第02話 周辺の探索

 帝国軍で生産されたアンドロイドには、緊急事態が発生した場合には最優先で帝国へ帰還するようにプログラムされていた。そして、一体何が起こったのか詳細を伝える、情報という貴重なリソースを本土に持ち帰るのは、アンドロイドとしての義務であった。

 記録されたデータを記憶媒体から吸い出して検証し、調査を終えたら再び戦闘へと送り出される。

 万が一、帝国領への帰還が困難だった場合には可能な限り情報を集めて、それらを記録に残すのと同時に、帝国領へと情報を送る方法、可能ならば帰還する方法を模索する。そういう行動優先順位を付けるプログラムが組み込まれていた。

 戦闘指揮官を務めるCL-505型も例外ではなく、今回は艦隊での戦闘中に突然見知らぬ星の森へ転移させられたので、緊急事態と認識して間違いはなかった。

 そして、帝国領への帰還が困難だと判明したので、プログラムに則り情報収集を主体として、宇宙へ飛び上がる方法を探し始めた。


***


 最初に降り立った森が、正体不明の転移に何かしらの関係が有るのではないか、と怪しんだ彼は、手がかりを探すために周辺を捜索し、記録して回った。けれど、何も有力な情報を手に入れることはできなかった。

 次に彼は、徐々に捜索範囲を広げて森の中で歩き続けていった。すると、森の中にぽつんと開けた場所を発見。そして、ソコには過去に人が住んでいたと思われる痕跡のある建物もあった。

 どうやら自分の降り立った星には、人類が存在している事が建物の跡から判明した。しかし、その場所には人は居らず朽ちた木製の家屋が数件と、放置された畑が有るだけだった。

 どうやら廃村のようだが、どういう理由で人が居なくなったのか。調べてみたが、事実は判明しなかった。全滅してしまったのか、それとも今も生き続けているのか、既に星を離れて無人惑星という可能性もある。とにかく色々と、調べるべき事が増えていくと彼は感じながら、機械的な意思を持たないような動作で調査を進めた。

 情報を収集しつつ、彼は更に捜索を進めて森の先へ歩いて行くと、先程発見した村と同じような理由で廃村となったのか、人の住んでいない壊れた家屋が立ち並ぶ村を複数箇所、発見した。

 どれくらい歩いただろうか、森をようやく抜けて視界が広がる草原へとやって来た。その草原のある辺りに、ようやく生きている人が住んでいる村を発見した。

 けれど彼は、すぐには村人との接触を行わないで、離れた場所から気づかれないように監視を始めた。

 その村は、数えたところ人口が122人の、小さめの村だった。そして建物の造りも、非常に古い木造の家。しかも、村に住む若い男性が一切見当たらない。毎朝早くから、夜遅くまでずっと畑の世話をする老人に、小さな体で桶を持ち川へ水を汲みに行く女の子、牧畜を世話する妙齢の女性と老婆。

 発見した村人の話す言葉、生活、そして行動を監視しながら学んでいく。そうして、言葉を学んだCL-505型は、一旦森の方へと戻っていった。

 戻っていった先で、地中に埋蔵されていた鉱物の採掘を始めた。金属を掘り出して宇宙船を作り、宇宙空間へ出るためだ。
 現在位置が分かっていないために、まずは無人探査機を作って宇宙へと飛ばし、現在居る星の位置を知る。そして、帝国への帰還を目標に計画を立てていた。けれど、計画は未定であり決定ではない。思い通りには決して進まないと、彼は理解することになる。


***


 発見した村の監視と、鉱物の発掘を交互に行って森を行き来する途中で彼のセンサーは、村人とは違う人が森の中に居る、という情報を察知した。

 すぐさま向かってみると、四人の人間が多数の狼のような姿の獣に囲まれて、戦闘を行っている場面に出くわした。

「ガイウス! バルナバを守れ、それと俺が引き止めている間に自分の傷を直せッ! モレナ、後衛からの支援を頼む」
 大剣を持った大男が、頭から血を流しながらも必死に三人に指示を出して動き出す。

「了解! 頼む、バルナバ」
「っ! っく、はい。今、直します」
 大きな盾を持ったガイウスと呼ばれた男は、大剣の男の指示に従って後ろへと下がる。そして、右脇腹がパックリと大きく開いて大量の血が流れ出している傷を、錫杖を持った男に示して、治すようお願いする。

 治療を求められた男は、顔を苦痛で歪めながらも何とか気力で耐えて、受けた指示を全うする。

「アル! 攻撃、いくよ!」
 唯一、パーティーメンバーの中で血を流していないと思われる女性、頭からすっぽりと真っ黒なローブを身に着けた彼女が、杖を掲げて何かを唱えた。すると、彼女の持つ杖の先から灼熱の炎の玉が飛び出して、一匹の獣に着弾、全身を黒焦げにするほどの熱量で一匹を屠った。

 森の中で人間を見かけたのは初めてだった、そして戦闘をしている場面を見かけたのも初めてだった。

 4人のパーティーは、獣相手に今のところは生き残って戦えている。けれど、まだ森の中に潜む魔物の数は多くて、直に体力を消耗して対処できなくなるだろうとCL-505型には、簡単に予想できた。

 なので、割って入って彼らを助けることに決めたCL-505型。と言うよりも、人間に危機か迫った場合には可能な限り助けるように、という、これもプログラムされた行動だっだ。


