第30話 値段と交渉

 セレストの指令によって、周辺の街に出向いて素材の値段を調査しに行っていた者たちが帰ってきた。その者たちによって持ち帰られた価格についての情報を確認しながら、僕とセレストの2人はいつもの仕事部屋で今後の商人との取引について話し合いを行っていた。

「なるほど、適正価格はこれぐらい、という事か」
「調べてもらったら、驚くほど違いがあったね」

 セレストは実態を初めて知って、知らなかったとはいえ問題を放置してしまっていたことを後悔していた。

 そして、僕はアマゾン国で取引している時と外の街や国で取引されている時での素材について価値の違いに驚くばかりだった。

 実際に足を運んで周辺国にある店まで出向いて、その時に実際に取引されていたという価格を調べてもらった結果だからこそ分かったその事実。価格を詳細に記録してある情報をまとめてある紙を目にして、僕たちは驚いていた。

 そこに記されている値段と、アマゾン国が今までに取引していたという値段とを比較してみれば、その差に1000倍もの違いがあった。

 もちろん、商人たちは商売をするために商品を仕入れて、次の人間へと価格を提示して売り儲けを出すというのが彼らの仕事だ。そこには、仕入れて適当な場所に運び売るという運輸としての価値がある。

 その時に商人として、仕入れと売値の差額を儲けるための価格設定をしている事は理解できるけれども、あまりにも差がありすぎるように思えた。

 商売として成り立たせるために、商品となる素材を集める人、仕入れて求めるお客のもとまで運び売る人、そして商品を買うお客の3つがあると思うけれども、今の価格設定のままではアマゾン国が大きな損を請け負っているに過ぎない。そして、商品を買うお客が得をしているというわけでも無いと思う。ただ、中間に入っている行商人が無慈悲に金品を貪るように収入を得ているだけだ。

 いや、もしかしたら行商人は低価格で売っているかもしれないから交渉の必要性があるかも。けれど、今までのように低すぎる値段で売ることは今後無いだろう。

 だから、今度からは集めた情報を元にして設定した適正価格から少し割り引いた値段の設定にして、商人と取引するという事を決めたセレスト。

 まとめた情報は、セレストよりも更に上の権限を持っているという地位にいるジョゼットに知らせてみれば、面白うそうだという表情を浮かべて今後の商人との話し合いの時に新しい金額を提示してみると彼女は約束してくれた。


***


 そして到来した、アマゾン国が取引している商人が商品を仕入れにやって来る日が。年に数度ぐらいの割合でアマゾン国に商品を仕入れにやって来る彼の名は、テゲルという名の人物らしい。

 商人を迎える為に僕たちが待ち受けるのは、森の外縁部。森の中では商品を運ぶための馬車が入ってこれないために、アマゾン国の住人が森の外縁部にまで商品を運び出して商人が受け取りやすいようするため、森の入口に用意した素材を並べて商人を待ち受けるのが決まりだった。

 しかし、今回は僕のアイテムボックスという能力によって1人で森の外縁部まで商品を全て運び出すことが出来ていて、それでまたアマゾネス達から感謝されていた。

 というのも、彼女たちは力強く物を運ぶことはそれほど困難な仕事でもなかったけれど、単純で面白みに欠けるような作業はやるだけでも疲れを感じるくらい嫌いで、彼女たちにとっては、出来れば荷物運びというのは面倒でやりたくない仕事であったらしい。

 そんな仕事を僕が全て請け負って能力を使って終わらせてしまえば、もう誰も面倒だと思う仕事から解放されて、感謝されたという訳だった。

 森の入り口で待つジョゼット、そして今日の取引を行うためにやって来た行商人っぽい姿が遠くの方で視認できた。僕の視線の先には、馬車を何十台も連ねて走っている軍団が目に見えている。どうやら、あの近づいてくる集団が今日取引する商人テゲルなのだろうと僕は察する。

 そして、到着して馬車が止まると中から1人の男性が降りてきた。

 50代ぐらいの年がいった中年男性だった。見た目に行商人テゲルは中年という感じだった彼は、商人であることを示すような作り笑いを浮かべた表情で揉み手をしながら、いかにもという雰囲気を醸し出している。

 そんなテゲルの後ろには、屈強な男たちが武装して従って歩いている。テゲルの表情や下手に出る態度は卑屈だと思えるぐらいに腰が低いけれど、後ろの従者に守らせてコチラへの警戒は緩めていない、という感じだろうか。

 警戒は続けて、並べられた商品となる魔物の素材がある場所へと近寄っていく。そこに近寄って、しゃがみこんで状態を少しチェックしている。

「いやー、今回はいい商品を揃えてくれましたね。ありがとうございます」
「いえいえ」

  なごやかに商人テゲルに対応をするジョゼット。この後に色々と交渉しようとしている事には気付いていない様子のテゲル。話し合いを決めようと、やる気を出しているジョゼットの2人が向かい合っていた。

 

 

 

 

第29話 回収作業

 調べてみて判明した、今までのとんでもない低価格で取引していたらしい、魔物素材の取引について。価格を引き上げてもらう交渉を商人とする事に決めたセレストは、改善できる部分は改善をして交渉のための手札として用意しようと、これからは適正価格で取引できるように事前に準備を進めることにした。

 そして今日僕は、アディの狩りに同行していた。同行して僕は、彼女が倒した魔物の死体を回収していくというような役割を担っていた。ちょうどいいと言うべきか、新しいスキルであるアイテムボックスという能力が、今回の魔物の素材回収という作業に活用できるからと判明したから。

 アディが魔物を倒して、戦闘が終わったら僕が後から行って順番に倒した魔物を回収していく。ただ絶命している魔物の体に手をサッと触れて、アイテムボックスに入れるイメージをするだけで作業は終わり。後は、街へと戻るだけで素材を持って帰ることが出来るという簡単な仕事だった。

 この回収方法には、特にデメリットも無い。強いて言うならば、回収するのには必ず僕が手で直接触れる必要があり、取り出すのにも僕を通してじゃないと無理という、それぐらいだった。

 それに比べると、メリットは沢山ある。まずアイテムボックスにいくら魔物の死体を入れても、アイテムボックスの中に入れてしまえば荷物の重さを感じることはないから、アディには手荷物となるような物が無くなって、動きが阻害される事が無くなる。

 それからアイテムボックスの中に入れておけば、何故か死体は腐らない。アイテムボックスに入れた時と同じ状態で取り出せる。つまり素材も劣化しないということで、商品価値も上がるだろう。

「終わったぞ、ノア! 回収を頼む」
「了解」

 魔物との戦いが終わって静かになった所で、アディに呼び出されて僕は彼女に駆け寄る。そして、まだ温かさの残っている魔物の死体を次々に触って、素材となるそれらを回収していく。全て触り終えるのには1分も必要ないぐらいで、あっという間に僕の作業は終わり。

