第12話 魔法実践

 ヴェルナーと彼の奴隷となったコレットの二人は、廃村となっていた場所に住み着いて暮らしていた。彼らがこんな人が寄り付かない寂れた場所を住処とした理由は、大病を患っていたコレットの治療のためだった。手術中には誰にも邪魔されない広い場所、そして長期間に渡って人目のつかないようコレットが安静に過ごせる場所を考えたヴェルナーが、思い至った場所がココだった。

 弱りきったコレットを腕に抱えてヴェルナーは廃村へと彼女を運び込み、半日も掛けず簡易的な生活拠点を作り上げて、それから手術に取り掛かった。

 人間業とは思えないヴェルナーの働きぶりに、不審に思いつつもコレットは何も問いかけることはせずに彼に身を任した。そもそも、考える余裕すら無いぐらいに弱っていたという理由も有るが。

 そして今ではすっかり回復したコレット。立って歩くことも出来ず、呼吸するのも苦痛となっていた危ない状況からの快復だった。

 本当なら不治の病と言われている治るはずのない病気なのだが、違う場所からやって来たヴェルナーには幸いにも対処方法がプログラミングされていたので、無事に手術をすることで彼女の病を治すことが出来たのだった。

 ヴェルナーがコレットの病を治して助けたのには理由があった。それは、魔法について調べるための人材を確保するという目的。ヴェルナーの知っている魔法は空想の物であり、今まで存在することを知られていなかった。だがしかし、偶然にもやって来た場所には幻想ではない魔法が現実に存在していた。という事で、魔法について調べ上げてデータを記録した後に彼の所属している帝国領へと情報を持ち帰る。ヴェルナーはそんな計画を立てて、実行に移そうとしていた。

「早速だが、魔法を実践して見せてくれるか?」
「わかりました。ではもう一度見せますね、私が得意な魔法を」

 そう言って、コレットが手のひらを前に掲げた。その指先にどんぐりの実程の小さな炎の玉が一つ発現した。その現れた炎をじっと見て考えに耽る様子のヴェルナー。

「え、えっと本来はこの炎は魔獣などの敵にぶつけて攻撃として使うんです」

 コレットはヴェルナーの穴が開きそうなほどの真剣な眼差しに戸惑いながら、魔法を実行してみせようとする。

 コレットは魔法の説明をしながら、発現させた炎を近くの朽ちた家屋に向けて発射した。すると、廃屋は炎が着弾して爆発が起こった。

 一瞬、二人の目の前に光がパッと広がり爆炎が舞う。次に木が砕け散る音と黒煙がモウモウと立ち上って、肌をチリチリと焼くような熱さ、耳がおかしくなるぐらいに大音量の爆発音が発生した。ヴェルナーは、人工肌と各種センサーで今しがた起こった出来事を感知していた。

「ふむ」
「え? キャッ!?」

 そして、コレットは自分で起こした出来事が想像を遥かに超えた結果となった事に驚いて声を上げていた。さり気なく、ヴェルナーは立ち位置を変えてコレットの目の前に立ちはだかり、爆風から彼女をかばうように盾になる。

 音が止むとまだ消えない黒煙に、黒焦げで粉々になった木材と抉れた地面や砕け散って小石となった石材などが廃屋の立っていた周辺に散らばっていた。まるでダイナマイトで爆破されたかのような家が、二人の目の前に存在していた。

 コレットの何気なく発した魔法には、それほどまでの大威力があった。

「思ってい以上に、魔法というのは危険かもしれない」
「あ、あのっ! これ、私の魔法の使い方が失敗したからだと思います。というか私の今までの実力じゃあ、こんな事にはならなかったんです。多分、身体が治ったおかげで今まで以上に魔法がスムーズに使えたからだと……」

 魔法を発現させた瞬間にコレットは違和感を感じていた。今まで炎を手元に出すだけで胸の辺りが締め付けられるように苦しかった魔法が、息を吐くように簡単に使うことが出来たこと。

 苦しみを感じなかったのは身体を治してもらったおかげだと思っていたコレットだったが、魔法を攻撃に使ってみれば更に大きな変化が見られる事を実践して思い知った。
 以前に比べて明らかに使う魔法の威力が上がっている。

 ヴェルナーは魔法を間近で観察して、様々な結果を探知していた。コレットが何気なく出現させた炎は、表面こそ1000℃程度の温度しか無かったが内部には6000℃以上もある太陽表面温度に匹敵する熱が発生していた。しかも、熱が外へと拡散しないためなのか炎は圧縮されるように内側へとエネルギーが働いていた。コレットが手のひらを火傷しない理由だった。

 それを当てれば、今見せられたように爆発を起こして廃屋を壊すのは簡単だっただろう。予想できる結果だった。

 けれど、ヴェルナーはコレットの使う魔法の威力が非常に大きなパワーを持っていた事を不可解だと感じていた。

 ペスカの剣に同行して彼らを横目で観察していた時、パーティーメンバーであった魔法使いを名乗るモレナという女性が使っていた魔法に比べると、コレットが今使って見せてくれた物の方が威力が高かった。

「コレットの魔法使いとしての実力は、どの程度なんだ?」
「しっかり学んだわけではないので、私が魔法について知っている知識は殆どありません。それに私の知っている魔法使い達に比べると、あまり得意とは言えないです」

 冒険者という最前線で戦っていたモレナ、一方でコレットが今使って見せてくれた魔法を比べて見るとコレットの方に魔法使いとしての軍配が上がるように思える。
 モレナは警戒して能力を十全に発揮せず実力を隠していたのか、コレットが謙遜して言っているだけなのか、それとも他の要因があるのか。

 悩むヴェルナーは、他の魔法使いについて考えるにはまだまだ情報が足りないという結論に達して、一旦思考を止めて引き続きコレットの使う魔法について調べることにした。

「他に使える魔法はあるか?」
「炎とは別で、私の使える魔法は」

 ヴェルナーに指示されて、コレットは覚えている魔法を隠すこと無く実践して見せた。今度は氷を発現させて一面を氷漬けにしてみたり、雷を発生させて晴天のもとに落雷を起こしてみたり、土という自然を操作して地面に落とし穴を開けさせてみたり。

 人間一人で発生させられる力で、これだけの結果を起こせるのならば調べる理由は大いにあると再認識したヴェルナーは、コレットの協力の下で魔法に関する調査の重要度を高めた。

 

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第11話 日常の構築

 奴隷商人から病気持ちの少女を一人引取って、魔物の森へと戻ってきたヴェルナー。腕の中に引き取った少女を抱えて来たのだが、彼女はぐったりとした意識のない状態であった。

 彼女の患う呼吸器の病気のせいで呼吸がままならず、額からは汗をダラダラと流して、体調は命にかかわるほど悪くなっていた。

 今まで我慢して立つだけでもやっとだったコレットだが、街を出た頃に一気に症状が悪化して、意識を朦朧とさせてゴホゴホと激しい咳を繰り返していた。そんな状態なので、自力で歩くのも困難であり、ヴェルナーが彼女を腕に抱えて急ぎ魔物の森へと戻ってきたのだった。

 ヴェルナーは鬱蒼とした森林である魔物の森の中を人間を一人腕に抱えて、ズンズンと迷いもなく突き進んでいく。彼が目的にして向かっていたのは、魔物の手によって廃村となった場所だった。その場所は今、誰もが寄り付かず既に何年も人目につかない状態で維持されていた。その場所ならば、他人には気づかれず姿を隠せて、拠点にするのに最適だと考えたので、コレットを引き連れて戻ってきたのだった。

 数時間か歩いて、ヴェルナーが到着した場所は殆どが森に侵食された廃村だった。かろうじて、半壊した家屋が建ち並んでいるのが見て分かる程度で、そのままではとても住めるような状態ではない。
 しかし、ヴェルナーは半壊している一つの家に目をつけて中に入り、乱雑になっていた室内を、ものの一分ほどの時間で片付けるとコレットが横になって休める場所を確保していた。

