アイティオピア 登場人物(仮)

・有馬祐介 ー主人公

 本作品の主人公で施設の所有者。社会人として勤務しながら、仕事以外の自由な時間とお金をアイティオピアというゲームをプレイするために費やしていた重課金プレイヤー。

ステータス
—————
Lv.539
筋力 : 3213
知力 : 1118
精神力: 2332
魔力 : 4012
運  : 3331


<スキル>
なし

<プレイヤースキル>

 ウィンドウ:所持している施設に関して、育成しているキャラクター、所持アイテム等の情報を表示してくれる画面を取り扱うことが出来る。ウィンドウのスキルを持っている人間以外には見えない。

 ステータスポイント移動:自分のステータスの値を目標にした相手に1/10の数値で譲渡することが出来る。また、逆に条件さえ満たせば相手のステータスを1/10の値で受け取ることが出来る。


—————

 

・アロ ーヒロイン

 プレイヤーが謎の存在から育てるように言われた人物。両親が小さい頃に亡くなって、代わりに村長に養ってもらっていた。だが、その村長に奴隷として売られてしまうかもしれないと知って、村から逃げ出してきた。そしてたどり着いたのが主人公の持っている拠点だった。

 

ステータス
—————
Lv.7
筋力 :  213
知力 :   18
精神力:   32
魔力 :   12
運  :    3


<スキル>
農業術 Lv.2
—————

 

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アイティオピア 用語集(仮)

【アイティオピア】

 VRMMO技術を駆使して作らてた、育成シミュレーションゲームの名前。

 発売から1年で200万枚以上のプレイ認証トークンが売られた。同時接続40万人を記録し、アクティブユーザーは150万人居ると言われている。現在は、日本やアメリカなどを含めた12カ国でプレイされているが、今後は海外展開していってユーザー数は更に増える見込みである。

—————

 貴方の育てた勇者が世界を救う。
 VRMMO初の本格派育成シミュレーションゲームが登場!

—————

 開発:フリーダムソフトウェア

 

【拠点クラマ】

 アイティオピアでは、プレイヤーが自由に拠点をデザインできるようになっていて、建物内部の構造や使用する施設など色々と配置を考える必要がある。

 ユウの持つ拠点クラマでは、次に説明するような配置となっている。

 砦のように土地の回りをぐるりと一周壁で囲まれていて、出入り出来る場所は一箇所だけ。
 拠点の真ん中にある建物は、山型に段々と積み上がった形をしていて、上から下まで計5層で出来ている。つまり下の一層が一番広くなっていて、階を上がることにフロアが小さくなっていく。

 建物の一番上にある5層には、プレイヤーの執務室や就寝室などプレイヤーに関わる部屋が割り当てられている。
 一つ下がって4層には、プレイヤーの育成している各キャラクターにそれぞれ割り当てることが出来る部屋があり、全部で32部屋が用意されている。

 3層には、ひとつ上にある4層が満室となり割り当てることが出来なくなったキャラクターのための部屋が用意されていたり、居住以外にも色々な事に使える部屋が揃えられいて、全部で250室ある。

 2層には、食堂、風呂、洗濯室など生活に密接に関わるような施設が準備されていて、キャラクター育成のモチベーション維持に使われる。

 1階層には、会議室、講義室、研究室、魔法訓練室、錬金室、鍛冶部屋等など、キャラクターを効率よく育成するための施設が密集している。

 建物の外を出ると広く取られた内庭があって、そこでは戦闘訓練や基礎能力訓練(走る、筋トレ、武器の試し等)を行う広場がある。

 

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第09話 アロの初めての訓練

 アロを保護した翌日から、彼女の育成を開始する。先ずは、ゲームで培った知識から体力というステータス値を最初に上げるのが後々に有効だという事を知っているので、体力の上昇値が一番高い訓練である”長距離走”をアロに行ってもらう。

 長距離走とはつまり、ひたすら建物の外にある運動場で走ってもらうこと。ついでに俺も、自分の身体の性能を再確認するためにアロと一緒に走りこみをすることにした。

「えっと、走るんですか?」
「あぁ、そうだ。あそこにある線にそって走ってもらう。俺も一緒に走るから、先ずはアロが限界になるまで走ってみよう」

 運動場へ出てきて、今日行う予定の訓練内容を手短に説明する。と言うか走るだけなので、そう伝える。するとアロは訓練内容を聞いた後、走るだけという言葉に不思議そうな顔で問い返してきた。育成方針や、ゲーム知識などをイチから説明していたら一日が終わってしまうので、簡単に説明するしか無い。ただ、アロはそれ以上追求してこないで訓練に意欲を示してきた。

 そんなアロの今の格好は、綿で出来た真っ白な道着で身を包んでいて、両腕に鈍色に光る腕輪を装備している。更に頭には真っ赤な鉢巻を巻いていて、長い髪の毛は後ろでリボンで縛り、ポニーテールにしている。一昔前にあるような、格闘ゲームのキャラクターに居そうな格好をしていた。

 実はアロに装備してもらっている3つの装備である、道着、腕輪、鉢巻。これは、訓練の効果を引き上げる訓練で得られる経験値を増幅してくれる特殊装備で、装備するだけで非常に大きい効果があるものである。これらは、相乗効果で通常の訓練で得られる何倍もの経験値を得てステータス値を上げてくれるので、キャラクターに忘れず装備してから訓練を受けさせるのが良い。

 そんな装備をアロに渡し、装備させて朝食もしっかりと食べさせたので、昨日ベッドで目を覚ました時になっていた空腹や疲労などのステータス異常も回復させて、準備万端で訓練に挑むことが出来る状態になっていた。

 ちなみに、アロは昨日に引き続き今朝も俺の準備した簡単な朝食を食べた。
 準備した朝食を目の前に置いた時に最初アロは、昨日の夜にお腹いっぱい食べさせてもらったのに朝食も食べれるなんて恐れ多い、と恐縮し食べるのを遠慮していた。けれど、食事を満足に済ませないと訓練によって鍛える能力の上昇に大きな影響が出てくるので、少なくとも空腹状態にならない程度には食べてもらえるようにアロを半ば強引に説得して、遠慮せず食べるように促した。

 なんとか説得に成功し、美味しそうに朝食を食べ始めるアロを見ることが出来た。結局昨日に引き続き、またしても規格外の量を食べるアロ。
 一応、食事の後に訓練があることを説明済みで、満腹になって訓練の時に体調がキツくなるかもしれないから、と訓練に支障をきたさないようにコントロールして食べるようにと伝えておい。だが、どうやら食欲を抑えた量でも普通の人の感覚で考えると、とんでもない量を食べていた。

 どうやらアロはかなりの健啖家のようで、今まで貧しくて満足に食べてこれなかったから今のうちに食べ貯めておこうと言う考えではなくて、本当にたくさん食べないと空腹が満たせないらしい。

