白がって見ている者たちが多かったが。

「いや、申し訳ない、遅れてしまいました」

 すっかり静かになった会議室に、中年の男が頭を下げて謝りながら入室してきた。今回のクラン会合を開くように要請してきた人であり、見た目は自信無さそうに腰を低くしている。けれども、国の中心である王城で働いている結構地位の高い役職に就いた偉い人だったはず。詳しくは知らないが。

「では、早速会議を始めさせてもらいます」

 中年男性は落ち着き無くおどおどした態度だったが、部屋の中に居るクランマスターの視線に晒されながらも会議の進行役を務めて、話を進め始めた。

「皆さんもご存知の通り、最近この国ではモンスターの異常な変化、突然変異が多発しております」

 確かに最近、受ける依頼の中に突然変異したモンスターの討伐が多くなったような気がしていた。なるほど、それに関する話かと議題に挙がった内容を聞いて僕は納得する。

「王国でも問題視されていて、冒険者の皆様にはぜひ解決の手伝いをお願いをしたく、皆様に集まってもらいました」

 モンスター突然変異は王国でも問題だとみなされている、そしてクランに手伝いをお願いしてきたということは、かなり切迫した、対処に急を要する事態らしい。

 王国から直々の依頼というわけだから、解決の為に動いて貢献できたらクランの名を上げるチャンスでもある。

「モンスターの突然変異についての問題、私のクランにお任せ下さい」
「同じく、私も解決する為にお手伝いします」

 そんな絶好のチャンスは自分たちに任せろと自信満々に声を上げたのは、先程レオノールに突っ掛かっていたドラゴンバスター、フレーダーマウスのクランマスターである2人だった。さっきからあの2人は仲が良いな、という感想を持った。

第07話 女のくせに

 レオノールが戦乙女というクランを立ち上げたのは、女性の地位を向上させる為にという目的があった。そして女性が男性の力を借りることなく、生活できるようにする手助けが出来るような組織を作ろう、という考えが彼女にあった。

 昔から、女性だけで集まって組んでいた冒険者パーティーは存在してたらしいが、異端で珍しいと言われるぐらいに稀だった。そして珍しいから標的にされやすく、結局は自衛できずに周りからの悪意によってパーティー崩壊させられていたという。

 それが、レオノールというカリスマ性を持っている女性で、能力も飛び抜けていた彼女が先頭に立って冒険者クランを立ち上げた事によって、ドンドン女性冒険者達が集まってきて入団希望とクランを訪ねて来たのだった。

 そして今では、戦乙女というクランは名の知れた女性冒険者集団となっていて、数あるクランの中でも一番に実績を積んで良い成績を残している、有名で実力もあるクランの1つとなっていた。

 それなのに、凝り固まった思考で女性冒険者の集団だというだけで批判する連中は、まだまだ世の中には多く居るもので。

「また、この場に相応しくないクランが席についているぞ」
「女のくせに生意気そうに席に着きやがって、まったく恥を知れ」

 定期的に行われているクラン会合の場で、フレーダーマウスという名のクランマスターと、ドラゴンバスターという名のクランマスター、2人が小声で話し合っているのが僕の耳にも聞こえていた。

 彼らは、席に着いているレオノールに忌々しそうな視線を向けて、誹謗するような言葉を口にしていた。2人は既に50歳を超えている経験豊富なベテラン冒険者であるはずなのに、いまだ人を馬鹿にする態度をとっている彼らに呆れてしまう。そして、そんな人物をマスターに据えているクランも馬鹿じゃないだろうかと、内心で思っていた。

 彼らは、小声ではあるものの”女のくせに”と悪口を言っていた。この場には、レオノール以外に女性は居ない。つまりは、明らかに彼女を指して中傷している言葉だった。

 ……いや、周りから見れば僕も女性だと思われているのだから、僕を指した言葉なのかも。でも、今はレオノールのサブとして後ろに控えるよう立っているので、席に着きやがって、という言葉には当てはまらない。だから、やはり彼らの言葉はレオノールを指しているのだろう。

