第18話 帰国道中

 巨大な魔物との戦いを終えてもアディ達はなんてこと無い出来事だったと平常心のようで、あんな巨大な魔物を数人で犠牲者もなく倒せたという興奮すら無く、巨大な魔物を相手にして戦っていたというような恐怖を感じている様子も無かった。そして、変わらず皆で森を突き進んで行くだけだった。

 彼女たちが全員そうであったので、僕だけが間違って反応しているような感じですらあった。いやいや、巨大な魔物を無傷で倒せるなんて凄いと思っていたし、近くで戦いを見ていただけの僕ですら恐怖を感じていたのに。

 ジョゼット達はどうやらリスドラの森でやりたい事はやり尽くした、多数の魔物とは戦えたし、巨大で強力な森の主と思われる魔物とも戦って勝つことが出来た。ということで、道に詳しいというセレストの示す最短距離で森を出らるという進行ルートを歩いて行く。

「お、出口が見えたぞ」

 戦闘を歩いているジョゼットの言葉と、指差す方向を見て森から抜けられたことを知る。本当に、セレストの知識が正しく最短距離を進んでこれたらしく、アッサリと感じるくらいで森からは抜けることが出来た。

 そして、森を出た先にあった道を次は辿って歩いて行くという。その道を辿っていくと、街があるらしいと、セレストが教えてくれた。

「今日は、その街で一晩休みだな」

 ジョゼットのその言葉を聞いてようやく休めるかと、彼女たちの後ろをついていくだけで精一杯だった僕は街に早く到着できないかと期待して歩くスピードを早めた。

 リスドラの森を抜けてから、最初に到着した街。ここも、森を抜ける前にあったあの反乱を起こしていた街と比べて同じような雰囲気になっていた。つまりは、市民に元気がなくどんよりとした暗い空気、将来に希望がないというような落ち込んだ感じがある街だった。

「早く宿を決めて休みましょう」
 テンションが終始低いままであるセレストが要求するのは、早く休める場所を探し出すこと。

「酒場にいこう、酒を飲みたい」
 コチラは終始酒を飲みたい様子を見せているニアミッラ。彼女は、すぐに酒場へと直行して酒を飲みたいという。

「先に宿を探してから、酒場に行く。これは決定だ」

 セレストとニアミッラの対立に、判決を下したのはジョゼット。早速皆で宿を探しに街の中心部へと向かう。すると、すぐに発見できて宿も簡単に部屋を取ることが出来た。しかし……。

「あの、僕の部屋も一緒で大丈夫なんですか?」
「ん? 問題ないだろう?」

 僕の問いかけにジョゼットは何か問題有るのか? という表情を浮かべている。やはり男としては見られていないらしく、僕も彼女たちと同じ大部屋で一晩泊まることに。

 まぁ、僕が男だからといって一部屋を余分に取ってもらうのも出費になってしまうし彼女たちが気にしていないのならば良いのだが。そして、その日の夜は何事も無く就寝した。

 こうして街で補給して、また次の街を目指して街道を進んでいく。時折、魔物と遭遇してアディ達が戦い勝つ。その繰り返しで、ドンドンと目的地へと向かい進んでいく。

 何日か歩き続けて、ようやく国境に一番近い街へと到着する。すると、その街はより一層どんよりとした落ち込んだ雰囲気で居るだけで気が滅入るような立ち入りたくない、と感じる街。

「ここは相変わらずだね」
「すぐ、出国手続きをしして国を出ましょう」

 ジョゼットは、街を見回した感想を述べる。どうやら、コレがこの街の標準らしい。そして、セレストがすぐに国を出て先に進みたいと希望を言う。アディ達もすぐに街を出て国を出るという事に賛成のようで、皆の意見が一致したということで街に到着して早速だけれど出国の手続きができるという門へと向かう。

「この国は最近ずっと、どこも物騒で危なくなっているから、国を出るのも正解かもな」
 街の雰囲気に大きく影響されたような兵士が、出国の手続きをしているアディ達を羨ましそうに眺めていた。

「あんたらも国を出たらいいじゃない」
「そうしたいが、俺たち兵士は無理だぜ」

 ジョゼットが望む通りにすればいいのにとアドバイスするが、兵士たちは即座に無理だと判断して諦めていた。そんな悲壮感漂う兵士たちの会話を聞きながら、出国の手続きを終える。

 そしてようやく手続きが終わると門を通されて、ついに国境を超えて王国から出ることとなった。

 

 

 

第17話 森の主

 それを目にした瞬間、空を全部覆っているのかと思うぐらいに巨大な何かを見て呆然とする。

 亀のような甲羅を背に持ち、キリンのように長い首がウネッている。そして頭にあるギョロッと大きい目玉が僕たちを捉えたのか、コチラに視線を向けて近づいてきている。

 男のくせに女性であるアディの腕に抱かれて守られている、という事が恥ずかしいと思うのを忘れるぐらいに、巨体からのプレッシャーを感じた。

 しかし女性陣は、僕のような恐怖を感じることは無いみたいだった。むしろ嬉しそうにおおッ! と声を上げて、その巨大な魔物を眺めていた。

「いいね! すごい大きい、歯ごたえがありそうな奴だな」

 ジョゼットは魔物を見上げながら、そんな感想を声に出す。そして、何処からかグローブを取り出すと拳にはめた。

 今までは素手の拳で魔物を殴り倒していたのに、グローブを装着した。全体が白色の甲に金のエンブレムが付いた仰々しい装備で、彼女は本気になったのだろう、という事が分かった。

「あれは、この森の主ってやつかな」
 大斧を肩に担いで手を顔の前にかざし魔物を観察していたミリアリダが、そう呟いた。

 そういえば、この森には強力な魔物が住んでいるというのを街の人が言っていた事を思い出す。そしてどうやら、あの巨大な魔物が”強力な魔物”であるらしい。

 徐々に魔物は移動し近づいてきて、バキバキと木々が割れるように折れている音が森に響き渡る。そして、一定の間隔でドシンドシンと地響きが起こっているのも聞こえる。どうやら歩いて来るようだ

 存在しているだけで巨体から生み出される、とんでもないパワー。僕なんか近づかれたら、踏みつけられて一瞬で死んでしまうだろう。

 それなのに、彼女たちは躊躇いもなく魔物に突っ込んでいく。

「ウラァアアアアアアッ!!」
「オゥラァ!」
「死ねぇ!!」

 突っ込んでいったドリィとニアミッラが気合を入れる為なのか、叫び声を上げて魔物に斬りかかる。そしてジョゼットは魔物に向かって暴言を吐く、ついでのように殴る。女性が出したとは思えない奇声と、荒々しい言葉。