 そして、多く食べても気持ち悪くはなったりしないようで、むしろ体調が良いらしいとの事。今のところ拠点クラマの食料貯蓄には問題ないのだが、後々にアロの食欲を考えて食料品は買い溜めておく必要があるとしっかり覚えておく。


***


 そして、訓練が開始された。俺は自分の身体の性能を確認しながら、アロの訓練をフォローする。俺が運動場を走りだした時に、後ろにアロが続いて走っている。
 俺の走るスピードは、アロの低身長や歩幅を考えて少し遅めにする。それでも、アロの方からすると俺の走るスピードはちょっと早いようで、しばらくすると息が上がって呼吸が乱れてきたようだった。

 それから、俺はアロの様子を観察しながら1時間程スピードを変えずに運動場をぐるりと何周も走っていた。

 後ろを走っているアロが、ふらふらと身体がブレだして限界が近くなっていることが分かった。1時間経過した後もアロは粘りよく走って、30分程が経った時に限界が来たのか体の力が一気に抜ける。そのまま、力が入らないようで地面へと倒れこむ。その、倒れる寸前に俺はアロを抱きかかえた。

「ハッ、ハッ、ハァッ」
「お疲れ様、想像していたよりも優秀みたいだ」

 呼吸が乱れて返事もできないのか、俺の言葉にウンウンと頷いて反応するだけで言葉は帰ってこなかった。
 走り疲れたアロを休ませるために、彼女を横抱きで抱えて木陰へ向かう。その間に、情報ウィンドウを開いてアロのステータスを見てみると、体力のステータス値が訓練前に比べて一気に3倍に増えていた。

 装備させた3つのアイテムの効果もあるだろうが、アロの運が良かったのか初めての訓練で大成功して訓練による経験値が2倍になったのか、ステータスが大幅に増加していた。

 

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第08話 定めの出会い -アロ視点-

 目が覚めると、見知らぬ場所で眠っていた。その場所は、四方を真っ白な壁に囲まれた見覚えのない部屋の一室だった。床にはじゅうたんが敷かれて、窓も透明なガラスが使われていて外から入ってくる光がとても綺麗だった。部屋の中は清潔に保たれていて、私が今まで住んでいた家とは比べ物にならないぐらい過ごしやすい部屋だった。

 今の状況を確かめるために、自分がなぜこんな場所居るのか記憶を辿る。けれど思い出せるのは、森の中で迷子になっていた事、歩く先の方に何かの光が見えて向かってみた事、辿り着いた所には大きな壁があった。そして、大きな壁沿いに歩いて行くと木でできた門扉を見つけたんだった。そして、最後は疲れで身体が全然動かなくなってしまって、地面に倒れこんで気を失ったのだろう。それから先の記憶は無く、今に至る。

 先程まで横になっていたベッドを改めて見てみると、生まれてから今までの人生の中で見たことの無いくらいに真っ白なシーツ、そして身体を包み込むようにフカフカな寝台。改めて気づいてしまったベッドの綺麗さに、これは汚してはいけない事に気づきベッドの上から出なければ、と立ち上がろうとした時に新たなことに気づく。身に着けていたハズの汚い服から、全く別の綺麗な服に変わっている。
 今まで着ていた服は村長の奥様から譲ってもらった茶色くなったシャツとズボンの古着で、何度も農作業の時に汚してしまい、何度も洗濯しては破れた部分を修繕したもので、見た目がとっても悪い服装だった。そして、着心地もゴワゴワとした肌触りの質の良くない物だったはず。
 それなのに、今着ているシャツとズボンはどちらも白く綺麗で、恐ろしいぐらいに肌触りが良い布が使われていて、着心地がすごく良い。

 眠らされていたベッド、清潔に保たれた部屋、そして質の良い服装。ますます意味がわからなくて、あの後にどうなったのか思い出そうと何度も繰り返して頭を探っていると、ドアが開かれる音がして、誰かが部屋に入ってきた。

 音がした方へ視線を向けると、見知らぬ男性が扉を開いて立っていた。私は咄嗟に男性に向かって声を出して尋ねていた。

「あ、あの! ココ、何処ですか? 私はなんで、えっと……」
「落ち着いて。とりあえずベッドに座って。あとはコレを飲んで、それから話しよう」
 慌ててベッドから立ち上がり、男性へと詰め寄った私を私を落ち着かせようとベッドの縁に座らせてくれた。

 私がベッドに腰を下ろすと、男性が手に何かを握って私に見せてきた。

 突き出された何かへ視線が向く。男性の手の中には、綺麗に透き通った中身の見える円筒状の容器。容器の形から多分コップなのだろうけれど、木や鉄のコップとは違う横から中身の見えるコップだった。
 先ほどの男性の言葉から飲めと言われて向けられたのだろう。だから、素直に受け取って飲むべきなのだろう。見た目も、村から少し離れたところにある澄んだ川の水を手で掬ったときと同じぐらいに透き通っているので、美味しそうに見える。
 けれど、目の前の男性の事を一切知らない私は彼を信じても良いのかどうか判断に迷っていた。

 どうするべきか躊躇する。こんなに綺麗な物を手にとって万が一にも落として壊してしまったらどうしよう、この男性を信じて中身の分からない物を飲んで良いのかどうか、男性の提案を断って彼の気分を害してしまうかもしれない、とか。

 透き通ったコップに向けられていた視線を上にあげて、男性の顔を見ると頷き返された。男性の顔をじっくりと観察してみるが、彼は悪意を感じない表情をしていたので信じて飲んでみることに。

 恐る恐る男性からコップを受け取り、中身を見る。やっぱり濁りのない綺麗な水で、思い切ってコップの縁に口を付けてクイッと傾ける。

 コップに付けた口を開けて流れ込んでくる液体を飲むと、水のようだと分かった。ただ井戸で汲んだ水とは違って、恐ろしいほどに飲みやすい水だった。何時も村で飲んでいるような水とは違って、ジャリジャリとした感じがなく喉にも引っかからず、水がスルスルと流れていく。

 気づけば一気にコップの中にあったもの全てを飲み干していた。

「おかわりは要るかい?」
「えっと……、いえ、お話を聞かせてもらえますか?」
 水を一気に飲み干して、そこで自分が喉が乾いていたことに気づいた。だから、男性からの提案に飲み物のおかわりをしようと一瞬頭をよぎったけれど、自分についての事を知ることのほうが優先すべきだと考えて、おかわりを断る。それから、今の状況についてを話してもらうように要求をした。

 コップを返してから男性の説明は始まった。私が疲労困憊で門の前に倒れていたということ。疲れた状態で全く起きる様子がない私を休めるために、今私が座っているベッドまで男性が運んでくれたこと。そして、より休まるように汚くなっていた服を着替えさせて休ませてもらった事。そして、1日経って目を覚まして今に至るという。