 僕は少しムッとして、誹謗中傷してくる彼らに目線を向けようとしたが、直前でレオノールに止められた。

「ギル、怒る必要はないぞ。駄犬が無駄吠えしているだけだ。我々はただ、結果を示せば良いだけだよ」

 不敵に笑みを浮かべて前を向いたまま、そう言い放ったレオノール。僕に向けた言葉ではあったものの、大きな声でその場にいる全員に聞こえるようなボリュームだった。それは、明らかな挑発行為だった。

「駄犬だと! き、貴様は我らを愚弄する気か?」
「愚弄? ならば、冒険者らしく腕くらべでもしましょうか? 生死を問わない、真剣勝負。周囲にしっかりと実力を示すことが出来るが、さぁどうする?」

 簡単な挑発に乗ってきた彼らを、心底バカにしたような口調で勝負まで挑んでいくレオノール。もちろん、彼女は少しも負けるつもりは無く、相手を返り討ちにして殺すつもりの真剣勝負を望んでいた。

 そんな彼女の本気度を悟ったのだろうか、そしてベテラン冒険者らしく危険察知能力はそれなりに備わっていたのだろう、口を閉じて彼らはもう何も言わなかった。

閑話01 誰が一番?

 私の名はアデーレ、冒険者になるのを夢見て王都にやって来たけれど現実を知らなかった私は、悪い男に騙されそうになり娼婦に落とされる寸前になって戦乙女クランのメンバーに助けてもらう、という過去があった。

 その後は助けてもらった縁を大事にして、戦乙女に所属することにした。冒険者として日々活動し鍛えて、今ではそこそこの実力を手に入れることが出来ていた。そんな私の最近の楽しみは、仲間の皆と戦乙女のメンバーについて話し合うこと。

「やっぱり、一番はレオノール様だと思うわ」

 先輩の1人である彼女は、もっとも心酔しているクランマスターの名前を挙げた。戦乙女クランを立ち上げた人で、大きな組織になるまで皆を率いてきたカリスマ性は本当に凄いと思う。

 見た目は凄く美人であり、常に冷静に物事を対処して慌てた姿を見たことがない。あの人になら、死ぬまでついて行こうと思えるような人だった。

「ケチを付けるつもりじゃないけれど、レオノール様は完璧すぎて近寄り難いというか、遠くから眺める事しか出来ないと思う」

 別の先輩が、対抗する意見を発言する。確かにレオノール様は、完璧すぎて畏れ多く感じるから、気安く近づきにくいという意見には賛成だった。

「それじゃあ、親しみやすさで言うとティナ様とかは?」
「どちらかというと、友達っぽいかな」

 同年代の仲間である1人が、ティナ様の名前を挙げた。確かにレオノール様と比べたら圧倒的に親しみやすいし、明るく元気で人懐っこい人だ。クランメンバーの中でも、飛び抜けた実力があるのに自惚れることはなく、とても親切な人でもあった。でも誰かが反論した、友達っぽいというイメージが確かにある。

「頼り甲斐があって、親しみやすさもあるって言うとエレーナ様は?」
「うん、一番条件にあっていると思う」

 エレーナ様の名前が挙がった時、賛同する声が多数上がった。男に負けないほど、いや男にも明らかに勝っている身長の高さと筋肉の量は、私達には無い頼り甲斐がある部分だった。

「じゃあ逆に、クラリス様とか!」
「うーん」「あー」「えっーと」

「えっ!? クラリス様はダメ?」

 クラリス様の名前が挙がった時、皆が一斉に反応に困るという感じの声を上げた。メガネの似合う美人だし、真面目な性格で頼りになる人。ただ……。

「真面目過ぎる、と言うか仕事一番って感じがしてね。プライベートでも厳しそうなのが、ちょっと」
「じゃあ、癒やしを求めてソニア様という選択?」

 ソニア様! いつも美味しい料理を作ってくれる人。あの人なら、毎日一緒に過ごせれば、癒やしを得られること間違いなしだ。

「でもソニア様はお母さん、って感じだから」

 そういう観点から見れば、今回の条件から外れる。

 皆があーでもないこーでもないと話し合っている中、私は満を持してある人の名前を挙げてみる。

「ギル様は、どうでしょう?」

「「「あー」」」
「「「うーん」」」

 私の挙げた意見に賛同する人と、納得出来ないという感じの声を上げる人の半々に分かれる。

「ギル様は、やっぱり可愛い系? だから違うと思う」
「でも、やる時はやる人だから頼りになるよ?」
「あの可愛さは守ってもらう、と言うよりも守ってあげたいって感じるよ」
「でも、実力は私達じゃ絶対に敵わないぐらいだからなぁ」