 先程の魔物とは違って、一撃では倒れない。けれども、ダメージは与えているのか魔物は攻撃を加えられると唸り声をあげて苦しんでいる様子だった。

「よし、私も行こうかなっと!」
「後ろから、皆の援護をするわ」

 ミリアリダが大斧を振り回して魔物に突っ込み、セレストが遠距離から弓矢を打って魔物に攻撃を加えていく。ドンドンと戦闘に参加していく女性たち。

 誰も巨大な魔物に圧倒されている様子はなく、戦闘を楽しんでいた。

 魔物が前足と思われるソレを、ブンと振り回して踏みつけたりしようとしているが、ジョゼット達は攻撃を軽やかに避けて距離も取らずに、再び接近して攻撃を加えていく。

 すると、次第に魔物の体に血が吹き出る傷が増えていき、咆哮も最初に比べて声も小さく弱ってきているのが観戦している僕にも分かった。

「一気に仕留めるぞ」
「おう」「了解」「いくぞー!」

 ジョゼットの掛け声で、ドリィ達の動きがより一層スピーディになる。その動きに魔物は為す術がないようで、立ち止まって耐えるしか無いようだった。

 数分の出来事だったのか、もしくは1時間以上も経っているような感覚。ついに、巨体が大きく仰け反って地面へと倒れ込むと最後の一鳴きというように、魔物が声を上げた後は、もう音は聞こえなくなった。

「素材の回収~♪」

 アディと僕の側で遠距離からの攻撃を続けていたセレストは、倒れた魔物を目にすると御機嫌になって走り寄っていった。

「ふぅ、満足満足」
「楽しかった」
「お酒が飲みたい」

 一仕事を終えたという風に戻ってきたジョゼットは、言葉通りに満足しているようだった。あんな大きな魔物を直前まで相手にして倒したとは思えない、余興を楽しんだだけ、ぐらいのテンションで平気そうだった。ミリアリダもニラミッラも。

「皆さん、大丈夫なんですか?」
「え? あれぐらい平気よ」

 僕は信じられない気持ちで問いかけると、ドリィは逆に何を騒いでいるのかと疑問に思っているというような顔で僕を見返してくる。

 確かに、ジョゼット達の実力を目の当たりにすれば本当に平気なのだろうと思うけれど、普通の人間から見れば到底太刀打ちするのは不可能な巨大な魔物のように見えた。改めて、彼女たちの常識離れした戦闘力を目の当たりにした、という気持ちだった。

「けど、本当にコレのおかげで魔物を惹きつけられたね」

 戦闘後に僕へと近づいてきたミリアリダが、汗を流したという匂いを漂わせながら僕の顔をこねくり回すように触る。

「勝手に触らないで。あたしのモノなんだから」
「いいじゃん、ちょっとぐらい!」

 アディが僕を腕の中に抱いていて、ちょっかいを出してきたミリアリダの手が僕に届かないようにと体を反転させる。

「ほら、二人共ケンカはしない」

 ジョゼットが、アディとミリアリダ二人の喧嘩を注意する。そして、僕に視線を向けてきた。

「まぁ、とりあえず。その子の魔物寄せってスキルの実証は出来たから、後は私達の国に帰りましょう」

 

 

第16話 圧倒的

 再び森のなかに戻ってきた俺たち。聖女様達との代わりにと言っていいのか、アディの仲間である5人の美女達が加わって、森に戻ってくることになった。

 今の彼女たちの向かおうとしている目的地は、森を抜けた先。そこに王国の国境が有り、更に真っすぐ進んでいった先にあるのが、彼女たちが住んでいた国だという。

 そして森の中を進んでいる道中、僕の持つ魔物寄せというスキルも絶賛効果を発揮中らしくて、ドンドンと魔物が集まってきている。

 だけれど、集まってきた魔物を見て楽しそうに笑って迎えているのが彼女達だった。

「こりゃ凄い!」

 ジョゼットは喜び目を輝かせて、集まってきた魔物の群れを目の前にして嬉しそうな声を上げた。

「お先に」

 ドリィはそれだけ言い残して真っ先に、魔物の群れに向かって一直線に突撃して行った。仲間たちの中で一番の長身である彼女は、その巨体に見合わぬスピードで突っ込んでいき、そのスピードの勢いを生かしたまま、魔物に向かって躊躇いもなくロングソードを突き刺す。

 ドリィの進む道の先で立ちふさがっていた魔物が吹き飛んでいく。まるで、ダイナマイトが爆発したみたいにブワッと膨らむようにして方方に散るように。

「あ、ずるいぜドリィ! 私も行こうっと」

 元気いっぱいにミリアリダが、上半身を隠すぐらいに大きな斧を肩に担いで歩きながらドリィの後に付いて、余裕綽々と魔物に近づいていく。

 彼女の持つ斧は見た目の通り、とんでもない重量なのだろう。担ぎ上げた瞬間に彼女の露出した背筋が隆起したのが僕にもはっきりと目に見えた。とても、先程まで胸を露出していた女性とは思えない凛々しさを感じた。

 しかも、ブンブンと斧を振り回すミリアリダ。竜巻が起きたような風の音が、離れている僕の耳にも聞こえてくる。

「ニア、これ守ってて」
「分かった任せて、アディ」

 アディがニアミッラに僕を差し出して、守るようにお願いしてくれている。先程まで酒を浴びるように飲んでいた筈のニアミッラは、しかし酒の匂いは漂わせつつ酔った様子も無く、意識もしっかりと受け答えしていて頼りになる答えをアディに返していた。

「大丈夫だから、じっとしてて」
「はい、えっと、お願いします」

 アディに代わって、ニアミッラに抱きしめられるような形で守られながら耳元で囁かれる。アディに抱かれている時とはまた別の安心感があって、魔物の群れを前にして何故か心が落ち着いていられる自分。

「ふぅ、疲れた」

 セレストは呟きながら、気怠げに戦闘を眺めている。彼女は、他の皆とは違って戦闘に積極的ではないのか。

 アディの言葉によれば、彼女は物知りで頭も良いらしいから頭脳担当なのかもしれない。もしくは先程まで眠っていたから今も本調子では無い、とかいう理由かも。

「ドリィ、ミリア! 逃げ出している魔物はしっかりと止めを刺して。アディ、そっちの魔物をお願い。ニア、その子が怪我しないように注意して。セレスト、休んでないでちょっとは参加しな」

