閑話 岬の日記

○月?日
 今日は凄いことが起こった。なんと、学園一の美男子である綾瀬さんに一緒に帰ろうと誘ってもらえたのだ。しかも、あの竜崎さんの誘いを断って、私と一緒に帰ると言ってくれた。とても嬉しくて、胸がドキドキとした。

 その後、人生初の男の人との喫茶店デビューを果たした。綾瀬さんの誘いに、嬉しすぎて、泣いてしまい、綾瀬さんを困らせてしまったのが、心苦しかった。綾瀬さんは、優しくて、私が泣いたことをその後、一言も触れることは無かったので、私は安心した。その後、一緒に喫茶店「Bay-Bay」というところへ行った。
 綾瀬さんの住んでいる一番近くの喫茶店らしい。私も、これからはあの喫茶店を使うようにしよう。もしかしたら、綾瀬さんと出会える機会が増えるかもしれないから。

 喫茶店では、恋人同士みたいにお話をした。私の趣味の映画について、嫌な顔もせずに話を聞いてくれたので、私ばっかり喋ってしまった。なので、今度は綾瀬さんの話も絶対に聞こうと思う。
 喫茶店を出るときに、綾瀬さんがお金を払おうとしたので、さすがに女の甲斐性があるので、私がなんとか支払った。綾瀬さんは、思いやりのある人なので、支払いを譲らなかったが、無理やりに私が支払った。

 綾瀬さんは、また一緒に行こうと誘ってくれたので、絶対に一緒に行こうと思う。今日は、とにかく良い日だった。こんな日が、ずっと続けばいいと思う。

 

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第04話 はじめて

 俺は岬さんと二人で、帰宅路を歩いている。このまま帰るのもいいが、せっかくだから岬さんと、どこかに寄って行きたいと考えた俺は、喫茶店へ行こうと誘ってみることにした。

「ねぇ、岬さん。これから、喫茶店に行ってお話しない?」
 俺が提案すると、ワタワタと身体を揺すり、焦り出す岬さん。
「えっと、わ、わたし。誘われるの初めてで、どうしたら良いか……」
(遠回しに断られている?)
 こんなに美人なのに、誘われないなんてあるはずないと思ったのだが、よくよく考えれば、岬さんは他人から見たらブサイクに見えているという事実を思い出す。
 それならば、何とか無理にでも誘って行こうという方針を立てて更に言葉を重ねる。
「もしかして、時間ない? ちょっとだけでも良いからさ、お話しようよ」
「あ、えっと……その……」

「ん? どうしたの? 行こうよ」
 俺は更に、岬さんを誘おうと強気に攻めていると。
「あ、あのっ、ご、ごめんなさい」
 ポロポロと涙を流し始める岬さん。しまった! 無理に誘いすぎたか。
「ごめん、俺が無理やり誘ってしまって、無理なら無理で……」

 急いで謝っていると、岬さんが遮って言い出す。
「違うんです。私、嬉しくて、こんなこと、本当に初めてで、急にびっくりして」
 岬さんは、更に溢れ出す涙を、制服の長袖でぬぐった。そして、目元が真っ赤になりながら、俺を見据える岬さんは、こう言った。
「行きます! 連れて行ってください」


***


 俺の住んでいる部屋の近くにある喫茶店「Bay-Bay」に、岬さんと一緒に入る。喫茶店のマスターが俺を見て、ニッコリと微笑む。ここのマスターとは、顔見知りである。

「いらっしゃい」
 ひげ面のマスターは、人懐っこそうな笑顔のまま、岬さんに向かって言う。俺は、入り口から2番めに近い席に座り、岬さんを招く。
 マスターがメニューを持って、カウンターから出てきて席に近づいてくるのを見て、俺は絶句した。ピンクのエプロンに、ミニスカートを履いているのである。見かたによっては、下半身に何も履いていないのじゃないかという格好。しかも、スラっと伸びる足には毛が無い。剃っているのか?