「終わったよアディ」
「相変わらず、仕事が速いな。さぁ、次に行こう」

 僕が魔物を回収している間は、辺りを警戒してくれていたアディ。僕の仕事は終わったと彼女に告げると、休むこと無く次へと行こうとする。

 仕事熱心と言うよりも、魔物との戦いを少しでも長い時間楽しみたいという彼女は趣味のように楽しんでいる、という感じだった。

 アディが先行して、僕が後を慎重についていく。しばらくの間、鍛えていたおかげだろう、今ではアディが森の中をビュンビュンと速く進んでいくスピードにも、なんとかついて行けている。

「だいぶ体力も付いて、あたしのスピードについてこれるぐらいに山歩きにも慣れてきたな。凄いぞノア」
「ありがとう、アディ」

 彼女に褒められることは純粋に嬉しい。鍛え続けてきた甲斐があったと、報われたと思える瞬間だった。

「いやー、楽ちん楽ちん。さすがにアタシでも持ち帰れないぐらいの量なのに、ノアは凄いね」

 彼女が自分で言う通り、どんなに魔物を倒しても2本の腕では抱えられる量も制限されて持ち帰る物を選別しないと、いくら魔物を狩ったとしても全ては街に持ち帰られずに、その場に放置するしか方法は無かった、と語るアディ。だから、今は僕が居てくれることで助かっていると。

「それにしても、ノアは本当にアマゾン国には必要不可欠な人材になってきたね。前に言っていた、皆の役に立ちたいという気持ち、本当に果たしているじゃないか」
「うん、ありがとう。僕もようやく、皆の役に立てているって実感できてきたよ」

 魔物寄せというスキル、それからセレストの手伝いとして国の運営に関わる書類整理、更にはアイテムボックスによる魔物の死体回収と、僕でも出来る事が沢山増えてきた。

 その結果が自信となって、ようやく僕は自分でもアディ達の役に立てていると言えるぐらいに実感できていた。

「ストップ、ちょっと待ってろ」
「分かった」

 会話の途中でも、何かに気付いたアディがすぐに僕を止めて、そこから息を潜める。僕も彼女に合わせて身を潜めて様子を伺う。そして、僕だけその場に留まるように指示されるとじっとしたまま、アディは音もなく森の中へと進んでいく。

 そして、森の鬱蒼としている木々の間に姿を隠しながら徐々に進んでいくと、ある所で武器を構える。武器を手にしたのは魔物を発見した証で、次の瞬間には鋭い一撃を繰り出す一歩手前だった。

 けれど僕の目には、何の変哲もない森の緑しか目に入っていない。アディには、何か見えているのだろうかと、目を凝らしてみる。だが、僕にはやはり見えない。

「ふっ」

 アディが息を吐きながら力強く大剣を振るうという攻撃を始めて、僕はようやく獲物を目にした。熊のような大きく毛に覆われた魔物がアディに反撃しようとするが、アッサリと避けられて、その後アディに反撃を食らって地面に倒れ込む。

 その音を聞きつけたのか、魔物が次々に集まってきてアディを獲物にして殺到する。僕は更に見を屈めて木の陰に隠れながら、彼女の奮闘ぶりを目にする。バッタバッタと倒されていく魔物の群れ。

「終わったぞ、ノア!」

 しばらく行われた一方的な魔物狩りも終われば、再び同じ様に呼び出されて次は僕の出番。次々に魔物の死体を回収していって、ソレが終われば再び森の中を移動していく。

 そして、一日という時間を掛けて森のなかに入って魔物を探し、アディが見つけて倒すと、僕が魔物の死体を回収していくという決まった動作で次々と倒し回収していった。そして一日でとんでもない量の魔物の素材が手に入る、という結果となっていた。

 

 

第28話 仕事の日々

 僕は前々からずっと、少しでもアマゾン国の人々、とりわけアディ達の役に立ちたいと考えていた。そんな僕の考えをジョゼットに相談してみたところ、彼女から仕事を任せられるようになって、今ではセレストの仕事部屋に通う日々が続いた。

 僕の仕事は、セレストの書類処理を手伝うこと。彼女が処理する書類、主にアマゾン国の食料関係や経済に関する事柄を管理するため記録しておく書類を作成したり、過去に作成された書類を確認して整理したりする事務仕事だった。

 食料ついて、いまアマゾン国にどれ位の食料が蓄えられているのか。毎日どれ位の収穫が出来ているか、消費されているか。外から購入しいないといけない食料が、どれ位の量あるのか、必要な購入費用はどのくらいなのか。

 そして経済については、アマゾン国のお金の動きが分かるようにする物。収入と収支について、国庫の状況を記録しているような書類だった。

 どちらも僕のような外から来た人間が目にしても良いのか心配になるほどに、重要である情報が記載された書類に触れているので、一応セレストに聞いてみたトコロ、気にしないで大丈夫だと語った。

「それだけ、今の仕事を任せられる人材が他に居ないのよね。だから辞めないでね」
「はい、頑張ります」

 幸いなことに、監禁されるよりも前の過去に少しだけ貴族として教育を受けていた頃が有って、その時に学んだ知識が今になって役立っていた。

 僕は即戦力として扱われて、今行っている書類の処理もセレストの補助がありつつ、順調に上手く対処することが出来ていた。セレストからも、助かっていると感謝される程だった。今までが、本当に大変だったようだ。

「今まで、ずっとずっとずーっと、私以外にやろうとする人が居なかったから。まさか君のような役立つ人間が助っ人に来てくれるなんて。心の底から助かった、って私は思ってる」
「セレストの助けになって、本当によかった」

 セレストからの感謝の言葉を聞いた僕は、役立っているという感覚を味わえて満足だった。こうして、僕の役立ちたいという感情は一旦落ち着きを見せることになる。

 そもそも、魔物寄せというスキルによる感謝はされていたけれど、やはり実感出来ないと役立っているとは僕には思えなかった。それが、今では仕事を任されたから実感として味わえているので、満足していたから。


***


 仕事を慣れていくと、作業する速さもドンドンとスピードが上がっていく。更に僕は処理する書類の量を増やしていく。

 するとある時、1つ気になる点を発見した。それはアマゾン国が行っている取引について。口出しをするべきかどうか少し迷ったけれど、仕事に慣れてきて僕はセレストに聞いてみることにした。

「セレスト、質問したいことが」
「んー? どうした」

 毎日のように、僕とセレストは部屋で二人っきりになって仕事をしていて、だいぶ仲が良くなってきているように思えた。

 だから僕はセレストに仕事に関して、気兼ねなく聞くことが出来ていた。

 僕が疑問に思った点というのは、アマゾン国が取引している商人との素材の売値について。記録されている値段が、売り渡している素材の量に対して、受け取っている金額が異様に少ないと思える。