 ジョゼットが拳を武器にして魔物に殴り掛かるという、すごく原始的な戦闘をしながら各々に指示を出していく。彼女達の集まりの中でリーダー的存在なのは、やはりジョゼットなのだろう。

 アディ1人の時でも敵無しだったのに、彼女たちが集まれば魔物が可愛そうだと思えるぐらい圧倒的に、次々と魔物が駆逐されていく。そしてものの数分で、魔物の死体の山が築かれて、魔物の姿も見えなくなった。

「凄い、本当に魔物寄せのスキルで集まってきたみたいだね」
「アディ、いい拾い物をしたねッ!」
「ホントホント、この子は是非私達の国に持って帰ろう」

 前線で戦っていた、ジョゼットにドリィ、そしてミリアリダが戦闘を終えて戻って来ながら僕のスキルについて絶賛している。

「これはあたしのだからね。それは忘れないように」

 アディが「ありがとう」とニアミッラにお礼を言いながら、僕の体を受け取ると。離さないようにと僕を強く抱きしめながら皆に見せつけるように宣言する。これは自分のモノだということを。

「いや、取りはしないよ。それよりも、森のなかにこんなに魔物が潜んでいたとは」
「私も昨日、いっぱい倒したけどホントに増えたみたい」

 ジョゼットが呆れながら答えて、それから周りの魔物の死体に目を向けて想定していた以上だと感想を述べる。アディも同意見なのだろう、ちょっと前の出来事について言いながらも満足そうだった。

 すると、その時になって体が震えているような感覚に気が付く。いや、これは地面が揺れているのか?

 次第に木々がざわめく音が大きくなっていく。風に吹かれて出ている音じゃない、別の原因によって起こっている音だと分かる。そして時間が過ぎると共に、ドンドンと大きく聞こえるようになってくる。

「なんだ?」
「何か近づいてくる」

 ドリィが異変に気がついて辺りを見回していると、アディは何かに気がついたのか、ある方向に目を向けて視線を固定した。

「アディ、あっちか?」
「うん。デカイよ」

 ジョゼットの問いかけに、アディは頷いて肯定する。次にドシン、ドシンと大きな足音が聞こえてきた。

「うわっ、デケェ!」

 ミリアリダが、何かを見て叫ぶ。僕も同じ方向へ視線を向けると森の奥、木の上に大きな顔が現れた。どうやら今までとは一味違う、巨大な魔物が森の奥から現れたようだった。

 

 

閑話01 アディの発見

 アデラヴィという女性は、勘を頼りにして今までの人生を乗り越えてきた。戦いにおいても、生活していく中でも、生きていく上でどうするか判断する基準に勘を頼りにするという事を重視してきた。

 だから、時たま仲間の制止を振り切って自由に行動する。今も、名も知らぬ森の中を仲間から離れて1人きりでフラフラと散策していた。

 仲間の1人から聞いた情報によれば、今いる森のなかには強敵になるような魔物が生息しているというらしい。アデラヴィ達は、魔物との死力を尽くす戦いを味わう為に国から出て、世界を探索して、今の居る場所にたどり着いていた。

「こっち、のような気がするんだけれど……。いや、でも、えっと……」

 今もビンビンと敏感に感じている、アデラヴィの勘。どちらに進むべきか、お腹を引っ張られるような感覚がする方向がある。それを頼りにして進むべき道を決めていく。

 アデラヴィは今まで生きてきた中で一番と言えるような、逃したらヤバイと思える強い予感を抱いていた。これを逃せば一生を無駄にしてしまうような、逃してしまえば本当に大事になるかもしれないという危機感もあった。しかし、何故こんなに自分は焦っているのか理解は出来ていないまま。

 まだ引き寄せてくる感覚を頼りにする。感覚は見失っていないから大丈夫、方向も間違っていないから後は距離だけ。都度都度で確認しながら森の中を必死になって突き進んでいく。

「あそこ、かな?」

 木や草の陰、木の上の枝や地面の中にも魔物達が潜んでいる場所を発見した。しかし、見た感じから不可解な状況だと思ったアデラヴィ。

 何かを見物するかのように円形となって集まっていた魔物達は、警戒しているのか同じ方向に視線を向けたまま息を潜めていた。

 アデラヴィが魔物達が向ける視線の先を辿っていくと、木の陰に隠れていた何かが見えた。

「あれは、……人?」

 目を凝らしてアデラヴィが見たのは、ボロボロな格好で地面に倒れていた男の姿だった。なんだ男かと、視線を外そうと、見捨てようとする判断を思い浮かべたアデラヴィだったが、何処かから声が聞こえた気がした。

 ”見捨てては駄目!”という声が。

 アデラヴィという女性は、勘を頼りにして今まで生きてきた。たった今も勘を頼りにして、どうするべきかを考えてみた。そして倒れている男を見捨てるという選択肢は捨てて、飛び出していく。

 フッ、と軽く息を吐く簡単な動作でアデラヴィの体奥底から力が湧き出てくる。そして湧き出てきた力を駆使して、大剣を振るう。鬱蒼とし生い茂る森のなかで。

 雷が落ちたかのような爆音を立てて木の真ん中あたりが、粉々に吹き飛ぶ。そして大剣の勢いは止まることなく、その木の先に居た魔物も巻き込んで吹き飛んでいく。

 木が生えているという場所を物ともせずに、ブンブンと大剣を名の通り大きく振って一度も止まることなく、集まっていた魔物を次々に吹き飛ばして倒していく。

 そして数十秒後には、生きている魔物は居らず、死体の山を築き上げた。集まっていた魔物は、アデラヴィ1人の手によって全滅させられていた。

「さて、一体どんな奴か」

 魔物の脅威が無くなり安全を確保できたことを確認してから、倒れている男に近づいていくアデラヴィ。手が届く場所まで近づいて、顔を覗き込む。

 ハッと気がついて、周りに魔物が集まってきている危険な状況になってようやくアデラヴィは長い間、倒れていた男の顔を眺めていた、無意識のうちに流れた時間に気がつく。つまり、アデラヴィは夢中になって男の顔を見つめていたのだ。

 そして感情を自覚することもなく、とりあえずこの場を離れないといけないとアデラヴィは考えていた。倒れていた男を肩に担いで、食料にするため魔物の死体から適当に一匹を手にとって木の上に飛び上がる。