「たすける」
「「「「!」」」」


 森の木の上から落ちてきた、突然現れた見知らぬ男に4人は驚き一瞬身体を硬直させるが、瞬時に内容を理解してからは、生き残ろうと動き始めた。

 

 

第01話 迷子のアンドロイド

 魔物の森。名前から分かる通り、魔物と呼ばれる存在が棲みついている森である。

 魔物とは、牛や馬などの動物と違って魔法が使える群の事を指し、人間に対して非常に攻撃的であるという性質を持つのが特徴であった。そのため、普通の農民や商人と言った人達では対処が難しく、魔物の脅威には冒険者ギルドという専門機関に駆除を依頼する、というのが一般的な対策方法であった。

 そんな訳で、魔物の森にほど近い場所にある村に住む人間たちは、普段から決して近づこうとはしない、そういう地域であった。

 それなのに、魔物の森の中に生える木々の上、太い枝の上に登って姿を隠し、じっとその場所に留まる一人の男が居た。深く険しい鬱蒼とした森林は、魔物が居ないと言われても近づくのですら恐怖を感じ、入るのに躊躇しそうな程の雰囲気がある、そんな場所に。

 しかし彼はソコで、樹木の枝から生えてこんもりとした葉っぱの間から、目だけを出して身体のシルエットは葉で隠して、視線をずっと遠くの方へ向けていた生い茂る森を見るのでもなく、遠くの方にある山を見るわけでもない。焦点の合わない目で、ずーっと遠くを見ていた。

 しかも、一切動かず音も立てずに存在感を完全に消し去っていた。どうやら、何かから隠れるように息を潜めている様子だった。

 その隠れ方は完璧なようで、彼の乗る枝の下、木の側をノッソリと歩くトラのような姿をした魔物には察知されず、空を飛ぶ鷹のような魔物にも勘付かれる事はなかった。付け加えると、彼は何十時間も前からその場所で微動だにせず、ずっと木の上に潜んでいて、その間には何者にも一切察知されなかった。

 彼は視線を一点に集中して、不動のまま何をしているのか? その答えは、敵が居ないか周辺情報のサーチを行っていたのだ。何十時間も掛けて。

 今の彼の様子を、他の人間が見たならば誰もが不気味だと感じることだろう。普通の人間であれば、それほどの長時間をジッとしたまま動かず周囲を警戒し続けるなんて、体力的にも精神的にも難しいだろう。けれど、彼はいくら時間が過ぎても疲れたような様子は一切見せなかった。

 なぜならば、彼は普通の人間ではなかった。いや、人間ですらなかった。彼は、人の姿に似せて作られた戦闘指揮官CL-505型と呼ばれる、アンドロイドという存在だった。


***


「宇宙暦6010年、ヴェルナー宙域での戦闘中に原因不明の事象により戦闘空域より転移。仲間存在との通信が不能。現在地不明、帝国領への帰路不明により帰還は困難。これより、緊急時の第二目標条件を達成するため単独行動による情報収集を行う」

 暗い森の中に、無感情な男の声が広がる。彼は、万が一の場合に備えて自身の記憶媒体に、暗号化したテキストデータと音声データ、視覚機能から撮影した映像データの三通りの方法で現状の報告を記録していた。

 彼が口にした言葉の通り、数十時間前までは宇宙空間で艦隊戦を行っていたはずだった。CL-505型が艦隊指揮を務める十四万隻の帝国軍に対して、数百年もの長い間戦争を続けている反乱軍の艦の数は十万隻。

 戦闘は終盤に差し掛かり、帝国軍の損害が五千隻に対して反乱軍の損害は三万隻以上という、帝国軍の圧倒的有利で殲滅戦へと移行していた。

 反乱軍を追い詰めつつも、油断はしないようにじっくりと攻略していく。そう意識していた筈の時に起こった出来事だった。突然CL-505型が搭乗していた旗艦が何者かに攻撃を受けたのか、艦橋は激しい光と、揺れに包まれた。そして、次の瞬間にCL-505型は見知らぬ森の中で立っていたのだ。

 最初、彼は反乱軍の新兵器によって強制的に転移させられたのだろうかと推測した。そして、急ぎ自分の居る場所の特定を行った。しかし、データには無い惑星。自分の指揮する艦隊、ヴェルナー宙域の間近に有るはずの駐屯地、そして帝国の首都星までの連絡が途絶えていた。

「こちら、CL-505。応答せよ」

 彼が、右手の中指に嵌めた指輪に語りかけるが、全く応答は無い。その装飾豊かな指輪は、数十時間前まで彼が乗って戦闘を指揮していた旗艦の制御ユニットであり、超長距離でも連絡が可能なはずの通信機能も搭載していた。だが、やはり反応しない。

 ということは、こちらからの通信が届かない程の距離まで離されてしまったか、敵性存在に通信をジャミングされているのか、それとも……。

 それなのに、そんな状況になっても反乱軍は姿を現さない。転移させられてから今まで、彼は自身の機能を最低限にまで性能を落として、敵性存在に見つからないよう息を潜めていた。
 とはいえ、こちらのセンサーにも一切反応が無いのはおかしい。ここに来て、彼は反乱軍の仕業ではなく偶然に起きた自然の事象なのではないか、と判断するようになっていた。

 帝国軍にとっての敵の存在である反乱軍を、今のところ確認できず。ある程度の安全を確保した後に、戦闘指揮官アンドロイドCL-505型は数十時間潜んでいた場所から早速移動を開始した。