 食事一食分ぐらいの値段に対して、山になるような量の素材が取引されていた。適正価格を知っている訳ではないが、どう考えても安いんじゃないかと思えるような金額。

 そんな部分を僕は指摘して、どういう事か聞いてみた。もしかしたら、何かの契約によってそうなっているのか、という可能性を考えて。

「あぁ、これね」

 だがしかしセレストの説明を聞いてみると、どうやらこの金額は商人が設定したという運搬費と素材の品質が低いという理由で、買い叩かれていた結果だという。

「品質が低い? それに、運搬費?」

 品質については、まぁ、アマゾネス達が狩った魔物の死体を持ち帰る時にあまりに気せず、傷つけてしまって価値が落ちていると言うことなら納得ができる。

 だがしかし運搬費なんて、買い取りに来た商人が担うべきだろう。それを値引きの理由にされる考えが理解できなかった。

「それにしても、この金額はあまりにも低すぎると思う」
「そうかな、考えたことがなかった」

 どうやら、あまり気にしていなかった部分を僕は突いてしまった。彼女たちは、あまり金銭に執着していないようだったが、損をしているかもしれないという事を伝えると、考えが一転して、彼女は商人に負けるのは気に食わないと感じて取引を見直すことにしたようだった。

「じゃあ、ちょっと調べてみようか」

 セレストはやる気になって他の街では取引価格がどれくらいか調べて、今までどのくらい買い叩かれているのか調べる事にした。そして、価格をどのぐらい修正するかという見積もりを出す。

 それに今は、アマゾン国を目指してやって来る魔物の数も増えてきている。つまりは、狩って持ち帰ってくる死体の量も多くなって得られる素材も増えてきた。だから、今のうちに一度売値の見直しが必要じゃないだろうか、という僕の考えを理解してくれた。

 外の街ではどうか、市場調査のために他の街ではどのぐらいの値段で売買されているのかを誰かに調査しに行ってもらうようだった。

 その間に、僕は狩った魔物の取り扱いについて丁寧にするように皆に周知したりする。

 そして、もう一つ僕のスキルであるアイテムボックスという能力を駆使して、狩った魔物を回収する手伝いをしていく。アイテムボックスの中に入れてしまえば、腐ったりすることなく品質が落ちないで持って帰れるから。

 

 

閑話03 酒場での出来事

 ネフワシの街で起こった反乱。そして、王国から送り込まれた鎮圧軍と大きな戦いとなって、結果は反乱軍の勝ちということになった。

 その勝利の貢献者は、ふらっと街にやって来て依頼を受けたジョゼット達で間違いないだろう。

 反乱を鎮圧するために送り込まれてきた、王国の兵士達を多数返り討ちにして街へ攻め入られる事もなく撃退した。その結果、戦いに出ていたネフワシの兵士には怪我人は居たものの死傷者はなく、街の住民や建物にも被害は無かった。

 鎮圧軍との戦いを、ただの市民達が団結して、数人の助っ人に頼った結果、大勝利で終わらせることが出来たと言っても過言ではない。その数人が事態お大きく変えるような、とんでもない戦力ではあったが。

 そして、ジョゼット達が求めた通りの報酬としてネフワシの街にある酒場を開放した、飲み食い自由という場所が設けられることになった。

「じゃあ酒をくれ」
「は、はい! ただいまお持ちします」

 店に入るなり真っ先に、お酒の注文を入れたのはニアミッラ。あまりに早い展開に、店員は驚きつつも、なんとか対応する。

「酒よりも、先に食べ物を腹に入れておきたい」
「何食べよう?」

 食い意地が張ったドリィと、料理を選んでいるミリアリダ。席につくと、ニアミッラとは違って酒よりも料理を先に注文する。そしてセレストは、黙ってテーブルに座ると顔を伏せて寝始めた。

「さぁ、皆。戦いの報酬にヘルムの奴が用意してくれた、美味しい飯と酒を堪能しよう」

 運ばれてきた酒と料理を前にして、ジョゼットが言う。ネフワシの街を守る、という仕事を達成した報酬として受け取った、この酒場での食事代、酒代を無料にしてくれるという約束。

 食事代、酒代の上限は決めていなかったので、ジョゼット達は店の食材を食い尽くす勢いで、食事を堪能していくのだった。本来の目的である、アディと合流するという事を今は忘れて。


***


 今までは貴族の横暴によって給料の中抜きされていて、安い報酬で働かされていた住民達。ネフワシの街ほど近くにある、リスドラの森と呼ばれている場所に生息している魔物を駆除していく、というお仕事。

 後にしっかり中抜きをして儲けていた貴族を街から追い出して、反乱を起こした。鎮圧軍も撃退している。開放されたネフワシの住人は、今までに無い自由さに皆のテンションが上がりまくっていた。

 その結果、良くない輩も現れる。

「この店は営業中か、酒と食べ物を持って来てくれ」
「ふぅ~疲れたぜ」
「早めに持ってこいよ」

 配慮の欠けた、荒い態度で酒場に入店してきた数人の男たち。店員に命令するような口調で言いつけると、お構いなしという感じで荒々しくテーブルに腰を下ろした。

 面倒事だと感じてジョゼットは眉をひそめる。反対に、面白そうだと表情を明るくするドリィ。その他のミリアリダ、ニアミッラ、そしてテーブルで寝ているセレストの3人は無関心を貫いた。

 そんな時に、店に入ってきた男たちがジョゼット達に気が付いて声をかける。彼女たちが何者か知らずに。

「なんだ、女がいるじゃねぇか。コッチに来て酌をしろ」

 男の1人がジョゼット達に向けて乱暴な言葉で、お酒を注ぐように命令する。しかし、当然聞く必要もなく無視をするジョゼット。

「街を守ってやった、俺達の言うことが聞けねえって言うのか!」

 男たちは、言うことを聞かずに無視をしたジョゼット達に激怒する。

 彼らは先程まで鎮圧軍との戦いを経て、戦後処理をしていた者たちだった。ネフワシの街が反乱に成功して、王国から送り込まれた鎮圧軍も撃退した。大きな事を成し遂げた、しかも、それを成したのは自分たちが貢献したおかげだと錯覚して、彼らは気持ちが大きくなっていた。

 本当に貢献した者であるジョゼット達を目の前にして、彼らは吠えた。だがまだジョゼットは、特に何も言い返すことなく、男たちの言葉に無視を決め込むジョゼット達。面倒だし弱い者いじめになるからと、見逃すつもりでいた。

「てめぇ、何とか言ったらどうだ。俺たちを無視するなんて、痛い目を見るぜ!」

 しかし、男の1人が暴力によって訴えようと、ジョゼットに殴りかかってきた。彼女たちの中で一番に背の小さいジョゼットを狙った、男たちの性根が理解できる。

 けれども、そんな一番に小さい彼女は狙うべきではなかった。ジョゼットこそが彼女たちの中に一番の実力者であり、敵うはずが無かったから。

「うるさいぁ」
「ぐぁっ」

 せっかく食事を楽しんでいるところを邪魔されて、気分を害したジョゼットは手加減するのもやめて男を返り討ちにする。

 意気揚々と殴りかかった男は、ジョゼットの軽く振るった拳で顎の骨を打ち砕かれる程の大怪我を負って、痛みにより気絶していた。ドンッと音を立てて床に倒れ込む。

「貴様!」
「殴りかかってきたのはお前たちの方だ。私は自己防衛したに過ぎない」

 殴りかかってきた方が悪い。そして負けるのはもっと悪い。と言うジョゼットの言葉に男たちは聞く耳は持たず、激昂する。そして、全員一斉にジョゼット達に向かって掛かってきた。

