第07話 罠

 ダンジョンを奥へと進んでいく。ダンジョン内探索は僕の魔法を使って、モンスターの位置、冒険者の位置をおおよそ特定して、なるべく人の集まっていない場所や通っていない場所を見つけては探索を進めていた。

 以外と人の目につかない場所が多いのか、人が来ない穴場をいくつか見つけてはモンスターを狩っていったのでかなり効率よく進めることが出来た。途中でダンジョン宝箱を1つ発見できたので、これだけで非常に儲けることが出来るだろう。

「いやぁ、エリオットの魔法のおかげでかなりモンスターを狩れたな!」
「本当にそうね。普段ならこんなに効率よくダンジョン探索を進められないわ」
 2人が僕を褒めてくれている。僕を意識しているようで若干大げさではあるが嬉しいと思う。しかし、自分ではそんなに大したことをしていないという感じだ。
やったことといえば魔法で遠距離から狩場を探ったことと、モンスターを見つけては牽制で魔法を放ったことぐらい。牽制用に放っている魔法は魔力を全く消費しないし、ダンジョンを進んでいる途中で回復もしていくので、このペースなら何日でもモンスター狩りを続けられると思う。そもそも、出てくるモンスターが弱すぎて話にならない。確かに今のモンスターなら無難に怪我もなく倒していけるかもしれないが、もう少しランクを上げれば更に稼ぐことが出来るはず。
なので、もう少し難易度の高そうな場所を探して進んでみたいという気持ちが湧いてきた。

「もうちょっと先に進んでみませんか?」
 下へ続く階段を見つけて、今の階層から更に先に進もうおという僕の提案に渋い顔をする2人。
「う~ん、私は行ってみたいけれど行ったことがない場所だからなぁ」
 フレデリカさんは興味津々だが、未知の階層に恐怖心もちょっぴり有るみたいだ。
「私たちはいつもこの階層までを拠点にして狩ってたから、この先の事は知らない」
 ダンジョンに潜ってから約2時間をかけて到着した場所。姉妹冒険者は、普段はこの辺りで狩りをしているというが、僕にとってここに居るモンスターは歯ごたえがなく感じる。ソレに、僕から見た姉妹の力量にも余裕を感じているので、少し先に挑戦しても大丈夫だとは思う。
ただ、この先の事を2人は知らないということは今まで知識ある状態ではなく事前情報無しで攻略を進めることになる。普通なら事前準備をしっかりして装備と食料、ダンジョン探索の道具各種を用意する必要があるだろう。
 といっても、僕は今までソロで活動している時はそこまでガッチリと準備したことはない。なぜなら、魔法があるので武器や防具などの準備は必要なく万全で、ダンジョン探索の道具や食料は常に魔法を使った収納空間、魔空間に各種取り揃えているのでわざわざ準備が必要なかったりする。

 2人はコチラを見つめて、僕の考えている姿を見ている。どうやら僕の判断を待っているようで、先ほどのセリフから2人は行きたくないとは言っていない。もし行くのなら挑戦してみようという気持ちを感じた。

「それじゃあ、もう少し先に進んでみましょうか」
 僕の判断に頷く2人の女性冒険者。早速、階段を降りて次の階層へと足を踏み入れる。

 次の階層も問題なくモンスターを狩っていけたので、次を最後にと言って更に下へと潜っていった。ソレが間違いだったのだろう……。

「え?」
 フレデリカさんの戸惑いの声が聞こえた瞬間、僕は彼女に駆け寄っていった。しまった、気を抜きすぎてしまった。罠という存在を軽視していた。罠感知の魔法を常に使っていたので、問題無いだろうと思っていたら非常に強く隠された罠をフレデリカさんが発動させてしまっていた。
 罠を止めようと魔法を詠唱し始めた瞬間に突然の浮遊感。足は地面から浮かび上がって、だけど内臓がグッと持ち上がり落下しているように感じる。遅かった!?

 これは……魔法陣!?

 焦りながらも瞬時に魔法陣に目をやるが、魔法陣に書かれた文字を読み切る前に視界が真っ暗に暗転。文字の内容から別の場所へ飛ばされたというのは理解したが、どこへ飛ばすのか転送先についてが読み取れなかった。どうやら、僕たちが今居る場所はダンジョンとはまったく別の場所へと飛ばされてしまったらしい。

 視界が戻り、浮遊感が無くなり、再び地面に足がつくと周囲を見回しながら警戒する。一体どこに飛ばされたのか。

「2人とも大丈夫?」
 ドアが正面に一つ、その他は鉄の様なグレーの色したレンガにしか見えない。この部屋の中にはモンスターは潜んでいないようだ。飛んだ先はモンスターが待ち構えているという最悪な状態は一先ず回避。僕は周りの観察を続けながらも、2人に声をかけた。