 俺は、あまり気にしないことにして、注文をする。
「アイスコーヒーをください」
「わ、私は、このミックスジュースを」
 注文を取り終わると、直ぐにカウンターの向こうに消えていくマスター。

「今日、暑いね」
 言いながら、俺は真っ赤なジャージの上着を脱いで、シャツ一枚になる。
「え、え?」
 何故か焦る岬さんを眺めながら、俺は会話を続けた。

「ミックスジュース好きなの?」
「えっと、その。コーヒーは飲めなくて、紅茶もあまり好きじゃないんです。だからミックスジュースを……」
「へー、苦い飲み物は苦手なの?」
「はい……」
 恥ずかしそうにうつむく、岬さんを見て会話の内容を変える。

「昨日の夜は何してたの?」
「昨日の夜ですか……?」
 すこしびっくりして、悩みだす岬さん。昨日していた事を思い出しているようだ。

「昨日の夜は、DVDで映画を見ていました」
「岬さんも、映画好きなの?」
「綾瀬さんもですか?」
 嬉しそうに、同士を見つけたという感じで岬さんが言う。俺の名前をやっと言ってくれた。
「うん、俺も好きだよ映画。それで、岬さんは昨日はどんな映画を見ていたの?」
「昨日は、“ドラゴンの道”というアクション映画を見てました」
「へぇ、その映画は知らないなぁ。新し目の映画なの?」
「新作です。すごく面白かったですよ」
「どんな、アクション映画なの?」
 俺が、岬さんに質問すると、嬉しそうに話しだす。岬さんの話をじっくりと聞いていると、マスターがコーヒーとミックスジュースを持ってきてくれた。俺は、岬さんの映画の話を聞きながら、ブラックのコーヒーを飲んでみた。

(にがっ!?)
 想像していた以上に苦味を感じて、コーヒーをまじまじと見る。何でこんなに苦いのか、もう一口飲んでみたが、飲めないぐらいに苦かった。マスターが持ってきてくれた、砂糖とミルクをドバドバと入れて、何とか飲めるぐらいになった。

(味覚も変わった?)
 世界がいつの間にか変わって、服装が変わったり、美醜の感覚が変わったり、先ほどは体力が大幅に落ちていると感じたり、味覚が変わったりと、色々な事が変わってしまっているのを感じながら、岬さんの話を聞いていた。

 

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第03話 帰宅途中

「今日は、誘ってくださらないの?」
 行く手を阻み、あまり似合っていない仕草でそう言ってくる竜崎さん。俺の記憶の中の竜崎さんなら、その仕草でも似合っていたんだろうが、今眼の前に居る竜崎さんには全然似合っていなかった。
 何度見ても、昨日の竜崎さんとは違って顔の造形が非常に残念に見える。友人たちには、これが美人に見えているのか。

「いや、今日は岬さんと一緒に帰るから」
 そう言う俺の言葉に少しびっくりする竜崎さん。そのまま、岬さんの手を引っ張って進もうとすると、なおも行く手に立ちふさがり、竜崎さんは言う。

「あなたのような不細工が滝沢さんと一緒に帰れると思って?」
 標的を岬さんに変更して当たる竜崎さん。

「えっ、と、あの、その」
 挙動不審になる岬さんに俺は言う。
「俺が、君が良いって言ってるから、良いんだよ」
 岬さんを落ち着かせようと、竜崎さんに聞こえるようにして、岬さんに向けて言うと、顔を真赤にさせて更にパニクってしまった。

「っっ、なんで今日に限って誘ってくださらないの? それにクラス一不細工の岬理恵なんて誘うんですの?」
 ヒステリックな金切声で叫ぶ竜崎さんに、どうしたもんかと困り果てる。これは、何を言っても収まりそうにないな。