 木の枝を伝って魔物の頭上を駆け抜けると、戦闘を避けて魔物から逃げ出す。魔物から逃げるなんてした事は生まれて初めて、という経験をしたアデラヴィ。

 そんな初めての事も気にせずに、とにかく先ずは抱えている彼を安静に休ませる場所を探さなければと必死になっていた。


***


 倒れていた男を肩に担いで歩き、良さそうな場所を見つけたアデラヴィ。男を地面に横たえると、枯木を集めて火をおこす。食事の準備をする為に。

 安静にしている男の顔を覗き込むアデラヴィ。この時には既に、彼女は男を自分の住む国へ連れて帰る方法を考えていた。

 アデラヴィが所属するアマゾネスという集団は、男子禁制の女性社会だった。だから、彼を連れて帰れば族長に怒られるのが目に見えて分かっていた。だから、どうするべきか。

「うーん、どうしよう」

 どうすれば、男を連れて帰っても怒られずに自分の手元に置いておけるか。悩んだアデラヴィは、とある昔の出来事を思い出していた。

「そういえば……!」

 遠い昔に、誰かが男性を連れて国に戻ってきた事があった。その時は、男性を奴隷として扱いモノだから良いと言う判断をされて許されていたのを見た覚えがあった。

 アデラヴィは、自分もこの男をモノとして扱えば自分の手元に置いておけると判断した。

 

 

第15話 街を出る準備

 酒場を出たら、すぐに街の外にまで出ていくかと思ったらジョゼットは誰かに会いに行くらしい。その辺りに歩いていた市民を1人呼び止めて、誰かの居場所を尋ねた。

「ヘルムは今、何処に居る?」
「はい。えっと、ヘルムさんなら中央の元貴族屋敷に居られると思います」

 ジョゼットはヘルムという名の人物が何処に居るのか居場所を聞くと、その聞いた場所へと直行する。その後を付いて歩くアディ達。

 僕は再び、アディに体を拘束されて荷物を運ぶような感じで胸の前に抱えられながら、街の中を行く。行く先々で見られているという視線を感じて、恥ずかしいとアディに言うが離してくれそうには無い。

 ただ、僕も誰かの人肌という感触を感じられることが自分で思っている以上に安心しているらしい。恥ずかしいと思いつつも、自分から無理矢理には離れようとはしないから。だから、黙ってアディの腕に抱えられている。

 先頭を歩く背の低いジョゼット。その後ろには、背の高い女性たち。

 ドリィにセレスト、ミリアリダ、ニラミッラ、そしてアディ。6人もいる女性の全員が眼を見張るような超絶美人の集団。

 だがしかし、近寄りがたい雰囲気があるだろう。何故なら、その女性たちの男性も軽く上回る長身、鍛えられた体の筋肉を見て容易に声を掛けでもしたら返り討ちに遭いそうだという、見た目から自己防衛本能が働くような女性たちの集団だったから。

 そしてジョゼットが目的としている人物が居るらしい、街の中央にあるという元貴族屋敷という場所にたどり着く。見た目から一瞬で大きな屋敷だ、という感想が浮かぶぐらいのデカさ。以前に僕が普通の生活をしていた頃に住んでいた、実家を思い出す屋敷の大きさだった。

 しかし元という名が付くだけあって、今は屋敷への出入りを制限するための門は開かれっぱなし。敷地の中には、街の市民達が普通に中に入っていたりと出入りが自由な場所になっているらしい。

「ヘルム!」
「あ、はい」

 門を通って、建物の中に入るとジョゼットが大声でその名前を呼んだ。すると、出てきたのは中肉中背のあまり目立つような特徴が見えない普通の男性。困ったという表情を浮かべて、額に汗も流しながら緊張した様子で出てきた。

「仲間が見つかったから街を出ていくことにした、契約は終了だ」
「はい、そのようですね」

 どうやら、出てきた男性はジョゼット達の依頼人だったらしい。突然やってきて横柄な態度で話を振ったジョゼットにも、謙りながらしっかりと対応している。

「あなた達が居たおかげで、市民の多くが戦いで死ぬことなく生き残れました。王国軍や貴族達を返り討ちに出来たのもあなた達のおかげです、感謝しています」

 ジョゼットに向けて頭を深々と下げて、御礼の言葉を言うヘルムと言われている男性。そして、頭を上げるとジョゼットに向き合ってお願いをしてきた。

「依頼内容では、仲間が見つかるまで、という期限を決めていましたが、もう少し滞在をお願いできないでしょうか」
「済まないが、それは断る。私達は新しい目的が出来て、すぐに国に帰らなくならなければいけない用事ができた」

 街を守ってもらうという依頼の延長を申し出た彼だったが、ジョゼットにあっさりと断られてしまった。だが、男性は申し出てみたけれど元から期待はしていなかったのだろう、残念そうではあるが仕方ないという表情を浮かべている。

「そうですか。まさかあなた方の仲間がこんなにすぐ見つかるとは想像していませんでした。リスドラの森で逸れたと聞いて、もしかしたら魔物に殺されて一生合流することは無いかもしれない、と考えていたのですが」
「ハハハッ! 残念だったな、私の仲間はそんなに軟じゃなかった」

「あなたの実力を目にして強いだろうとは思っていたのですが、1人で森を抜けられる程とは思いませんでした。それだけに、依頼が終了してしまうのは残念です」
「契約では”仲間を見つけるまで”だったからな。仕方ないと思え」

 そう言われて諦めるかという風にため息をついた男性は、近くに居た人に何かを持ってくるように指示を出した。そしてすぐさま、白い袋に詰められた何かの荷物が目の前に運ばれてきた。

「依頼の報酬は、金銭ではなく食べ物を用意すればいいということで酒場の飲み食いは自由にしてもらっていましたが、契約を終了ということで街を出ていくのであれば、これも持っていって下さい」
「おお、すまないな」

 白い袋の中身はどうやら食料らしい、それを渡されたジョゼット。そういえば、酒場を出る時に支払いをしていなかったが、食事や飲み代が依頼の報酬だったらしい。そして、最後まで追加の報酬を出してくれるという街の人達。

「じゃあ、もらっていくぞ」
「機会があれば、また依頼の受注をお願いします」

 別れの挨拶をして屋敷から出ていく。そのまま、街の外へと出る門まで歩いて進む。荷物として食料が詰められた袋が増えていた。

 引き止められはしたものの、あっさりと依頼終了を納得して送り出してくれた彼ら。先程の出来事を考えて比較すると、市民達の方がまともだと感じる。

「よし、それじゃあ準備も出来たし森に戻ってこいつのスキルが本物かどうか確かめながら、私達の国に帰ろう!」
「「「「「おう!」」」」」

 今後の予定を語って統率を取るジョゼット。その後に続いて、掛け声を上げた5人の女性たち。そして、女性たちの集団の中たった1人だけ男性の僕。

 