「私は大丈夫! シモーネ大丈夫か?」
「えぇ、私も大丈夫。腕も足も無事で怪我もなさそう。エリオットさんも大丈夫?」

 僕は2人に大丈夫であることを伝えて考えを進めた。フレデリカさんが魔法陣を発動させて、魔法陣は僕達を一緒にこの場所へと突然連れて来た。罠の種類が、パーティー全員に効果があるものでよかった。フレデリカさん1人だけが罠の効果にかかったり、女性だけという条件でなくてよかった。
痛恨なのは、どの場所へ飛ばされたのか分からない事。魔法陣の文を読み解く前に飛ばされたので、飛ばされた場所の先が検討もつかない。だけど、魔法陣に書かれた文字の内容からそれほど遠くの場所には無いだろうと思う。……いや、そう思いたい。
自分1人だけなら、時間をかけてじっくり探索でもするので焦ることも無いが、今2人の女性が同行している。コレは不味い。

「フレデリカさん、シモーネさん。すみませんでした、もう少し慎重に進むべきでした」
「え! エリオットのせいじゃないよ! 私が不注意で罠に引っかかったから、私が全部悪いんだ! 本当にエリオットのせいじゃないよ」
 フレデリカさんが気を使ってくれている。
「姉さんの言うとおり、エリオットのせいじゃないよ。ソレにまずは、これからどうするか考えよう」
 シモーネさんの言うとおりだった。パーティーが居る状態で、不慮の事態が起きたことにかなり動揺してしまっている。動揺したままでは正しい判断が出来ない、これじゃあダメだと自分を叱責する。
その時、何かの声が部屋に響き渡った。

「今の声は……!」
「不味いかもしれないわ……」

 僕も聞いたことのある声だった。僕の記憶が正しければ、今の聞こえた鳴き声はドラゴンの物だった。

 

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第06話 ダンジョンモンスター

 階段を降りると薄暗くひんやりとした空気を肌に感じる空間へと出る。ダンジョンはいつ来ても温度がほとんど一定で、暑くなったり寒くなったりする変化がなく防寒装備などの準備が必要なくて体温調整は楽だが、このひんやりとした空気が僕は少し苦手だった。

 ダンジョン内は薄暗くて視界が悪いが、完全な真っ暗闇ではなく天井部分が発光していて松明が必要なほど暗くはない。なぜ発光しているかは未だに解明されていないが、松明や光の魔法で照らす必要が無く、光源の確保をしなくていいのはありがたい。

 このように、このダンジョンは装備が一定でランタンや松明などの光源が必要ないなど初心者には優しい設計になっているので、冒険者のダンジョン入門によく使われる。

 階段を降りた先は早速三方向に道が分かれているので、進む道を選択しなければならない。
「どの道を行きますか?」
「うーん、エリオットの好きな道で良いんじゃないか? リーダーは君がやればいいと思うよ」
「私も姉の命令を聞くぐらいならエリオットくんが言ってくれる方が良い」

 2人の意見により、パーティーのリーダーは僕になった。いつもソロで攻略していたので、今までパーティを組んだ経験が2,3回ぐらいと少ない。しかも、パーティーリーダーの経験は皆無なので断ろうと思ったが、2人の真剣な眼差しを見てしまい頷いてしまった。まぁ、再び冒険者となった僕は、いつかは経験するかもしれない将来に向けて経験しておくのも悪く無いと自分を説得して、リーダーを引き受けることにした。
 2人が尚も見続けてくるので、僕はすぐ進路を決定することに。

「あー、えっとじゃあ右に行こうか」
 人間の気配を読む探索魔法を使って三方向の道を探ると、左方向の道と真っ直ぐの道の先には何人かの人間が居るのがわかった。しかし、右方向は誰も居ないようで他の冒険者達に出会わないように右を選んだ。
2人は特に文句も無く選んだ道を進んでくれたので僕は安心して右の道を進んでいった。

 フレデリカさんが大剣を持って警戒しつつ一番前を慎重に進む。そして僕の後ろにはシモーネさんが弓で警戒し、今通ってきた後ろの道も警戒してくれている。僕は2人の間に挟まれて探索魔法を使いモンスターが居ないか警戒しながら道を進む。結構いいバランスの取れたパーティーで、即席にしては息も合った動きを出来ていた。

 出入り口からしばらくはモンスターがあまり発生しないので、奥へとずんずんと進んでいく。

 すると、前方に何かの反応を感じる。人間ではない何か。多分モンスターだろうと考え2人に警告をする。

「前に何かいます。モンスターか確認してから攻撃に移って下さい」
 僕の言葉に女性二人がうなずいてくれたのを確認してから、早足だったパーティーの進攻をゆっくりと慎重に進むように変える。

 じっくり足を進めていると、前方から何かが駆けてくる音が聞こえる。音の感じから、犬の様な走り方で4本の足を駆使して走っていることが分かる。

「見えた! 注意して、私が先に!」
 フレデリカさんが剣を握り直して、剣を立てて構える。中腰になって、いつでも振り下ろせるようになってからフレデリカさんは前方を注意深く観察している。
 僕は援護のために火を使った魔法を詠唱して溜める。

 5mぐらい先の薄暗闇に走ってくるモンスターが見える。どうやら、最初の敵はアーリーウルフと呼ばれる、白い体毛に覆われたオオカミのようなモンスターみたいだ。アーリーウルフは一匹だけ飛び出してきたのか、他のアーリーウルフは見当たらない。