「ゲホッ」「ぬぁっ」「う”ぅ”ぅ”」「グァァァッ」
「弱っちいなぁ。食後の運動にもならない」

 向こうから挑んできたことを良いことに、ドリィが男たちを次々に倒していく。そして、倒れた男たちが気絶した山を作っていった。誰も、ジョゼットはおろかドリィにすら敵わない。

 ジョゼット達が座っていたテーブルの周りには、掛かってきた男たちを返り討ちにして気絶させた後の、男たちの倒れ込んだ山が出来上がっていた。

 

 

第27話 聞き込み調査-ジョゼット、セレスト

 ドリィに勧められて僕は初めてお酒を飲んでみたけれど、翌日の様子は酷いものだった。目が覚めた瞬間すぐ具合いが悪いことに気づいて頭はガンガン、体調が回復するまでの苦しい時間を味わうことになった。

 もう二度と僕はお酒を飲まない。そう誓うほどに、堪えてしまった経験。よくニアミッラは、あれほどにお酒が好きで飲み続けられるものだと思った。

 そんな事があった為に、お酒を飲んで嫌なことは忘れろと言ってくれたドリィなりの解消方法は僕には合わなかった。結局、まだ僕の悩みは解消しないまま。

 僕の悩んでいることは考えるだけ無駄なのかもしれない、考えすぎという皆のアドバイスを信じるべきなのかもと思うけれど、何かしら解決策を見つけたいと思う頑固な僕。ただ、次の人に相談して悩むのは最後にしようと、心に決めてジョゼットのもとに行ってみる事にした。


***


「こんにちわ、ジョゼット」
「やぁ、どうした?」

 ジョゼットが居た場所はアマゾン国の中枢区域にある建物、国の運営を取り組んでいる機関で彼女は働いていた。そんな場所に居る彼女は、なんと国政を司る重要官職であった。

 見た目では僕と同じぐらいの小さな背丈だし、アディ達等の周りと比べてとても体が小さく見える。だから、一見するとアディ達の中では能力等が低いんじゃないかと思えるんだけれども、そんな事は全然ない。

 むしろ、アディ達と比べた場合でも一番の実力者であったと言えるぐらい。そんな頼りになるジョゼット。

「相談事があるんだけれど、今お話出来るかな?」
「うーん、ちょっと待て。うん、大丈夫だ。アディの奴が、どうかしたのか?」

 いきなり訪ねて僕は相談事があると言ってみれば、何か確認した後に彼女は快く話を聞いてくれた。

 ただアディ関連であるだろうと彼女は断定するように、何かあったのかと聞いてきたけれど、僕は違うんだと否定する。

「アディは全然関係ないよ。僕自身に関すること」

 そうして、自分が今のままで本当に役立てているのか、何か出来る仕事はないか。もっと皆の役に立ちたい、等という話をジョゼットにしてみた。すると、彼女は真剣に悩んでくれて答えまで教えてくれた。

「なるほど、生活をしている時に役立っているっていう実感が無いのか。それで、何か手伝いたいと。……それじゃあ、ひとつ君に仕事を任せてみようかな」
「本当に? よろしくお願います!」

 今までとは違う対応をしてくれたジョゼット。いきなり、何かの仕事を任されるという事態になったけれど、僕はようやく皆の役に立てることが出来るのではないかと期待で嬉しくなった。


***


 そして、ジョゼットに連れてやって来たのは建物の奥にある部屋。今までに来たことのない場所であり、重要そうな場所でもありそうだったので少し緊張する。

 その部屋の中にジョゼットの後ろに付いて入ってみれば、紙の束が積み上げられているのがまず目に入った。その次に、部屋の中央にある立派な机に誰かが座っているのが見える。

 突っ伏していて、顔が見えずに誰かが分からない。すると、ジョゼットが彼女の名を呼びかけて、ようやく誰かが分かった。

「セレスト、助っ人を連れてきたぞ」
「うーん? すけっと?」

 机に突っ伏していたのはセレストだった。いつものように、テンション低く寝起きのようにな感じのぼんやりとした声を出しながら、伏せていた顔を上げる。そして彼女の視線が僕に向けられた。

「彼が?」
「そう、手伝ってくれるって」

 セレストの視線がジョゼットに移り、再び僕に戻ってくる。どうやら、僕に任されるという仕事はセレストにも関係する事らしい。

 ジョゼットも僕の方に顔を向けてきて、それから彼女の手が僕の肩に置かれる。任せたぞ、という感じに。

「今から、セレストの書類処理を手伝ってあげて。他に手が空いていて、やる気があって、ちゃんと言うことを聞く人材が君の他に居ないのよね。ここに住む人達は本当に、戦うだけしか脳がないから。やれる人がやらないと、いつか本当に大変なことになるから君が来てくれて助かったよ」
「あー」

 ジョゼットが切実だという感じて事情を語る、アマゾン国の実態。アディを見ていると、確かに知的な作業に向いていなさそうな事が分かる。

 そして、ここなら僕も彼女たちの役に立てるかもしれない、と感じる場所であることも理解できた。

 後は任せたと言って、部屋から出ていくジョゼットを見送る、そして、部屋の中には僕とセレストの2人だけが残された。

 とりあえず、僕は最初が肝心であるからしっかりしようと、机に座っているセレストの方へと体を向けて挨拶をする。

「よろしくおねがいします」
「うん、よろしく。じゃあまずは、これからお願いできる?」

 どうやら彼女は歓迎してくれるようで、いきなり仕事を任されつつ彼女に面倒を見てもらいながら動き始めた。

 こうして、その日から僕はセレストの部下という立ち位置で、いきなりアマゾン国の運営に関わるような重要な仕事に携わる事になった。

 

 

 

第26話 聞き込み調査-ドリィ、ニアミッラ

 聞き込み調査を行うことで、ミリアリダと仲良くなれたから有意義な時間では有ったけれども、結局は未だに僕が皆の役に立てるような方法は見つかっていなかった。なので、まだ街の中を巡って何か出来ることはないか探してみようと僕は動いた。

 訓練場に行ってみると、ドリィが大剣を振るってトレーニングを積んでいた。もう十分に強いと僕は思うのだけれど彼女はそれでも、いつも継続して身体を鍛えていた。だから、訓練場に行けば会えるだろうと思っていたけれど、今日も彼女はトレーニングをしていた。