 

第14話 引き止める聖女様

「このまま、彼らを見捨てて行くのですか!?」

 呼び止めた聖女様は椅子から立ち上がって、店から出て街からも出ていこうとする準備を始めていたアディ達を信じられないという表情で見つめていた。

「見捨てると言っても、街の奴らとの契約では私達の仲間が見つかるまで、という約束だった。アディが見つかったのなら、この街に留まる理由はない」

 ジョゼットが仕方ないという風にして、面倒くさそうにだが一応は丁寧に説明を返す。だがしかし、ジョゼットの言葉は聖女様に不信感を抱かせたらしい。

 僕はジョゼットの言葉が正しいと感じていたけれど、聖女様は違うようで耳を疑ったという様子だった。

「この街の人達は、今までに苦しめられて仕方なく反乱を起こしたのですよ。彼らを助けなくては」
「アンタは一体、私達に何をしろと言うんだ?」

 側で話を聞いていたのだろう、市民たちの状況を知った聖女様。それについて長々と話し始めそうになった彼女の言葉を遮って、うんざりした表情でジョゼットが直球に尋ねた。

「悪いのはお金を奪った貴族と、それを許した王様だけ。他の人達は仕方なく現状に巻き込まれただけです。そんな彼らの状況を改善する為には、悪い人達を打ち倒す必要があります」

 直球に尋ねた筈のジョゼットの言葉がスルーされたかのように、また話を長く語り始める聖女様。彼女の言葉に飽き飽きしているという風だが、一応は耳は傾けている様子のアディ達。

「ここに居る皆さんは、普通の人とは違う凄い力を持っている。それを助けを求める人々の為に使うべきです」
「だから結論を言え、結論を」
「悪を滅ぼすために、皆さんの力を私に貸してください」

 途中までは聖女様の言っていることは立派だと思うし、正しいと感じて理解は出来た。しかしその後の事については、他人に強要するべき事ではないと思う。ジョゼットも同意見だったのか、彼女の持論によって反論をしている。

「私に力があるのは、自分自身で身を鍛えた結果だ。この力は、自分の為に身に着けた力だ。他人に奉仕する為に持っているモノではない」
「ですが、今回の事が起こった原因は彼にあるのかもしれないんですよ」

 ジョゼットと聖女様が言い争っている話題の標的が変わって、僕も巻き込まれることに。聖女様は僕を指さして弾劾してきた。

 どうやら、僕がスキルとして持っている”魔物寄せ”についても側で話を聞いていたらしく把握しているようだった。そしてセレストが推理した、そのスキルが魔物増加の原因だ、という考えを聖女様も同意見のようだった。

「今の王国に魔物が大量発生しているのは、そこに居る彼のスキルが原因かもしれない」
「まぁ、そうかもしれないな」
「そうです。だから彼の仲間というのなら、あなた達が彼の引き起こした現状の責任を一緒に取るべきです」

 そして、今回の出来事を引き起こした大本の原因として責任を取るべきだと主張してきたのだった。

 聖女様から、今の王国で起きている出来事を僕の責任にしてジョゼットやアディ達のような強力な戦力を手元に置いておきたい、という思惑を感じた。だが、そんな考えをジョゼットは一刀両断する。

「そんな事、私達の知ったことではない」
「そんな、暴論……」

 ジョゼットはよっぽどイライラが募っていたのだろう、吐き捨てるような言葉をストレートに告げた後に彼女は颯爽と店から出ていった。聖女の返事も聞かずに、もう議論の余地も無いという風にして。

 ジョゼットの後に付いて出ていく仲間たち。僕は彼女たちの後に続いて店を出るその前に、もうここでお別れになるだろう聖女様に対して空気が読めていないという事は自覚しつつも、街まで送り届けた報酬についてを請求してみた。

「それについて一つ問題があります。あなたの持つスキルです」

 案の定、街までの護衛に関する報酬を出し渋るように話を変えて喋り始めた聖女様。そしてやはり、魔物寄せのスキルについて責任を追求してくる。

「そもそも、私達が街に向かう道中に異常な数の魔物に襲われた理由はあなたのスキルに原因があるのではないでしょうか?」
「僕が居たから街までの護衛が必要だった。逆を言えば、僕が居なければ護衛は必要なかったという事ですか」

 街にたどり着くまでに何度も魔物の襲撃に遭って、アディが撃退していたから皆は無事だった。その魔物の襲撃の原因は僕に有るだろうと言う聖女様。そして、僕が居なければ魔物の襲撃は無くて、護衛は必要なかったかもしれない。

「有り体に言えば、そういう事になります」
「つまりは、報酬は支払わないということですか?」
「はい、そういうことです」

 もともとは、道に迷っているアディと僕が街までたどり着ければ良かっただけ。一番に大事な目的は果たすことが出来た。そして金銭による報酬については、貰えればラッキーぐらいの気持ちで期待してなかったので落胆はしない。

「わかりました。それじゃあ、報酬は結構です。さようなら」
「ま、待ってください!?」 

 交渉する必要もなく、あっさりと諦めて酒場を後にする。何やら後ろから慌てた様子で呼び止めようとする声は聞こえたが、さっさと立ち去り無視を決め込んで僕もアディ達と一緒に国を出ることにした。と言うか、そもそもアディの持ち物である僕は彼女の後に付いていくという選択肢以外には無い。

 

 

第13話 街の事情

 僕の今いるネフワシという名のこの街では、反乱が起こっているらしい。どういう経緯でそうなったのか、反乱が起こっているこの街の市民に雇われることになった理由をジョゼットが酒を片手に飲み食いしながら詳しく説明をしてくれた。

 王国では今、長い歴史の中でも最大と言われる程に魔物の数が増加していた。そして、多くの人たちが魔物を減らすために討伐しようと全国から集められた。多くの市民が魔物の討伐に駆り出されて半ば強制的に魔物根絶を目指して討伐を行ってきた。

 ここネフワシには、近くにリスドラの森という名の場所がある。僕が処刑の為に送り込まれそうになった場所であり、アディと出会った森の名前だ。

 その森には、すごく強力な魔物が住み着いていると言われていて、他にも数多くの魔物の巣があり魔物を森から出さないように討伐や監視をする為に集まって出来たのが、ネフワシという街の始まりとも言われているそうだ。