「魔法で援護します! 続いて下さい」
 モンスターが一匹だけなのを確認した僕はフレデリカさんに声をかけて、後ろから魔法を彼女に当てないようにしつつ走ってきたアーリーウルフの目や口に向かって魔法を放つ。その魔法は矢のように細長くなって、まっすぐアーリーウルフの眉間に命中した。魔法を受けたアーリーウルフはそのまま絶命。ダンジョン内ではモンスターの死体は残らない。なぜならば、ダンジョン内で倒したモンスターは原理は分からないが、死んだ瞬間にキラキラと光る粒子に変わって分解される。

「は?」
 思わずといった戸惑った僕の声。フレデリカさんの援護のつもりで放った魔法は、アーリーウルフに当たり一撃で仕留めてしまった。僕の放った魔法は援護のつもりだったので、威力は少なく絶命させるほどの物ではないと考えていたが、当たった所が良かったのだろう、簡単に仕留められた。

「うわ、凄い! アーリーウルフを一撃で倒せるなんて、とんでもない魔法使いだったんだな」
 フレデリカさんはすごく驚いて僕を評価してくれている。

「私も驚いたよ。今までパーティーを組んだ中では一番実力を持った魔法使いだな。正直頼りにはしていなかったが、考えを改めなければならない」
 シモーネさんは魔法使いにネガティブな評価を持っていたようだが、再評価してもらえるようだった。しかし……。

「昔入ったダンジョンのモンスターに比べて、すごく弱く感じたなぁ」
「弱かったか?」
 僕のつぶやきを聞いたシモーネさんが訪ねてくる。

「はい、今使った魔法は牽制用にと思って使ったんですが、まさか一撃で倒せるとは思いませんでした」
「なら、もっと先に行っても大丈夫そうだな!」
 フレデリカさんは、もっと奥へ行くつもりなのか先頭を切って進む。僕とシモーネさんもフレデリカさんの後を遅れないようについていく。

 魔法の効果について少し疑問に思いながらも僕たちはダンジョン探索を始めたのだった。

 

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第05話 ダンジョン入場

 ダンジョンへ探索に関しての相談を終えて、広場からダンジョン入口前へとやって来た僕たち3人。

 ダンジョン入り口の外壁は赤いレンガで覆われていて遠目からでも非常に目立つ。そして大きく開いた出入り口はまっすぐ奥へと続いていて、僕の昔の記憶によれば、100mぐらいまっすぐ進んだ所に下へと降りる階段が有ったはず。そこまでは一本道でモンスターも沸かない地点で、進んだ先にある階段から降りた先、そこから道が分かれていてダンジョン探索が始まる。
 ここにあるダンジョンの歴史は古くて、王国が建国された時には既にあった物らしいので少なくとも数百年は存在が確認されている。だけど、ダンジョンは何年かに一度は内部の構造が何故か変わってしまい、しかもここのダンジョンは内部が広く深くて、潜った先のモンスターも強力なために、このダンジョンを全攻略した者はまだ居ないと言われている。

 ダンジョンの出入り口には2人の王国兵士たちが左右に1人ずつ立っていて警備を続けている。プレートアーマーを身に着けていて、剣を腰にさしている。そして出入り口から少し離れた場所に木造で出来た小屋がある。兵士の交代要員があそこで休んでいるんだろう。
彼女たち兵士は、冒険者達のダンジョン入出管理、一般人や許可のない冒険者が立ち入らないように見張ること、そしてダンジョン内部からモンスターが出てきた場合は王都へ進ませないようにする警備等など、いくつかの仕事をもっている。

「こんにちは」
 ダンジョンの入場許可証を取り出してから、兵士の2人に近づいて声をかける。すると右に立つ女性兵士が鎧でくぐもった声で返事を返してくれた。
「こんにちは、ダンジョンかい?」
「そうです。コレをお願いします」
 すかさず手に持っていた入場証を彼女に渡して確認してもらう。

 入場許可証をチェックする兵士はすぐに顔を上げた。
「君は男性なのか、済まない気づかなかった」
「いえ、このローブに魔法がかかってまして。多分初見なら男性だって見破れないようになっているんですよ」
 このローブはエルフの村から出るときに託されたものを僕が少し魔法的に加工したもの。このローブを身に付ければ存在感を薄くできるので、副次的効果で男性であるこがバレにくくなるのである。
 このローブのおかげで、街を歩くのは問題がなくなった。男性が1人で買い物に出かけたら大変なことになる。例えばナンパ。時々、声をかけてくる女性が居るので大変。また、誘拐もかなり気をつけなければならない。男性というだけで、大金を出す人間がいるので、良い金稼ぎに利用されることもある。そんな事に巻き込まれないように念の為に魔法のローブを作った。
 入場許可証を確認し終えた兵士は、左に立っている兵士にも確認するよう言って渡す。ダブルチェックで間違いないようにする為だろう。

「どのくらい潜るつもりだ?」
 左の兵士が入場許可証をチェックしている間に会話するようだ。僕ばかり喋っているようだが、兵士の彼女は明らかに僕に向かって言っているようなので僕が返す。
「今日は1日だけ、夜になれば帰ってくるつもりです」
 先ほど相談した内容を兵士に伝える。