 それから、一旦コレット作ったばかりの寝台に乗せて、安静にした後にヴェルナーが一人で森の中へと戻って行った。

 その付近の森から木材を調達してくると、半壊していた家を修繕して、瞬く間に人間が住むのに問題の無い程度、むしろ快適と言えるような状態へと手直ししてしまった。

「ハァ、ハァ、コホッ……あれ、ここは? あの人は、何を……?」

 コレットは、具合の悪さで朦朧とする意識の中でヴェルナーの様子を薄っすらと伺っていた。

 そして、ヴェルナーの人間離れした動きや、あまりの手際のよさ、次々に変わっていく景色を目の当たりにしていたが、自身の目で見ているものが信じられないぐらいで、夢を見ているのではないかと疑ったほどだった。

 コレットが安静にして寝て過ごせる環境を瞬時に整えると、ヴェルナーはすぐさまコレットの病気を治すための手術を行う準備へと移った。

「君の体調の悪化は、呼吸器と内臓が悪くなっているために起こっている症状なんだ」
「ゴホッ、ゴホッ、ふうっ。私は、治るのですか?」
「君の病気を治すことは、とせも簡単だ」

 ヴェルナーは、診断した病気の内容と現在の身体の状態をコレットに噛み砕いて説明して、これから行う治療法の概要、それから手術の目的及び方法についてを細かく情報を伝えた上で、本人に手術を行うかをどうかの許可を得ようとしていた。

 ヴェルナーを作った人間たちが住んでいる世界、帝国領では当たり前に行っていた手術の事前告知について律儀にルールを守って、ヴェルナーはこの世界に住むコレットにも同じように対応して、手術に挑もうとしていたのだった。

 手術の説明を聞いていたコレットは、その内容のほとんど理解することは出来なかった。だがしかし、自身の状態が非常に悪いこと、そして治療を施さないと間もなく死んでしまうという事だけは正しく理解できていた。だから、納得した上でヴェルナーの手術を受けることを了承した。

「手術、よろしくお願いします」
「それじゃあ、今から手術をして君の身体を治す。質問はないですか?」
「はい、質問はないです」

 ヴェルナーに対して、出会った当初は不信感を抱いていて警戒していたが、今もよく分からない存在では有るけれど、悪い人ではないとコレットは理解していた。そして、今も身を任せることに不安はあまり感じていなかった。

 道具も施設も不足した状態で行われたコレットの手術は、通常の医師ならば成功率50%ぐらいの失敗してもおかしくないオペだった。

 けれど、非常に優秀な軍事用ロボットであるヴェルナーには戦闘兵士の治療を行うための医療用プログラムが搭載されており、最新のロボットハードウェアで人間では不可能な動きなども制御して動作しているために、手術の成功率は90%以上にまで高められていた。その結果、コレットの手術は無事に成功していた。後遺症も今のところ見られず、徐々に快復へと向かっていった。

 実のところ、コレットの掛かっていた病気はこの世界の人間では今のところ絶対に治せない、不治の病と知られている病気であり、治療方法も確立していないモノだった。つまりは、コレットはヴェルナーに出会うことがなければ、彼女は間もなく死ぬ運命の人物でもあった。

 それが、ヴェルナーと出会ったことでコレットは生きながられることが出来たのだった。

 

***

 

 コレットの治療は無事に完了して、後は安静にして快復するのを待つだけだった。だが、コレットは完治するまで安静にしていないといけない状況だった為、数日間はヴェルナーのみが作業をして、コレットはベッドの上でじっとしている毎日だった。

「私も、奴隷として働きます!」
「傷が治るまで、休んでいなさい」

 廃村となっていた場所を折角だからと修築しながら、コレットの食事を用意しようと食材を魔物の森の奥から収穫して来て、そして彼女の世話をした。

 ヴェルナーに治療してもらった恩を感じて、奴隷として働こうと決意した彼女は役に立とうと動き出したが、ヴェルナーが制して動けずにいた。

 そうこうしているうちに、森で覆われた廃村だった筈の村が住むのに問題のない程度に開けて、以前に比べると住みやすい場所に変貌していた。

 実は、ヴェルナーは修築した村の直ぐ側に宇宙船を作るのに適した素材が採掘できる鉱山を発見したために、村を拠点にしてしばらく素材集めをしようと考えていたのだ。それに合わせて、コレットという獣人について身体調査を進めようと考えて、付き合わせる彼女がせめて快適に過ごせるための場所づくりを作った結果だった。

「身体も、無事に治りました。動くのに問題は無いです。だから、私にも何か仕事をさせてください。ヴェルナーさんにとっては足手まといになって、何の役にも立たないかもしれませんが。何でもやります! だから、何か奴隷として仕事をさせてください」
 
 少しでも恩を返すためにと何でもやる覚悟でヴェルナーに訴えた。

「なら、少し手伝って欲しいことがある」
「何でしょう?」

 ようやく、ヴェルナーから仕事を与えられることに喜びながら指示を待つコレット。そんな彼女の目の前に取り出されたのが、ヴェルナーが街で密かに集めていた魔法に関する資料だった。

「実は今、魔法について調べているんだが私は魔法が使えない。もしかしたら、君なら使えるかもしれないから試してくれ」
「魔法なら、私にも少しだけ出来ますよ! 少しなら、私にも魔法を使えることが出来るんです!」

 そして、コレットは何かを呟き手を目の前に掲げた。その指先に、小さな炎の魔法が発現した事を目の当たりにしたヴェルナー。

「なるほど、それなら私の役にすごく立ってくれますよ」
「本当ですか!? 頑張ります」

 こうして、ヴェルナーは目的であった魔法の調査を進めながら、コレットという獣人について調べて、更には帝国領へと帰還するための宇宙船制作に取り掛かるなど、いろいろな作業を同時に進行させていった。

 

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第10話 村への帰還

 商人と奴隷の取引を行い、商談をまとめた後。

 猫耳族の幼女、名前をコレットという彼女を引き連れて、ヴェルナーはペスカの剣の拠点へと戻っていった。その道中では、コレットはヴェルナーに対しての警戒心をむき出しにして一言も口を利かず、ヴェルナーも黙々と歩いていた。そして、互いによく知り合いもしないままペスカの剣の拠点へと戻ってきた二人。

「おや、ヴェルナー。買い物から戻ってきたんだね……それで、後ろの子は一体誰です?」

 ヴェルナーが見知らぬ子供の女の子を引き連れて帰ってくるのを見つけたアルノルドは、一体その少女は誰かと尋ねた。

「この子は、市場で買った奴隷です」

 ヴェルナーは、包み隠さずに平然と奴隷を手に入れてきた事をアルノルドに告げた。しかし、それを聞いたアルノルドの方は驚いた表情でコレットを見つめて、一瞬ヴェルナーの言っている言葉を理解できなかったが、次の瞬間には顔を歪め嫌悪感の表情でヴェルナーに視線を戻していた。

「ど、奴隷、ですか?」
「はい、奴隷です」

 見た目が幼すぎるが、女の子の奴隷。冒険者が異性の奴隷を引き取る状況というのは、主に性的な衝動を満足させるという用途が多い。だから、ヴェルナーもそうなのだろうと判断したアルノルドは、まさかと思いつつヴェルナーという人柄を誤解した。しかも、コレットの見た目は、誰が判断しても子供だと言うだろう容姿。

 もちろん、機械であるヴェルナーには性欲というモノは無く、つまりは性的衝動を満足させるという目的も無くて、ただ情報収集の一環として引き取った人材でしか無い。けれど、その事を詳しく説明しないままヴェルナーは会話を終えてしまった。

 アルノルドは瞬間的に嫌悪の表情を浮かべたが、次の瞬間には表情を元に戻して話を続けた。彼は、死にかけていた魔物の森で自分の命とパーティー達を助けられた、という恩だ。ストレートに軽蔑するような眼差しを向けるのが、アルノルドには躊躇われたからだった。けれど、表情は穏やかにしたものの、内心では複雑な感情で一杯になっていた。