 続けて、男性が自己紹介を始めた。男性の名前はユウさんと言うらしく、ココに一人で暮らしているらしい。気を失う前に見た、大きな壁や門について考えると、今いる建物もとんでもない大きさなのではないかと推察する。
 だいぶ気分が落ち着いてきた私は、アロさんを観察する。目を引くのは、右頬にある大きな切り傷。けれど、傷以外の部分はとても綺麗な格好をしている。真っ黒な髪の毛はサラサラで、顔や髪の部分が土や垢、埃で汚れていない男性を見るのは生まれて初めてかも知れなかった。身に着けている服装も、ベッドのシーツと同じぐらい真っ白なシャツ。生地のしっかりしたズボンで、村の大人たちの草臥れた服とは全く違った。
 身形がしっかりしていて、振る舞いも柔らかで私と違う高貴な生まれだと直感で分かってしまった。私の目の前に居る男性は王族や貴族などのとんでもない人なのかもしれない、と考える。
 
 内心でビクビクしながら、ここに来るまでの経緯をしどろもどろになりながら説明した。ユウさんは、途中で口を挟まずにゆっくり頷きながら私の話を最後まで聞いてくれた。

 両親が小さい頃に死んでしまったことから、村長に育てられていたこと、夜に村長と奥様が話し合っているのを盗み聞きしてしまい奴隷商に売られてしまうかもしれないと知ったこと、怖くなって村から逃げ出して森で迷子になってしまったこと。

 話し終えると、私はユウさんの顔を見上げていた。私のことは全て話した。これからどうするべきだろうと言う気持ちだった。

「選択肢は、今のところ2つある」
 そう言って、ユウさんはこの先どうするべきなのか助言をしてくれた。一つは村に戻って、村長としっかりと話し合いをすること。なぜ村長が私を奴隷商に売り出す必要があったのかしっかり聞いて、奴隷商に売られて金を得る他に解決方法はないのか相談するということ。

 もう一つは、村に帰るのは一旦待って今いる場所でお金を稼ぐ方法を身につけるという事。詳しく聞いてみると、どうやらユウさんが私を冒険者になれるように育ててくれるというらしい。

 村に戻って今までと同じように村長に恩返ししたいという気持ちは消えていないが、戻ると奴隷商に売られてしまうという恐怖がある。そもそも迷子になってしまった時点で村へ戻る道がわからなくなっていた私は、ふたつ目に挙げられた提案を取ることにした。

 その事をユウさんに伝えて、それから何故そんなに私の事を助けてくれるのかを聞いてみたけれど、ユウさんが答えてくれたのは、目的はあるけれど詳しくは教えられないらしい。そして、目的は教えられないけれど金銭や身体を使った支払い要求はしないと約束してくれた。
 なぜ彼が、親身になって助けてくれるのか知ることは出来なかったけれど、私はそれ以上追求しなかった。だけど、ユウさんの約束してくれた事を信じてココに置いてもらうことになった。

 

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第07話 村から抜けだして -アロ視点-

 小さい頃に両親が死んでから、私は村長に保護されて生活をしていた。

 生活させてくれている村長に少しずつでも恩返しをしたいと思っていた私は、畑を借りて村に居る人達の何倍も身体を動かして農作物を毎年育てていた。女の子だし、身体も小さかったけれど、村に住む男の人達と比べてもなぜか何倍も力が強くて、毎日の農作業は皆が言うほどには苦では無かった。

 ただ、一つだけ困っていたことがあった。それは何かというと、どんなに食べても満腹にはならずに、すぐに空腹になってしまうということ。
 いつもお腹を空かせていた私は、生きてきて今まで一度も満腹になったことは無かった。けれど、食事の量を抑えたとしても最低でも大人3人分程を食べてしまうためにこれ以上は住まわせてもらっている手前限りある食料をおかわりをして食べ続けることなんて出来なかった、出来なかった。

 そんな訳で、何時もギリギリで我慢しながら空腹による身体の怠さと目眩に耐えながら生きていた。
 辛いこともあるけれど、なんとか生きていける。そんな日々がずっと続くと思っていたある日の夜のこと。

 急に夜中に目を覚ましてしまって、辺りがまだ真っ暗なことに気づいた私はもう一度寝ようと目を閉じた。けれど一度覚醒してしまった私は、目がはっきりと冴えてしまい眠れなくなってしまった。

 夜空を見て眠気が戻ってくるまでボーっとしようと考えて、外に出ようと家を出ようとした時の事だった。

 既に就寝していると思っていた村長と村長の奥様が何時も食事をしている部屋で明かりをつけて話し合っている声が漏れ聞こえてきた。

 私は村長さんが起きているならと、一応夜空の観察をするために外に出て良いか伺おうと、二人が話し合っている部屋に入ろうとした時、奥様がいきなり叫ぶような大きな声を出したために扉を開けようとした私はビクッと驚いて身体が硬直してしまった。

 そして部屋に入れないまま扉の前で佇む私、そんな私に気づかず大声を出した奥様を落ち着かせるように村長がなだめだした。
「仕方ないんだ。アロを養っていく余裕はもうこの家には無いんだ」

 村長の言葉から、私の名前が出て思わず私は耳をそばだてる。
「では、なぜアロを引き取ったのですか!? あなたが無計画に、アロの為のお金を勝手に使ってしまったから! あなたが悪いのに! そんなことで、奴隷商に売ってしまうなんて、彼女は物ではなく人間なのですよ!」
 奥様が激昂して言葉を続けているのが聞こえた。話題は私の事についてらしい。そして、奥様の言葉に私の血の気が引いていた。

 奴隷商。確かにそういうのを私は聞いた。その一言で察してしまった。村長の手によって私は奴隷商に幾ばくかの金銭と引き換えに売られてしまい、これから奴隷として生きていくのだと。

 気づいた時には、家から飛び出て村を抜けて森へ向かって私の足は勝手に走りだしていた。怖くなって逃げ出してしまった。

 奴隷。村の人達から聞いた話では、詳しくは分からないけれど本当に酷い扱いを受けて生きているような存在であるらしい。そして、生死さえも所有者の権利となって勝手に死ぬことさえ許されない。私はそんな存在にはなりたくなかった。

 頭でぐるぐると考え続けながら走っていると、森の何処かで動物の吠える声が聞こえて私は我に返った。逃げ出してしまって、この先一体どうする気なのかと。

 今までお世話になっていた村長達から逃げ出してしまった。今日まで住む場所と食事を用意してくれて、なんとか私は生きてきた。それがいつまでも続くと思っていたのが間違いだったんだ。
 村長達に私は多くの負担をかけていたのだろう。だから負担をなくすため私は奴隷として売られそうになってしまった。だけど、私は奴隷になんてなりたくないという事を彼らに伝えて他に方法が無いか探るべきだった。このまま逃げ出すなんて一番ダメ。

 今すぐにでも村に戻って、村長と一緒に他に方法が無いか模索するべきだと気づいた。けれど……。

「一体ココは何処?」
 立ち止まって周りを見回すが、背の高い木に囲まれた森の中。全然見覚えのない場所だった。奥の方に視線を向けて目を凝らしても真っ暗で先が見えない。村なんて何処にも見えず、私は何処から来たんだろうと考えるけれど分からない。何処へ向かえば良いのだろう……。