 つまりは、昔から森に住む魔物との戦闘を繰り返して行ってきた、そんな人たちが住む街としても有名だった。

 そのために、今回の魔物討伐にもネフワシの人間は最前線で活躍できる人材として期待され、王国から直々に呼び出されて魔物討伐に貢献してきた。だが、それでも魔物は数は減らず、むしろ増えていった。

 大災害ともいえる魔物増加現象の解決には目処が立たず、人も資金も減っていく一方だった。そんな国が四苦八苦している最中、王国から魔物を討伐するためという名目で支給されていた資金が、ある貴族の手によって中抜きされている事が発覚した。

 魔物討伐を果たしている労働者たちには最低限の報酬しか行き渡らずに、本来の受け取るべき人の分が貴族の手の中に。

 しかも貴族の不正が発覚しても、王様は貴族を強くは処罰せずに少額の罰金を科せるだけで適当に済ませて、事件を終わらせようとした。

 そんな王様の対応にも激怒した市民。本来払われるはずだった給金が結局は支払われず、貴族の処罰も非常に甘いもの。その結果、市民の反乱が起こった。という理由らしい。


「その反乱が起こる直前に、私達が街に来たから戦力として雇われたってわけ」
 ジョゼットの説明を聞いて、なるほどと納得する。そういう経緯で今に至るというのがよく理解できた。

「昨日はこの街に反乱を鎮圧するための王国軍がやって来たけれど、歯ごたえがないほど弱かったなぁ」

 ジョゼットが、ため息混じりに言う。 門の外に有った死体は、王国軍のモノという事だったのだろう。それが、昨日起こったという戦闘で出来上がった……。

「予定は、この街で傭兵の仕事をしつつアディを探す予定だったんだけれど、すぐ目の前に現れたから探す手間が省けてよかったよ」

 ため息の表情から一転させて、嬉しそうにアディとの再会を喜んでいるジョゼット。そう言って嬉しさを表すように、ジョッキを掲げる。

「めでたい事だ、乾杯!」

 酒好きのニアミッラが、ジョゼットの掲げているジョッキに乾杯とぶつけて一気飲みをしている。

 しかし、そういう事が知らぬ間に起こっていたのかと僕は世間の大きな変化を驚いてた。まぁ、殆ど監禁生活で世間の事なんて知らないから、どれくらい変化をしたかを正しくは理解していないけれど。

「アディと合流できたんなら、もう国に戻ってもいいかもな。ソレが使えるんだったら、わざわざ魔物との戦いを求めて遠出をする必要もないでしょ」

 ソレと僕を指さしてくるジョゼット。どうやら、彼女たちは自分たちの国に帰る計画を立て始めた用だった。

「えー、せっかく国から出てきたのにもう帰るの? もっと遊びたい」

 ぶうぶう文句を言うミリアンダ。

「だから、あの子が居たらあっちでも魔物と戦えるでしょ。王国に居たら、なんか面倒なことに巻き込まれそうだし、人間相手よりも魔物の方が楽しいでしょうに」

 不満を言うミリアンダをたしなめるようにジョゼットが説得する。

「というか、王国の魔物が増えた現象ってその子の能力のせいじゃないの?」

 突然、ずっと眠っていたと思っていた女性が起き上がって会話に参加してきた。あまりに自然に会話に入ってきて、内容も理解しているようだし寝たふりをしていたのかと僕は疑う。

「じゃあ、連れて帰ったら私達の国にも魔物がいっぱい!?」
「そりゃあ、良いね。早速、明日にでも国に戻ってみよう。それで役に立てば万々歳だな」

 長身のドリィと背の低いジョゼットの二人に挟まれて、逃げられないように頭と身体を掴まれる。逃げるつもりもないけれど。

 というか、彼女たちは僕をやっぱり男とは見ていないのだろう、恥ずかしい接触が多すぎる。

「それじゃあ、早速支度をしないとね」

 お酒も料理も十分に堪能したのだろう、女性たちは満足そうに椅子から立ち上がって思い思いに店から出ようとする。しかし、その動きを呼び止める女性が1人。

「待って下さい、アディさんと皆さん」

 街まで一緒に来た、聖女様の声だった。

 

 

第12話 情報交換

 アディとドリィに連れてこられた酒場の中に、僕はまだ居た。酒場なんて、街に入って来て一番最初に来る場所では無いと思うのだけれど。しかも戦った後で、仕事終わりの一杯という具合いにアディは楽しんでいるが、その図太い神経に僕は感心するぐらいだった。

「マスター! こいつらの分の酒とメシ、適当に持ってきてくれ」
「ハイっ! 只今ッ!」

 椅子に座るだけで地面に足が付かなくなっている、背の小さな女性が姿に見合わぬ尊大な態度で注文をする。

 すると店の責任者というような立派なひげをたくわえた中年の男性が注文を受けて、少しでも遅れたら重い罰を課せられるという様な感じで大慌てで、建物の奥に厨房が有るのだろう、そちらに向かって行った。

 というか、今までキャラの濃い4人の女性達に視線が集中しすぎていて、マスターと言う人が全然視界に入っていなかったので声が聞こえた瞬間に少しビックリしてしまった。他にも人が居たのかよ、という感じて。

「今注文を入れたアイツが、ジョゼットって言うんだ。身体はちっちゃいけど、滅茶苦茶に力が強いから怒らせないほうが良いよ」
「は、はい。分かりました」

 小さな背をしている見た目からは想像できないが、アディが注意するぐらいだから力がもの凄く強いという事は本当なのだろう。

 それにしても耳元まで顔を近づけてきてくれて、ささやきで合流した彼女達の名前を教えてくれている。

 聞こえてきたアディの声に左耳や背中が無性にゾクゾクッとしてしまう。気持ちが悪いんじゃなくて、憶えてはイケないような感覚。そんな感覚は無理やり無視して、アディの言葉に集中する。

「それから、あっちの寝てる奴がセレスト」
「あぁ、あの人が」

 確か、森の中を歩いている時に名前を聞いた覚えがある。土地や道に詳しいという人だった様な。彼女がそうなのか。今は眠っているのか、テーブルに顔を突っ伏していて白髪も邪魔して顔を隠しているので、表情はよく見えない。そして、まだ起きる気配も無い。

「それから酒をがぶ飲みしている、アイツはニアミッラ。アイツは酒好きのマゾだから、酒だけ飲ませて放っておけ」
「はぁ……?」

 なんだか適当な説明だなぁ。腰まで伸びている綺麗な黒髪の美人なのに、マゾって聞かされるとなんだか残念な気持ちになる。しかもお酒が好きなのかぁ……。見た目のイメージに大きなギャップが有った。