 僕がドリィに近づいていくと、彼女は僕に気が付いて剣を振るう手を止めて向こうから声を掛けてくる。

「やぁ、ノアじゃないか。こんな所に来て、どうかしたのか?」
「何か困っている事がないか、皆に聞きに回ってるんだ」
「困ってることか? 特に無いなぁ」

 僕を見下ろして、ニカッと眩しい笑顔で言い切るドリィ。そんな彼女を見て、僕は改めて背が高い女性だなぁと思った。

「それよりも、アディと戦って手ひどく負けたんだって?」

 今思い出したと言うように、ドリィが切り出す。戦ったというのは、僕が1ヶ月鍛えた後に成果を見せようとした時の事だろうか。

「あー、いや戦ったというよりも僕が1ヶ月間鍛えたっていう、成長を見てもらおうと思ってやった事だよ。それに、手ひどくっていう程はやられてない。頭に一撃食らったぐらいだ」

 気絶をするほどの一撃だったけれど、それだけだ。というよりも、僕とアディのやり取りを見られていて、あの時の事を知られているといのうが気になった。

 誰にもあの時の事は話していないし、あの時には周りに誰も居なかった筈、少なくとも僕は誰も見ていなかった。あの場には、アディと僕の2人だけだった。だから、あの時の出来事を知られていないと思っていたけれど、どうやらあの日の出来事をドリィには知られているらしい。とすると、アディが彼女に話したのだろうか。

「それで、何で”困ったこと”なんて聞き回ってるんだ?」
「実は、……」

 話題を変えるように問いかけてきたドリィに、僕は今悩んでいる事を正直に話して相談してみた。すると、彼女から返ってきた答えはこんなものだった。

「別に気にする必要はないよ、ノア。今でも十分、あのスキル”魔物寄せ”だったか、で皆の役に立ってるじゃないか。私達の国にいっぱい獲物を引き寄せてくれている。だから大丈夫だよ」
「うーん、そうなかなぁ」

 やはり目の前に居る相談に乗ってくれたドリィも、アディと同じように今役立てているから気にしなくても良いというアドバイスを言ってくれる。やはり、そうなのかな。僕が気にしすぎなのか。

「悩みが嫌なら、酒を飲もう。酒場に行くか?」
「え? ちょっと待って」

 ドリィはそう言うなり僕の体に腕を回して、地面に足がつかないぐらい僕の体は軽々と持ち上げられた。そして問答無用で、酒場へと連れて行かれようとしているらしい。

「ちょ、下ろしてくれドリィ。自分の足で歩けるから!」
「いいから、いいから」

***


「ニア、また朝からずっと酒か?」
「うん」

 ドリィに抱きかかえられてやって来た酒場には、先客のニアミッラが居た。狩場に出ない日は、酒場がニアミッラの定位置であった。

 しかも恐ろしい言葉を僕は聞いてしまう。彼女は朝から昼を過ぎた今までお酒を飲んでいたらしい。そして、そのまま夜まで飲み続けるのだろう。

「それって、アディの所にいる子? 何で一緒に居るの?」
「うん、この子は皆に悩みを聞き回ってるんだって」

 ニアミッラの問いかけに僕がやっていた事を、ドリィが代わりに答える。と言うか、いい加減に地面へ下ろして欲しいと思っているのだが、僕はまだ抱きかかえられたまま。

 そんな抱きかかれられたままの僕に顔を向けて、ニアミッラが不可解だという風な表情を浮かべて問いかけてきた。

「なんで?」
「えっと、僕が今、色々悩んでいて、その解決策を探そうと思って」
「この子、皆の役に立ちたいって言ってるのよ」

「もう今でも十分に役立ってる。だから、そのままでいいじゃない」

 ニアミッラの答えも皆と変わらず、同じように今のままで十分と言ってくれていた。でもそれじゃあ、僕の心のモヤモヤが晴れない。考えすぎか。

「それでニアの悩み事は?」

 ドリィが酒と食べ物を店に注文しながら、ニアミッラに興味本位という感じで問いかける。と言うかドリィは僕にもお酒を飲ませるつもりなのか、二人分の注文をしているように聞こえた。

「それはもちろん、酒が好きすぎることかな。私はどうやら、酒を飲みすぎているらしい」
「ハッハッハッ、自覚なしか!」

 ニアミッラの悩みを聞いて爆笑するドリィ。僕の悩みもニアミッラと同じように、悩んでも仕方がない事、傍から考えれば笑い飛ばされるような悩みなのかもしれないと感じた。

「さぁ、酒が運ばれてきた。飲め」
「うん、ありがとう」

 ようやく地面に下ろして椅子に座らせてくれたと思ったら、次は酒を突き出される。その酒を僕は受け取り、ドリィに勧められるまま飲んでみる。そういえば、飲酒なんて生まれて初めての体験だと、酒を口に含んでから僕は思い出した。

 

 

第25話 聞き込み調査-ミリアリダ

 戦闘能力では、どうやら今すぐに皆の役に立つというような事は出来ないという事が分かった。それじゃあ、他に何か役立てることは無いだろうか。

 スキルを使って何かできないだろうかとしばらく考えてみたけれど、今すぐには良いアイデアが思い浮かびそうにはなかった。それならばと、知り合いの皆に話を聞きに行ってみようと考え、僕は街の中を散策することにした。


***


「こんにちは、ミリアリダ」
「おう、お前はアディのところに居る男か。何の用だ?」

 家を出て水浴び場にやって来ると出会ったのは、全裸のままでくつろいでいたミリアリダだった。

 彼女は服を身に纏うのが嫌いらしくて、いつもこの街の中では普通に半裸で生活していた。そう言えば、始めて出会った酒場でも、上半身裸で居たのを目にした事を僕は覚えている。

 そして、高い確率で水浴び場に居ては裸となりノンびりしている姿を見かける事が多かった。そして今日も水浴び場にやって来たら彼女は居た、という訳だった。

 というか、裸姿で居るところを話しかけたとしても恥ずかしげもなく普通に対応してくるミリアリダに、僕もだいぶ慣れてしまっている。

 いや、慣れたと言うか視線を彼女の顔に固定して余計な部分を見ないようにする技を習得してから、恥ずかしがる事も無くなった、と言うべきか。

 この街では、男である僕の方が異端であり、いちいち僕が恥ずかしがるような仕草を見せても注意なんてされずに、何とも思われることなんてない。ならば、反応しない方法を見つけて普通に生活していったほうが楽だという事を発見した。

 だから、今では反応しないように顔だけを注視する事で僕も彼女たちの裸を目にしても、すぐに視線を逸らすことで何とも思わなくなった。……男としては、どうかと思ってしまうけれど。