「今日の気分は岬さんだったんだよ」
 言って、俺は岬さんの手を引っ張って教室を抜け出す。後ろで、何やら叫んでいる竜崎さんを無視して更に走る俺に、引っ張られるままに走る岬さん。
 階段を一つ飛ばしで降りて、校舎から校庭へと出る。校門を抜けて、学校の表の道路まで来た所で息が切れて、立ち止まる。

 そんなに距離を走っていないのに、息が切れるなんて体が鈍り過ぎだろうとショックに思いながら、岬さんを見ると全然ケロッとしているので、更にショックを受けた。男の俺がこんなに息を切らしているのに、女性の岬さんが全然平気にしている。
 息一つ乱れていないなんて岬さんは、思っていた以上に体力がある女性だったんだなと思いながら、自分の息を整える。
「良かったんですか?逃げ出して」
 なんとか息が落ち着いた所を見計らって岬さんが俺に聞いてくる。
「ちょっと対応しきれなかったから、逃げるが勝ちってね。それよりも、岬さんの家ってどっち方向?」

 少しだけにこりと笑ってくれた岬さんは、指を指して家の方向を教えてくれる。調度良く、俺の家とも同じ方向なので、一緒に並んで帰る事にした。家の方向も同じだから、家に帰る前に折角だから、どこか寄って行こうなんて誘おうとしたら先に岬さんが聞いてきた。

「なんで、私を誘ったんですか?」
「いや、今日はそういう気分だったんだよ」
 あべこべになった世界、美人がブサイクに、ブサイクが美人になったから美人の君を誘ったんだと説明してもどうせ信じてもらえないだろうと思い、この説明をしたら、多分嫌がられるなぁとも思ったので、気分の問題として言う。

「嘘です、いつもは竜崎さんやクラスの他の美人の人ばかり誘っている滝沢くんが、私なんか誘うわけがないじゃないですか。何が目的ですか?」
 う~ん、確かに昨日までブサイクに見えいていた君はターゲットじゃなかったが、俺が見えている今の君なら、真っ先に誘う対象になっているのに。どう説明したら納得してくれるだろうか。

「俺が見えている君は、十分魅力的で、誘いたいと思ったから誘ったんだけど、信じてもらえないか」
 岬さんの頬をガシと掴んで彼女の目を見て言う。逸そうとしても、顔を手で固定して逸らせないようにした。しかし、何度見ても綺麗な顔だなぁ。

「……は、はい、信じます」
 とうとう堪えきれなかったのか、顔をエビのように真赤にさせて、そう答える岬さん。俺が顔の手を離すと、俺から少し距離を取り深呼吸する岬さん。
 しかし、こんな事を言って、明日またあべこべになってたら困るなぁなんて他人ごとのように思いながら、まぁ今日はこんな美人と一緒に帰れたからいっかと、楽天的な性格で結論付ける。

 

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第02話 わからないけど楽しもう

 授業中を使って、今の状況を整理してみた。

1.男子がセーラー服を着て、女子が詰襟の制服を着ている。
2.いつの間にか、俺の家の制服もセーラー服に変わっていた
3.クラス1番の美女だった竜崎さんが、ブスに変わっていて、クラス1番のブスだった岬が、美人に変わった。

 何故か制服や美醜の価値観があべこべになってしまっている。
 いつからおかしくなった? 今朝、家の服装がおかしくなった時からだろうか。じゃあ原因は? 昨日の行動を追ってみた。

 昨日は確か、学校終わりに何時もどおり竜崎さんを帰りに誘ったが断られて、仕方なく一人で、スーパーに食材を買いに行った。スーパーでは野菜と牛肉が安かったので、カレーを作ろうと思って食材を買い揃えた。

 それから、家に帰って料理を作り食い。風呂入って、そして寝た。何時もどおり、何も問題のない生活だろう。もう一度、ぐるりと教室を見回すと、改めておかしなことに気づく。
(あれっ? 男子の数が少ない)
 詰襟とセーラー服が逆になった世界で、ややこしいことだが、どうもセーラー服を着ている人間が少ない。男友人の大森や河田。矢島が席から居なくなっている。代わりに詰襟を着た人物が座っている。詰襟ということは女子だろうか。