「で残った、アイツはバカだ」
「なんだとー!?」
「うっ」

 アディの言葉に怒って立ち上がる女性の胸には、いまだに何も身に着けていない。その解放された大きな双丘がプルンと波を打つように揺れている。視線を逸らそうとしても彼女が動いて、目に飛び込んでくる。言い訳かもしれないけれど……。

「ミリアの名前を、ちゃんとソイツに仕込んでおけよっ!」
「ほら、見ての通りのバカだ。ミリアリダ、覚えなくていいぞ」
「え?」

 どうも二人は仲があまり良くないのか、でも煽っているアディは小馬鹿にするような感じの笑みを浮かべていて遊んでいるだけのようだ。そして本気になっているのは、ミリアと名乗った彼女の方だけみたいだ。

 それより何より怒るよりもまず、胸を隠してほしい。

 こうして、アディに全員の名前と簡単な特徴を教えてもらって彼女たちのことを把握することが出来た。しかし、紹介をしてもらってもやっぱり濃いキャラクターだと思ってしまう。

「それで、アディ。お前、今まで何処行ってたんだ?」

 注文を受けていたマスターが、追加の酒と料理をテーブルに運んで並べていく。それを当然のサービスだというように、受け入れていたジョゼットが改めて問いかけてきた。

「ん? ハグッ、ング。 あたしは、コレを見つけて森の中で遊んでたんだ」

 ジョゼットの質問に、飢えた犬のような食欲でガツガツと肉を口に詰め込んで食べながら答えるアディ。そして、コレと指さされる僕。

「それで、あっちに居るセイジョサマってのを守る仕事を受けて、今ココにやって来た」
「ふぅん、なるほど」

 短い説明だったが、聞いて納得したというように頷いているジョゼット。そして、酒場の隅の席でちょこんと座っている聖女様と僧侶の女性。そして、どうするべきか対応を迷っているのかウロウロソワソワして立っている戦士たちも居る。

「あんたは何で街の中に居たの? ドリィが、なんか街の奴らの味方をしてたみたいだけど」
「あぁ、それは私達が、ここの人らに雇われたからだよ。あんたがセイジョサマに雇われたって言ってたのと同じ様に」

 逆に街に居た女性たちの事情を問いかけたアディに、理由を答えてくれたジョゼット。彼女たちも何らかの依頼で雇われていたらしい。でも、街の中に滞在しているという事は、街の外からくる敵に備えているという事なのか。

「へー、敵は魔物?」
「いいや、人間だよ。ココの人たちは、昨日から王国に対して反乱を起こしているからね。その戦力として雇われた」

 は? え? 反乱を起こしている? ジョゼットの言葉を傍らで聞いていた僕は、その言葉に混乱を起こした。

 

 

第11話 彼女たちの合流

 アディとドリィ二人の女性に抱えられるようにして、手を引かれて街の中に入っていく。高身長の二人に背の低い僕はまるで幼い子供のようだと、自分どんな風に見られているか想像して恥ずかしくなった。でも、気にしないようにする。

 街の中は、なんだかとっても寂れているようだった。そう感じたのは街の通りに居る人たちの活気が無い、というのが原因だろうか。人通りも少ないようだし。

 王国の中では大きめの街だと聞いてたから、住人はもっと多いだろうと想像していたけれど、実際に目にした感じではそう思えないような賑わいを失った雰囲気だった。

 でも街の交差路や建物の影などに目を向けてみると、あちらこちらに市民たちが集まって何事か叫んだり、歌を歌っていたり、泣きわめいたりしている奇妙な集団が居るのを目にする。

 酒場に向かう道中では、そんなおかしな光景を何度も目にしていた。これは一体何事だろうかと考えてみるが見当がつかず、この街はどうしてこうなっているのか謎は深まるばかり。

 そして、ドリィが先導して進んでいった先には酒場があった。店外に居る僕にも聞こえてきた、女性の叫ぶような大声や笑い声、騒いでいる声が耳に入ってくる。

 酒場の中へと入ると、そこには4人の女性達が居た。そして何故か、彼女達の周りには放り捨てられたように倒れて山となっている男性達が死屍累々としている。

「アディじゃないか!」

 赤髪のショートヘアで活発的な見た目、そして何故か上半身を裸に露出した女性が居た。って、なぜ!? 何も身に着けていない大きな胸を目にした瞬間、慌てて目を逸らす。思わず飛び込んできた光景。乳首が。

「何処に行ってたんだよ、アディ!」

 白っぽい金髪のセミショート、そして背の小さいのが特徴的な女性。その彼女は、嬉しそうな声を上げてお酒の入ったジョッキを片手に持ったまま、椅子から飛び降りた。

 彼女もアディの仲間なのだろう。アディの仲間達の中では一番に背が低いだろうと思われる女性。と言っても、僕と同じぐらいな背の小ささに見える彼女が嬉しそうな表情を浮かべてアディに近寄ってくる。

「Zzz……」

 テーブルに突っ伏して眠っている、白髪の女性も居る。起きる気配が無く、熟睡しているようだが彼女もアディの仲間だろう。

「さぁ、飲め」

 両手になみなみと酒の注がれたジョッキを持って、片方をアディに突き出してきた腰まで伸びる長い黒髪の女性。

 酒場に居た女性達にアディとドリィ。その場に集まった女性達は、多種多様な容姿と性格だったが、皆が共通して美人であり肌の露出度が異様に高かった。そして惜しげもなく晒された、女性としては異常なぐらいに鍛えられた肉体を持っている。

 誰もが個性的であり、目にした瞬間にアディの仲間なのだろうと納得させられるメンバー達だった。

 アディは長髪の女性から差し出されたジョッキをを受け取ると、何の躊躇もなく飲み始めた。僕はアディの腕の中に掴まれたまま、集まってきた彼女達の輪に混ぜ込まれた。頭がくらくらっとするのは、お酒のニオイのせいなのか、それとも集まって輪になった女性達から漂ってきたニオイのせいなのか。

 というか……。

「服を着て下さい。胸が見えてますよっ」

 ちょうど目の前の高さに見える、柔らかそうでふっくらとした双丘。普通に半裸で僕の視線なんて気にせず立っている女性に、耐えられず口に出して注意してしまう。

「コレは何だ?」

 だが返ってきた反応は、疑わしげな表情とアディに向けた質問。先程のドリィに向けられたのと同じ様なリアクションだった。

「ふっふっふっ、実はこの子、凄いスキルの持ち主なんだ」

 アディが勿体ぶってから、僕の魔物寄せというスキルについて説明した。自然とスキルを持っている人物に向かって、花に吸い寄せられる蝶のように魔物が集まってくるという効果を。