「ふむ、そうか。くれぐれもモンスターには気をつけてな。最近はモンスターが活発化しているようで、ここ2,3日の間にダンジョンに潜った冒険者が何人か死んだと聞いている。どうやら君は男性のようだから、何度も言うようだが気をつけるように。後ろの2人は彼に怪我がないように死ぬ気で守れ」
 兵士は後ろに立っていたクロッコ姉妹の2人にも言い含める。忠告を素直に聞き入れて注意するように気を引き締める僕。どうやらモンスターが活発化しているとのこと。だけど、逆に好都合でもあると考える。なぜなら、弱いモンスターよりも強いモンスターのほうが明らかに落とすアイテムのランクは高いから。

「チェック完了、問題有りません、どうぞ」
 左に居た兵士が入場証を確認し、右の兵士に返す。ソレを僕が受け取ってやっとダンジョンへ入ることが出来た。

 素早くダンジョン出入り口から階段目指して歩き出す。
「兵士とはお知り合いじゃなかったんですか?」
 先ほどクロッコ姉妹に何度かここのダンジョンに潜っているという話を聞いていたので、ダンジョン出入り口の兵士とは知っている仲だと思ったのだが、出入り口では一言も話さなかったので、気になった。
「いいや、なんだかあいつ嫉妬してるみたいだったから何も言わなかったんだよ」
「嫉妬?」
 どういうことだろうか? 疑問に思っていると、妹のシモーネさんが答えてくれた。

「私達ってほとんど男性と交流はなかったし、出入り口を守っていた彼女も同じ。だけど今日は私たちの方には男性が一緒に居た。逆の立場だったらイラッとすると思うわ」
 コレから向かう先はダンジョン探索だったので、僕にはそんな意識はまったく無かった。一緒にモンスターを狩るだけなのに、男性と一緒というのが恨まやしいと思うのだろうか。あまりピントはこないままに、下へと向かう階段へ到着。

「じゃあ張り切って行こう!」
 剣を背中から抜いて戦闘態勢に入るフレデリカさん。彼女に続いて、シモーネさんも弓を取り出し、僕も久しぶりの戦闘用の杖を魔力で作った異次元空間、魔空間から取り出す。
 3人が互いに武器を準備完了したのを見届けてから、階段を降りた。

 

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第04話 自己紹介

 冒険者ギルドを出た僕たち3人はすぐにダンジョンへは向かわず、お互いの素性を知るためにダンジョンへ向かう途中の位置にある広場で話し合うことになった。広場には屋台を出して商売している店があったり女性が何人かで話しあったりしているが、閑散としているので話し合いにちょうど良かった。

 僕達は隅のほうの目立たない場所で話を始めた。

「さっきは姉さんがいきなり声をかけて、ごめんなさいね」
 無表情だった彼女が少し申し訳無さそうな顔をして謝ってくるが、そんな気にしてはいなかった。
「え! 迷惑だった?」
「いえ、気にしてませんよ。ダンジョンに入れるようになったんで、助かりました」
 フレデリカさんは驚くが、本当に気にしていなかったので否定する。

「ほら! 大丈夫だって」
「彼が親切で優しいからよ。普通は女性が男性に声をかけたらビックリして警戒されるわ。それにこの前だって、いきなり声をかけて無視されてた事があったじゃない」
「い、いやあれはさぁ、私のほうが馴れ馴れしくしすぎたから……って今はそんなことよりも、彼に自己紹介!」
 再び女性達2人で話し合いが始まろうとしたところをフレデリカさんが気づいて強制的にぶっ千切って、コチラに意識を向けてくれた。

「私は、フレデリカ・クロッコ。人族の27歳。で、こいつが私の妹。2人で冒険者をやってるんだ」
 横の女性は本当に妹だったらしい。親指で隣を示すフレデリカさん。
「シモーネ・クロッコ。不本意ながら彼女が姉で、私が妹をしているわ」

 先に自己紹介をしてくれた2人に続いて、次は僕の順番かとフードを取ろうとすると止められた。
「あぁ、フードは取らなくて良いよ! いくら人が少ないからって、こんな場所で顔を晒したら大騒ぎに成るよ」
 確かに今までの人生の中で素顔だったときに有った色々なトラブルを思い返してみると、この場所でいきなり顔をだすのは危険かもしれない。フレデリカさんの助言を聞いて今まで通りフードを被ったままにする。

「僕はソートソンの森のエルフで、エリオットって言います」
「あー、やっぱりエルフだったんだ!」
 冒険者ギルドの受付でフードを取った時に顔と耳をチラと見たらしく、エルフと知っていたと語るエリオットさん。
 
「それで、何故ダンジョンに?」
 言葉短く聞いてくるシモーネさん。僕は金稼ぎをするためという理由を正直に言うかどうか迷ったが、コレからダンジョンに潜る仲間となる彼女たちになるべく嘘はつきたくないと思って正直に話すことにした。

「実は、故郷に帰るための資金を稼ごうと思いまして」
「え? お金稼ぎ?」
 無表情だったシモーネさんが少し驚いた顔をする。やはりエルフが金稼ぎなんて俗っぽかっただろうか。
「あ、えっと。驚いてしまってゴメンナサイ。お金稼ぎということは宝箱狙い?」
「? モンスターを狩ってドロップ品を狙うつもりでしたけど……」
 ダンジョンにある宝箱は見つければ大金を手に入れられるだろうけれど、見つけられる確率が非常に低い。今回はエルフの村へ帰るための旅費だけ稼げればいいので、一日ダンジョン内でモンスターを狩っていれば旅の資金は十分手に入れられるだろう。だから今回はモンスター狙いだ。