「それから、ペスカの剣の皆さんにこれ以上お世話になるのも悪いので、そろそろ自分は村に帰ろうかと思います」

 そして、間の悪いことにヴェルナーは以前から考えていた、自分の家に戻るという予定を今のタイミングで伝えるのだった。アルノルドは、ヴェルナーが幼女を連れて村に帰ると聞いて落胆と、安堵の感情を心に浮かべていた。

「そ、そうか……。うん、それが良いかもしれない、な」

 ギクシャクしながら、ヴェルナーの元居た村への帰還を受け入れるアルノルド。実はヴェルナーがとんでもない性癖を抱えていると勘違いして、彼を特に引き止める事も無く、賛成するのだった。

 そんな会話をヴェルナーとアルノルドの二人がしている最中に、ペスカの剣のパーティーの皆が集まってきて、情報が共有されていった。

 ヴェルナーが奴隷を買い取って来たこと、それから魔物の森にある村へと帰ること。話を聞いていたモレナは、アルノルドと同じようにヴェルナーがコレットを性的な目的で引き取ったと勘違いして、刺すように鋭い視線を向ける。その他2人も、複雑そうな表情を浮かべてヴェルナーを見るのだっだ。

 しかし、そんな事は気にした様子もなく、ヴェルナーは話を続けた。

 そんな話し合いが行われた結果、その日のうちに荷物をまとめてヴェルナーはペスカの剣の拠点から出ていくことが決まった。

 ペスカの剣の一行は、ヴェルナーの人柄を勘違いして一刻も早く拠点から出ていって欲しいと願い、ヴェルナーもなるべく早くコレットを連れて街を離れたいと考えていたので両者ともに都合がいいと、すぐさま話がまとまり実行されることになった。

 

***

 

「あの、これから一体どこに?」

 夕方になっているのに、ディフェシュタットの街を軽装のまま出ていこうとするヴェルナーに不安を感じて、今まで黙っていた奴隷であるコレットが口を開いた。

「これから、俺の住んでいた村に向かう。なるべく早く向かわないといけない」
「早く、ですか? もう夕方で直に夜になってしまいます、そうなると外を歩くのは危ないのでは無いでしょうか?」

 街の外へ出る準備も特にせず、馬車も無いので歩いていくのかもしれない。しかしコレットはまさに今、立っているだけでも辛く、もうしばらく歩いたら気絶して倒れてしまいそうな程の調子の悪さで、自身の具合の悪さを理解していた。

 そんなコレットは、日が沈んで空が暗くなりつつあるのに街を出て、これから魔物の森のある方角に存在するらしい村に、ヴェルナーの後を付いて歩いていけるかどうか、不安に感じていた。

「うん。なるべく早く村に戻って、君の病気を治さないと死んでしまうから」
「!?」

 コレットは商人の男に口止めされていた病気の件について、自身が話す前に既にヴェルナーに知られていたことに驚愕して、更に病気を治すと言う彼の言葉に唖然としてしまった。

「あのっ、わたし! その事は、隠していろって命令されて、それで、私の意思じゃ無くて、す、捨てないで下さい! っごほっ……っくっ……」
「落ち着いて。君を捨てる気なんて、さらさら無いよ。まずは、病気を治す準備をするために村へ戻るんだ。見たところ、だいぶ具合が悪そうだからこうしよう」
「キャッ!?」

 慌てたコレットがヴェルナーに縋り付き、懇願しながら咳き込んだ。その様子を見て、今後の予定を説明しながら彼女を抱きかかえて、村へと戻る道を歩き始めたヴェルナー。

 そんなヴェルナーの突然の行動に驚きつつも、抵抗できずに抱きかかえられるままとなるコレットだった。 

 

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第09話 奴隷

 相変わらずヴェルナーは、ペスカの剣が所有する住処で居候となって、朝夕には彼らの飯の世話をしながら一緒に暮らすという生活を続けていた。だが、ヴェルナーとパーティーメンバーである彼らは日中には、別々になって行動をしている事の方が多かった。

 ペスカの剣のパーティーリーダーであるアルノルドは、先の魔物の森での全滅一歩手前となった失態を反省して、一から自分を鍛え直そうとガイウスと一緒になって修行を始めていた。その間は、ペスカの剣として冒険者ギルドからの依頼を一切受けることを止めて、冒険者パーティーとしての活動を一旦停止しながら、アルノルド自身が納得の行く限り特訓するつもりで過ごす事に決めたのだった。

 パーティーの活動は一時中断という事情となった為に、他のメンバーも思い思いの過ごし方をすることになった。

 ガイウスは先程も述べた通り、リーダーと一緒になって修行に励んだ。魔法使いであるモレナは、拠点にある自室兼研究室に引きこもり魔法の研究に没頭し、僧侶であるバルナバは教会に赴いて回復魔法の技を磨くことに専念することに。

 ペスカの剣のメンバーがそれぞれ自分を鍛える修行に励む一方、ヴェルナーは当初の予定通りディフェシュタットの街の偵察を繰り返し行なって、情報収集に取り組んでいた。もちろん、その偵察という目的についてはディフェシュタットに住む市民の誰にも悟られないように本心を隠しながら自然に行って、今では市場の人間とも挨拶を交わしたり、立ち話をする程度には関係を育んで、街に溶け込んでいた。

 その日も、市場に赴いて食事の為の食材買い出しという目的でカモフラージュしてやって来ていたヴェルナー。本当の目的は情報収集である彼は、目的を達成する為に視線の向きを隠しながらあちこちの観察を続けている、市場の有る通りに見慣れぬ馬車が止まっているのを発見した。

 その見慣れぬ馬車、二匹の馬に引かれた荷台は鉄格子の檻のような形になっていて、中に様々な女性が詰め込まれるようにして載せられていた。その女性達を見たところ、上は老婆のような年老いた女性が、下はまだ若くて未熟な幼女が居た。

 女性達はみすぼらしい身なりをしていて、客を乗せた乗合馬車のようには見えない。つまり、彼女達は……。馬車を眺めながら、そう考えるヴェルナー。

「先程から商品を眺めて居られますが、ご入用ですか?」

 何気なく、市場の通りに止められた見覚えのない馬車の観察を続けていたヴェルナーに、腰を低くして揉み手をしながら、怪しい笑顔を浮かべて近づいてきた細身の男性が声を掛けた。

 彼こそが、今しがたヴェルナーが見ていた奴隷の所有者だった。目ざとく興味深そうなヴェルナーの存在に気づいたので、話しかけてきたのだ。

「いえ、ただ見ていただけです」

 ヴェルナーは声を掛けてきた商人の方には目線を向けずに、檻の中に居る女性達の方へと目を留めていた。実は、その女性達の中にいる一人の幼女が気になっていたからだった。

「おや、猫耳族の少女が気になりますか?」
 ヴェルナーの向けている視線を追って、商人が考えを口に出した。そう言われて、ヴェルナーはちらりと商人の男性に横目を向けて、頷いた。

「えぇ、まぁ」
 商人の言葉に対して、曖昧に答えるヴェルナーだった。商人の言葉通り、ヴェルナーは2つの理由があって、その猫耳族の幼女に注目していた。

 その理由の一つは、その幼女の耳が人間とは明らかに異なる特徴的な骨格をしている事、それからお尻に人間には無い尾っぽが有るのをヴェルナーは見て取ったからだった。ピンと三角に伸びた耳の先、今は髪の毛で隠されている幼女のそれを見て、彼女が情報に有る猫耳族という種族か、と商人の言葉が加わって納得した。

 そして、もう一つは彼女が病に冒されている事に気がついたからだった。しかも、病に対して処置している様子も見られない。あのまま放置してしまえば、普通の人間ならば数日中には死んでしまうぐらいに症状が進行しているのがヴェルナーには分かってしまって、気になったからだった。