 私は見知らぬ森のなかで迷子になって村へ戻れなくなってしまった。

 来た道を夢中で走ってきた時のおぼろげな記憶を頼りに戻っていく。全然辿りつけないうちに、辺りが先程よりも暗くなってきて空腹で体調がひどい状態になって来ていた。目眩がして、森のなかに太陽の光が届かないから暗いのか、目がチカチカして見えなくなっているから暗いのか、どちらか判断できなくなるぐらいに私の意識は朦朧としてフラフラになっていた。

 このままでは見知らぬ森の中で倒れてしまう。倒れる前に木の影に腰を下ろして一旦休もうかと考えたけれど、こんな森のなかで休んでしまったら、もしも森の何処かに潜んでいるモンスターに見つかってしまったら喰い殺されてしまうだろう。一箇所に留まること無く動き続けなければ、そして村へ戻らなければ。そんな思いだけを一心に足を動かし続けていた。

 どれくらい歩いたのかわからないぐらい。もう歩けないと限界で腰を下ろしてしまいそうになった時、遠くの方で小さいけれど赤い色の明かりが見えた気がした。
 私は、最後の賭けに小さな明かりに向かって一直線に歩き始めた。朝も夜も分からず、村から飛び出して何日も歩いていたような気分。だけど、明かりがあるならば誰か人が居るのではないかと思った瞬間に、疲れがぶり返してきて一気に身体が重く感じるようになった。だけど、疲れを無理やり意識しないように明かりに向かって歩き続けた。

「……なんだろう、コレ?」
 明かりが見えた方向に歩いて行くと、森のなかに大きな壁があるのが見つかった。首を大きく上に向けて、太陽を見上げる時と同じぐらいな角度にした時にやっと壁のてっぺんが見えるようとても高い壁だった。壁の近くだけ木が無くて、空が見える。壁を見上げたそのまま視線を横にずらしたら月が見えた。
 
 首を下ろして左右を見回しても、月明かりに壁が照らされて見えるだけでさっきまで頼りにして歩いてきた赤い明かりは見当たらない。

 私は壁に手を付けて、そのまま壁にそって歩き出した。壁の向こう側に行けるような扉や門が無いか探すことに。
 だけど、歩いているうちにとうとう限界が来て目が霞んで先が全然見えなくなった。

 足を止めちゃダメだと思いつつ、力尽きて地面に膝をついてしまう。こんな所で気絶してしまったら危ない。モンスターの恐怖で、早く歩かなければと考えても力が入らずに立てなくなった。そして、視界が黒に染まっていく。

 心のなかで「ダメっ!」と思った瞬間には、膝立ちだった私は地面に頭から倒れてしまい、とうとう全身が動かなくなってしまった。そして、視界は真っ暗闇の中。 

 

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第06話 今後の方針

 アロは、亡くなってしまった両親に代わって小さい頃から育ててくれた村長に奴隷として売られそうになったところを、逃げ出してきた。けれど、アロは村長に今まで育ててくれた恩を返したいとも思っているらしく、それならウチでお金を稼ぐ方法を身に付けるようにと俺が説得すると了承してくれた。

 俺が彼女にココに残ってもらうように話をしたのは、送信者の分からないメールの内容に従って”少女を育てる”事にしたからだった。今のよくわからない状態を打開するために、この世界について調べていくために、アロとの関係を途切れさせるわけにはいかなかった。

 そして、せっかくならアロという才能あふれた女の子を最高の戦士として育てようと考えた俺は、まず能力値の中で比較的低い値である体力を底上げする事から始めるのが良いだろうと計画を練り始めた。

 アロを戦士に育て上げると決めたのは、能力値をじっくりと見て筋力が非常に高いことに目をつけたからだった。この値ならば、今のままの能力値だけでも適当な武器を持たせて外にモンスターとの戦闘に向かわせても一定の活躍が出来るぐらいには筋力の値が高いからだ。
 と言ってもアロを”最高”の戦士に仕上げることを決めたからには、まずは施設で数ヶ月はじっくりと計画を立てて鍛える必要があると考えている。

 まず体力値を底上げするのは、体力値というステータスがキャラクター育成の中で一番最重要視されている値だからだった。
 体力値は、剣を振ったり、走ったり、敵の攻撃を防御したり等の戦闘に関する行動、動作を行うごとに消費されていく値で、先に上げたような行動を一切しなければ徐々に回復していく。けれど、体力の値が0になってしまえば強制的にキャラクターはしばらく行動不能になってしまい、戦闘中にそんな状態になったら防御も出来ずにダメージを食らう等、非常に危険で生存率が低くなってしまう。
 だから、体力値は最初のうちにできるだけ高くなるように鍛えあげることがキャラクターを育成し生き残らせるための基本的なコツである。

 しかも、この体力値は行動をするときに消費する値だけでなく、戦闘中に色々な効果を発揮する。
 例えば、残り体力値が多いほど物理攻撃回避値に少々プラスされて敵の攻撃を避けやすくなったり、敵の攻撃をうまく防御出来るようになって受けるダメージを軽減することが出来たり。他にも色々と体力値が高い状態で戦闘を続けられると、かなり有利に敵を倒すことが出来る。
 アロを戦士にしようと決めた俺は、まずは戦闘を視野に入れて体力値を鍛えることを決めた。
 
 それに、アロは育ててくれた村長にアロが稼いだお金で恩返ししようと考えているみたいなので、アロが冒険者の戦士として活躍できれば依頼内容次第では大金を手に入れるのは比較的簡単だろう。
 アロの能力値ならば、商人や支援系の技能を取得して活動させることも出来るだろうけれど、能力値をうまく活用できずに中途半端な活躍しか出来ないかもしれないから、筋力という長所を伸ばして冒険者として最大の働きを期待することにした。

 考えなければならないことがもう一つ。アロ以外のキャラクターを育てるかどうか。
アロ一人に一日を費やして育成に当たるのも一つの方法かもしれないが、現状を考えると他にも何人か平行して育成する方が良いかもしれないと思う。

 必須となる人材は二人。

 一人は、今居る世界の情勢について調べてもらう諜報員。アイティオピアというゲームに酷似した今の状況だけれど、俺の持つ知識と今の世界の状況がどれだけ違うのか。調べて比較して差異を無くさなければいけないだろう。
 もしもゲームと同じ世界状況ならば、急いで対策が必要となる事件は無いと思う。けれど、俺の知っている世界と異なるのならば、対応を考えなければいけない。
 何が脅威で、どんな対策が必要なのかを把握しなければならないために、その情報を揃えるために諜報員が必要だ。

 そして、もう一人必要になるのが商人。
 ココには食料が多く貯蓄されているからといっても、いつかは尽きてしまうだろう。砦から出られない俺に代わって、誰か近くの村か街へ食料の買い出しへ行ってもらう必要がある。アロに買い出しに行ってもらうのも良いかもしれないが、アロにはなるべく砦の中で鍛えることに集中してもらいたい。それに、先が見えなくて失敗の許されない今の状況で少しでも資産に無駄を無くすために商売の専門家を準備して置くのは必須だろう。