「あのよ、馬鹿にするわけじゃないんだけど、男であるあんたがモンスターをどうやって倒すつもりだったんだ?」
 彼女たちは不可解な表情で僕を見ているので、何のことだろうと思ったがフレデリカさんの言葉を聞いて、そういう事かと思い至る。この世界の男性の殆どは筋力が弱くて頭もあんまり良くないというのが通説だ。だけど僕には魔法があった。
「僕、魔法が使えるんですよ」
「へ?」「え?」

 びっくりしている彼女たちにの目の前に手を出して、手のひらを空に向けて指を開く。呪文を唱えて手のひらの中空に火を出現させる。火は周囲に影響が出ないようにこぶし大の大きさで、出力を抑えて出している。
「本当に魔法が使える!? 凄い……」
「私、魔法が使える男の人に出会ったのは初めてだわ」
 フレデリカさんが本当にびっくりした様子で、シモーネさんはしみじみと言う。彼女たちがびっくりするのも当然のことだろうと思う。なぜなら、男の魔法使いは本当に少なくて一国に一人居るかいないかと言われるぐらいに少ない。
すると、シモーネさんが一言。

「ダンジョンに入るより、魔法を使ってお金を稼ぐ仕事のほうが安全だと思うけど?」
「そうだ! 男の魔法使いなんて珍しいんだから、その力を使う仕事を見つけたほうが安全に稼げるぞ?」
 シモーネさんのアイデアにフレデリカさんが助言を加えてくれる。だけど僕は思いつきで久しぶりにダンジョンへ行ってみたいと頭に浮かび、ついでに金稼ぎでもしようと考えていたので絶対にお金がほしいというわけでもない。その辺りを説明しようと言葉を出そうとするとフレデリカさんが遮る。

「そういえばこの国にも有名な魔法研究所が有るだろ? そこに言ったら雇ってくれるんじゃないか?」
 名案だとばかりに顔を輝かせて僕を見る。だけど駄目だ。

「えっと、実は僕そこで働いてたんです。でも、今日クビになっちゃって」
「え? あ、ご、ごめん」
 気にしていない風に言ったつもりが、かなり深刻に受け止められてしまった。

「いえ、大丈夫ですよ。魔法研究所でやりたい事は全部やれたんですけど、仕事をダラダラと続けていたんで向こうから辞めるように言われたのは丁度良かったんですよ」
「魔法研究所に居たって本当? 私、あそこに男性の方が居たなんて聞いたことがないんだけれど」
 どうやら、僕が在籍していた事は外にはあまり伝わっていないみたいだった。
「多分ですけど、僕が雇われたのはずいぶんと前で最近は研究所にずっと引き篭もってたんで、表に出てくることも無かったから僕のことを知らない人が多いんだと思います」
 原因を考えていってみたが、シモーネさんはまだ納得のいかない感じだった。

「でも貴重な男の魔法使いを辞めさせるなんて信じられない。もしかしたら、上の人に掛け合ったらクビは取りやめてもらえるかも」
「それも考えたんですけど、やっぱり研究所でやりたい事は全部出来たんで今辞めるのは丁度良かったんですよ」
 色々考えてくれているシモーネさんにはありがたく感じるが、自分の考えはあくまで変えない。
「そう? 貴方が良いならいいの。私達は貴方のダンジョン攻略を全力で手伝わせてもらうわ」
「そうだぜ! 力いっぱい手伝ってやるから旅の資金は安心しな」

 互いのことを知ったので次は、ダンジョン内でのコンビネーションを確認するために使用する武器について話し合った。

「私はコレだ!」
 フレデリカさんは後ろに背負っていた大剣を片手で担ぎ上げると、そのまま天に向かって掲げる。大剣は僕の身長と同じぐらいの長さが有る。そんな長さの剣を片手で持ちあげるなんて、凄い力があるのだろう。
「どうだ? カッコイイだろう!」
 めちゃくちゃカッコ良かった。前世の頃から大剣を振るう戦士キャラが好きだったので、叶うならば僕も同じように大剣を振り回したいと思っていた時期もあったが、全然筋力が足りないので剣を満足に持ち上げることすら出来なかった。そして結局は適正があった魔法使いになった。魔法も結構好きなのでこっちの道に来て良かったと思っているが、やはり大剣を掲げる彼女がとてもかっこ良く見えた。

「私は弓」
 次にシモーネさんは右手に弓を左手に矢筒を持って見せてくれる。矢筒は無属性の魔法矢を生成してくれるものみたいで、ダンジョン内でも弾切れの心配はないだろう。
「後はコレも」
 シモーネさんが弓と矢筒を肩に戻してから、腰にレイピアのような細身の剣を指さして見せてくれる。どうやらシモーネさんは剣術も使えるようで、フレデリカさんの豪快さとは逆に技巧的な感じだった。

「僕はさっき伝えたように魔法を使います」
 幾つか使える技を彼女たちに説明して、ダンジョン内での3人の動きについて話し合う。結果的に、フレデリカさんが大剣で前衛、僕が魔法で後衛から支援。そしてシモーネさんが弓を使いつつ状況を見て前衛にも出るという事になった。