「お客様は、大変お目が高い! 猫耳族の奴隷と言えば、我々奴隷商人もめったにお目にかかれない非常に稀な商品なのです。実を言うと、私も初めて取り扱う商品でして、仕入れるのにとっても苦労したのですよ」

 何を隠そう、商人は猫耳族の幼女が病に蝕まれる事を認識していた。数日前に、他の奴隷商人から格安で手に入れた猫耳族の幼女だったが、ソレが病気持ちだと知った商人がババを引かされた気分で居たところに、ディフェシュタットの街にやって来てヴェルナーと出会ったのだ。

 そして、猫耳族の幼女が先の長くないことまで承知の上で、猫耳族の希少性を声高にヴェルナーに訴えて、あわよくば彼に売りつけてやろう、というのが商人の魂胆だった。

「もしよろしければ、非常に貴重な奴隷猫耳族と、そちらの指に嵌めている指輪、交換いたしませんか?」
「これか?」

 商人の狙いは、ヴェルナーが右手指に嵌めていた指輪だった。その指輪は、宇宙船の操縦用、それから通信用のデバイスであった。だが、宝石が散りばめられていて見た目も綺麗なので、本来の機能を知らないまでも装飾品として使うのに非常に有用そうであった。

 商人は、ごくごく一般的な市民という格好をしたヴェルナーが、その身なりには似つかわしくない高級な指輪を身につけているのを見て、そのモノの価値をヴェルナーが正しく理解していないと予想し、都合よくいけば奪い取る事が出来るのではないかと考えていたのだ。

「そうですね、金貨ならば5万ゴールド程という所でしょう。どうでしょうか?」
 一般的に成人女性の奴隷を一人買うのに必要な相場は、約1000ゴールド程。猫耳族という希少価値は有るものの、まだ見た目には幼く、一部の好色家以外には需要が少ない。なので、それらを換算すると5万ゴールドという猫耳族の幼女に掛けられた値段は、ふっかけ過ぎである。

 それから指輪に関して言えば、見た目から一瞬で分かる精緻を極めた細工から、遠くからでも目を引く宝石の輝き、ソレが嫌味を感じさせることのない非常に均衡の取れた完成された指輪。

 貴族ならば誰もが欲しがりそうな商品であり、商売の方法如何で数百万ゴールドと値段をつけても販売するのにも苦労はしなさそうだった。それを5万ゴールド程度の価値だと偽って、ヴェルナーから取り上げようとしていた。

「それならば、指輪は無理だがコレで支払いをお願いする」
 商人から猫耳族の価値を聞かされたヴェルナーは、そう言ってポンとごくごく簡単に5万ゴールドを懐から取り出して商品に渡した。ヴェルナーは指輪ではなく、先日の件で手に入れた現金で支払うことにしたのだった。

「ん? うぇ!? こ、これは……、お、お買い上げありがとう御座います」
 商人は最初、訝しげな顔でヴェルナーの取り出したお金の入った袋を受け取ったが、中身を見た瞬間に焦った声を上げてしまい、何とか持ち直して購入したヴェルナーに御礼の言葉を口に出した。
 ヴェルナーの身なりを見て一介の市民だと判断していたのに、即座に5万という大金を出してくるなんて、予想をしてなかったからだ。

「ね、猫耳族の奴隷のお買上げ、ありがとうございます。他にも、優秀な奴隷を取り揃えておりますが、どうでしょう? もしよろしければ、その指輪と交換なら二人や三人の」
「他は必要ない」
「承知いたしました。では、猫耳族の奴隷の引き渡しを」

 衝撃から立ち直った商人は、指輪を手に入れようと更に奴隷の商売をヴェルナーに仕掛けるが、バッサリと断られた。流石にこれ以上強引には無理かと悟って、さっさと猫耳族の奴隷をヴェルナーに引き渡し、商売を成立させるように動き出した。内心では欠陥品が、思いの外高値で手放せたことを喜びながら。

 こうして、ヴェルナーは奴隷商人から猫耳族の所有権を受け取り、その幼女の主となることになった。

 その商人は、最初の目的であったヴェルナーの身につけている指輪を手に入れることは叶わなかったが、その代わり商品価値以上の値段で猫耳族の幼女を処分できたと内心大喜びで居た。一方ヴェルナーは、ある目的を果たすため必要な人物を確保できたので大満足だった。両者ともに、満足がいく良い商売が成立したのだった。

 

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第08話 滞在中

 冒険者ギルドでの用事を終えて、建物から出てきた一行は路地に立ち止まって、先程のギルド内で起こった出来事の話について、それから今後のヴェルナーの予定についての話し合いを始めた。

「すみません、ヴェルナーさん。こちらから冒険者に成るようにと誘っておきながら、ギルドへの加入を拒否されるとは……」
「いえ、大丈夫です」

 基本的には、ギルドに加入しなくても冒険者と名乗って活動する事はできる。

 しかし、冒険者のギルドに加入できないということは、ギルドの発行する依頼を受けることが出来ない。つまりは、冒険者として活動する場合の大部分の収入源であるギルドからの依頼が活用できないので、そうすると冒険者と名乗って活動する意味が殆ど無い。

 旅の道中でペスカの剣のパーティー達と会話を交えたことで、大分言葉を学習して流暢になってきたヴェルナーが、アルノルドの謝罪に柔らかく答えた。

 ヴェルナーにとっては、ギルドに入ろうが入らまいが本当にどうでも良かった。情報収集には活用できそうだとは思っていたけれど、加入できないのなら仕方がない、と割り切っていたのだった。

 それよりも、自分に魔力が無いという情報を手に入れられたことが大きい、と感じていた。その魔力について、詳細を調べて帝国に情報を持ち帰ることができれば、今後は帝国でも新しい技術として活用できるのではなかろうか、と彼は考えていた。

 ヴェルナーの膨大な記録媒体には魔法についての知識はおとぎ話でしかなく、おそらく帝国にも情報が存在していないだろう未知の技術だ。この地に来た理由が出来て、大きな目標としてあった帝国領への帰還に加えて、魔力の情報を収集するというモノがヴェルナーの予定に追加されるのだった。

「それで、ヴェルナーさん。貴方はこれからどうする予定です?」
「今から宿屋を探して、街の市場を見て回ってから、その他にも色々とやろうと考えている事があります。なので、しばらくはディフェシュタットに滞在して過ごすつもりです」

 ヴェルナーの予定は、まず人になりきって正体を隠しながら街で暫く過ごし、この辺りの建物や街の周辺地域について、市場の様子を調べるつもりだった。そこで集めた情報をまとめて、この土地に住む人民について知ろうと考えがあった。
 そんなヴェルナーの予定を聞いたアルノルドは、その考えに待ったをかけた。

「それなら、パーティーで使っている住処に一緒に来ませんか? 我々は君を歓迎しますよ」
 ペスカの剣の一行がディフェシュタットを拠点としているのに使っている、一軒家にヴェルナーを誘う。ギルドへの加入を断られてしまったけれど、ここで別れてしまってヴェルナーとの縁を切りたくない、と思ったアルノルドの提案だった。

 それにまだ、アルノルドは冒険者としては活動する様子の無くなったヴェルナーを、ギルドへ加入させる事で冒険者にしようという考えを諦めてはいなかった。だからこそ、知らない間に何処かへ行ってしまわないように自分の側に置いておき、その間にギルドとの交渉を続けるつもりでいたのだ。

「わかりました。よろしく頼みます」

 アルノルドの話を聞いたヴェルナーは、彼が何かしらの思惑で誘ったことに気づいていたが特に気にせず、すぐにアルノルドの提案を受け入れていた。

 こうして旅を一旦終えたヴェルナーは、もうしばらくペスカの剣のパーティー達とディフェシュタットの街で過ごすことを決めたのだった。

 

***

 

 ヴェルナーが、ディフェシュタットの街にやって来て、既に一週間ほど経っていた。その間、ペスカの剣が使用している住処の一部屋を借りてヴェルナーは寝泊まりしていたのだ。