 喧々諤々とギル様に関しての意見が交わされる。やはり、見た目の可愛さと実力の凄さによって意見が別れているようだった。

 そんな中で私は、今回の一番に恋人にしてもらいたいと思うクランメンバーは誰という話し合い、一択でギル様を選んでいた。

 というのも、私が悪い男に騙されそうになっていた時に助けてもらった、というのがギル様だったから。戦乙女クランに入団するキッカケとなった人であり、今でも私が夢中になっている人だったから。

 その後も話し合いは続き、色々と意見が交わされてクランメンバーの中で誰が一番かという順位付けが行われるのだった。

第06話 美味しく頂いてます

 モンスターの討伐依頼を遂行して目的が完了すれば、戦乙女クランの拠点に戻ってくる。

 その後は成果を確認したり、冒険者ギルドに報告しに行ったり、任務に同行したクランメンバーと反省会をしたりして、それらの作業が終わってようやく依頼任務が全て完了。その日の仕事が終わりとなって、夕食をとる。

 クラン拠点の中には食堂があって、行けば料理が用意されている。それを食べるのが楽しみで、夕食をとるのが1日の終わりを感じる瞬間であった。

「今日のご飯は?」
「お疲れ様、ギルちゃん。今日は羊肉をローストしたステーキに、サラダ、それとオニオンスープね。ビールはこっち」
「わぁ、美味そうな肉だ。いただきます、ソニアさん」

 夕食を配膳してくれたのはソニアという名前の、戦乙女クランで料理番などを務めて食料管理をしてくれている女性だった。

 彼女はまだ30代ぐらいの若い女性だが、クランメンバー達が食べる毎日の食事を用意してくれている裏方として非常に活躍している人だったので、皆からお母さん的な存在として親しまれていた。

 そして僕の目の前には今、上流階級がとるような豪華な食事が並べられている。普通、一般家庭ならば麦を粥状にしたオートミールと呼ばれている食べ物が主食で、お肉を食べるのは特別なイベントの時ぐらい。

 少なくとも、並の冒険者では食べられるようなものではないメニューが、この戦乙女クランでは、毎日の食事として用意されていてクランメンバー皆が食べることが出来ていた。

 というのも、冒険者として活躍するためにはしっかりとした物を食べないとダメだ、という考えを持っているクランマスターに従って、そして多くの賛同者を得て、拠点で用意されている食事は重要視されて、実際に用意されているのが美味しく豪華なものだった。

 食材はソニアさんのこだわりによって調達してきた物を使っていて、更に彼女が長年にわたり腕を磨いてきた技術を活かして、調理された料理。マズイわけがない。

「ほら、小さいんだから残さずに食べるように。野菜も食べなさいね」
「あ、はい。美味しく頂いてます」

 それに面倒見がいい人で、身体が小さい僕を気遣って沢山食べるように嫌味なく言ってくる人でもあった。もう成長期は過ぎていて、これ以上に身長が大きくなるかどうか定かではないが、とりあえず言われた通りに食べる。背が伸びれば良いな、と思いながら。

 食堂での料理を食べ終えたら、その日は拠点の中にある自室に戻って休むだけ。こんな感じで、僕の戦乙女クランでの1日が終わる。

第05話 僕が先に仕掛ける

 今日の仕事は、厄介なモンスターの駆除。やって来たのは街の近くにある森の中。そこに、突然変異で巨大化したというグランドワームという名前の、ミミズがデカくなったようなモンスターが発生したという。

 通常では人間の大きさ程度のサイズだが、依頼を受けた今回の標的はその何十倍も大きくなっていると聞いていた。何組か冒険者パーティーにも依頼を投げたそうだが、標的は大きくなりすぎていて並の戦士では致命傷を与えられず結果は、討伐を失敗したそうだった。