 全員見知らぬ人物だった。しかも、いつの間にか多くなった女子を更に良く観察すると皆、かなりデカイ。座っているから正確な身長はわからないが180cmぐらいあるんじゃないかと思わせるぐらいの大きな体格をしている。
 いや、もしかしたら彼女らは詰襟を着ているから女子だろうと判断したが、顔は前を向いていて確認できないから、本当は男である可能性もある。

 じゃあ、なんであべこべになったこの世界で、詰襟を着ている男子がいるのだろう。

 なんだか頭が混乱してきた。もう一度、整理すると、男子はセーラー服を着ていて、女子は詰襟を着ている。

(あーもう、なんでこんな状況になったのだろうか)
 結局、意味がわからなかった。


***


 授業が終わり、放課後になった。色々悩んだが、原因も対処法もわからないなら、楽しむのが一番という考えに行き着いた俺は、早速行動に移すことにした。

「岬さん、一緒に帰らない?」
 くるりと体を後ろに向けて、帰宅する準備をしている岬さんを誘うことにする。
「えっ、えっ?」
 どうやら、俺は別の誰かに声を掛けたのだろうと思った岬さんは、周りをキョロキョロと見回す。
「いやいや、岬さんに話してるんだよ」
「えっ? 私ですか?」

「もしかして、何か用事ある?」
 慌てる岬さんに、俺は気をかけて質問してみる。
「いえ、用事は無いですけど……」
 と、急に恐縮しだした岬さんの手を取って俺は言った。
「じゃぁ、一緒に帰ろうか」
「おいおいおいおい、滝沢お前何やってんの」

 急に割り込んでくる、友人。そして、俺の頭を腕で覆って俺と岬さんを引き離す。
「ちょっと、やめろよ友人よ」
「お前何、岬なんて女郎を誘ってるんだよ」
 頭を近づけて、小さく囁いてくる友人。
「めろう……? 何? 変か?」
「今日の朝からジャージだったり、岬なんて誘うなんておかしいぞ」
 おかしいのは、セーラー服を着ているお前だと言ってやりたかったが、なんとか押しとどめて、俺は疑問に思っていたことを友人に聞く。

「一つ聞きたいんだが、このクラスの一番の美人は?」
「はぁ? いきなりだな。うーん、今泉さんか沢村か、でも一番は竜崎さんだな」
 友人の中では、昨日と同じように竜崎さんが、美人ナンバーワンということに変わりはないのか。
「じゃあ、このクラスで一番下の女子は?」
「それは間違いなく岬だな」
 俺の中でのあべこべな価値観が、友人の中ではあべこべじゃないのか。これは困ったなぁ。

「もう一つ聞きたんだが、俺は昨日、どうしてた?」
「えっ? どういう意味だ?」
「昨日はセーラー服を着ていたか?」
 あまり答えを知りたくない質問。

「あぁ、何時もどおりだったぞ。なんで今日ジャージなの?」
 どうやら着ていたらしい。

「それじゃぁ最後に、昨日の俺は竜崎さんを帰りに誘ったか?」
「あぁ、何時もどおり、滝沢は昨日も竜崎さんを誘って断られてたな。何だ、クラス一番の美人がダメだからって岬は無いだろう」
 そういうワケじゃないんだけどなと、思う。どうやら、昨日の俺は正常(?)だったらしい。それが突然、世界が変わりおかしくなった。
 まぁ、さっき行き着いた答えの通り、楽しむのが一番という考えに変わりはない。
「友人、ありがとう。とりあえず俺が岬さんを誘うのは、間違いじゃないぞ。俺がそうしたいんだから」
 呆然としている友人を置いて、岬さんの元へと戻る。