 話し合いが終わり事前準備も出来たので、遂に僕たちはダンジョンへと向かうことにした。

 

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第03話 姉妹冒険者

 後ろから聞こえたに向かって振り向くと、そこには2人の女性が立っていた。

 1人は真っ赤な太陽を思わせるような輝く笑顔をした女性。僕よりも少し背が高く、目線の先にはちょうど彼女の非常に大きな胸が飛び込んでくる。身にまとう服装も露出が多く、日に焼けている小麦色の肌がとても健康的に見えた。
もう一人の女性は、先ほどの女性とは対照的に青く静かな月を思わせるような無表情をしている。しかし、先ほどの女性と同様に結構な露出していて、肌は色白で控えめな性格そしていそうな雰囲気なのに非常に色っぽい格好をしている。
 2人の女性の顔立ちがなんとなく似ているように見えるので、もしかしたら姉妹なのかもしれないと思った。

 目線を上げると、明るい笑顔をしている彼女と目線が合った。そして、その彼女はもう一度同じように言った。
「良かったら一緒にダンジョンに潜らない?」
「えっと? 僕とですか」
 急な彼女の言葉に思わずそれだけしか返せなかったが、どうやら先程の受付の女性との会話を聞いていたようだ。

「さっき聞こえてきたんだけど、ダンジョンに入りたいんだろ?」
 えーっと、と言葉にならない声が漏れる。ダンジョンの入場許可が出ないという受付の言葉を聞いて、今回のダンジョン探索は諦めて故郷にでも向かおうと決心した瞬間に言われたので迷う。一旦はダンジョンを諦めたが、彼女たちの誘いを断るのも悪いし……。
どうしようかと一瞬の間に悩んでいると、彼女がアワアワと慌てだした。

「あ! いや、ナンパとかじゃないよ!全然、貴方が困ってるみたいだったから、善意で助けたいって思って。善意だから別にやましい気持ちとか無いよ!」
「姉さん、落ち着いて」
 僕が怪しんでいると思ったのか動揺しだして弁解を重ねる。慌てる女性を、側に立っていた無口で無表情の女性がなだめる。彼女が姉さんと呼ぶのを聞いて、やはり姉妹だったかと思いながらも慌てる女性となだめる女性を見ていた。
 尚も言い訳を続ける彼女の慌てぶりにびっくりしながら男性に物慣れしていない様を大いに感じ、多少の下心はありそうだが初々しい彼女の仕草に逆に安心できた。

「せっかく誘って頂いたんで、それじゃあ、ダンジョン一緒にお願いします」
「ほんと? じゃあ早速手続きを!」
 僕の了承の言葉。慌てた様子から一転、今度はとても嬉しそうな顔つきで彼女は喜んでいる。しかし、側に立つ女性が再び落ち着くようになだめる。
「姉さん、そんなにがっついたら下品に思われるよ」
「へ? いや、しかしだなぁ……」
 女性2人が話し合いをしている間に、僕は受付の女性に向き直り手続きをする。

「彼女たちとダンジョンに入ることにしたので手続きをよろしくお願いします」
「クロッコ姉妹達が同行してくれるなら大丈夫ですね。わかりました、それじゃコチラの名簿に記入して下さい」
 受付の女性が及第を出すクロッコ姉妹と呼ばれた冒険者たち。もしかしたら有名な冒険者なのかもしれないと思いつつ、受付が机の向こうから取り出し机の上に置かれたノートに日時と名前を書いていく。
 僕が書き終わると後ろで話し合っていた女性も会話を止めて、ノートの同行者の覧に名前を書き込んでいく。

「はい、コレで良いです。じゃあ、コチラをお持ち下さい。ダンジョン入口前の兵士に見せれば入場できます。忘れると入場できませんのでくれぐれも失くさないようにお持ち下さい」
 受付の女性はいいならが、四角形の木の板を渡してくるので受け取る。簡単に観察してみると木の板には幾つかの魔法陣が刻まれていて、色々な魔法、パッと見ただけで分かるのは識別の魔法が掛かっている事がわかる。簡単には偽造出来ないように作られているみたいだ、入場証を見つつ受付の話の続きを聞く。

「ダンジョンから戻ったら一度ギルドに帰還報告をお願いします。報告の際にはダンジョン内で手に入れられた宝物を持ってきて頂くようにお願いします」
 王都の近くのあるダンジョンは王都が所有するものなので、ダンジョン内で拾ったアイテムの3割は王都に渡さなければならない仕組みだったはず。自己申告制だから、手に入れたものよりも少なく報告することもできるが、後からバレると多くの罰金を取られるので正確に報告しないと逆に痛い目を見る、等など過去に冒険者をしていた時の事を思い出しながら聞いていく。

「報告に来ていただくのは、えーっと、エリオット様は男性なので期限がございます。報告は1週間を過ぎないようにお願いします。1週間を過ぎますと捜索隊が組まれてダンジョン内に捜索しに行く可能性がありますので、くれぐれも遅れないようにお願いします」
 コレは知らなかった。男性の保護法が強化された影響だろう。帰還報告は遅れないように気をつけなければ。