 しかし彼は、ただ泊まらせてもらっているだけでは悪いからという理由で、朝と晩のペスカの剣のパーティー達の食事の用意を担当していた。そして、一週間続けて振る舞われた彼の料理は、その一日目からパーティー皆を虜にしていた。

 今までペスカの剣のメンバー達は、適当に市場で買ってきた食材を焼くぐらいの調理で済ませて、それを食べていた。

 しかし、ヴェルナーはプログラムされている料理の技術をふんだんに使って、丁寧に食事の準備したのだ。市場での買い物で食材の良し悪しの見極めから、豊富に記憶されたレシピの中からチョイスして作り、調味料を使って味を深めて、料理の皿の盛り付けまで気を使った。

 結果、今までに食べていた食事の味を遥かに超える料理の品々によって、彼らの毎日の楽しみを増やす程度にまでヴェルナーは活躍していた。

「あぁ、今朝の料理も美味しそう!」
 モレナが、出来上がった料理に気づき一番にダイニングルームへとやって来て声を上げる。
 
 今までは、男パーティーのがさつな料理に辟易していた唯一の女パーティーであり、普段から街の食堂に通って食事を済ませることの多かった彼女は、ヴェルナーの料理をパーティーメンバーの中では一番に気に入っていた。だから、ヴェルナーの料理が出来るのを一番早くに察知して、部屋から降りてくるのが早いのがモレナだった。そして、他のメンバーがやって来るのを待たずして、食事を始める。

「モレナさん、今日も早いですね。それに、ヴェルナーさんの料理は今日も良さそうですね」
 そう言ってバルナバが、飾りのない黒い衣装で整えた姿に、片手には杖を持った状態でやって来た。彼は、食事の時も杖を手放さずに過ごしていたのだった。そして、信仰する神に対して食事前の祈りを済ませて、静かに食べ始める。

「ヴェルナーさん、今日も食事の準備ありがとうございます。早速いただきますね」
「……」
 恐縮した様子のアルノルドと、無口のガイウスもやって来てペスカの剣のパーティー達がテーブルに揃い座る。

「どうぞ、皆さん召し上がれ」
 そんなペスカの剣の中にヴェルナーも混じって、いい具合な雰囲気で馴染んでいた。この一週間でパーティーメンバーとの関係を更に深めて、違和感なくメンバーの一人として溶け込んでいたのだ。

 だがしかし、ヴェルナーはディフェシュタットの街の調査を終えたら、魔物の森へと戻るつもりで居たので、こんな風に過ごすのは後しばらくだろうとも考えているのだった。

 

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第07話 加入不可の理由

「そうですか、わかりました」
 受付の女性から冒険者ギルドへの加入を断られたヴェルナーは、表情も変えず平然と応じるのだった。しかし、本人以外は加入出来ないという事実に驚き、言葉を失っていた。

「な、なぜだ? なぜ、彼が駄目なんだ?」
「どうして、なんです?」
「理由を教えてください」

 ペスカの剣のパーティー達は絶句した後、ヴェルナーのギルドへ加入できないと言った受付に抗議していた。その様子を見た受付は、本人がギルドへの加入を希望して来た訳ではなく、周りの人間であるペスカの剣のパーティーに勧められて来たのだろう、と察した。

 そして、そんな状況ならば余計にヴェルナーをギルドへと加入させない方が良いだろう、と判断していた。何故ならば……。

「ギルドが加入できる条件として規定している魔力量に、彼は足りていないからです」
「なんだって……?」

 受付の言葉に、アルノルド達は再び絶句する。

 基本的に戦闘を行う人間は、意識的にせよ無意識的にせよ内包する魔力量によって戦闘能力を高めている。例えば、剣を振るうのには筋力が必要だけれど、その筋力に自身の魔力を操作し加えることで、剣を振るう速さや強さを何倍も早めて高めることが出来る。

 筋力の他にも、視力、聴力、生命力や思考力など戦闘に必要な能力を魔力によって、通常よりも高めていくことが出来るのだ。

 つまりは、魔力量が多ければ多いほど戦闘能力が高く出来ると言える。しかし、ヴェルナーが内包する魔力量を計測する装置である水晶で測ってみれば、一般人にも満たない、子供にさえ負けてしまいそうな程の魔力量しか内包していない、という結果が出たのを受付は目にした。

 魔力は子供の頃には低くて、普通に生活して歳を重ねていけば時に何もしなくても一定までは増加していく。ある程度は魔力量が、自然と増えていくのだ。

 ヴェルナーの見た目からなら、ギルドの規定している魔力量は優に超えているハズ。なのに、未だに規定値を超えていないとなると、才能がないのか、もしかしたら何かしらの障害によるものなのか。受付の女性はそう考えて、詳しい事情は聞かないままヴェルナーのギルド加入を断った。

 一方、ヴェルナーがギルドに加入できないという理由を説明されたアルノルド達は信じられなかった。

 彼らは魔力を作用させて戦闘能力を高める方法はもちろん知っていたし、ヴェルナーが魔物の森で自分たちが助けた時に見せられた戦闘能力の高さも目にしている。だから、ヴェルナーの魔力量がギルドの規定する数値よりも低いとは信じられなかった。

 受付の女性の言葉が真実だとしたら、魔物の森で見せられたアレは魔力を使わない身体能力だけを駆使した戦闘だったという事になる。

 しかし、そんなことが可能なのだろうか……。アルノルドは、そう思わずには居られなかった。

 アルノルド自身は、魔力が無ければ全身に鎧を身に纏った今の状態では、鎧の重さに耐えられず満足に動くことすら出来ないぐらいだった。それほどまでに魔力に頼った状態だったからこそ、ヴェルナーの魔力量が少ないことを信じられずに居た。

 他の、ペスカの剣のパーティーであるメンバーも同様。ガイウスは、魔力がなければ大盾を持ち運ぶことが出来なくなるし、モレナは魔法が使えなくなれば魔物を倒すことは不可能、バルナバは回復魔法が使えなくなる。

「その水晶の測定器、間違っているんじゃないのか?」
 アルノルドは、ヴェルナーの魔力が少ないという理由を信じられずに測定器を疑い始める。

 受付は、仕方なく言われた疑問を解消するべくヴェルナーに三度、測定のやり直しを行った。だが数値に大きな変化はなく、相変わらず規定値を下回った状態だった。

 試しに、受付自身が測ってみたり、アルノルド達が測ってみたりしたけれど問題はなく規定値を上回る数値を叩き出して、確実に魔力を測ることが出来ていた。

「そんなバカな……、いやしかし……」
 そこまでされると、流石にアルノルドも測定器の故障を疑うことはできなかった。だがしかし、ヴェルナーという優れた人材がギルドに加入できないという事実には、まだまだ納得できていなかった。

「彼は、魔力量が少ないかもしれないが、問題なく魔物を倒すことが出来る。それも、魔力がある自分たちよりも簡単に、多数の魔物を屠っていったのを目にしている。そんな彼が、ギルドに加入できないのか?」
「申し訳ございませんが、魔力がギルドの規定値を上回る数値じゃないと加入できない、そういう規則になっています。これは、冒険者ギルドが設立されて以来ずっと守られてきたルールです」

 熱く訴えるアルノルドの言葉を、冷静に受け答えする受付の女性。彼女の一存では、ヴェルナーをギルドに加入させるという判断は絶対にできない、と理解したアルノルドは引き下がるしか方法はなかった。

「そうか……、すまない。決まりというのなら、仕方がないか。ただ、彼の戦闘能力の高さは本当だ。出来ることなら、特例として認められるようにギルドマスターに話を通しておいてくれないか?」
「アルノルドさんがそこまで言うのでしたら、報告だけはしておきます。でも、多分特例なんて認められないと思いますよ」