 必須と考えているのは二人だけど、その他にもアロと競争させるライバルとしてのキャラクターや砦を守るために配置するキャラクター、他にも色々と育成が必要かもしれないが、あまり人数を増やし過ぎると充てる時間が分散して、中途半端になってしまう。今のところ考えているのは3人。

 なので、アロ、諜報員、商人の3人。アロはもう砦にいるので、残り2人を情報ウィンドウを開いて、それぞれの条件に合うような能力値を設定し検索をかける。

 検索結果から良さそうな人材を見つけて、募集をかける。アロの時のような志願ではなく、募集なので多少能力的には劣るかもしれないが早さを重視することに。

 こうして、ゲーム内の知識を駆使してアロの他に二人の人材をこの場所へ招き入れることにした。

 

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第05話 アロの決定

 お互いに自己紹介を終えて、さて次はどうしようと迷った時に彼女のお腹がグゥーと大きく鳴った。どうやら、よほどお腹が空いていたようでお腹の鳴る音は非常に大きかった。その音に、アロは恥ずかしそうに俯いてしまった。

「実は、ご飯を用意している途中だったんだ。今から仕上げて持ってくるから一緒に食べよう」
「……はい、お願いします」

 か細い返事だったけれど、しっかり反応してくれたので先ほどまで作っていた料理を取りに食堂へ向かう。作りかけだった料理を温めなおして仕上げて、10分ほど。配膳用のワゴンいっぱいに、大人5人分ぐらいのお皿を載せてアロの休んでいる部屋に向かう。

「あっ」
 ワゴンを押して、部屋に戻ってくるとアロが小さく声を上げる。それから、彼女はワゴンに載せたお皿に視線が釘付けになって離れない。

「待たせてしまって悪いね、さぁ食べよう」
 休憩部屋に備え付けられたテーブルにアロを移動させて、一緒にワゴンからテーブルへお皿を並べて食事の準備をする。アロは素早い動きでお皿を並べ終えると、コレまた素早く椅子に座り期待した顔で俺に視線を向けてきた。彼女の動きにプログラムでは再現できないだろうと思うような人間味を感じて、やはりこの世界は現実なんだと改めて感じつつ、俺も席につく。

「じゃあ、遠慮せずにいっぱい食べてくれ。いただきます」
「あぅ、……えっと、いただきます?」
 アロは俺の動作と言葉を真似て、いただきますと両手を合わせた。そして、俺が食べ始めるのを見てから、アロも料理に手を付けた。

 それからしばらく、会話もなく黙々と俺たちは料理を食べ続けた。


***


 食事は約一時間ほど掛かった。俺が満腹になって食事を終えると、アロも遠慮して食べるのを止めようとしたが、まだステータス情報が空腹状態のままだったので無理していることが分かったために、アロが満足するまで食べて大丈夫と食事を再開させた。
 すると、用意していた食事ではまだまだ足りなかったようで、追加で食事を用意してあげる事態となった。結局、アロは最終的に大人10人分ぐらいの食料を1回で食べきってしまった。

「あの、ごちそうを食べさせてもらって本当にありがとうございました。今までお腹いっぱいになるまで食べたことが無くって、こんなに幸せなのは初めてです」
 先程までのオドオドとした自信無さげな態度も影を潜めて、丁寧なお礼を言われる。時間もなくて、かなり適当に作ったものだから口に合わなかったらどうしようと少しだけ不安だったけれど、喜んでもらったようで良かった。

「満足してもらったようで、俺も嬉しいよ。それじゃあ、話の続きをしよう」
 食事を終えてかなり落ち着いたアロに、何故拠点にある門へとやって来たのか尋ねる。すると、アロは記憶を辿りながら住んでいた村から逃げ出した事について話してくれた。

 彼女の話してくれた内容を整理すると、
 ・アロの両親は、アロが小さい頃に他界していて、今まで村長に育てられていた。
 ・育ててくれている村長に恩返しするために、アロは畑仕事などを積極的に手伝っていた。
 ・ある日の夜、村長と村長の妻がアロを奴隷商人に売るという計画を話し合っている会話を聞いてしまった。
 ・アロは奴隷にされるのが怖くなって逃げてきてしまった。

 そうして、森のなかへ逃げたアロは行く決めず走りだして、気がついた時には森で迷い込んでしまい村に帰れなくなってしまったそうだ。かなりの時間、森のなかをさまよい歩いて拠点クラマの周囲にある壁にたどり着いたそうだ。

 俺はアロの話を聞いて、アロを住んでいた村に帰さないほうが良いのではないかと考えていた。もちろん、俺自身の事情であるメールで送られてきた件もあってアロが拠点に残ってもらった方が都合が良いけれど、アロの話を聞いて幾つか疑問点があった。

 一つは恩返しのために畑仕事を小さな頃から手伝ったという話。
 ゲームの設定で農業系のような後天的に身につける技能を取得するには、かなり長い時間が必要となる。しかし、アロは農業系の技能を持っていた。育成キャラクターを募集した時に、初期能力で農業系の技能を持っているのは20代後半から30代であるのが普通。極稀に、20代前半のキャラクターが持っている事もあるが0.01%ぐらいの確率だろうと言われている。ましてや10代のキャラクターが、この技能を持っていることはおかしいと思う。
 それなのに、15歳の女の子が技能を持っているというのは通常では考えられない。アイティオピアというゲームでは、キャラクターの背景設定もしっかりしていて、キャラクターの持つステータスにも意味があって、矛盾しないように設定されている。
 つまり、アロというキャラクターは本当に小さな時から農業に関する仕事を経験させられて、15歳という若さで技能を取得してしまったのだろう。
 引き取った女の子に対して、小さい頃から恩を返すという理由があるとはいえ、黙って畑仕事をさせていたのだろうか。

 そして、もう一つのおかしいと思う理由はアロの服装について。彼女は門に辿り着いた時に、ボロボロの布切れのような物を身に纏っているだけだった。森をさまよい歩いたとは聞いたけれど、シャツの状態がボロボロになって肌が大きく露出したり、服の色落ち具合を見ると、森に逃げ込んだ後に劣化したのではなくて、経年による劣化が大きいのだとわかる。そんな身形を村長にさせられている状況を考えると、彼女はどうも冷遇されているのではないかと予想してしまう。

 それに、今は彼女が村に帰っても結局は奴隷に落とされるだけだろうと思う。怖がって逃げてきたアロに、村へ帰るように言うのは酷だろう。

 俺は、俺自身の事情をアロに簡単に説明して、食事と寝る場所を提供する代わりにクラマに残って訓練を受けてくれるように説得した。

 アロからの返答は、今まで育ててくれた村長から逃げてしまった事を心苦しく思っていて、今すぐ村に戻って謝りたいと思っているけれど、奴隷商人に売られてしまう恐怖が大きくて村には帰りたくないと言った。
 そこで俺が、さらに説得して奴隷に売られないで済むように、別の方法としてお金を稼ぐ仕事の仕方を身につけられると説明。しばらく悩んだ結果、アロはクラマに滞在してくれることを決めてくれた。