「岬さん、待たせたね。一緒に帰ろうか」
「あの、本当に私で良いんですか?間違いじゃないですか?」
岬さんは、疑心暗鬼になっているようだ。うつむいて、髪で顔を隠している。

「いいんだよ、岬さん。俺は君を誘ったんだから」
 言って手を取ってやり、教室を出ようとした。その時、俺と岬さんの目の前に竜崎さんが立ちふさがった。

 

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第01話 何故か世界がおかしくなって

「け、結婚してください…」
 俺のクラスメイトである、女性が言う。
「結婚しましょう」
 眼鏡で長髪の真面目そうな女性が言う。
「結婚しよう」
 長身で短髪の、活発そうな女性が力強く言う。
「結婚……しよ」
 身長の低いセミロングの、ケータイを片手に持った女性が意を決して言う。
「結婚してくれますか?」
 スーツを着た女性が疑問視で言う。

 すべて、俺に向けられた言葉だ。全員が結婚しようと俺に迫る。何故そうなったのか、今から語ろう。


***


 俺が、世界の異変に気付き始めたのは九月の三日か四日か、たぶんそれぐらいだった。交際費を稼ぐために、何十日もバイトを繰り返した夏休みが終わって、二学期になった頃の朝。
 朝食はいつものように抜き、顔を洗って歯を磨く。ここまでは、いつものように問題のない朝だった。

「なんじゃ、こりゃ」
 頭の中に疑問符が浮かんだのは着替えようとした時だった。俺は、確かに昨日制服をしまったクローゼットを開けて、いつものように学校へ行くために制服に着替えようとしたはずだった。
 しかし、そのクローゼットの中には、昨日しまったはずの制服とは別の服がかけられていた。ハンガーにはセーラー服が、もう一つのハンガーには紺色のスカートがかけられていた。

 俺の記憶が正しいならば、そこには詰襟の制服と、ズボンをかけていたはずだが。中をさらに詳しく、調べてみようとほかの洋服を見てみた。クローゼットにある他の洋服も、どれもが女性用と思われる物にすり替わっていた。
 いつの間にか、俺の服が全て誰か分からない女性の服とが入れ替わっていたのだ。

 部屋をぐるりと見回したが、間違いなく自分の部屋だった。昨日の夜に間違って他人の部屋で眠ったってことではないようだった。じゃあ、俺が寝ている間に誰かがクローゼットの中の洋服を取り換えたのか? なんでそんなこと? 疑問視で頭がいっぱいになる。


 疑問を解こうにも家を出る時間が迫る。


 仕方ないかと思い、クローゼットの中にあった真っ赤なジャージを取り出し履いて、学園へと向かうことにした。ジャージは長袖長ズボンで、夏にはちょっと暑いが、スカートを履くなんて趣味はなかったから、それを履くしか方法はなかった。
 着替えて、カバンを持ち玄関を出る。すがすがしいほどに晴れた空で、正直長袖のジャージは暑い。やはり、戻って違う服を探すべきだったかと思ったが、それもめんどくさいなと思い、腕まくりをして無理やり半袖にしてそのまま進む。

 朝の通学路、いつものように歩いていると路地の陰から友人がやって来た。
「おはよう、その恰好なに?」
 恰好の事を指摘されたが、友人もなかなか変な格好をしていたので、俺は質問を質問で返した。

「おはよう。そっちこそ、その恰好なんだ?」
「あれ、変かな。スカーフも曲がってないよ」
 友人はなぜかセーラー服を着ている。性別は男の人間が、なぜセーラー服を着ているのか。しかも平然と。

「それよりも、そっちはなんでジャージなの?」
「いろいろと訳があるんだよ」
 女性物のセーラー服を着るわけにはいかないと、セーラー服を着ている野郎に説明しても理解されないだろうと思い、適当に濁す。
 学園に近づくにつれて、なぜ男がセーラー服を着ているんだという疑問は、さらに大きくなっていった。そして、別の疑問がわき出てきた。
 何故か、登校している男性達が女性用のセーラー服を着ている。それに加えて、女性はセーラー服ではなく詰襟の学生服を着ている。いつの間に、うちの学園の制服が変わったのだろう。