 そのスキルの説明を聞いた酒場に居た女性たちが皆、話を聞いている内にドンドンと目をキラキラとさせて期待している様子だった。

 というか、僕の持つスキルについて説明しているアディが自慢げだったのは何故だろう。……でもよく考えると、僕は彼女の所有物らしいから僕のスキルは彼女の持ち物でもあるのか。じゃあ問題はないのか。現実逃避のように、どうでもいい事に頭を悩ませる。

「そんなスキルがあるのか?」
「それが有れば、わざわざ遠出しなくても向こうから魔物が寄ってくるのか。それは、良いな!」
「めでたい、飲もう」
「Zzz……」

 予想通り全員が、魔物寄せと言うスキルを便利なモノだと喜んでいるようだった。というか、まだ寝たまま起きてこない女性。半裸の女性も胸を出したまま、服を着ようとしないし。隙を見つけては、お酒を飲み続けようとする長髪の女性も居るし。

 本当にトンデモナイ面子で、今までの人生で見たこともない人達だった。飛び抜け過ぎていて、笑いすらこみ上げてくる。

 アディ1人だけでも振り回されていっぱいいっぱいだったのに、これが彼女の仲間たちなのかと個性の強い人達の集まりを見て、この後一体どうなるのかと怖くなる。

 

 

第10話 アディの仲間

 突然起こった嵐のような戦いは、始まった時と同じ様に突然ピタッと止んだ。というのも、現れた長身で褐色肌のその女性はアディの知り合いだったらしい。

「ドリィ、何処行ってたんだ探したんだぞ!」
「は? いやいや、何処かに行ってたのはアンタの方じゃないか!」

 大剣とロングソードという武器を下ろして戦いを止めたと思ったら、二人は次に口論を始めた。やはり、乱入してきた相手は知り合いらしくアディは、彼女の名前らしいものを呼んで責めている。

 という事はあの人が、アディが森の中で見つけようと必死に探し回って、求めていた人物なのかもしれない。

「なにぃ! あたしが悪いってのか?」
「悪いというのならそうでしょうよ。あっちに魔物が居るって勘が告げている、なんて言って勝手に飛び出していって!」

 今度は掴み合いで、激しくもめ始めた。周りの武装市民も呆然とした様子で二人の動向を見守っている。というか、あのドリィと呼ばれた女性は街の中からやって来たように見えた。という事は武装している市民側の人のようだけれど、どんな関係なのだろうか。

「でも魔物はめちゃくちゃ居たよ。森の中で半日以上は戦いっぱなし」
「え、本当に? うわっ、それなら一緒に行けば良かった。いいなー……いいなぁー!」

 アディは、魔物と遭遇して戦ったという自慢をしている。そして戦えなかったことに、とても悔しがっている様子の女性。魔物と戦えたと言うアディを羨ましがっているらしい。やはり、彼女も戦闘狂のようだった。

「しかも、良い拾い物をしたしね。ほら」
「うわっ」

 急接近してきたアディに僕は、逃げる隙もなく捕まった。そして、ドリィと言う名らしい女性の目の前に突き出される。だが、刺さるような視線と不審げという表情を向けられる。

「なにこれ?」
「魔物を引き寄せる、ってスキル持ってるんだって」

 上から下まで舐めるようにジロジロとみられた。というか、身長が高い彼女に僕は思い切り見下されている。

 その女性を近くで見ると、太陽の光を白く反射させる綺麗な褐色肌が目に飛び込んでくる。そして彼女もアディと同じ様に、半裸に近いような露出度の高い恰好をしていた。筋肉も程よく付いていて、見た目だけで力強いという印象を抱く。

「本当なの? そんなスキル聞いたこと無いんだけど」
「ホントホント」

 半信半疑の目で、褐色肌の女性にジロリと見定められる。というか、彼女たちは魔物寄せのスキルを有り難いものとして扱っているようだった。

 僕にとってはコレのせいで監禁生活を送ることになったからか、必要ないスキルだと思っている。むしろ所持していると、有害であると思うようなスキルだったのに。

「まぁ、その話が本当なら良い拾い物だね。私も期待してみよう」
「ホント。期待してたら良いよ」

 俺はアディに後ろから抱きしめられるバックハグで、逃げ場を無くしている状態。戦闘後に抱きしめられているから感じるのだろうか、ほのかに香る汗っぽい匂い。だが不快感はない、何となく惹かれるような良い匂いに感じる。

 そして目の前には褐色の肌。長身の女性達にサンドイッチのように間に挟まれて、頭上で交わされる会話。というか恥ずかしい。

「あぁ、こいつはドリエンヌ。ドリィって呼んであげて」
「よろしくー」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 僕が身動きがとれないからと、見上げるようにして二人を眺めていると、アディが気を利かせてくれたのか、彼女の名前を教えてくれた。そしてドリィという名の彼女は、気のない適当な返事。だが、睨まれるよりかは良いだろう。

「他の皆は?」
「街の中にいるよ。酒でも飲んでるんじゃない?」

 そう言えば、アディは一体何人の仲間を探していたのだろうか。探している人物は、全員がこの街に居るのだろうか。というか、昼間からお酒を飲んでいるの? 様々な疑問が生じたけれど僕は特に何も聞かずに会話にも入り込まず、二人をただただ眺めている。

「あ、久しぶりにお酒が飲みたーい!」
「じゃあ皆の所に行こう。飲みに行こう!」

 話しているのは目を見張るような美人二人なのに、内容とテンションは酔っ払いのおじさんのようにしか聞こえない会話。というか、自然な流れで何事もなかったかのように街の中に入っていく僕たち。

 街に入ろうとしている僕たちを武装市民は、恐れおののいて道を開けるから簡単に進めるようになった。というか先程の二人の戦いを見ていたのなら、安易に近づけず侵入を止める事は出来ないだろうけれど。

 アディとドリィ、僕たちが進む後ろに聖女様や僧侶達も馬車を操縦して付いてくる。そしてそのまま、街の中に入っていく。聖女様達をアディの仲間だと認識されているのか、襲ってくる武装市民は皆無だった。

 なんだかんだあったが、そんな風にして無事に街の中へと入ることが出来た。でも事情も良く分からず、そのまま街の中に入ってよかったのだろうか?