 

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第04話 少女との出会い

 アラームが鳴る音が聞こえてきて、目を覚ました。枕元にいつも置いている携帯が鳴っているのかと思い、まだまだ眠いし起きたくないと思いながら枕元に手にやって携帯を取ろうとするが掴めず、仕方なく目を開けた所で思い出した。

 そういえば、昨日はゲームからログアウト出来なかったんだ、と。

 ベッドに横たわって眠る前に少しだけ期待した。ゲームをプレイしていた時は、寝落ちすると自動でログアウトしてくれていたハズ。もしかしたら、今も寝て起きたら元通りになっているかもしれない。
 だが、昨日の夜の考えた通りにはならず相変わらず俺は、アイティオピアという現実世界のようにリアルになってしまったゲームの中に囚われていた。

 ログアウトできなかったかと残念がっていると、目を覚ます原因となったアラーム音が今だに鳴っている事に気づいて辺りを探る。いつの間にか目の前に情報ウィンドウが開いていて、どうやらそこから音が鳴っているようだった。

 そういえば、と思い出す。ゲーム内で何か緊急に伝える必要のある状況が発生した場合は、情報ウィンドウからSEが鳴ってプレイヤーに知らせてくれるシステムがあったっけ。寝起きだが気を引き締めて、情報ウィンドウから鳴っている音に対処することにした。

 目の前に浮かんでいる情報ウィンドウを操作して、音が鳴っている原因を探ってみる。すると、人材情報に新たなデータとして”採用したキャラクターが施設へ到着しました”と表示されていた。情報を選択して確認してみると、ウィンドウから鳴る音が止んだ。

 どうやら昨日新たに採用したキャラクターが本当に拠点へとやって来てくれたようだった。今は拠点の唯一の出入り口である門の前に居ると知らされた。
 情報ウィンドウに間違いがなければ、門の所に昨日採用とした少女が待っているのだろう。門はプレイヤーが操作しなければ開かない設定になっていたはずなので、行って門を開けてあげないと少女は拠点へ入ってこれないはず。
 待たせる訳にはいかないと、急いで門前へと走って向かう。拠点へやって来た新しいキャラクターを確かめに行く。


***


 急いで門まで走ってきて、門の仕掛けを作動させて開いた。

 本当に少女がゲームの通り来ているのか、一体どんな少女が来ているのだろうか、想像しながら門が開くのを眺めていると、門が半分ぐらい開いた所で少女がうつ伏せになって地面へ倒れているのを見つけた。

 どうやら、地面に倒れている少女は門に寄りかかって座っていたようで、俺が門を開いたせいで身体の支えが無くなって、地面へとうつ伏せになって倒れてしまったようだ。

「大丈夫ですか?」
 急いで近づいて声をかけながら少女を観察してみるが、地面に倒れたまま何の反応もしない。しかも、動く気配もなく意識がないように見えた。

「コレはヤバイか? 大丈夫ですか!?」
 つぶやきながらうつ伏せに鳴っている少女の身体を仰向けに動かして安否を確認する。浅く呼吸を繰り返しているようで、死んでは居ないようだ。もう一度声を掛けてみるが、少女が目を開く様子はなかった。
 このまま地面に横たえたままだと不憫だと思い、俺は少女を抱き上げて拠点の中にある建物の一室、休憩部屋へと彼女を運び込んで休ませることにした。

 彼女を両手に抱えつつ、休憩室へ向かう間に色々と考えていた。彼女は昨日採用したキャラクターなのだろうか、なぜ気絶して門の前で倒れてしまったのか。

 ゲームをプレイしていた時には、新しく採用して門前にやって来たキャラクターをプレイヤーが迎えて、互いの名前を交換をしてキャラクターを拠点内へ招き入れるという流れだった。
 しかし、ゲームの時とは違って、採用と選択し拠点へやって来たキャラクターが気絶して登場するというイベントは今まで一度も発生しなかったし、情報も聞いた事が無かった。

 ゲーム内とは違うイベント、どうやらアイティオピアというゲームの中から出れなくなった、という単純な状況ではないかもしれない。別の、本当に生きている世界なのかと考える。

 少女を休憩部屋へと運ぶと同時に、もう一度じっくりと観察する。
 容姿は非常に幼く見えて12歳~13歳ぐらいしかない小さな子供の顔つきだった。そして、身長は目測で140cm無いぐらいで非常に小さい。さらに、体重は抱えて持ってみた感じでは、信じられないぐらいに軽かった。昨日見た情報では、15歳と記してあったはずだけど、どうも情報よりも若く見える。

 もしかしたら、彼女は昨日採用と選択したキャラクターとは関係のない人物なのかと一瞬考えた。けれど、今情報ウィンドウの人物欄を確認してみると、運んでいる少女の人物情報がキャラクター情報一覧に追加されていた。

 ステータスを確認してみると空腹と疲労、そして気絶状態を示している事が分かった。身に着けている服装もボロボロで汚い。情報ウィンドウを操作して、身につけている服装を”休まるシャツ”と”休まるズボン”という名前の回復効果が付いた物に装備を変更する。

 ベッドで寝かしておいて、目を覚ましてから食事を用意してあげるのが最善であるかと、この後の事を考える。


***


 少女を休憩部屋のベッドに寝かせた後、食堂へと移動してきて空腹を満たすことができるような食料を探ってみた。

 昨日拠点を回った時に少しだけ覗いたけれど、その時に見た限りでは食料もしっかり保管出来ているようだった。食堂の中にある食材を幾つか取り出してきて、食べれるかどうか詳しく調べてみた。

 幸いにも腐っていたり毒があるような食材は無いようで、問題なく食べることは出来るようだ。使える食材を確認した後、食堂の調理場を使って簡単に料理を作ってみた。

 料理を作りながら、匂いを感じることが出来たり、しっかりと味を感じることが出来る事を確認していた。

 食堂には食材の他にも、調味料や調理道具が一通り揃っているので、食事を生活を続ける事は問題が無いようだった。ただ、食材は日数が経てば腐って食べてなくなってしまうし、毎日食べる事も考えると何時まで保つだろうか。
 食べるものが全て無くなる前に、拠点の外へ買い出しをしてくれる商人の技能を持ったキャラクター育成する必要がある。それも、なるべく早くに行う必要があるかもしれない。

 考え事をしながら料理をしていると、情報ウィンドウに表示させていた少女の状態に変化が起こった。少女のバットステータスから気絶が消えていたので、どうやら目を覚ましたようだ。