 しかし、制服姿の学生の中でジャージ姿の俺は目立った。
「やっぱり、ジャージ姿は変だよ」
 友人が、そう言うが俺は短く答える。
「いいんだよ」
 スカートを履くよりかは、今のジャージ姿で注目される方がましだ。

 朝からどっと疲れたが、やっとの思いで教室へとたどり着く。ガラッと扉を開けていつものように、クラスのの友人と挨拶をする。
「おはよ、そのジャージどうしたん?」
「おはよう、なんでジャージ姿なの?」
「おはよっ!ジャージ姿じゃん!なんで?」
 俺のジャージ姿を指摘した全員にお前はセーラー服、なんでだよと聞き返したかったが、変に思われるのが目に見えてわかっていたので、聞きはしなかった。

 クラスのマドンナである竜崎さんの席を通りかかる。いつものように挨拶しようと立ち止まり、声をかける。
「おはよう、竜崎……さん?」
 席でだべっていた女子がくるりと顔をこちらへと向ける。

 って、お前誰だ。クラスのマドンナである竜崎さんの席に座っている彼女は、昨日見た竜崎さんとあまりにも違いすぎて、でもちょっと面影がある彼女を見て一瞬誰だか判断がつかなくなる。
 しかし、彼女は俺を見るなり笑みを浮かべて返事をした。
「おはよう、学園一の美男子に挨拶してもらえるなんて今日はいい日になりそうだわ」
 学園一の美男子ってなんのことだろうか、しかし、まず彼女が誰かをはっきりさせないと。
「りゅ、竜崎さん?」
「ん?なぁに?」

 圧倒的に似合っていないしぐさだ。指を顎に当てて、竜崎さんらしき人は言った。否定しないということは、彼女は竜崎さんなのだろうか。
「あ、いや、なんでもないです」
 おかしな敬語になる。
「あははっ、なんで敬語?おかしい」
 おかしいのはお前だと言ってやりたかったが、断念。

 竜崎さんは続けて、こう聞いてきた。
「それよりも、なんでジャー」
「あーえっと、それは良かった、それじゃあね」
 言って、素早く彼女から離れる。あんまりに残念な顔をしてらっしゃるので、これ以上会話を続けるのは不毛だ。なのですぐに会話を切って彼女から離れる。

 いったいなんなんだ。今日は朝からおかしいことばかりだ。
「お、お、おはよう」
 後ろの席の、いつも根暗な彼女が挨拶してくる。
「おう、おは……よ……う」
 今度は、この世のものとは思えないほどの絶世の美女が席に座っていた。いや、その席は確かに、クラス一番の顔が残念な岬が座っていた席だったはず。
「み、みさき……?」
「えっ、な、なに?」
 クイッと首を傾けると、サラサラっと髪が流れて顔がよく見えるようになる。何度見ても綺麗な顔だ。
「いや、なんでもない」
「そ、そう……」

 頭が混乱しながらも、席についてなぜこうなったか考える。
 混乱から答えは出ないが、やっと抜け出したとき、チャイムが鳴る。それから担任が入ってくる。あまりの衝撃に顔を机に突っ伏す。壮年のおっさんがスカート姿というのは、かなりクルものがある。
 授業が始まっても、竜崎さんとが席から移動しないのを確認する。点呼においても、竜崎と呼ばれた時に、彼女は普通に返事をしていた。どうやら彼女が竜崎さんに間違いないのだろう。
 そして、後ろの席の女性が返事をする。こちらも岬に間違いなかった。

 クラス一番の女子が、あまりに残念な顔になっており、クラス一残念な女子だった彼女が、絶世の美女になっている。いったいどういうことだろうか。

 

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