 そして最終的に、戦乙女クランへと依頼が流れてきたそうで、僕たちが処理する事になった。

 戦乙女クランから何人かのメンバーを引き連れて、森の中を進んで行く。すると、早速標的のモンスターを発見することが出来た。

 事前に聞いていた情報の通り、突然変異と言える巨大化を果たしていたグランドワームを見つけるのは容易な事だった。

 森の景色から上、青い空との間にヒョコッと茶色い身が姿を見せていた。見上げるぐらいの大きさに、一面を覆うような身の長さがあるようだった。遠目で見ても、だいぶサイズが大きいだろうという事が分かった。

 発見することは出来たので、後はあの標的を討伐するだけ。

「エレーナ、僕が先に仕掛けるから追撃をお願い」
「わかりました」

 僕の身長と比べて、倍ぐらいはある背の高い女性であるエレーナに援護をお願いしてから僕が先に1人で突っ込んで、スピードでモンスターを手玉に取る。

「ハッ! っと、やっぱり硬いな」

 一足飛びで近づいた勢いのまま、手に持ったロングソード、騎士が使用するような剣で斬りつけて一撃を加える。だがグランドワームの硬い皮膚に阻まれて、刃が思うように入っていかない。これでは、致命傷を与えることは出来ない。

 巨大化しているグランドワームは、その見た目からは想像つかないが意外と動きが早かった。そして大きい身をちょっと動かすだけで、体の重さによって何十本もの木がバリバリと一斉に倒されて、大きな音を辺りに響かせていた。あの身の下敷きになれば、ひとたまりもない。

 だが当たるつもりはなく、動き回って何度も攻撃を繰り返しグランドワームを翻弄する。そうしている内に獲物となる奴の視線が、僕の方に注目している事が分かった。攻撃して注意を引く、という目的は達成。

「ウォォリャ!」

 エレーナが大斧を振り下ろす。僕に注目していたグランドワームの意識外から、致命傷となる一撃。

 巨大女として世間で有名になっているエレーナよりも、更に大きな斧を力に任せて振り下ろされると、流石の硬化したグランドワームの皮膚でも阻むことは出来なかったらしい。大斧の刃が食い込んで、破れた皮膚から血が流れ出ていた。

「一旦、離脱!」

 エレーナが指示に従って、グランドワームの側から離れる。僕は、エレーナの与えた傷跡から攻撃を重ねて傷口を広げてダメージを与えた。それから、獲物から離れる。

 攻撃を受けて血を流し、身をよじっている巨体に巻き込まれないように一旦離れて、様子を見るため。

「あれで大分弱ったから、後は簡単かな」
「お疲れ様です」

 今回の戦いで、標的に致命傷を与えるという一番の手柄を立てたエレーナが近寄ってきて挨拶をした。
 
「うん、エレーナもお疲れ様。援護ありがとう」

 遠くから観察してみて、もう討伐作業の大半が終わったと確信していた。あとは時間を掛けて、絶命するのを待つだけで終わり。少し早めに作業を終わせるために、攻撃を加えるのも良いかもしれない。

 連れてきた戦乙女クランに所属するメンバーの訓練に最適かもしれない、などと考えながら今後の予定を頭の中で組み立てていた。

第04話 男だからって言えない

「それでクラリスは、何を聞きたかったの?」

 先程、彼女が何か話そうとする前に僕が別の話題について話し始めて、止めてしまった会話。何を話そうとしていたのかを、戻ってクラリスに確認する。

「はい。ギル様はまた、クランを脱退したいとレオノール様に訴えたと耳にしたのですが、本当ですか?」
「あー、うん。さっきレオノールと話して却下されてきたよ」

 何度か戦乙女クランから僕を脱退させて下さい、と訴え出ているのを彼女は知っているらしい。そして、少し前の出来事の筈の事も既にクラリスは知っているようだった。

 思わず生気の無いような声で、僕は適当に返事をしていた。

「なぜ、ギル様は戦乙女クランから離れようとしているのですか? 何か不満があるのでしたら仰って下さい。力になれるかどうか分かりませんが、改善のお手伝いをさせて下さい」

 真剣な表情を浮かべて、僕を心配してくれている様子のクラリス。彼女は、どうしてもクランから僕が離れては欲しくないようだった。原因を聞いて問題を解決してくれようと、手助けを申し出てくれた。