「実は相談したいことがあって」
「ん? なんだ?」

 僕が相談があるなんて話しかけると、ミリアリダは普通に話を聞いてくれる態勢を取ってくれた。

「僕も何か皆の役に立ちたくて、何か困っていることは無い?」
「困ってること? いきなり言われてもなぁ、思い浮かばないかなぁ」

 僕から相談というよりも相手の話を聞いて悩み事がないかどうか、ソレを聞いて僕が解決できないかどうかという、悪く言えば善意の売り込みのような事をしている僕だった。

 そこから何か役立てる僕だけの仕事を探し出そうと必死になる。話に付き合ってくれるミリアリダは、僕の質問に答えてくれようと悩んでいた。

「それじゃあ1つ、悩みを聞いてもらいたい」
「なに?」

 そう言ってひねり出してくれたミリアリダの悩み事。僕は喜んで、彼女の話を聞く。解決できると良いなと、思いながら。

「実は、私には仲が悪い友達が居てなぁ」
「うん」

「そいつと、仲直りするにはどうしたら良いと思う?」
「その仲の悪い友達って誰?」
「それは言えない」

 仲が悪いとは一体誰の事だろうかと、僕が問いかけても隠して教えてはくれないミリアリダ。

 うーん、多分僕の予想ではアディの事なんだろうと思う。いつも、2人が顔を合わせた時には喧嘩腰に突っかかっていくミリアリダに、冷たくあしらうアディ。この2人はあまり仲良くしている様子を見たことはない。

 けれども、確定ではない。それにミリアリダは誰なのかを隠しているので、わざわざ暴く事もするべきではないだろう。

 とにかく、ミリアリダは友達と仲直りをしたいと考えている。と言うことで悩んでいるらしい。けれども、僕は何年も監禁されて生活していた身。友達なんて遠い記憶の存在だった。だから、上手くアドバイスできるかどうか不安ではあったけれど、何とか考えて言葉を選ぶ。

「その仲の悪い友達とは、今でも会う?」
「まぁ、時々」

「その友達と、話はする?」
「それも、時々かな」

「どうして仲が悪いの?」
「うーん、向こうが悪いから?」

「向こうが悪い、ということはミリアリダは悪くないのに、仲は悪くなってしまった?」
「いや、えっと、そのー。……私も少し悪かったかも」

 僕から何度か友達に関して質問を繰り返してみて、ミリアリダの気持ちを探ってみる。すると、きまりが悪そうな顔で自分も悪かったかもしれない、と彼女は感じ取っているようだった。

「それじゃあ仲直りをしたいと思ってるんだったら、他の仲の良い友達と接するように、仲の悪い友達とも普段通りに接してみたらどうかな」
「えー、それはちょっと、こっ恥ずかしいって言うか、……そのなんだ」

 僕のアドバイスを聞いて恥ずかしそうにしているミリアリダ。でも、もうひと押しすれば改善してくれそうな感じだった。

「大丈夫だよ、ミリアリダ。普通に接して自分から声を掛けたら、相手も反応してくれるよ」
「そ、そうかなぁ」

 僕のアドバイスが絶対に正しいという訳では無い。それよりもむしろ、間違っていることの方が多い気がする。けれど、必死に考えてアドバイスをしてみた。それが伝わったのか、ミリアリダはお礼を言ってくれた。

「ありがとう、ノア、だったか? 今度試してみるよ」
「うん、頑張って」

 その後、僕たち2人は水浴び場で色々な事について話し込んだ。そして、色々とアドバイスしてみた結果、以前に比べると少し仲が良くなった僕とミリアリダ。

 けれどまだ、皆に役立つような方法を見つけることは出来なかったが。

 

 

第24話 役立たず?

「頭がズキズキする」
「ご、ごめん……。ノア」

 目が覚めた時、とても狼狽えた様子のアディが僕の顔を覗き込んでいた。一瞬、何事かと記憶が曖昧になっていて僕は慌てたが、頭の痛みを感じて直前の出来事を思い出した。

 そうか、アディの攻撃を受けきれなくて頭に一撃食らってしまった。その辺りの記憶が曖昧だが、防御しきれないと僕が気が付いた瞬間には意識も無くなっているみたいだ。

「そうか、僕は負けちゃったのか」
「いいや、凄く強くなってたよ! 最後は、失敗したけれど。でも全然すごかった」

 慰めるようにそう言ってくれるアディ、でも結局は最後の一撃を食らって気絶してしまったのは事実だとろうと口には出さないけれど、僕はそう思っていた。

 これでは、彼女たちに戦闘力を示して役立つ人材だとは主張できずに、ただ足手まといだと思われるだけだろう。

 けれども、一ヶ月程度の期間をひとりきりで修行した成果と考えれば上出来なのかもしれない。勇者というスキルの効果もあって、アディの攻撃を何度も防御出来たのは大きいと思う。

 そんなネガティブな思いと、ポジティブな考えが頭に浮かぶ。

「本当にごめんなさい、ノア。一応治療はしたけれど、傷は痛む? お腹は空いてない? 何か食べる?」
「えーっと、うん。大丈夫、ありがとう」

 本気で謝って、そして甲斐甲斐しく世話をしてくれようとするアディ。彼女は僕が想像以上に出来るようになっていて、攻撃をしても一撃も喰らわず防御を続けるので、最後の方は手加減を忘れて楽しむように戦いを楽しんでいた。

 そんな時に、最後の最後で僕がしくじってしまい攻撃が当たってしまったのだという。熱中していたアディは、寸止めをする暇も無く最後は振り切ってしまった。

 けれども最後のアレは、僕が気を抜いてしまったことで招いた結果なのだと考えていた。だから、アディのせいではない。大丈夫だと、返事をして今にも泣きそうなほどに申し訳なく思っている様子の彼女を落ち着かせる。

 ひとまず僕は、一旦アディに落ち着いてもらう為に話題を変えようと、この場所を離れたほうがいいだろうと彼女に提案する。

「とりあえず、今日はもう家に帰ろう」
「そうね、帰ろうか」

 気がつけば、辺りはだいぶ暗くなってきている。どれぐらいの間、僕は気絶していたのか分からないけれど、かなりの時間が経過していたのだろう。

 アディが僕のお腹の具合を確認してきた事から、彼女もだいぶ腹ペコ状態なのだろうと予想する。急いで家に帰って、僕たちは食事を取る必要があった。

 僕とアディは2人並んで家路についた。ションボリしているアディを慰めつつ、あれは僕の不注意が招いたことでアディのせいでは無かったと僕は何度でも訴える。

 もちろん、急に戦いを挑まれ事にはびっくりしていたし、力の強いアディが手加減を忘れて熱中した事は危なくてダメだったけれど。

 そんな帰りの道中で、落ち込むアディに声を掛けている最中で僕は気が付く。いつの間にやら新しい能力が発現している、という事に。ふと気が付いた時には、もう既に事が起こった後だった。

 ”アイテムボックス”という名前のスキルが、僕の中に新しいスキルとして存在している事。どうやら、この能力は名前の通りアイテムをしまって置けるボックスを持てるらしい。そのアイテムボックスの中に持ち物などをしまって置けば、いつでも取り出せるスグレモノでもあるらしい。