 ようやく引き下がったアルノルドに、ホッとする受付。そして、そこまで勧めてくるヴェルナーという人物については、上へ報告しておくことを約束した。

 その後、受付の女性はアルノルドと約束した通りに、ディフェシュタットの街のギルドマスターに報告を行った。けれど、今は魔物の森の異変の問題で頭を悩ませていたギルドマスターは、特に気にも留めること無くヴェルナーをギルドに加入させる事を却下した。なので、結局はヴェルナーが冒険者のギルドに加入することは出来なかった。

 後になって、ヴェルナーが冒険者ギルドに加入していないという事実がある騒動を引き起こす事になるのだが、この時は誰もが特に気に留めるような出来事では無かった。

 

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第06話 冒険者ギルドへの加入

 アルノルドは、冒険者ギルドの受付を任されている女性に向けて偵察任務の結果報告を始めた。

 その女性は二十代前半ぐらいに見える若そうな容姿をしているけれど、実際は十年以上はディフェシュタットの冒険者ギルド受付を担当しているベテランであった。そんな彼女は、話を聞きながらメモを取ったり、合間に質問をしたりして熱心に報告を聞いて理解し、後で資料として纏めるために効率よく動いていた。

 アルノルドの報告の途中には、モレナが彼の報告で抜けた部分の補足を入れたりして、正確に進んでいった。もちろん、その途中で登場するヴェルナーについてもアルノルドは正しく説明をしたが、受付の女性はヴェルナーに少し不審そうな目を向けるのだった。しかし、ヴェルナーに関しては特に質問はせずに話の先を促す。

 そして、偵察任務の結果を聞いてメモを量産していた受付の女性は、ペスカの剣のパーティーが掴んだ情報の報告が終わると、顔色を悪くして言った。

「なるほど、魔物の森の状況が少し分かりました。ペスカの剣のパーティーの皆さんが、無事にディフェシュタットに戻ってこれたことは、本当に嬉しく思います」

 受付の女性は、ペスカの剣のメンバーとは顔見知りであり、他の冒険者パーティーと比べると親しくしている間柄だった。だから、今回はペスカの剣のメンバーが無事に帰ってこれたことを本当に喜んでいた。

 けれど現在の魔物の森の状況を知って、あの場所で何かしら自分たちの考えが及ばない何か、緊急事態が起こっているのではないかと、不安な気持ちにも大きくなっていて、顔色を悪くしていたのだった。

「実はペスカの剣の方々と同じように、他の数十組の冒険者パーティーの皆様にも偵察任務を出していたんです。けれど、今のところ未帰還のパーティーが多くて……。魔物の森の中で、何か問題が起こっているのではないかと、冒険者ギルドでは急いで情報収取を行っているのです」
「そうなのですか? 知らなかった」
「一応、街の人達の混乱を抑えるためという理由で、冒険者ギルド内で守秘された情報ですから知らないのも無理はないです。実のところ、3ヶ月も前から魔物の森の状況がおかしくなっているのです……」

 本当は、あまり公開しないようにと冒険者ギルド内で守秘認定された情報をあけすけに話す受付の女性。そして、三ヶ月も前から確認されていたという魔物の森の異変を聞いたアルノルドは、事前に情報収集を怠った事を恥じていた。そして、受付の話を聞けば本当に自分たちは危なかったのだな、と今頃になって実感が湧いてきていた。

「ところで、申し訳ないのですが預けている報酬の引き出しをお願いしたい」
「はい、分かりました。では、金額をこちらの紙に記入して、こちらに手を置いてください」

 受付は、カウンターの上に一枚の紙と球体の水晶を置いてアルノルドに指示を出した。受付に言われたアルノルドは、素直に紙の方に十万ゴールドと引き出そうと考えている金額を記入して、ペンを置いた手をそのまま球体へと動かして、上からガシッと掴むように手を広げて、水晶の上から置いた。

 すると、一瞬水晶が光った次の瞬間にはカウンターの上に札束がポンと無造作に置かれていた。水晶の繋がる先に収納されていた、ペスカの剣が今までに稼いできた金貨が現れたのだった。

「大金ですね、袋を用意しましょうか?」
「すみません、頼みます」

 十万ゴールドは、ペスカの剣が冒険者として三年ほど活動してきて得た報酬を引き出さずに貯金していた分の、約半分だった。

 という事で、今のペスカの剣パーティーの所持する資金は十万ゴールドちょっととなり、ヴェルナーが持つ資金が今彼らから頂いた報酬分で十万ゴールドとなった。

 ちなみに、受付が思わず現れた金貨を見て口に出してしまった通り、十万ゴールドは大金である。ディフェシュタットで生活を送るのならば、人一人が十年ぐらいは働かずに生きていけるぐらいの大金だった。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 受付から用意してもらった麻袋を渡されて、アルノルドはカウンターの上にある金貨を掴んで袋に入れ、掴んで袋に入れと言うように回収して全額を袋に詰め込むと、ヴェルナーにそのまま渡した。

「魔物の森から助けていただいたお礼と、街まで護衛して頂いた分の報酬です。受け取って下さい」
「うん」

 ずっしりと重みのある袋を任務の報酬としてアルノルドから受け取ったヴェルナーは、しかし今は収納する場所がないので、仕方なく左手で袋の口を締めるように持った。

「それと、もう一つお願いしたいのだが彼を冒険者ギルドに加入させてもらいたいんだ」
 アルノルドが、本日冒険者ギルドに訪れた最大の目的を受付に伝えた。ヴェルナーもすでに了承している、冒険者ギルドの加入。けれど、一体どんな試験をするのかは知らされていなかったので、アルノルドに任せてヴェルナーは黙っていた。


「それは、ありがとうございます! 魔物の森の問題で、今は一人でも多く働ける冒険者様が居らっしるのであれば、ギルドも安心できます。では、早速こちらの水晶に手を置いて下さい」

 受付は、先程アルノルドがお金を引き出した水晶を再び指して、ヴェルナーに手を置くようにと指示を出す。その水晶は、お金の管理に冒険者の能力を測る等、いろいろな用途で使える端末装置なのだろう、とヴェルナーは理解した。

 そのままヴェルナーは、アルノルドが先程手を置いたのと同じようにして、水晶の上に掌を置いた。

「え?」
 水晶を覗き込んだ受付は、その目で見て理解した内容に驚き思わず声を上げていた。そして、次の瞬間に彼女の放った言葉で、同じようにペスカの剣パーティー達が驚きの声を上げる。

「申し訳ございません。ヴェルナー様は、冒険者ギルドへ加入するための条件を満たしておりません。ですので、残念ながら冒険者として登録することが出来ません」

 

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第05話 ディフェシュタット

 魔物の森から最も近い場所に存在すると言われている街、ディフェシュタットに3日ほどの日数をかけて到着したペスカの剣のパーティー4人とヴェルナー達。

 旅の最中には、ヴェルナーが中心になって辺りを警戒して魔物と遭遇しないように注意しながら進んで行き、戦闘は一度も行われること無く街へ辿り着くことが出来た。結果、怪我だらけのペスカの剣一行は、メンバーを誰一人欠けることなく無事にディフェシュタットへ来ることが出来たのだった。

 そして、食事や睡眠時の見張りなどもヴェルナーが率先して行っていたので、パーティーメンバーは十分に休息を取ることが出来た。なによりも、その間に魔物の襲撃が一度も無かったという驚異的な実績に、アルノルドはヴェルナーをペスカの剣のパーティーメンバーの戦闘斥候として迎え入れたいと、すぐに考えるようになった。

 そんな訳でアルノルドは知恵を絞って、どうにか彼をパーティーへと迎え入れるためにと、まずは冒険者ギルドへ加入してはどうかと誘っていた。

「ヴェルナー、貴方は冒険者になるつもりは無いですか? 助けてもらった時に見せてもらった戦闘能力。あれ程の力があれば、冒険者として十分に稼ぐことが出来るハズですよ。村に一人となったのならば、街に引っ越してくるのも良いかと思います。少し考えてみて下さい」
「わかった」