「説明は以上ですが、質問はございますか?」
「いえ、今のところ気になる事は無いので大丈夫です」
 説明を聞いて特に疑問に思うことはない、僕の返事に頷く受付。

「同行者はクロッコ姉妹なので大丈夫だとは思いますが、くれぐれも怪我の無いように気をつけて下さい」
「うん、ありがとう」
 受付の女性にお礼を言って、僕は冒険者ギルドで出会った2人の女冒険者達と王都にあるダンジョンへと向かった。

 

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第02話 ギルド受付での話

 受付の女性が倒れたのを見て、僕は顔が見えないようにフードを被り直した。


 前世からコチラの世界に転生してから既に何十年も経っているが、未だにコチラの世界の常識に慣れていない僕は、男という人種がとんでもなく貴重であり、多くの女性達が男性と接触するという経験が少ない、あるいは未経験という状況。先ほどのように突然男性であることを明かす為に顔を晒すと気絶するぐらいに衝撃を与えるかもしれないという事を忘れていた。


 ダンジョンに入れるかどうかの続きを聞くために気絶した女性を起こしたい。しかし近くに寄って声をかければ、男性慣れしていないみたいな彼女はまたすぐに気絶する可能性がある。ただ、このまま倒れたままにしておくのも可哀想なので、彼女が目を覚ます前に椅子に座り直させてから声をかけられる状態に戻すことに。


 受付の間を挟む机を飛び越えて、女性がいる側に着地する。女性がビックリして気絶した時に一緒に倒れたイスを立て直してから、彼女を抱き上げて立て直したイスの上に座り直させる。そしてまた、受付の机を飛び越えて元の位置に戻る。


「大丈夫ですか? 起きて下さい」
 何事もなかったかのような振る舞いで、受付の女性に少し大きめの声を掛けて起きるように促す。


「え? あれ? 私……」
「大丈夫ですか?」
 僕の存在を認識した彼女はまたびっくりして声を上げそうになる。ただフードをかぶっていたおかげか、今度は気絶する様子はない。どうやら顔を見なければ多少は大丈夫そうだと思いながら僕はそっと落ち着く。そして一応念の為に、少しだけ彼女から離れて距離を取る。


「ご、ごめんなさい。エルフの男性の方とお話するのって、その、初めてで……。顔もなんだか、えっと、すごくって……」
「突然気絶したんでびっくりしましたが、僕は大丈夫ですよ。僕の方こそ、突然フードなんか取ってびっくりさせてしまいましたね」
 何とか穏やかに会話を続ける。彼女が緊張しながらたどたどしく話す様を見て、本当に男性慣れしていないようだと感じたが、受付の仕事は全うしてくれるようだった。
 ただ、このまま話しているだけじゃ時間がかかりそうだったので会話の流れを、少々強引に元に戻す。
「それで、ダンジョンの入場許可をお願い出来ますか?」


 受付の女性にそう聞くと、彼女は眉の間にシワを寄せて困ったような顔になった。どうやら、簡単にはダンジョンに入れないようだ。


「えーっと、ひとつお聞きしたいのですが、ダンジョンへはお一人で行かれる予定ですか?」
「えぇ、そう考えていますが」
 魔法研究でしばらく王都暮らしをしていたが、殆どを研究所の建物内で過ごした僕には研究所以外では知り合いが殆ど居なかった。そして今日研究所を突然追い出されてしまい、何も準備出来ぬままココに来たので、一人だ。


「大変申し訳無いのですが、現在は男性の方がお一人だけでダンジョンに入る事は禁止されていて、許可が出せない事になっているのです」
 本当に申し訳無さそうに彼女が告げる。
「え? そうなんですか?」


 詳しく話を聞いてみると、近年では男性人口が更に減少傾向に加速しているために男性を保護する国が定めた法律が変更されていって、その変わった法律の中には男性が一人でダンジョンへ入ることを禁止する事が追加されたらしい。そのため、先ほど彼女が言ったように僕一人ではダンジョンの入場が許可できないという事らしい。


「あの、女性の方をどなたか一緒に行かれるのならば入場許可を出せますが」
「えーっと、どうしょうか」
 今から、知り合いにあたってダンジョン攻略を一緒にしてくれる人を探すのは難しそうだ。そもそものダンジョンへ行く目的は旅のための資金を稼ぐことだったが、故郷へ帰るのならば今の持ち金でも何とかやって行けるだろう。


 そう結論づけた俺は、ダンジョンへの入場を諦めて帰ろうかと考える。久しぶりに懐かしいと懐かしみながらダンジョンへ行こうと思っていたために多少はガッカリしたが、ダンジョン入場は絶対に果たさなければならないことでもないので諦めようか、と決心しかけたその時。

「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らない?」
 受付の女性が座っている方向とは反対側、僕の背後から女性の声が聞こえてきた。

 

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第01話 クビ

「さて、どうしようかな?」
 長年勤めていた王城の魔法研究所をクビにされ、追い出されてしまった僕は城下町を当てもなく歩いていた。頭に被っているフードをかぶり直しながら、今追い出されたお城の有る方角から目線を街へと向けて考える。