 そう言えば、このスキルは商人にとっては必須だと言われているのを聞いた覚えがあるが、なぜ僕は取得したのだろうか。そして、このスキルはいつ取得したのだろうか。

 思い当たる事と言えば、アディの攻撃を受けて気絶した時。その瞬間に、新しいスキルが出現したのではないかと、僕は予想する。

 今までのスキルが発現した瞬間を回想すると、1つ目の魔物寄せというスキルは生まれた時から持っていた。そして2つ目の勇者というスキルを手に入れた時は、僕が死の間際に居た時だった。そして、3つ目にはよく分からない大食いというスキルを手に入れた。その時は死にかけだった僕に追い打ちをかけるよう、アディの手によって食料を口に詰め込まれた時だった。

 そして4つ目のアイテムボックスを手に入れることができたのは、アディの攻撃を受けて気絶した瞬間と言えるだろう。

 僕が新しい能力を発現させる瞬間は、もしかしたら生死に関する出来事か、もしくは僕が死にかけるような目にあった時という気がする。あるいは、気のせいかもしれないけれど。

 ただ、その僕の頭に思い浮かんだ考えが当たっているのかどうか確かめるために、わざわざ死にかけるような、そんな事をする気にはならない。間違っていたら苦しむだけだから、今の所は考えを保留にしておく。

 とりあえず、今回の事で戦闘力ではアディ達に役立つ人材であることは示するは出来ない事が分かった。

 もしかしたら、もうしばらく長いこと掛けて修行を続けたとしてたらアディに役立つ人材だと認められる程度の力を手に入れることは可能かもしれないが、道程は長いだろう。

 戦闘力で役立つ人材を示すことは難しいと判断した僕は、一旦この戦闘力を示すという方法は諦める。

 そして、ちょうど良かったと言うべきか、アイテムボックスという新しいスキルを発現した事によってコレを役立てないだろうかと、新しく発現した力が皆の役に立てる方法が無いかどうか、別のアプローチで探してみることにした。

 

 

第23話 役立ちたい

 僕の持つ魔物寄せのスキルはアマゾネスである彼女たちから評価されて、そのおかげでアマゾン国では快適な生活を送ることが出来ていた。

 けれども僕は、あまりに快適すぎる今の環境に落ち着かない気持ちになっていた。魔物寄せというスキルが役立っていると言われても、家で待っているだけの僕には実感が薄くて段々と、いつこの状況が終わってしまうのか、と考え込んで恐怖を感じてしまうぐらいだった。

 もしも、魔物寄せのスキルが効果を失ってしまったら。もしかしたら彼女たちが心変わりして、今まで有難られていたこのスキルも、いつかは厄介だと思われてしまう時期が来るかもしれない。

 そう考えると、別の方法で自分が役立つ人材だと示さないといけないと僕は思うようになっていた。

「アディ、相談があるんだ」
「うん? どうした?」

 アディと2人で夕食をとっている最中、僕は彼女に直接尋ねてみることにした。自分に何か出来ることはないか、という事を。

「何か、僕に出来るような仕事をくれないか」
「ノアはそのままで良いよ。家でゆっくりとしてな」

 相談して聞いてみれば、彼女の答えはそんなものだった。今でも魔物寄せのスキルが十分に皆の役に立っているから、何もしなくて大丈夫だと諭されてしまう。だが僕は、何か役に立ちたかった。役に立っているという実感が無いと、危機感すらあった。

 ただ居るだけで発動するなんてスキルだけでは無く、自分の手で何か手伝える仕事がないだろうか考える。

 この国で評価される方法と言えば、やはり戦闘力。そして僕は思い出した。勇者というスキルを、あの死にかけていた時に得ていたという事を。

 旅の間に落ち着いて考える時間がなかったから、今まで忘れていた。けれど、確かに勇者なんて言うスキルを僕は取得していたはず。

 なにか戦闘に関するスキルじゃないだろうかと思い、アディが外へと出かけている間の1人になった時に時に調べてみる事にした。

 そして、自分ひとりで出来るところまでやってみる。そうしてから、アディにもう一度相談してみようと僕は考えていた。

 まずは、家の中に置かれてホコリを被っていた剣を借りてきて、振ってみる。今までに剣を握ったり、手に持ったことはあるけれど振ってみることは、経験に無かったように思う。

 旅の間に目にした、アディが大剣を振るっていたように。ジョゼットやドリィ、その他の皆が戦っていた場面を思い返して、自分なりのイメージで実践してみる。

 ブォンと、振った剣が風をきる音が聞こえた。なかなか、自分でも思った以上に上手に剣を振れている気がする。

「これは、意外といけるんじゃないだろうか?」

 素人である僕でもそうだと思えるぐらいに、剣がイメージした通りに振れていた。縦に横にと、縦横無尽に剣を振ってみる。

 剣を振り続けみると、なかなか辛くなってくる。最初は楽勝だと考えていたけれど、段々と疲れていくごとに剣が重くなっているように感じる。

 アディが森へ魔物と戦いに外に行っている間、彼女が帰ってくるまで疲れが溜まって動けなるぐらいに僕は剣を振り続けて、剣に慣れたり、身体を鍛えたりした。

 どんどんと剣を振り続けて、目標ではアディやジョゼット、他の旅を一緒にした彼女たちに混じって戦闘が出来るぐらいまでに自分を鍛えるつもりだった。


***


 一ヶ月も続けていると剣を振るのにも自然と自信がついてきて、なかなか良い感じだと自己を評価をする。勇者というスキルのおかげなのか、成長スピードが異常で一ヶ月程度でもかなりの成長を遂げていると、自分ではそう感じていた。比較対象がないので、正確かどうかは分からないが。

 だから、アディに遂に相談するべき時が来たのだと思った僕は、修行の成果を打ち明けることに。

「アディ。君が外へ行っている間に、僕はちょっと鍛えてみたんだ。見てくれないか?」
「ん? そう言えば、最近身体が良い感じに変わってきてたな。鍛えてたのか」

 アディにそう言ってみると、僕は身体をがっしり触られる。修業によって鍛えられた体つきを触って確かめられた。と言うか、僕の身体の変化に彼女は気づいているようだった。

「なるほどな。分かった、見てみよう」

 アディはそう言って、僕を外へと連れ出した。早速、修行の成果を見てもらえるらしい。僕はウキウキとした気分で、アディの後を付いて行った。

「使う武器は、剣か?」
「うん、家にあるのを貸してもらって振っていたんだ」
「そうか、ではチカラを見せてみろ」
「こう?」

 最初からアディを驚かせるつもりで、思いっきり剣を振ってみる。上段の構えから、一気に下段へ振り下ろす。なかなかの剣速だろう。

「おおっ!」

 アディの反応は良く、僕の狙った通りに驚いてくれた。彼女に評価されたことは、この一ヶ月の頑張りが報われたと思えるような瞬間だった。

「なかなか良いじゃないか。それじゃあ戦ってみよう」
「え!?」

 そう言って、武器を持つアディ。刃物の刃が欠けてボロボロになっている、切れない大剣。

 まさか、こんなにすぐ対人戦をすることになるとは思っていなかったので、僕は驚く。というかアディは、本気で戦うつもりなのか。

「さぁ、構えな」
「う、え。ちょっと」
「待ったなし。さあ、いくぞ」

 そのまま、突っ込んでくるアディに向かって僕は防御するために剣を構える。そのまま突っ立ったままだと、本当に危ないと感じたから。そして、その予想通りにアディは容赦なく大剣を振り切った。