 ただ僕が戦乙女クランから離れたがっている原因は、残念なことに彼女には解決不可能であった。

「(クランを辞めたがってるのは、僕が男だから、って言えないよなぁ……)」

 クラリスには、僕が男だという事は知られていない。

 そして、特に彼女のように真面目な性格の女性にバレでもしたら、とんでもないことになってしまうだろう。女の格好をして男子禁制のクランに侵入していた変態男として衛兵に差し出されたりして、許してはくれないだろうな。

 そういう訳で彼女には絶対に本当のことは話せないし、申し訳ないが誤魔化すしかない。

「僕のような古顔は、そろそろ退いて後の子たちに任せたほうが良いんじゃないか、って思って」
「そんなこと、あり得ません! ギル様は、ずっと戦乙女クランのシンボルとして残るべきです」
「し、しんぼる?」

 僕の語った言葉の内容は辞める理由としては嘘だけれど、本音も少し混じっていた。あわよくば、後輩たちに後を任せて戦乙女クランを抜けられないか、と思っていたのだ。

 そんな僕の考えに対して、カッと目を見開いて辞めるべきでないと熱弁をするクラリス。

「と、とりあえずレオノールには却下されたから、しばらく戦乙女クランに残ることになりそうだよ」
「それがよろしいと、思います」

 クラリスの熱量に圧倒され、勢いに押された僕は戦乙女クランに残留する、という言葉を口にしていた。それを聞いて安心したのか、クラリスがいつもの物静かな雰囲気に戻る。

第03話 様付けで呼ぶのをやめて

 慰めてくれるティナに、色々と不満をぶちまけた後。ある程度、話をして気力が回復してきた僕は、本日も仕事を開始した。

「ギル様、本日のクランに届けられた依頼はコチラです」
「ありがとう、クラリス」

 戦乙女クランから脱退するのを諦めた訳ではないが、仕事をしない訳にもいかず今日も働きに出る。戦乙女に届けられた依頼を処理しようと、先ずはどんな問題があるのか確認しにやって来た。

 すると、待ち受けていたのはクラリスという名前の女性。

「緊急度順に並べ替えておきました。最初の方にある依頼を、先に処理するようにお願いします」
「ありがとう、わかったよ」

 メガネを掛けた見た目からも分かる、真面目な性格であるクラシス。彼女は細かな所にまで気を配ってくれて、いつも仕事をしやすく整えてくれている。戦いに出ることも出来るが、事務的な仕事に才能がある女性であった。

「ところで、ギル様」
「んー、その前にちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」

 依頼を確認している僕に呼びかけて、何か問いかけようとしてきたクラリス。そんな彼女を制して、先に僕の方から気になる事を指摘した。

「その、様付けで呼ぶのをやめてくれないかな? 普通に、名前を呼び捨てにして呼んでくれないか」

 クラリスとは、戦乙女のクラン立ち上げ当初から今まで長い間を一緒に過ごしてきた仲間である。そんな彼女から、名前に様を付けて呼ばれるのは距離を感じてしまう。それに、クランマスターであり威厳たっぷりなレオノールと違って、僕には様という敬称での呼ばれ方は似合わない。

 だから何度か、その呼び方は変えてくれないかとお願いをしていた。けれども彼女の返事は、決まってこうだった。

「それは出来ません、ギル様。あなたは戦乙女というクランのNo.2に位置するお方ですから。それに何より私はギル様を敬愛しています。そんなお方を、ちゃん付けでは呼べません」

 いや、ちゃん付けで呼ぶ必要はなくて呼び捨てで良いんだけれど……。

 それから序列で言えば、クラリスもクランメンバーの中では上位と言える位置に立っているから、本来なら呼び捨てでも構わない。実際に他のメンバーからも、名前を呼び捨てにされている。

「ティナから僕は、何の敬称も付けずに呼ばれているけど」
「あの子は、ただ単に無遠慮なだけです。今度出会ったら、私がしっかりと相応しい態度をするように、教育しておきます」
「いや、違うんだ。ごめん。様付けで問題ないから、ティナは勘弁してあげて」

 ティナにまで影響が出そうだったので、僕は急いで引き下がって様付でも問題ないからとクラリスに許可を出す。

 クランを脱退したいという望みと同じ様に、クラリスの様付けを無くして呼んで欲しいという僕の願いは、やはり聞き入れてもらえなかった。