 本当に突然だった。勧告もなく研究所を追い出されてしまってビックリしていた。今まで着手していた王都防衛用の魔法に関する研究計画が途中なので、せめてコレを完了してからと交渉してみたが向こうは全く了承しなかったために、結局は出立の準備もロクにできずに持てるものだけを持って追い出されてしまった。
 所持金は殆どゼロに近いぐらいしか持っておらず、もうそのまま一旦故郷へでも帰ろうかと考えていると冒険者ギルドの看板が目に入った。

「うわぁ、懐かしい」
 確か初めてこの王都へとやって来た時に、最初の1ヶ月の間に生活費を稼ぐために冒険者稼業をやっていたのを思い出した。
冒険者としてちょっと有名になった僕は、魔法研究所にスカウトされたのだけれど、魔法について修行する旅の途中だった僕は、ちょうどいいと思ってスカウトを受けて魔法研究所で働くようになった。
 それから結構な時間が経って色々な魔法を身につけることが出来た僕は、既に王都に居る目的を無くしていたので、今回のクビは逆に調度良いとも考えていた。

 冒険者ギルドを見つけた僕は、故郷へ帰る旅費を稼ごうと考えて冒険者稼業を久しぶりに行おうと考えた。

 冒険者ギルドの中へ入ってみると僕はびっくりした。かなり建物の中がキレイになっている。表に掲げてある看板は当時の古いままだと思っていたので、懐かしいと回想しながら入っていたら中が全然違っていて驚いた。
やっぱり変わるものは変わるんだなぁとしみじみ思いながら受付へ。受付に座っているのは少し頬のコケた見た目の若い16歳ぐらいの女性。彼女は手元で何かの作業しているのか、視線は下を向いていたまま。
 僕は彼女に向かって呼びかけた。

「こんにちは、王都ダンジョンへの入場の許可証を貰いたいんですけれど」
 僕は、魔法ポケットに入れて持ち歩いていた冒険者証明証を取り出し受付へ渡す。冒険者稼業の中で一番稼ぐことが出来るダンジョン探索。だが王都の近くにあるダンジョンは王国の持ち物であり勝手に入ったら処罰されるために、入出管理を任されている冒険者ギルドに許可を貰わないといけない。そして、帰還の報告も冒険者ギルドで行ってから、ダンジョン内で取得した品の2割相当を献上するのが決まりである。少し面倒。

「は? 王都ダンジョンへの入場ですか?」
 入場の許可をすんなりと貰えると思っていた僕だが、受付の女性は呆けたような顔で僕へ視線を向ける。一体どういうことだろうか。

「えっと、王都ダンジョンはだいぶ前に王国から危険領域指定を受けまして冒険者ギルドで入場の許可は出していませんよ?」
「あれ? そうなの?」
 危険領域指定とは、相当に危ない場所なために特別な目的が無い限り、侵入するための許可が出ない。しかも、許可は王宮でのみ出しているので、冒険者ギルドでは絶対に入場の許可は出ない。
目的のダンジョンがいつの間にか入れないようになっていた。冒険者だった頃、一番稼ぎが良かったダンジョンなので当時はすごく重宝していたのだが残念だ。

「じゃあ、冒険者ギルドでも入場が許可できるダンジョンでここから一番近くにあるものを教えてくれないですか?」
「それなら、第4場ダンジョンが一番近いですよ。出現するモンスターは第3級までですし、オススメです」
 第3級のモンスター、10級まであるモンスター危険度ランキングの下の方。一般人では討伐は無理だが、冒険初心者達が2,3人で連携して挑めばなんとか勝てるぐらいの相手。
物足りないなと思いつつもオススメされた手前、久しぶりのダンジョン潜りの準備運動を兼ねて一応行ってみることにする。

「じゃあ、そこのダンジョンの入場許可をお願いします。コレが冒険者証明証ね」
「はい、受け取りま……え!?」
 僕が渡した冒険者証明証を見ていた彼女が驚きの声を上げる。また何か間違っていただろうか。

「コ、コレ、3世代前の冒険者証明証ですよ。私初めて見ました!」
「あーっと…そうなの?」
 どうやら僕の持っている証明証は、いつの間にか大分古くなっていたみたいだ。冒険者ギルドは建物の内装だけではなく、運営に関してもだいぶ様変わりしているようだった。

「あ、エルフの方……、し、失礼しました!?」
 今度は、証明証に記されている種族の覧を見て顔を真っ青に。立ち上がって頭を下げてくる受付の女性。何に対しての謝罪かわからないが、直ぐに大丈夫だと伝える。

「え? いや大丈夫、落ち着いて」
 だが、彼女は椅子に座ったもののガチガチに緊張してしまった。

「あ、あわ、あわわぅぅ」
 次は何を見たのだろうか、汗をダラダラ流す女性。若干、呆然としたような表情で目線を向けてくる。

「あ、あの、これ、これ?」
 言語機能が壊れてしまった彼女は、証明証のある部分を指さして聞いてくる。
「はい、そうですよ」
 彼女の指差す方向を見て、返事する。そういえば、フードを被ったままにしていたのを思い出す。僕はそれを頭から取っ払って、彼女に向き直る。

「正真正銘の男ですよ……って大丈夫ですか!」
 彼女は僕を見るなり、白目を向いて椅子ごと後ろへと倒れこんだ。そういえば、この世界に関する重要な事を忘れていた。この世界って男が珍しいんだっけか。

 

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