 街へと向かう道中で、アルノルドは度々このような話を繰り返してヴェルナーに冒険者となるよう誘った。そして、誘われたヴェルナーの方も情報収集に活用できるかもしれないと考えて、アルノルドの話を聞いていた。

 そうこうしているうちに、一行はディフェシュタットの近くへと到着した。街周辺には牧草地が広がっていて辺りは平地となっているので、ずっと遠くの方まで見渡せるような景色が広がっている。

 街に住むアルノルドの説明によれば、魔物の森からやって来るような魔物がディフェシュタットの街の側近くまで寄ってこないか目視で確認できるように、という理由でこの辺りには背の高い木や草などを一切生やさないで、けれど土地を最大限に生かせるようにと考えられて、家畜の飼料となる牧草を育成する草地にしているという。

「あぁ、ようやく到着した」

 レンガ造りの家屋が立ち並ぶ街の風景が見えてきた頃、先頭を代わって歩いていた魔法使いでパーティー唯一の紅一点であるモレナが、安堵の表情を浮かべて口を開いた。彼女は、魔物の森で多数のアサシンウルフに囲まれて、傷だらけになり逃げられそうにないという絶望的な状況から、よく街まで帰ってこられたというホッとする気持ちで一杯だった。

 他のパーティー三人も同様に、帰還の道中に本当に戻れるだろうかという不安と緊張から開放されて、ようやくリラックスすることが出来ていた。そんな中、ヴェルナーだけは街の外観を鋭い視線を向けて、じっくりと凝視し注意深く観察を続けていた。

 ヴェルナーが街を観察している様子をペスカの剣の一行は、初めて都会に来た田舎者が戸惑っているんだと言う風に勘違いして、優しさからヴェルナーに詳しく街の説明を始めたアルノルド。

 ディフェシュタットという街は、魔物の森から生まれ出る魔物を増えすぎていないか監視するために造られた、監視を目的とした場所でもあるという。

 そして、魔物の森から生まれ出て来る魔物の数に際限は無いので、いつでも定期的に冒険者ギルドに駆除の依頼が集まってくるので、この街では冒険者の仕事が他の街に比べると豊富で、腕に覚えの有る冒険者たちが金を稼ぐために集まってくる街でもあるという。

「魔物の駆除は命に関わる危険な仕事だけれど、その分報酬が高くて魅力的です。だから、ある程度の戦闘技術に自信があれば、この街で生きて行くのはすごく簡単で冒険者にも人気の街ですよ」
「なるほど」

 アルノルドから街の成り立ちについて聞きながら、ヴェルナーは辺りの観察を熱心に続けた。彼の個人的な好奇心というよりも、後々の帝国軍への報告のために必要な行動としてヴェルナーは動いていた。

 街に関して話をしているうちに、彼らは街の中心にある建物の前に到着した。ペスカの剣のパーティーが目的とてしている、冒険者ギルドである。

 アルノルド達は、街に到着してすぐ魔物の森の偵察依頼の報告をするために住処へ戻るよりも先に、冒険者ギルドのある建物へと立ち寄ったのだった。

 それから、ヴェルナーへ支払う予定の護衛の報酬を、冒険者ギルドに預けている金を引き出して渡すために彼にも一緒に行動してもらっていたのだ。

 アルノルドが先頭になって、建物の中に入っていく一行。ヴェルナーも、彼らの一番後ろに並んで建物の中へと入っていった。


***

 建物の中は、カウンターにとなっている仕切りの長い台とと、テーブルと椅子数個の組み合わせが置かれた、話し合いが出来るような広めのスペースが合った。そして、カウンターに向こうに座る来訪者の対応をする受付の女性が一人と、3人組の男たちによる一組のパーティーがテーブルに着いているだけで、他には人が居らずガランとしていた。
 正午を過ぎて、日が沈み始めた今の時間は人が居ないのが当たり前の風景なので、今も普通の状況ではあった。

「うん、そうか」

 冒険者ギルドのある建物の中に入ったヴェルナーは、納得するように頷きながら声を漏らした。

 魔物の森から、街へとやって来る道中、冒険者ギルドと呼ばれる組織の建物に入った今までで、ヴェルナーは科学機器的なモノを一切見なかったし、痕跡さえも探知していなかった。残念ながら見た目の通り、科学技術が未だに発達していない星に自分は降り立ったようだ。この様子だと、外宇宙との接触もまだのようだし、放置された惑星のようだった。

 ヴェルナーが、そんな風に考えているうちにパーティーリーダーのアルノルドは冒険者ギルドの建物の中にあるカウンターへと進んで近づき、受付に座る女性と魔物の森で起こったことを説明するために話を始めた。

 

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第04話 街へ

 ペスカの剣と名乗る、4人のパーティーメンバー達は先の戦闘で満身創痍だった。狼の魔物、名をアサシンウルフと呼ばれている集団の獣に大小様々な傷を負わされたのだ。まずは、その傷を治療しないと行動できそうにないのだか回復薬は切らしている。

「バルナバ、ガイウスの傷だけ先に治してくれ」
「は、はい。わかりました……ッ」
 パーティーリーダーのアルノルドは、地面に座り込んで疲れ切った様子のバルナバに対して、心苦しさを隠して強く命令する。バルナバは疲労困憊で、回復魔法を使用するための精神力と魔力とが、底をついて残っていないことは分かっていた。けれど、ガイウスの傷は深く出血も酷い。回復薬は切らしているために、バルナバに頼るしか無く放置する事はできなかった。

「アルノルドさん、ガイウスさんの傷は何とか対処しましたが、僕はもう限界です」
「そうか、すまない。バルナバは、ココを出発するまでしばらく休んでいろ」

 目の下にくまを作り、真っ青な表情をして明らかに限界だと分かる様子で、パーティーのリーダーに報告を終えたバルナバ。そんな彼に、しばらく休んでいるように言うとヴェルナーに向き直り、話を再開する。

「ヴェルナーさん、改めて我々を助けてくれたこと感謝します。それで、我々は今ボロボロの身体で街に戻るまで、相当な足手まといになるかと思います。それでも、護衛をお願いしても大丈夫ですか?」

 先程、了承してもらった護衛の件を改めて確認するアルノルド。ヴェルナーが、あまりにもあっさりと了承したので、彼は事態をハッキリと認識していないのではないかと疑いの感情がアルノルドにはあった。

 それから、アルノルドはパーティーリーダーとして自分がどれだけ未熟なのか、そして未熟な自分達のパーティーの護衛は大変だ、ということを語り始めた。

 冒険者ギルドからの依頼で魔物の森の最近の動向を調べる仕事を受けて来た事。偵察任務だからと、まさか敵と遭遇して戦闘になるとは考えていなかった事。偵察任務だけを済ませて、極力戦闘を避けようと考えていたから回復薬は数を持ってこないという、準備が疎かだった事。そして、アサシンウルフと呼ばれている先程の魔物が群れで居るという習性を忘れて、一匹だけならば楽勝だと甘く考えて戦闘を始めてしまった事。最後に、戦闘に入って、周りからどんどんと敵が増えていき対処しきれない数になってパーティーの全滅目前となっていた事。

 数々の失態を告白していくアルノルドは、冒険者としては恥以外の何物でもなかった。けれど、今回の大失敗を今後の糧にしようと恥を耐えてヴェルナーに告白していく。

 アルノルドは語り終えて、それらを聞き終えた今も尚、護衛をお願いできるのかをヴェルナーに問うた。

「問題ない」
「ありがとう、恩に着ます。街まで、我々の護衛を頼みます」

 迷いのないヴェルナーの返答に、もう彼を疑わず信頼しようと決めたアルノルドは、改めて街への同行をお願いした。


***


 魔物の森は、高い木に空が覆われた場所で、昼間でも太陽が木の葉に隠れて薄暗く、方角を確認しづらい。だから、慎重に何度も進んでいる方向を確認して行かないと簡単に迷子になってしまう。