 俺は料理をつくる手を一旦止めて、飲み物だけを手に持って少女を眠らせていた休憩部屋へと向かった。


***


「あ、あの。ココは何処ですか?」
 部屋に入ってきた俺を見て、急いでベッドから立ち上がり近寄ってきた。そして、部屋に入るなり声をかけてきた。少女の出す声には力が無く、かなり弱っていることが容易に理解できた。そして、とても不安そうな表情をして見つめてきたので、空腹を満たす前に状況説明を先にする必要があると考えた。

「落ち着いて。とりあえずベッドに座って。あとはコレを飲んで、それから話しよう」

 ガラスのコップに淹れた”澄んだ水”を少女に渡して、飲ませる。不安な表情を浮かべて居たけれど、水を一気に飲んで少しだけ落ち着いたようだった。

「おかわりは要るかい?」
「えっと……、いえ、先にお話を聞かせてもらえますか?」
 お腹が空いて疲れているだろうけれど、少女の要望に答えて先ずは状況を説明する。

「ここはクラマという所で、君はこの場所にある門の前で倒れていたんだよ」
 拠点の”クラマ”という名前を彼女にそのまま伝えて、話し始める。

「地面に横たわっていた君を放っておく訳にも行かず、施設の中に運び込んで、ベッドで休んでもらって目をさますのを待っていたところだ。俺の名前はユウ。君の名は?」

 アバターに付けたゲーム内の名前であるユウと名乗ると、少女は急いで名前を教えてくれた。

「私はアロ、です」

 この出会いは長く続く関係となる少女との、初めての出会いだった。

 

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第03話 施設内探索

 俺の所持しているキャラクターを育成するための施設とは、大きい壁にぐるりと一周を囲まれた土地の中に、ピラミッドのように上から下に徐々に大きくなるフロアが5層に積み上がって出来た建物がある場所である。
 プレイヤーに与えられた土地は広大で、千人ぐらいの人間なら暮らせる街ができる程に広い。

 そして俺が今いる場所は、プレイヤーがログインして最初に出る執務室というところで、フロアの最上階に位置していたプレイヤー専用の部屋だ。
 そんな部屋から出ると、正面にガラスで作られた窓があって外が一望できるようになっている。

 窓に近づきガラスに映る自分の顔を確かめてみると、現実の俺の顔ではなくてゲームで使用しているアバターのモノがガラスに映った。と言っても、顔の造形は現実のものにゲームプレイの雰囲気を出すためにキャラメイクして、髪の毛を長髪にしたり肌を現実に比べ少し白くしたり、右の頬に大きなバッテン傷を付けたぐらいで、現実と比べ違和感は少ない。
 頬の傷を右手の指でツツツと触ってみると、ゲームでプレイしていた時よりもハッキリと触感がある事がわかる。

 ガラスで出来た窓から顔を離して、今度は窓の外を見てみる。雲ひとつなく晴れた空に、下には施設の一部である運動ができる場所、そして大きな壁、更にその向こうには広大な森が広がっているのが見えた。

 ゲームをプレイしていた時には施設から壁の向こうには草原が広がっていたと記憶しているけれど、いま眼の前にある風景は大きな森のようだった。視線が届く範囲の殆どが森のようで、遠くに小さく草原が見えるが村や町は見当たらず人の住む気配は見当たらない。

 どうやらゲームをプレイしていた時と今の状況に違いがあるようで、これは他にも調べる必要があると思いながら、施設の各場所を調べていく事にした。

 とりあえず、フロア最上階である5階から下へ降りながら各部屋を調べていく事に。

 ココの施設はより効果的にキャラクターを訓練するための訓練部屋や各キャラクターが休めるように個室になっている休憩所、食堂や温泉、宝物庫など様々な機能を持った部屋があって、それぞれはゲーム課金によって追加したり強化していったものだった。

 部屋をくまなく調べて回ると施設は強化した課金要素については初期化されていないようで、問題なく使用できるように見えた。といっても、実際にキャラクターが訓練に使わせてみて実際に問題なく使用できるかどうかは調べる必要がある。
 課金によって追加した部屋も問題なく稼働しているようで、ひと安心していた。

 フロア3階層の中心部にある宝物庫も、問題なくアイテムがしっかりと保管されていたのを確認。しかも、何故か最後にゲームプレイで確認した時に比べて保管していたアイテムがかなり増えているようだった。

 どうやら今までキャラクター育成に使ってきた成長促進アイテムや能力アップ系アイテムが全て返還されて宝物庫に保管されているみたいだった。単純に育成してきたキャラクターをロストした訳では無いようで、今までのゲームプレイが無かったことになっているのかもしれない。ゲームを進めていく上でゲットしたアイテムも手元に残っていたので、単純に育成キャラクターのデータが全て初期化されたというわけではないようだ。

 施設のビルを上から下まで探索し、1階まで調べ終えた。そして今度は、ビルから運動場へと出る。
 この運動場はキャラクターの戦闘訓練を行ったり、身体を動かして体力をアップさせたり、俊敏性をアップさせる能力を鍛える場所である。

 運動場へ出てから、俺は身体を軽く動かしてみた。すると、現実ではありえない速さで走ることが出来たり、垂直跳びで5mぐらい上に飛び上がることが出来たり、運動場の外周を早めのスピードで30分ぐらい走ってみても額に汗を少しかく程度の脅威の体力を実感したりした。

 どうやら今の俺はゲーム内のアバターに準拠した能力を持っているらしい。

 アイティオピアではプレイヤーにも育成キャラクターと同じように、能力値が設定されているらしいのだが、自分の能力値については確認できない隠しパラメーターとされている。
 だが公式からの発表で、プレイヤーの能力値は確実に存在しているらしくて、プレイヤーがキャラクターを育成する等の行動をするごとに徐々にアップするとのこと。そして、プレイヤーの能力値がキャラクター育成に影響してくるので、プレイヤーの能力値が高ければ強力なキャラクターができると説明されていた。

 つまり、キャラクターを何人も育成していくことでプレイヤーも一緒に成長していって、プレイヤーが成長することで次に育てるキャラクターはより強力なものに育て上げる事が可能になるという循環になっている。
 そして今の俺は現実に比べて、非常に高い身体能力を持っている。と言っても、比較する対象がないので、今の俺の能力値が高いのか低いのかは判断できないが。

 最後に、施設の外に繋がる門の前へとやって来た。施設の周りはぐるりと高さ10mぐらいある大きな塀で囲まれていて、唯一この門だけ外へと繋がっていて出入りできる場所だ。しかし、ゲームをしている時はプレイヤーがこの門から外へ出ることは出来ず、プレイヤーにとっては育成したキャラクター達を外へ旅立たせる時に見送る場所となっている。

 非常に大きな両開きの門は閉じられていて、人力では開かない様になっているので仕掛けを作動させて機械的に自動で開ける。しばらく待って門が開いた状態になると、俺は外へ出てみようと足を踏み出してみるが、見えない何かに阻まれて外に出ることは無理のようだ。

 手を付き出して見えない何かを探ってみるが、ブニョブニョとしたゴムのような感触のする何かが門の境界から外にあり、行く手を阻んでくるので俺は門を超えて進むことは出来なかった。