「うっ!」

 鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。僕は何とか目の前で剣を構えて、彼女の攻撃を受け止めることが出来た。

「よし、ちゃんと守ったな。次はどうだ?」

 試すようにだが、容赦なく続けて大剣を振るうアディ。大剣が振るわれるスピードは遅く見切ることは出来るが、パワーがとんでもない彼女の攻撃に、対応するのがやっとの僕は防戦一方。

 僕がただ防御を続けている、それだけでもアディの御眼鏡にかなったようで、彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべて大剣を振るっていた。

「それじゃあ、最後にコレはどうだ?」
「やっと最後ッ……」

 どれぐらいの時間が経ったのか分からないぐらいの一時、僕はアディからの攻撃を捌いて自分を守り続けられていた。そして、最後という言葉を耳にした瞬間に、ようやく終わりかと安堵する。ソレがダメだった。

「あっ、ヤバ」
「ぎゅ」

 アディの声が聞こえた瞬間、腕と頭に大きな衝撃があった。

 痛みを感じる間もなく、気が付いたら目の前が真っ暗になっていた。僕は、アディから繰り出された最後の攻撃を受けきれず頭に当たって、気絶したのだった。

 

 

第22話 スキルの影響

 僕がアマゾン国にやって来たことによって、この国は賑わいを見せていた。というのも、しっかりと僕の持つ魔物寄せというスキルが発動したことで、アディ達の思惑通りに魔物がこのアマゾン国のある森を目指して殺到していたから。

 ここに住んでいるアマゾネス族という人たちは誰もが、とにかく戦闘が大好きで魔物がどんどん集まってきたとしても大歓迎。
 
 自分が住む場所なのに魔物が引き寄せられ集まってきたとしても嬉しそうな笑顔を浮かべて、武器を手に襲い来る魔物に向かって戦いを挑みに行くぐらいだった。

 僕の持っている魔物寄せのスキルは、以前は忌み嫌われて監禁される程だった。なのに、この場所では有難られる。場所や人が違えばこんなにも対応が変わるのか、と僕は思った。

 そして、もしかしたら僕はこのアマゾン国にやって来る為に生まれてきたのだろうかと思えるような状況だった。

「おかえり、アディ」
「お迎えご苦労。いやー、今日も大漁だったよ」

 アディが街から出て行き、森の中で魔物と戦いを繰り広げている間。僕は彼女のように戦うことは出来ないので、アディが魔物討伐に行っている間はアディの家の中でお留守番。

 そして彼女が帰ってくる時間に合わせて、僕は外に出迎えに行っている。アディが無事に帰ってくるのを待っていた。

 アディはいつも嬉しそうに満足したという表情で、大量の魔物を倒して獲得した肉や素材をたんまりと持ち帰ってくるのが日常だった。

 アディの他にも、魔物との戦いに赴き戦利品を持ち帰って来るアマゾネス達も居た。そんな狩りの成果を彼女たちは、街に戻ってきてすぐ地面に並べると誰のモノが一番大きいのか比べ合っていた。

「ほら、しっぽを伸ばしたらコレが一番大きい」
「ちょっと待って、固まった手と足の筋肉を伸ばしたら私のほうがデカイかも」
「私が狩ったコレが見て! ひと目で分かるぐらいにデカイでしょう。しかも他のに比べてコレは珍しいから、私の勝ち」

 各々が狩ってきた得物の大きさや個体の珍しさなどを主張して、誰が一番かを主張し合っていた。

 彼女は大きさをコレでもかと自慢し合っているが、僕にはどれもが恐ろしいほどにデカく見える。一番小さな物でも僕の身体と比べてサイズは倍ぐらいか、それ以上あるかもしれない。

 あれが生きて動いてるなんて考えると、人間の力で倒すことが本当に可能な魔物なのだろうかと僕は疑い、実際に死体を持ち帰っているのだから本当なのだろうと信じるしか無く、驚くばかりだった。

 そして長い話し合いの結果、今日一番の成果が認定された。それは、ドラゴンのような見た目をした大きな翼と、鉄のような暗い青緑色をしている鱗に覆われた身体を持つ魔物。サイズも家一軒分ぐらいは有るだろうか、かなりデカイ。

「ほう、アースリザードか。あれは、なかなか良い獲物を狩ったな」

 その魔物はアディが唸るほどの代物らしい。傍らで、アマゾネス達の得物比較の様子を眺めていたアディは、羨ましそうに彼女たちの今日一番と言える得物に視線を向けていた。

 アマゾン国では、戦闘力が高ければ高いほどに国の中での影響力が高くなる。つまりは、強いやつが偉いという理論らしい。

 そして、アディは地位的に言えば結構上位に位置する人物だったらしい。出会った頃に、森を進む道中で見せられた戦闘力、そして旅の間に彼女の強さを生で目にしている僕にとっては納得できる事だった。

 それから一緒に旅をしていたジョゼット達も皆が、上位に位置している国の中で偉いと言われる人物だったらしい。というのも、アマゾン国から外へ遠征に行く許可が下るのは、戦闘力が一定の水準以上に達している者達だけ。

 国に認められている、選ばれた少数の人間しか国の外へ遠征に出かけることは許されていない。

 そして、遠征に出ていたジョゼット達は皆が水準をクリアして外へと出かけることが出来るぐらいの戦闘力を有していた、という訳だった。彼女たちは皆が、国の中でもかなり高い地位にいる人物であった。

 それは、このアマゾン国の最上位者であるニア王からも名前で覚えられていたジョゼット。そんな偉い人に名前を覚えられていたという事実からも、分かるだろう。

 ニア王と言えば、僕の魔物寄せの効力が発揮してアマゾン国に魔物が殺到して来た時に、直々にお礼を言われるという出来事があった。

「まさか、本当にスキルによって魔物がこの国にやって来るとはな」

 両手を前で組み僕を見下ろしながら、しみじみとした感じで噛みしめるように言うニア王。

「以前、我々が森のなかに居る魔物を狩り尽くしてしまって、それから魔物は寄せ付かなくなったから、わざわざ遠征に行かせる必要があったというのに」

 だから、アディ達は遠征という旅をしていたのかと気が付く。そして、続けて話しているニア王の言葉を僕は静かに聞き続ける。

「これからは戦士達を、わざわざ外に行かせる必要も無くなった。ありがとう、確かノアという名前だったか。覚えておこう」
「光栄です、ニア王」

 そう言って、アマゾン国の王である彼女から直々に感謝の言葉を伝えられた。しかも、ニア王には名前まで覚えられたらしい。女王に名を覚えられたという事実は、なかなかに重そうだった。