 なので、最初は先頭を進んでいたアルノルドも、何度も何度も時間を掛けて用心深く前進していたが、流石に進行速度が遅すぎると感じたヴェルナーは、アルノルドに変わって先導し始めた。


「こっち」
「本当に、道は合っているのか?」
「合っている」

 迷いなくズンズンと進んでいくヴェルナーの自信に、半信半疑で後ろをついて進むペスカの剣の3人。特にパーティーメンバーで魔法使いのモレナは疑り深く、先導するヴェルナーに問いかけるが彼は気にせずに、前をどんどんと進んでいく。

 パーティーの中で、アルノルドだけはヴェルナーを信じて疑わず後を歩く。

 すると、帰路の道中魔物と遭遇すること無く、5人は簡単に魔物の森を抜けることが出来た。もちろん偶然ではなく、ヴェルナーが自身のセンサー機能を使って敵の位置を随時把握して、避けて通ったから出会わなかったのだ。

「やった、森を抜けたッ!」
「助かった」
「本当に、良かったよ……」
「ヴェルナー、本当にありがとう。あとは、草原を抜けて街まで歩くだけだ」

 ペスカの剣のパーティーメンバー達は、魔物の森を抜けてようやく緊張を解いて喜んだ。特にアルノルドは、魔物の森を抜けるまでには後、三回か四回ぐらいは戦闘になるだろうと予想していたが、予想が外れて嬉しそうに喜んでいた。

 それから、草原を歩いて5人は街へと向かった。草原から外は行ったことがないとヴェルナーが打ち明けたので、今度はアルノルドが先頭を歩いて案内する。

「さっきは疑って悪かったね」
「大丈夫、問題ない」
 魔物の森を抜けるまで、一番ヴェルナーの事を疑っていたモレナがしおらしく謝った。他の疑っていた、ガイウスとバルナバの二人も草原に出られたことでヴェルナーの事を全面的に信用するようになっていた。

 街へ向かう道中にヴェルナーは、モレナ達から色々と今までの人生について問われていた。今までどのような生活をしていたのか、家族は、村が全滅したという話を聞いたが経緯は、という様々な質問に、ヴェルナーは随時適当に創作したカバーストーリーを語った。

 魔の森の中にある、今は廃村となった場所で一人暮らしていること。しばらく前に、魔物に村が襲われて生き残ったのは自分だけだった事。その他色々なデタラメな出来事を。


 こうして、3日ほどの旅が終わり5人は街へと到着した。

 

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第03話 ペスカの剣

 

 魔物の森の中で戦闘を行っていた4人の男女達にとって、突然現れた見知らぬ男。その見知らぬ男であるCL-505型は、容赦なく狼のような姿をした獣に、躊躇いなく接近し、容赦なく素手で殴り屠っていく。そのスピードとパワーは圧倒的であり、一撃で敵の注目を集めた。

 狼の獣はターゲットを4人パーティーからCL-505型の方へと変更して、一斉に飛びかかった。しかし、CL-505型は敵の攻撃に一切慌てること無く、淡々と対処していく。飛びかかってきた一番身近な狼の獣から順番に、殴り、蹴り、攻撃を躱してカウンターを決めていく。

 その側で、4人のパーティーのリーダーであるアルノルドも支援をするように攻撃に加わる。そして、後衛から更にモレナの魔法が飛んでいき、狼の獣の死体の山が出来上がっていった。

 それからしばらく、CL-505型が敵に攻撃を加え続けて注目を集めつつ、元から戦っていた人間達への視線を逸らさせるように戦い続けた。

 死体が量産されて躯の絨毯が出来上がった頃、人間達の助太刀に入ったCL-505型の脅威にようやく気付いた狼の獣は、身体を反転させて、一気にその場を離れていった。文字通り、尻尾を巻いて逃げたのだった。

 敵が逃げていくのを見て死中から脱したと確認した四人は、本当に安堵した。そんな中、パーティーのリーダーを務めているアルノルドは、自分の判断ミスでパーティーが全滅の危機に陥ってしまったこと深く後悔していた。今回、助かったのは本当に奇跡だと感じていたのだ。

 安心して、杖は立てたまま地面へと座り込んだローブを着た女性であるモレナ、同じように錫杖を抱きしめながら、体力の限界で立っていられないようになった僧侶のバルナバは、尻もちをついて地面へとへたり込んでいた。

 全身鎧で大剣を武装したアルノルドは、疲れがピークに達しているけれど気力で耐えて立ち続けて、周囲への警戒を怠っていなかった。それに付き合うように、ガイウスは大きな盾を地面に突き刺して、アルノルドと同じように周囲を警戒している。

 4人の人間たちを、一人ひとりじっくりと眺めていったCL-505型は、危機は脱して安全になったと判断して、その場から離れようと森の奥へと歩き出した。

「ま、待ってくれ!」
 無言で立ち去ろうとした彼を急いで呼び止めたのは、パーティーのリーダーであるアルノルド。声をかけられたCL-505型は、立ち止まって呼び止めた男の方へと身体の向きを変える。

 素直に立ち止まってくれたことに安心したアルノルドは、急いでCL-505型の近くへと寄るアルノルド。全くの無傷であるCL-505型と、今回の戦闘で負った傷から血をダラダラと流しながらも気丈に立っているアルノルドが向き合う。

 アルノルドは、近くへと寄ってみるとCL-505型が身奇麗な人物であることに気づいた。先程の戦闘で、素早い動きをするのを目にしたが、敵から攻撃を受けている様子は見ていない。かなりの手練だろうと、先程の戦闘で判断した。

「なんじゃ?」
 見た目は若い彼の姿からは想像しなかった、地方独特で古臭い言葉の発音にアルノルドは困惑しながら、これ以上は不躾に観察するものではないかと、自分達を助けてくれた人物に無礼だと気づいて、無理やり意識を外して話し始める。

「私は、ペスカの剣のリーダーをしているアルノルドです」
 こちらも傷だらけの厳つい見た目からギャップの有る、礼儀正しい態度と口調。しかし、CL-505型は特に感じるものもなく返答する。

「私は、ヴェルナー」
 CL-505型は、この星で行動する時に名乗ろうと考えていた、直近の艦隊戦を行った宙域の名前にあやかって付けた偽名で答えた。その偽名に特に引っかかりを感じることもなく、アルノルドは彼を呼び止めた理由を語った。

「実は、私達のパーティーは先程の戦闘で回復薬を使い切ってしまって、もしお持ちでしたら売っていただきたいのですが?」
「すまん、持っとらん」
 ヴェルナーは、村を観察して覚えた言葉が通じているようで、表情には出さないが満足していた。一方、アルノルドは目的が果たせずに苦しみの表情を浮かべていた。

「そうですか……。よろしければ、貴方の住む村に案内していただけないですか?」
「案内できる。だけど、無駄」

 この場所から無事に街へ帰還するのには、回復薬は必要だ。先程の戦闘の結果から、強くそう思ったアルノルドは何とか薬を手に入れられないだろうかと考え、融通してもらえそうな場所を教えてもらうことにした。

「無駄、ですか?」
「今は、わし一人で住んどる。残りの住民は、全滅」

 ヴェルナーの語った話は、もちろん嘘。彼は、森の中を動き回っていて特定の拠点を持っていない。けれど、住んでいる場所がないと言うと怪しまれると考えたヴェルナーは嘘のストーリーを語った。

「そうですか……。それなら、お願いしたいのですが、一緒に街まで同行してもらえませんか? 貴方の力で我々を護衛していただきたい。もちろん、報酬を貴方の望む限り払わせてもらいます」
「わかった」
「本当ですか!? ありがとうございます」

 第三の案としてダメで元々という気持ちで、彼の戦力を期待して依頼したアルノルドは、予想に反して速攻で受けてくれたヴェルナーに驚きつつ、感謝した。ヴェルナーは、街に興味があったので丁度いいと考えての返答だった。

 こうして、ペスカの剣と名乗る4人パーティー組と、ヴェルナーという偽名を名乗ったCL-505型は一緒に行動することになった。

 

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