 ゲームでも施設の外には出れない設定になっていた。そして、同じように今の俺も施設の外には出れないだろうと予想していたとはいえ、外に出れない現状に大きなショックを受けた。ログアウトも出来ないし、施設の外にも出ることは叶わず閉じ込められたという現実をより一層強く感じさせた。

 施設探索を終えて、施設のビルの中にあるプレイヤーの休憩室へと戻ってきていた。依然として、ログアウトは出来ないし、運営とも連絡が取れない。先ほど他のプレイヤーと連絡を試みたけれどダメだった。

 ついに万策が尽きてしまったので、仕方なく眠って時間を潰し明日にはココに来るであろうと予測する少女を待つことにした。

 休憩室のベッドに横になって、もしかしたら今まで見ていたものが夢だったかもしれないし、今度目を覚ましたら現実に戻っているかもと淡い期待をしつつ、目を閉じて俺は休んだ。

 

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第02話 差出人不明のメール

 俺の目の前に縦15センチ、横25センチの四角くて厚さの薄いボードが浮かんでいる。そのボードには、キャラクター情報だったり所持しているアイテムだったり施設の全体状況を記したりしてあらゆるデータを表示してくれる情報ウィンドウだ。
 訳の分からない事になってしまっている今の状況で、もう一度情報ウィンドウに表示されているデータを頼りに現状を見直してみる。

 まずはプレイヤーの情報について。昨日と変わらずレベルは539を示している。ステータスの数値は記憶してなかったので、昨日と全く同じかどうか判断できないが、変わっていないと思う。取得しているスキルも変わっていない。プレイ時間、所持アイテム数、拠点名等の細かな情報にも特に変わった所は無いようで、プレイヤーの情報については異常は見つからなかった。

 次に、プレイヤーの持つ拠点の情報について見直す。拠点については、育成に多く関わってくる大事な所なので、かなり課金して強化した為に記憶に強く残っていた。お金をかけた分、少しだけ念入りにチェックしてくが昨日との変化は見当たらず異常はなかった。

 その後は、アイテム一覧と育成キャラクターについて見てみたが、やはりここのデータに異常が見られた。

 情報ウィンドウを次々に見なおしていると、先程まで無かったはずのメールが届いている事に気づいた。メールは未読状態になっていて、受け取った時間も今から数分前だった。ログインしてから30分は経過しているので、つまりはログイン後に受け取ったメールというこという事になる。一体誰から送られてきたメールなのか……。

 不審に思いつつも、受け取ったメールを調べてみることにする。嫌な予感が頭をよぎったけれど、今は少しでも今の状況を知るための何か情報を手に入れたいと思っていたので、メールを急いで開いてみる。

 メールを開くと次のような文章が、情報ウィンドウに表示された。

—————
 タイトル:??????
 送信者:c c .c !c

  あ たはえればれました。かみサマ。
 女の子を育てなさい。
 蘇我、なたが助かります。

 Yes/No
—————

 先ほど運営へ向けて送ったメールの返信ではないかと少しだけ思ったけれど、どうやら運営からの返信メールではないようだ。そして、文章の内容も文字化けしていてよくわからない。とても不気味な文章の書かれたメールだった。
 唯一読めるのは、メール本文の2行目に書かれた”女の子を育てなさい”という部分だけ。後は意味が分からないスペースや入力間違い、そして変換を失敗したようなモノだった。最後の一行にYesかNoか書かれていて、俺に選べと言うような文字の配置がされている。

「えっと……、コレは一体なんだ?」
 メールを読んで最初に思った、嘘偽り無い感想だった。

 このメールは一体どこの誰から送られてきたのだろうか。文字化けしている送信者や、本文の内容から運営からの返信メールには思えないし、他プレイヤーから送られてきたイタズラメールなのだろうか。イタズラならば、なぜ今のような状況になって送られてきたのか。

 メールについて真相を明らかにしようとメールをじっくり眺めたり、考えたりしているが答えには辿りつけない。

 そうやってメールについて悩んでいると別の出来事が発生した。それは”人材採用可能一覧が更新されました”という表示が情報ウィンドウに現れたというものだった。
 この表示が情報ウィンドウに現れたということは、文字通り採用可能なキャラクターが一覧に追されたということで、拠点に所属させて育成を始められるということだ。

—————

 このアイティオピアというゲームでは、育成するキャラクターを決める方法は大きく分けて2パターンある。

 ひとつは、プレイヤーが色々な条件をあらかじめ提示して育成するキャラクターを募集をするという方法。募集条件を満たすキャラクターが現れた場合、人材採用可能一覧が更新されて、一覧に表示されているキャラクターを選択して拠点に所属させることが出来る。そうすることによって、キャラクター育成が始められる。
 キャラクター募集の条件には、年齢、性別、現在取得している技能等や他にも様々な要素を指定することができるようになっている。

 もうひとつのパターンは、キャラクターの方から育ててくださいと拠点へ志願しにやって来るというもの。
 これは、キャラクターの年齢や性別、技能などの条件は選べないし、突発的に起こるイベントでキャラクターが新たに登場することを予測するのが難しい。
 けれど、志願してきたキャラクターは募集をかけて見つけた人材に比べて、能力が高かったり、成長するスピードや成長限界が高かったりする。そのため、強いキャラクターを育成するためには、志願してきたキャラクターを育てる事がゲーム攻略サイトで推奨されている。

—————

 そして、突然一覧に新しく追加されたキャラクターは志願してきたものだった。性別は女性で、年齢は15歳。基礎能力が情報を見る限り非常に高く、特にパワーに関する能力が圧倒的に高い。技能は特に珍しい物は持っていないようだが、年齢も10代と若いので今後成長する見込が十分あるのに加えて基礎能力が非常に高いために、かなり強力なキャラクターが出来上がるだろうと、期待できる人物のようだった。

 キャラクターの情報を見終えた瞬間に、いつもプレイしている時と同じような感覚で良い人材を見つけたと無意識で情報ウィンドウに指を伸ばし、画面をタッチしてしまっていた。つまり、新たに現れたキャラクターを我が拠点に採用していた、という事。

「あ、ヤバっ」

 キャラクターのデータがロストしたり、運営と連絡が取れなかったり、ログアウトできないというヤバイ状況。今の自分に関してもよく分かっていないにもかかわらず、ゲームをプレイしている時と変わらず、気づけば新たなキャラクターを採用していた。

 少しの迂闊な行動で、問題が大きくなる可能性がある。しかし、訳も分からない状況を把握するため、状況を動かすことによって、なにか情報を手に入れられるかもしれないと考え直す。どうせ今のままでは何も分かっていない。だからと開き直ることにした。

 採用したキャラクターは到着まで”残り1日”と表示されたため、少女が拠点へやって来るまでしばらくの時間があるようだ。もう情報ウィンドウから手に入れられる情報は無さそうなので、次はキャラクターを育成するための拠点内部を探索して情報収集することにして、今いる部屋から出ることにした。

 

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